梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション1 リア王密室に死す 〈新装版〉 (徳間文庫)

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  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947767

作品紹介・あらすじ

7人のエリート学生の友情を引き裂く毒注射の
密室+焼かれたノートの謎
話題の〝龍神池の小さな死体〟と対になるもう
ひとつの逆転劇

「リア王が変なんだ! 中で倒れてる!」京都
観光案内のアルバイトから帰宅した旧制三高学
生・木津武志は、〝リア王〟こと伊場富三が、
蔵を転用した完全なる密室で毒殺されているの
を発見する。下宿の同居人であり、恋のライバ
ルでもある武志は第一容疑者に──。絶妙の伏
線マジック+戦後の青春をリリカルに描いた
〝カジタツ〟ファン絶賛の名作復刊。

トクマの特選!
イラスト やまがみ彩

〈目次〉
前篇 若者よ往け
 吉田山に集う
 自由寮のつわものたち
 ナ・チ・コ

後篇 青春を彼方へ
 昔の人たち
 推理の小径

解説 大山誠一郎

感想・レビュー・書評

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  • 「リア王が変なんだ!中で倒れてる!」
    戦後まもなくが舞台。下宿に転用した蔵の中で、密室の上に毒殺されたリア王こと伊場富三。彼と同じ旧制三高学生・ボンこと木津武志は、同居人かつ恋のライバルでもあることで容疑者になってしまう──。

    過酷な戦後に生きる学生たちの青春ドラマ。そこに幾重にも編み込まれたミステリの仕掛け。その親和性に驚愕!物語が進むほどに、謎と友情が折り重なっていき、そのどちらも味わい深くなる。二部制にしたことで、そこに降り積もる時間を読者も体感して哀愁の熱を伝えてくれる構成も絶品。

    ラストの甘くほろ苦い余韻と、思い出を振り返るように読み返したくなるのがたまらない。物語を読む中で、自分の青春時代を重ねてしまう──そんな熱狂を感じた。たった一つの扉を開けるだけ。その推理に圧倒的な伏線と友情と哀愁を込めた、まさに青春迷路ミステリという表現が似合う作品。

    あだ名呼びするクセ強すぎ仲間たちにどんどん感情移入しちゃう。戦後のひっ迫した環境の中でも、自由を謳歌した男たち。主人公のボンは甘いと言われるけど、その甘さや人の良さが何とも言えずグッとくるし、犯人の悲哀を映す鏡のようだった。できれば、彼らの物語をもっと読んでいたかった。そう感じさせてくれる物語。復刊も頷ける。

    最後にぼくが好きな文章を引用して終わります。少しネタバレになるかもしれないので要注意。

    p.182
    「だからあなたはボンボンなのよ。私はたいへんな欺瞞や悪が、堂々とこの世の中で通用していることを知っているわ」
    「だが、公明な真実の前には、いつまでもそれは通用しないよ」
    「どのくらい、長いいつまでもなの?」
    「わからない」
    「自分が破滅するいつまでもいいの?」

    p.348
    昔を知っているのは、当然、年寄りだけなのだ。

    p.388
    「だが、陰謀というやつは、でかければでかいほど、根深ければ根深いほど、次から次へと繕いをしなければいけなくなってくるものだ」

  • ● 感想
     時代背景としては、昭和23年頃。終戦直後、京都にあった三高において、「リア王」というあだ名で呼ばれていた伊場富三という学生が殺害される。扉が施錠されており、その鍵を持っていて、明確なアリバイがなかったのはボンというあだ名で呼ばれる木津武志。ボンにも一応のアリバイはあるが、京都の案内のガイドをした老夫婦と宴会をしていたというもの。しかし、その宴会をしていた場所では、そのような宴会はなかったという。
     三高のボンの仲間はボンの疑いを晴らそうとする。ボンは、何らかの企みによりアリバイがない状態で犯人にされようとしている。前半部分の探偵役であるカミソリというあだ名の紙谷達弘のおかげで、酒宴があった場所は、ボンが思っていた場所と異なる場所であった可能性が出てくる。
     この作品は、バールトと呼ばれる菱川一造の家族が黒幕。三高に合格した、真のバールトが死亡したために、菱川家を守るために、同じく秀才だった時川増夫を菱川一造として、三高に入学させる。バールトの故郷から来たほかの三高生が列車から墜落死したという事実を伏線として取り込み、これがこの入れ替わりを隠蔽するために、バールト(時川)が殺害していたという事実となっている。
     ボンと菱川奈智子のロマンスも間に盛り込み、前半部分は、カミソリによるダミーの推理が披露される。ボンが犯人でない以上、密室殺人を実現するにはトリックが必要。そのトリックは、部屋の中に真犯人がいたというもの。リア王が死んだ部屋には奥に鍵が掛かった倉庫があり、その鍵は複製が可能だった。その倉庫に真犯人であるカラバンという男が隠れていたというもの。カラバンは偽学生。偽学生であることがバレないように、リア王を殺害したという動機だった。
     リア王を殺害したのはカラバン。ボンと奈智子のロマンスはかなわず、奈智子はボンの前から姿を消す。
     舞台は30年後。「田中豊」という男の事故死の記事を見たボンこと木津武志とその息子の秀一の会話から後半が始まる。秀一は、カラバンを犯人としたカミソリの推理に違和感を覚える。カミソリの推理には、動機に疑問があり、何より、なぜ密室にしたのか。密室にした目的が解き明かされていない点がすっきりしないという。
     秀一は、ガールフレンドの藤木美弥子とともに、15年前の事件の捜査をする。そして、カラバン(田中豊)とカミソリの事故死も殺人ではないかと疑い、併せてその犯人の捜査も行う。
     後半の最中で、バールトは、菱川一造ではなく、時川増夫だったという推理が明かされる。一造の父である菱川達平が、計画しており、達平の性格、電車内でのバールトと同郷の三高生が死亡したこと、奈智子のセリフなどの伏線がある。
     メディカル・プリンティングというカラバンが経営していた会社と、紅十医大不正入学問題が出てきて、バールト、カミソリ、カラバンの三人が悪事に手を染めていたことが分かる。バールト(増夫)は、カミソリを殺害し、悪事が明るみに出そうになった時点でカラバンも殺害した。それは、達平の考えの影響もあるという。
     密室殺人があった現場は資料会館として残っており、秀一が密室の謎を解く。リア王は、空襲のショックで、火事を見るとパニックになる。寮の火事の際に、ドアに体を打ち付けていたことを知ったバールトは、クラーレという毒をドアに仕込んでいたという。いわゆる、プロバビリティの犯罪。自動発火装置と電話により、火事があったと誤信させていた。
     バールトは、奈智子から来た手紙をボンに届かないようにしており、奈智子とボンは会えなかった。奈智子が息子に武志という名を付けていたことを知るという終わり方
     リア王殺害の密室トリックは、犯人が密室内にいなかったという分類に入るトリック。火事になるとドアに体当たりをするというリア王の特殊な性格を利用したもの。ドアに毒を塗った針を張り付けていた。バリバリの物理トリックであり、このトリックだけなら短編程度のものであり、さほど面白い仕上がりにはならない。もう一つは、アリバイトリック。リア王を一人にするために、バールトの両親が、ボンのガイドを受けた後、酒宴をする。そのことを隠すというもの。このアリバイトリックも、トリックとしてはチープ。このチープなトリックを、バールトの人物すり替えという大きなプロットで包み、多数の伏線を張り巡らせている。
     30年前の密室殺人事件と、30年後の医学大学の不正入試事件を絡ませているのは、梶達夫っぽい作風といえるが、30年後の不正入試事件はなくてもよかったかもしれない。30年前の密室トリックを、30年後に、ボンの息子が解き明かすという展開は面白い。
     トリックはチープだが、物語全体の雰囲気、構成、伏線の妙が通好みの作品だと思う。個人的にも、文体等が肌に合い、すっと読むことができた。意外性はそこまででもなかったがそれなりに楽しめたので、ギリギリの★4で。




     メモ
    紙谷達弘(カミソリ)→探偵役としてダミーの真相を見抜く。20年後、船から落ちて溺死
    木津武志(ボン)
    菱川(バールト)
    市原(マーゲン)
    久能典雄(ライヒ)
    田中豊(カラバン)→偽の三高の学生。ダミーの真相で犯人とされた。田中豊が事故死したという新聞記事を見て、武志が息子に話をするところから後半が始まる。
    伊場富三(リア王)→密室で、腕に毒を注射されて死亡
    伊藤氏→謎の初老の夫婦。ボンのアリバイの鍵を握る。
    南波→警部
    堀切(ホソ番)
    有馬夫人→ボンとリア王の下宿先の女主人。未亡人
    菱川奈智子→バールトの姉。ボンとリア王が惚れていた。
    木津秀一→木津武志の子供
    藤木弥津子→秀一のガールフレンド
    リア王は密室で殺害されている。鍵を持ち、アリバイがないのは武志だけ。
    ボンのアリバイは、ガイドのアルバイトの後、そのバイトをした初老の夫婦と、知り合いの家で酒盛りをしていたというもの
    リア王の殺害に使われたのは、クラーレという毒薬。ライヒの家にあった。そのことを知っているのは三高の一部の者だけ。
    ● トリック
    ボンからアリバイを奪うため、先斗町の通りにある空き家を利用していた。
    ● ダミーの真相
    犯人はカラバン。密室トリックは、部屋の奥の物資置き場の中にいたというもの。物資置き場の鍵を複製していた。

    ● 伏線
    リア王の持ち物から、ノートと菱川の作文帳がなくなっていた。
    愛知県津島市の某生などは、京都に来る夜行列車から転落して死亡してしまったという。→
    菱川の実家には、もう一人優等生がいた。→

    あからさまかつ、多数のの伏線があり、そのあたりが今風のミステリとして再評価されているように感じる。

  • 過去編での解決が、現代編でひっくり返る仕掛けは少なくとも今ではありふれてはいるが、それでも楽しい。加えて、ハゥでもホワイとしても完成度の高い密室トリック。ミステリとしてはこれだけで充分だろう。それでも物語としての一番の美質は、青春物語としての部分にあるだろうね。現代編があることで、全てがノスタルジーの霧に包まれて、少々の美化は許されるだろう構造の勝利。

  • なかなか面白かった。
    時間を隔てた物語も含めてなかなか好き

  • 戦後の京都を舞台に、三高最期の学生達が経験した密室殺人と焼かれたノートの謎。
    二部仕立ての構成は、青春モノというより過ぎ去った過去へのノスタルジーに溢れた懐古モノといったテイストだが、とにかく無駄のない物語と伏線の巧みさでとても面白かった。

  • 戦後直後、旧制三高生の木津武志は、同居する伊場富三(リア王)の怪死に直面する。アリバイが弱く鍵を持つ武志は疑われるが、三高の仲間達と真相を目指す。
    龍神池〜で期待していたカジタツはやはりすごかった。後半の想定外の展開に心地よく翻弄されました。

    カラバンやバールトなど癖が強いあだ名に辟易しつつ、郷愁を強く感じるラストは自分がアラフィフだから?
    三高生達を活き活きと描きつつ、それらが事件の主要要素として無理なく無駄なく配置されているのはさすが。青春小説でもあります。

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著者プロフィール

1928年岐阜県生まれ。慶應義塾大学文学部英文科卒業。出版社勤務を経て文筆活動に。52年探偵小説専門誌『宝石』に短篇「白い路」が掲載され、ミステリ界へデビュー。77年『透明な季節』で第23回江戸川乱歩賞を受賞。『海を見ないで陸を見よう』、『リア王 密室に死す』など旧制高校を舞台とした清冽な作品で注目され、『龍神池の小さな死体』『清里高原殺人別荘』『葉山宝石館の惨劇』等、巧緻な作品で、本格ミステリファンの記憶に残る傑作を多数発表。90年逝去。

「2023年 『梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション2 若きウェルテルの怪死 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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