ヒトミ先生の保健室 5 (リュウコミックス)

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  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784199505027

作品紹介・あらすじ

ヒトミ先生は優しい瞳と巨乳が魅力のモノアイ(単眼)養護教諭。保健室に駆け込んでくる心と身体に悩みを抱えた生徒たちを温かく迎えてくれます…。

感想・レビュー・書評

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  • 生まれ、得た性と向き合う君たち。

    「語感」を重視する姿勢は相も変わらずに「五巻」までやって参りました、安定と成長の季節を象徴するといえばやはり「みどり」のカラーリング。
    その色を差すのは誰? という疑問に答えるのも野暮でしょうね、きっと。

    姉妹の話は一旦手「仕舞」にしつつも相変わらず続いていく学園生活なわけですが、今回は学校に属してばかりの話ではないようです。ヒトミ先生だけでもなく、今回はちょっと外側に目を向けて。
    生徒各人の家庭に触れることでもう少し多角的に彼ら彼女らの事情が見えてくるようです。

    新たな生徒にスポットを当てるのもそこそこに、ここまでに思春期の変化に向き合ってきた生徒たち。
    そして舞台裏にいるようでいて、表立って光当たることを好むあの人の意外な一面を明らかにしていく。五巻はそんな巻となっています。

    例のごとくシリーズ全体の特徴については一巻のレビューをご参照ください。つづき、収録話についてもネタバレ込みで紹介していきますね。
    ついでに勝手に副題を付けますが、あまりお気にされないでください。

    第二十四話「あの頃の家族の肖像」
    今回のカラーページでは度肝を抜かれた方も多いはず。
    サービスシーンも兼ねた姉妹のスキンシップ、肌色の鮮やかさがモノクロの本編の中でも残光のように瞳に焼き付いてしまわれる読者も多いかもしれませんが、それはそれ。

    ここまで巻末に置いていた真中家関連の話を冒頭に置いた辺り、一巻ごとの構成を固めずに様々な方向性を模索しようという意図もあるのかもしれません。

    これはまだ真中家の母が家に「いた」頃のおはなしであり、今よりもう少しだけにぎやかだったあの頃――言うならば過去の一ページを三十六ページ(カラーの導入部含む)使って描くぜいたく仕様(?)です。
    しっかりとした輪郭と陰影の中でゆらぐ心理は相も変わらずも必見と言えるでしょう。

    ロリは可愛い、単眼は可愛い。
    なら「ロリ単眼」はもっと可愛い。
    とりあえず「萌え属性」というのは組み合わせ次第で無限の可能性を秘めているのだなあと思ったりもしました。

    わりと初期からヒトミ先生のインパクトには慣れていたんですが、小学生だけに今より眼の比率を顔に比して高めた彼女にはやられました。
    ここぞとばかりの大ゴマの使い方にしても、引きこまれるものを感じましたし。

    多々良家と真中家の交流の歴史、そのはじまりということもあってこの幼馴染ふたり、流石に最後の最後にはくっつかなきゃ嘘だろと思えたりもしましたが、まぁその辺は今後のつかず離れずを愛でるがよいのでしょう。
    あえて今は腐れ縁的ちょい悪青年に収まってる「多々良拳四郎」少年、この時分からイケメンかよって思いました。これは納得します。しちゃいます。

    ついでに大人になった彼に影も差しているので、何かあったのだろうな、今後語られるのだろうなという続刊での示唆もしっかり働いています。

    第二十五話「猫は液体である、涙をもたらすから」
    みんなだいすき、自由なねこさんの視点から一ページ「目」、見上げる目線からはじまる十二ページの短編です。
    猫を愛でる女生徒たちの大きさがうかがい知れようなものですが、ヒトミ先生の目もまた大きいわけで。

    この話は二十四話の補完的なところも見受けられ、幼少期から長じて先生目線になったヒトミ先生の口からかつての自分とは違うのだと猫好きな二年D組女子陣に色々と教えてくれます。
    とは言え、目をキーとしてコロコロ変わるヒトミ先生の表情に変わりはないのですけどね。

    ただ、泣き顔の意味が違うだけで。
    今回はあくまで生理的な反応なので悪しからず(?)。このタイプの話は巻ごとに時々ありますけど、ヒトミ先生のリアクションだけでオチがつくのだから流石はタイトルに名を冠す全体の主人公と言わざるを得ません。

    第二十六話「ナルキッソスのハッピーエンド(序)」
    これまた前の話を引きずるようですが、本作ではヒトミ先生をはじめに「目」がモチーフとしてピックアップされることからもわかるように「認識」がカギになる話のひとつです。
    今回はひとりの美少年にとっての「自他の境界線」を一人称視点(漫画自体は俯瞰視点)を織り交ぜて追っていくというもの。「植物」、「性差」などの、この巻における後続の話のモチーフも印象的に用いられています。

    ちなみに十一巻収録・第五十七話という結構ロングパスな位置に続話があり、そちらも合わせれば『ヒトミ先生の保健室』でも屈指の名作に成長しますので、どうかご興味が許せば併せてどうぞお楽しみください。
    若槻くんが何系に定義されるかもそちらをご照覧ください、単話完結の原則に則り五十七話の方のネタバレは排しますのであしからず。

    「??系男子:若月成貴」
    おそらく「美少年」という概念の成立要件も様々にありうるのだと解しますが、ひとつ取り上げるとすれば均整を求める、すなわち特徴を排して「平均値」を取る風潮にあるのだと思います。
    少なくとも「漫画」という媒体に乗ると意外と情報過多なんですよね、普通の男子って。普通だからと言って特徴がないわけではなし。しかもこの世界は万人が目立つ特徴を後天的に獲得する、そんな特殊性も秘めています。

    よって、若月くんが平凡だと認められず、数多くの女子から恋焦がれる美少年であるのはなぜかと言えば「性別」という人間をふたつに隔てる要素が平均的――。
    すなわち女性のきめ細やかさを感じさせる、中性的な男子であるからなのでしょう。

    そんなわけで、物腰穏やかで温和、人並みに同性の友人もいる若月くんが思春期の微妙な心理の中で一番近い「異性」として見出したのは、自分と同じ顔をした顔だけの彼女でした。
    「彼女」が人面瘡(人の顔をしたできもの)だった頃という最も弱々しい頃から見守り、やがては自分だけにしか聞こえない声を聞かせてくれるまで育つに至る。

    自分に密着というより接着している、自分であって自分ではない「他者」がいる距離感覚ってぎりぎり想像はできるんですが、当事者でないとわからないなにかがありますよね。

    一応現実にも「結合双生児」という例はありますが、こちらは後天的ということをお忘れなく。
    そちらに寄せすぎると幻想としての読み味を損なうのと、少なくともこの話における本質を見失う気がするので少し忘れてください。

    なお、今までの話における主人公たちも自己との対話を行うことはあったのですが、若月くんは自分とどう向き合うかという問題以上に「彼女」をどう認めるかという問題が一緒になっていて、これは悩みます。

    若月くんの場合は、自分の身に起こったことを「自己愛」という「論点」として捉えたようですが。
    よってこの話は「ナルキッソス」の逸話にちなんだ背徳的な絵運びが、実に耽美で素敵だったりします。
    だけど、もっと喜ばしいことにこの話はバッドエンドでは終わらないのですね。

    「カオリ」と名付けることで彼女を別個の存在として認めた。
    この時点で「一定」の答えは出たのでしょう。前述した通り、続編がある時点で「決定」の答えではないのかもしれませんが、これから先を見せていくためにまずは「一定」の結論を示せた事実は大きいです。

    個人的には人面瘡からはじまるストーリーでここまでのハッピーエンドは見たことがありませんでした。
    境界線を崩されるバッドエンドが支配的なだけに新鮮な裏切りが、実に爽やかでしたね。
    というよりヒトミ先生が言った通り、若月くんが他者を思いやれる優しい人であったのがハッピーエンドに向けた決め手だったのかもしれません。確かに「愛」はあったのです。

    ちなみにネタバレするとこの話の最後で若月くんは双頭に発展します。
    だけど、若月くんは「双頭系男子」ではないのですね、その辺はカオリさんへの配慮なのかもしれません。
    なにより彼と彼女の今後について語るには、今後に回すべき余地が大きすぎる。

    ……っと、少し虚飾を排して言ってしまえば大好きな話のひとつです。名残惜しいですが、次へ。

    第二十七話「生徒会の家族模様」
    四巻で勢ぞろいした「生徒会」のうち副会長「桐生院花園」さんと会計「根津宙太」くんの関係性に注目した回になります。
    威風と気高さを周囲に振りまきつつも、内心では寂しさを抱えて素直になれないお嬢様が、ちょっとした遊び心という形で甘えを向けられる数少ない相手は、幼年期はもちろん中学生になっても可愛らしい少年でした。

    プライベートでは主従関係ですが、その実は家族ぐるみの付き合いという気の置けない縁は実によいものですね。
    根津くん、メイド姿にはきちんと恥ずかしがってくれますし赤面も似合います。
    「女装男子」という存在に一定のニーズが見込めるのも確かに理解できる、そんな話でもありました。

    話の最後のカルテにも書かれていますが、彼って物怖じが多く気落ちしがちなようで意外とたくましくお嬢様のオーダーに応えてくれるんですね。よって根津くんのことを頼もしく思える、そんな一瞬も確かにありました。

    もちろん、ほかの面々も各人の役割を果たしてくれているのでご安心あれ。
    一同勢揃いの立ち姿ひとつとっても、それぞれの個性とこの五人の中での在り方を示しているようで面白い。
    それでいて、今回の「きょうだい」じみたふたりに続いて、生徒会という半分パブリックな空間では見せない、それぞれが「家族」に似た距離感覚を少しだけ覗かせてくれているようです。

    生徒会のある日から続き、ある日に続いていく「とある日」の話ということで今後への示唆も見受けられた、ということでどうかよしなに。
    次は誰がピックアップされるか予想してもいいかもしれませんが、それはそうと下校の最中なのに、どこかで陽が差すようなこの話はかけがえのない「日」といった感があってとみに好みでした。

    第二十八話「男性と、女性と、無性と両性と」
    記念すべき第一話からして主人公のヒトミ先生と並んで出演し、要所要所でヒトミ先生のリアクションを引き出すナイスな助手(性別不明)として動いているあの人について迫っていく話となっています。

    「植物系養護助教諭:樹翠」
    肝心の本人は謎が多すぎ、また各話を追いかける上で読者の思考に収まりきらない部分もあったのかもしれませんが、ようやくです。本人のノリは揚々と、飄々とした人柄を引き下げて。
    なぜかナース服を着ている謎の助手「樹翠(いつき・みどり)」さんについてご本人の口から語ってもらえます。

    常時ポーカーフェイス、性別を感じさせない体型、ヒトミ先生へのちょっかいに嫌味がない、とにかく掴みどころがないこの人をきっかけに本人のプロフィールのみならず、様々なことが明らかにされますよ。

    ところでまずは「性差」について説明する上で、この巻から登場した若月成貴くん&カオリさん達にも出演してもらうことで導入がスムーズになっていたりするのが漫画的に上手いですね。
    この辺も前の話にかかってくるのですが、漫画だからといって過度な特徴づけや記号化に頼りすぎるわけでなくきちんと描き分けられているのがすごいのですよ。無論、セリフやしぐさの援護もあるわけなのですが。

    漫画と言えば「絵」だけでなくセリフやコマ組みあってこそ。
    ついで、各人が自分をどう定義するかについても他者の目を鏡として借りながら「なりたい自分」を見出して自分なりに身だしなみを整え、振舞っていくわけです。

    「服装」、「仕草」、「髪型」、「口癖」などなど……。
    究極的な話、樹くんないし樹さんには「性別」がないわけなのですが、その辺の「性自認」、「性役割」をどう捉えるのか? という「演出」に向けて、一年前の樹さんの赴任時から現在に向けて回想していくという構成がこの話では組まれています。

    ちなみに遺伝に依らずこの世界の人類が後天的に獲得する形質または性質、能力などを表した用語「躰系(たいけい)」が出たのもおそらくはこの話がはじめてでしょう。
    その辺、専門的な教育を受けた大人同士の会話だからか、初出に関わらず違和感がありませんでした。
    読者としても様々な事例を見てきた後ですし、字面としても実に腑に落ちますね。

    ところで大体が哺乳類として生を受けるこの世界の人類としては例外的に、樹くんは「植物」としての生殖と発生のメカニズムに属して成長(生長?)してきた人類のようです。
    代名詞に迷う樹さんですが、わりとその辺のプロセスを詳細に追っていくだけでひとつの物語が完成しそうで、想像力を実に想像します。単独で完結して生を営む感覚ってどんなものかと思っちゃいます。

    もっとも当の本人は自身の好奇心に基づいて行動し、育て親のひょうきんな人格も窺い知れて。
    おそらくは彼から移った、素の「ッス」口調などを見るにのびのびと育ったことがよくわかり、なんとも自由な人だなあという感想が改めて浮かんでしまいました。
    そんな人柄のグリーンカーテンに隠されて、何とも爽やかな気分で話は締めくくられてしまいました。

    そして、ネタバレを恐れてはいけないので言っちゃいます。
    各話の終わりに挿入される健康記録シリーズを記述しているのが樹くんだということも明らかになる。そんな回であったりもします。
    学術的な観点、ちょっとシビアな人間観察、だけど毒になり過ぎないニュートラルな視点はヒトミ先生じゃなくてこっちだったかと膝を打った思い出があります。

    第二十九話「スキンシップもお肌だけの特権ではないのです」
    時折やってくるタイプのショートストーリー三本立てからなる回です。
    今回は三巻と四巻に収録された話の後日談ですが、ちゃんと短いページ数でこの子たちの人となりは伝わってくる辺り、キャラ立ちと個性の重要性がわかろうものですね。

    舌使い(遣いも)が巧みな設楽さんと、その彼氏。
    彼の方の躰系と氏名は実は巻数順に追う分には未公表なわけですが、それはそれ。
    その辺は今後への楽しみに置いといて、男の子って女の子が求めるムードをなかなか理解できないものですよね。特にこの年頃ならまだまだと言ったところ。

    素直になろうと思ったものの、今度は赤面しがちな鳶田さん。
    門司先生に挨拶を試みたものの、ダイレクトなアプロ―チを取る松代さんにちょっと妬いちゃいます。教師と生徒の一線って別に越えなくてもいいんですが、だからこその距離感覚が愛おしい。

    ヒトミ先生と多々良先生のいつもの掛け合い。
    気心知れた仲だからこその軽妙なやり取りの中に、ちょっぴり影を差す話題あり。真中家の長男であり、このふたりにとっては共通の「弟」とも言える「二美男」、彼の出番はけして遠くない。

    三本に共通するのは、なにも恋愛に限らない男女の関係という普遍的なテーマなのでしょうか。
    形はそれぞれだけど、三ページずつの中に確かな信頼関係が見出せるのだから不思議です、魔法のようです。

    と、各話の紹介も終えましたので〆に入らせていただきますね。
    今回のレビューにおいては少し「前提」を踏まえて、前だか先だかに言及したことが多く単独での完結性に欠いた趣がありますことをご容赦ください。

    とは言え、ここ『ヒトミ先生の保健室』の巻数を数えるにひとつの手で収まらなくなってくる頃合いです。
    通しで読み進めて行く王道の読み筋をされるとして、キャラクターも出揃ってきました。気になる子がどういった軌跡を辿ってどういう結論に向かっていくのだろう? という疑問と興味を抱く読者も増えてきたはず。

    そもそもこのシリーズもレビューを書いた現在(2020年6月)にすれば十二巻という大台に乗りました。
    読者の皆様ひとりひとりが自分なりに巻も話もばらばらに配置された彼ら彼女たちの物語を拾い上げ、追っていくことができるので、こういう紹介の仕方もそうは悪くないのかもしれません。と、これは自己弁護ですが。

    一瞬でキャラクターを掴めるようになっている「漫画」的な工夫があればこそ、「単話完結方式」の特権をこの上なく活かしているのかもしれません。
    たとえ「結論」から知ったとしても「発端」と「過程」を遡っていく楽しみがありますし。
    もちろん「発端」から「過程」を経てまだ見ぬ「結論」を追いかけていく楽しみもありますから。

    この五巻は「過去編」をはじめに長い時間を追いかけていくエピソードを多めに配分していたというのも、私なりの提案を補完する要素として大きいのかなと勝手なことを言ってみたりもします。
    「性別」という個々人を定義する上で最初に来るファクターのひとつを、自己、自分自身に対して言及する形で語っていくというのも、この巻のみならないテーマのひとつとして挙げられるのかもしれません。

    まぁその辺は戯言としてさておいたとしても、五巻の次は六巻です。
    事ここに至り、話を積み重ねていくだけでも面白さは増していくのかもしれませんが、それはそれと巻ごとの特色を見つけて飛び飛びに面白さを見つけに行くのも面白いかもしれません。
    もっとも、その辺からも自由になってあえて若い順に読み進めていくのも面白く……要は面白いのですね。

  • ヒトミ先生と多々良先生の過去とか、樹君の謎とか。

    若月君、この学校で美少年キャラって珍しいかも。根津君のほうが好みですけどね。だがパパがイケメンってどうよ。

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著者プロフィール

富山県出身。好きな魚は捻りもなく鮭。脱サラ後に横浜に移住し、2008年よりイラストレーターとして活動。ファミリー・児童向けほのぼのイラストの他、WEB・携帯配信漫画などを手掛けている。第12回龍神賞【銅龍賞】をゾンビ漫画『ジェネレーション・オブ・ザ・(リビング)デッド』で受賞。同作品が「COMICリュウ」2013年2月号に掲載されて本格的デビューを飾る。同誌2013年11月号より『ヒトミ先生の保健室』連載開始。現在は【COMICリュウWEB】にて大人気連載中。他のコミックスに『ゆうきゆうのマンガ恋愛心理術』(監修:ゆうきゆう 少年画報社)がある。Twitterアカウント:@shakekoujou

「2023年 『ヒトミ先生の保健室(17)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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