梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション2 若きウェルテルの怪死 〈新装版〉 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198948467

作品紹介・あらすじ

今度はどこに連れて行かれるんだ?
絶好調カジタツ・マジックが
またもあなたを翻弄する。

ゲーテ『若きウェルテルの悩み』の影響で、憂鬱青
年の自殺がブーム化した昭和九年。旧制二高生の
金谷青年は、同書を愛読していた友人・堀分の不審
な自殺の真相を追う。時期を同じくして、彼の下宿
先、大平博士邸から貴重な化石が盗まれ、“東北反
戦同盟”を名乗る謎の組織から身代金要求が……。巧
妙な伏線トラップ+爽やかな青春小説の妙味。著者
が心血を注いだ〈旧制高校シリーズ〉第二弾。(解
説 楠谷 佑)

トクマの特選!
カバー・口絵イラスト やまがみ彩

〈目次〉
プロローグ
〝睡りぐすりをのみし友〟
〝日は翳るよ〟
〝探偵は玻璃の衣裳を〟
〝どこから犯人は逃走した?〟
〝流れてやまぬ〟
〝泣きても慕う......〟
インターミッション
〝柔和にして暴虐〟
エピローグ

解説 楠谷 佑

感想・レビュー・書評

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  • 昭和九年、旧制二高生の金谷(かなや)は、友人・堀分(ほりわけ)の自殺に疑いの目を向けていた。さらに堀分の下宿先・大平(おおひら)博士邸から化石の盗難事件も発生。そこには「東北反戦同盟」という組織が関係しているようで──。

    出版社を停年退職した金谷が新社会人の「私」に二高生時代の日記を渡し、それを読む形式で過去の事件が描かれていく。現在の私にわかるように金谷が注釈を付けているので、昭和初期の社会情勢、学生生活を学びながら物語に没入できる。嵐の如き事件に振り回される金谷の成長や感情の揺れが生々しい。

    友人の不審な自殺を掘り返した先には、巨大すぎる地層が待ち構えていた。社会、学生、思想、そして人間。膨大な情報という泥に塗れながら、真実の欠片を集めていく。それは研究も探偵も同じ。自分の中にある善悪という価値観を捨てた先にこそ、事件の真偽が見通せる目が生まれるのだ。

    伊与原新『月まで三キロ』に収録の『アンモナイトの探し方』にあった「わかるは、わけるだ。正しくわけるというのは、人が思うほど簡単ではない」という言葉をここで思い知らされた。読者への挑戦もあったけど、正解率30%くらいだった。細やかな伏線や嘘の結び目を解くことで真相へ至るのは、アガサ・クリスティー作品のような旨味を感じる。「柔和にして暴虐」というサブタイトルが人間の二面性を感じてお気に入り。

    青春迷路シリーズならば復刊第一作目の『リア王密室に死す』の方が学生同士の交流が多くて好み。青春が熟すところまでがっつり味わえる。ウェルテルは当時の社会情勢と学生の関わりなど広い視点で楽しみたい方向けかな。ストームとかミルクホールって何?!と思っても、ちゃんと説明があるのでご安心を。

    p.38
    「いつも適確な正論より、迫力ある暴論の方が勝つんだよ」

    p.122
    「人間は物を考えたり判断する時、多かれ少なかれ善悪とか、正邪とかいった枠の中に何でもはめようとする。だが歴史を考える上には、こういう倫理的価値判断は、絶対排除しなければいけない。さもないとたいへんな事実誤認や、まちがった学説を立ててしまうというような話だ」

    p.257
    「つまり不意に攻撃を受けて裏切られたというのに、あなたは怒らなかったわ。それはあなたが私を信頼してくれているからだわ。そして私がそんなことができるのは、あなたを好きだからだということ」

    p.368
    「だが、貴族や華族という人種は、自分で働いたり、作ったりして金を得ることを知らない。ひたすら人間関係という生産性皆無の中から金を作るだけだ。そのための社交だ。そしてその曖昧な物の中から得た金を使って、今度は目下の者との人間関係を作る」

  • 旧制高校もの第二作。今回は三高(仙台)が舞台。
    白樺派が大好きな文学青年が主人公だけあって、随所に武者小路実篤に佐藤春夫や萩原朔太郎の詩を引用したり、章タイトルに文学ネタを持ってくるあたり、くすぐりがきいてて良いですね。
    さらに昭和9年~10年頃舞台ということで、学生寮のバンカラな風潮(ストーム)とそれと対立するインテリゲンチア、マルクス主義、反戦同盟など、特高警察まで交えての当時の10代の若者の胸中と時局の絡みがとても私好み。
    事件の関係者それぞれの供述の食い違いや行動の違和感が見事に最後で畳まれる様も鮮やかでした。

  • 端正なフーダニット。とびきりのトリックがあるわけでもなく、犯人の正体にも意外感はさしてない。ただ、事の真相が分かってから読み返すと、それを示唆する伏線が、当たり前の日常描写の中に如何に細かく埋め込まれていたかに気付いて、思わず顔がほころんでしまう。これは愉しい。青春ものとしては、主人公がひたすら無力な傍観者なのが少し残念。

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著者プロフィール

1928年岐阜県生まれ。慶應義塾大学文学部英文科卒業。出版社勤務を経て文筆活動に。52年探偵小説専門誌『宝石』に短篇「白い路」が掲載され、ミステリ界へデビュー。77年『透明な季節』で第23回江戸川乱歩賞を受賞。『海を見ないで陸を見よう』、『リア王 密室に死す』など旧制高校を舞台とした清冽な作品で注目され、『龍神池の小さな死体』『清里高原殺人別荘』『葉山宝石館の惨劇』等、巧緻な作品で、本格ミステリファンの記憶に残る傑作を多数発表。90年逝去。

「2023年 『梶龍雄 青春迷路ミステリコレクション2 若きウェルテルの怪死 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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