東アジアの人文・社会科学における研究評価: 制度とその変化 (アジ研選書 No. 55)
- 日本貿易振興機構アジア経済研究所 (2020年3月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784258290550
作品紹介・あらすじ
現在、高等教育や科学技術の発展は多くの国にとって,最も重要な課題のひとつであり,研究評価はその発展を図る政策にとって不可欠の構成要素となっている。研究評価をめぐる問題のひとつとして、人文・社会科学の研究をどのように評価すべきかが問われている。自然科学が強い普遍性をもち,通常,特定の社会の文脈からは切り離されているのに対し,人文・社会科学は大学・研究機関および教員・研究者が帰属する社会と強く結び付いている。それゆえ,人文・社会科学の研究成果の発表ではそれぞれの社会の言語が使われることも多く,英語による発表が一般化している自然科学とは異なっている。また,後者では通常,研究成果が論文の形態で発表さるが,前者では図書として発表されることも少なくない。このような特性をもつ人文・社会科学の研究評価において,自然科学で用いられるような数量的指標が往々にして持ち込まれ,疑問や批判を招いているのである。
人文・社会科学における適当な研究評価の方法は各国で検討されているが,相互の交流をとおしてそれぞれの議論や経験を共有することは必ずしも活発ではない。日本においても,他国の取組みが広く知られているわけではない。本書は、アジア経済研究所の研究員と付属図書館のライブラリアン4人がこのような状況をふまえ,日本のほか,韓国,台湾,香港,中国といった東アジア各国・地域における人文・社会科学の研究評価制度と、それを構築する過程にアプローチした成果である。日本の隣の国や地域では,どのような制度によって人文・社会科学の研究が評価されているのか,それはどのような歴史的な背景をもち,どのような過程を経て現在に至ったのか,わたしたちは本書でこういった論点を議論している。
なぜ,東アジアなのかといえば,本書の問題意識の根底には日本に対する関心があるからである。日本と近隣の東アジアの各国・地域との間には共通性がある。第1に,香港はやや性格が異なるが,それ以外では英語以外の母語をもち,かつ一定の規模を有する学術界が形成され,その内部においても,社会との間でも,母語を使ってコミュニケーションをしている。この点はとくに人文・社会科学において顕著である。第2に,現在の経済水準にちがいはあるとはいえ,キャッチアップ段階から卒業し,自前のイノベーションを強化しなくてはならないという課題をともに抱えている。第3に,高等教育や科学技術をめぐるグローバルな競争が激しさを増しているが,東アジア各国・地域は日本にとって身近にいる直接的なライバルでもある。
日本はこのように東アジアの国・地域と共通の背景をもつ一方,日本の制度にはほかにはない特異な面を少なからずもっている。本書をとおして他の東アジアの国・地域の制度を知ることは,日本の制度の特徴と課題に対する理解を深めることに役立つだろうと期待している。日本において研究を評価する側と評価される側、研究評価の政策や制度に関わる人たち、そして広いパースペクティヴからこの問題に関心を持つ方々に、本書を読んでいただきたい。