ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ (海外文学コレクション 6)
- 岩崎書店 (2018年3月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
- / ISBN・EAN: 9784265860432
感想・レビュー・書評
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ギャングがはびこる街ガーデン・ハイツで暮らす16歳の黒人少女スターは、両親の方針で6年前から、遠くの、上流階級の子たちの私立学校に通っていた。地元の気の進まないパーティに出ていたとき、幼馴染のカリルと再会し、彼が急に羽振りがよくなったことに気づく。その時そこで発砲事件が起こり、彼女はカリルと、彼の車で避難した。帰宅途中警察に止められ、カリルは身体検査を3回もされた挙げ句、「見られていないときに動いた」ために、その警官に銃殺されてしまう。カリルが麻薬の売人をやっていたようだと知ると、警察はこの事件を事故として片付けようとし、マスコミもカリルの側に非があったように報道する。地元を黒人ゲットーのように感じ、恥じていたスターは、この事件を白人の友人たちに話せないばかりか、友人の、本人も気が付かない差別的な言動に傷ついてもいた。カリルの事件を暴動の機会にする地元の人たち。授業ボイコットの理由にするクラスメイト。そんな中、事件のただ一人の証人スターは、警察とギャング双方から圧力をかけられる。
理不尽な扱いを受けながらも、学校や地域の友人、周りの大人たちに支えられ、それに抗う勇気を持っていく少女の姿を描く物語。
*******ここからはネタバレ*******
無茶苦茶ハードなお話で、しかも468頁。長いっ!!!でも、終わるまで目が話せなくて、本当疲れました。
主人公スターは16歳の黒人の女の子。白人が多い地区の学校に通っていて、地元の自分と学校の自分のキャラを使い分けている。彼女は6年前にも、ギャングの抗争に巻き込まれて友人が撃たれて死ぬところを目撃している。
父親マーベリックは黒人。元ギャングの親分、その父親も伝説的な親分。父親は、スターの幼少期3年間の服役しているが、その間、祖父(終身刑)と同じ獄中にいた。
母親リサは白人。正看護師。高校シニア(4年生)のときスターを身ごもり、子連れ大学生のときは夫マーベリックが獄中にいたため、カリルの祖母の家に居候したり、託児をさせてもらったりしていた。
兄のセブンとは異母兄弟。セブンの母親は、現ギャングのボス キングの妻アイーシャで、キングとの間に二人の妹がいる。
幼馴染のカリルとは、カリルの祖母の家に預けられているときに一緒に遊んだ。カリルの母は麻薬中毒で、キングのところから麻薬を盗んで殺されそうになったため、カリルはその償いのために売人をやっていた。
……と、主な人物紹介を書くだけでもこの複雑さ、重さ。
しかも、アメリカティーンエイジャーの今感がたっぷりなため、言葉に馴染みがない。読みながらおばさんは何度ググったことか。
例えば、「タンブラー」。SNSのことだろうなとは思ったのですが、架空のものかと思ったら違うんですね。実在していました。うちの高校生の娘たちも知らなかった。
「ヴォルデモートの鼻の穴よりきつい」。ハリーポッターの登場人物なんですね。鼻呼吸難しそう(笑)。
「ブラック・ジーザス」。ググってもちゃんとはわかりませんでした。
「フライドチキン」。”黒人奴隷のソウルフード”とウィキペディアに書かれていました。
「グロック」。拳銃の名前なんですね。
「無意識の差別」もたくさん出てきます。
例えば、ジュニア(高校2年生)の中で黒人はスターとライアンだけだから、ノアの方舟的種の保存のために付き合えば?とか、
黒人射殺事件をSNSでリツイートしていたら、友人の一人がフォローを外してきたとか、
「ボールがフライドチキンだと思いなさいよ。そしたら、食らいついていられるでしょ」とか、
中国人の友人に対して、感謝祭で「猫でも食べたのか」と聞く、とか、
それに対して、スターと中国人の友人マヤは、気づいていくのです。
「わたしたちが言わせておくから、むこうはますます言うようになって、おたがいにそれが当たり前のことみたいになってしまう。言うべきときに、なにも言わないんだったら、なんのためにこえがあるの?」
白人の方も微妙に気遣いします。
「私が抗議行動に参加しなかったら、そういうスタンスなんだって思われるだけだけど、白人の子たちが参加しなかったら、人種差別主義者だと思われる」。
暴動の中で、白人の姿も見られると報道されたスターのボーイフレンドクリスのジョーク「ぼくは多様性に配慮して投入された白人エキストラってとこだね?」
自分の内外から揺さぶられる中、スターは、同じセブンを兄として持つケニヤから、声を上げる勇気を持てと言われます。
「あたしの知ってるカリルだったら、あんたを守るために、真っ先にテレビに出て、あの晩にあったことを洗いざらい話してたはずだよ。それなのに、あんたはカリルのためにそうしようとしないじゃん」
スターの両親がとてもいいです。
彼らは、彼女が12歳のときに2つの大事な話をしている。一つは具体的な性教育。もう一つは、警官に呼び止められたときの注意事項。
カリルが麻薬の売人になった理由も、売人になっても人生は良くならないシステムになっていることも、それを変えるために声を上げ続けなくてはならないことも教えてくれる。
本来なら「自分を守る側」にいてくれるはずの警官が、肌の色だけで自分たちを警戒し敵視する。理由もなく職務質問し、身体検査し、地面に這いつくばらせる。
警察がいて怖いと感じることは、(私の)運転中と、もしかしてなにか悪いこと(自転車の二人乗りとか?)をしたときだけだと思っていたけれど、何もしなくても勝手に恐怖を感じて発砲されるのだったら、そんなビビリには銃を持ってほしくないですよね。
アメリカでは、つい最近も、警察の過剰な活動からデモが起きていましたね。この原書が出版されたのは3年以上前。著者の先見の明が光ります。
良書だとは思うのですが、あまりにも重い。ハイティーンか大人向けだと思いますが、それでも、心身ともに健康で、余裕のあるときの読書をオススメします(笑)。 -
この本に出会えてよかった。
私は知らないことが本当に多い。
人種差別の問題について、知って考えるきっかけをくれる本だと思う。
この本は少し前から本棚にいたが、NHKの映像の世紀_stranger fruits を見て、今読むべきだなと思って読了。
16歳の少女スターは、目の前で幼馴染を警官に射殺されてしまう。殺されてしまったカリルの問題に対して、世間の見方は本当にそれぞれ。たくさんの常識がぶつかり合っている。その中で、心に深い傷を負いながらも、恐怖を抱えながらも、正しい行いが何か、スターは向き合っている。
また、スターが通っているのは白人の子供たちが多く在籍する学校で、クリスという白人の彼氏がいる。生まれ育った街での自分、学校での自分。あまりに違う環境を行き来するスターの葛藤が伝わってくる。
いい本だった。ぜひ読んでほしい。 -
幼なじみのカリルが目の前で白人警察に射殺された——主人公は黒人街で暮らす16歳の高校生
スター。壮絶な"日常"が彼女の目を通して語られるYA本。
2018年に映画化、2019年には課題図書(高等学校の部)に選ばれた。
親しかった人を二人もなくす辛さは計り知れない。友達のナターシャは10歳でギャングの抗争に巻き込まれて亡くなった。それ以来私立のウィリアムソン校に通うスターだが、今度は目の前で…。
「アナウンサーはニュースでカリルの名前すら口にしなかった。黒人が黒人だというだけで殺されるなんて!」
理不尽な行為に怒りながらも、自分の見たことを話すのがこわくてたまらないスターの心情に胸が痛くなった。
スターの家族や彼女に関わる人達が愛情深く描かれている。 娘に語る父親マーベリックの言葉
「ドラッグがよそから入ってきて俺たちの町を破壊する。仕事がない。知識がない。ドラッグがないと生きていけない人や生きるためにドラッグを売る人間を大勢生み出す。俺たちが植えつけられた憎しみ、俺たちに押しつけられたシステム。それがThug Life(サグライフ)」で、題名の意味が理解できた。
スターが亡くなったカリルの母親を見て「ずっと放っておいて、今更おそい」ときつく当たった時に、母リサが言った言葉が心に残った。
「息子なの!おなかを痛めて産んだ、自分の子どもなのよ。あなたに彼女を裁く権利はないわ」
看護師でもあるリサの厳しさ、優しさが娘の決断「私は撃たれた友の声になる」ことを後押ししたのではないかと思う。
「正しい行いをしていてもうまくいかないときはあるわ。大切なのは、それでも決して正しい行いをやめないこと。
状況を変えるために声を上げる。口をつぐんじゃいけないんだ」
物語に入り込むまで時間がかかってしまったけれど、立ち上がっていくスターの姿に光が見えた。
最後のページに並んでいる人々の名前が何を意味するか、是非手に取って読んで貰いたい。
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高校生の黒人女子・スター。ギャングの町に住む。スターと一緒にいるときに幼馴染カリルは白人警官に射殺される。無抵抗であったカリル。警察はこの行為を正当化しようとする。カリルには悪い噂があったが、スターは真実を語り、カリルの汚名返上のため声を上げる。ボストングローブ・ホーンブック賞受賞作であり、日本では2019年高校生向けの課題図書。アメリカの社会問題を映しだす。
人種差別と戦う黒人少女の物語、ヤングアダルトのジャンルで、言い回しとか文化とかよく訳されていると思いました。スターの恋人、白人であるが勇気を持って行動しているし、若さ感じる内容だし、しっかりと登場人物たちが描かれていたのが良かったです。そう、何よりも若い目線で、暗くならずに社会問題に取り組んでいたのです。
日本にいるとこの物語のような人種差別などあまり見えてこない(少なくとも私の住むところでは)、しかし、海外に行けば肌で感じるかもしれない、でも現実に起きてる事、自分でもありえること読み進め、正しいことを続ける、やめないということの大事さの力をスターに伝えられ、得るものは少なくなかったです。 -
アメリカはこのごろこういう小説増えてるな。
数年前アカデミー賞受賞者が白人ばかりと批判されてから、ハリウッドはかなり有色人種を意識して作っているので、これも映画化されそうだな、と思ったら、やはり。
主人公が黒人、恋人は白人、親友は中国人、テーマは「差別と闘う」。ハリウッドが飛びつくでしょ。「Everything Everything」も「サイモンVS人類平等化計画」も白人と黒人のカップルだったからこそ映画化されたと思う。
これは白人警官が無実の黒人を射殺する(あるいは暴行する)という、今まで数えきれないくらい起こってきた事件を題材に、現代でも当然のように存在する差別と、それに立ち向かう人々を描く。特に黒人がいかに「まともな」人生から遠ざけられているか(きちんと勉強できる学校に行けない、高収入や地位の高い職に就けない、挙句ドラッグの使用者か売人であるギャングになってしまう)がよく描かれている。主人公はゲットーに住みながらも、母の希望で白人がほとんどの進学校に通っているが、学校では本当の自分を隠し、学校に合わせた態度をとっている。だから幼馴染が目の前で射殺されても、すぐに立ち上がって闘うのではなく、どうすればいいのか葛藤する。そこが、なかなか良かった。はじめから勇気ある行動がとれる人は少数派だ。
事件のせいで暴動が起き、関係のない商店の商品が略奪されたり、批判した人が暴行されたりという負の面もきちんと描いている。
読み応えのある作品であることは間違いない。でも、小説は映像化できない部分があるから面白いので、この作品は映像化可能というか、映像化されるために作られた感じがして、そこが個人的にはつまらなかった。
映画の主役は「Everything」の主役と同じアマンドラ・ステンバーグで、この若くて秘めた力のある主人公にぴったりだなと思う。映画も見てみたい。 -
目の前で親友を白人警官に射殺された16歳の黒人の少女、スター。深い心の傷を抱えたまま、白人中心の高校で何事もなかったかのように過ごしていたが、警察が警官を正当化し、真実が曲げられて報道されるのに憤り、親友の名誉のため、勇気を出して社会の矛盾に立ち向かってゆく。
スターの成長と両親の強くて深い愛に感動した。 -
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b351474.html
ギャングが徘徊し、ドラッグが蔓延するゲットー(黒人街)で生まれ育った高校生の女の子スターは、
10歳の時、友達が拳銃で撃たれるのを目撃していた。
その後、上流階級育ちの子らが通う高校に通っていたスターだったが、ある夜、幼馴染のカリルが警官に撃たれるところを目撃してしまう。
しかし警察は、無抵抗のカリルを撃った白人警官の行為を正当化するため、カリルを極悪人に仕立て上げようとする……。
「私は立ち上がる。撃たれた友の声になる。」
カリルの声になることを誓ったスターは、カリルの汚名をそそぐ為、
証人として法廷に立つことを決意する。
実際のアメリカでの事件や社会問題を強く想起させる、社会派ヤングアダルト小説。
【受賞歴】
★第65回課題図書(高等学校の部、2019年)
★SLA選定図書
★2017年ボストングローブ・ホーンブック賞 フィクション部門受賞
★2017年全米図書賞ロングリスト
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最初本を手に取って読んでいたが、文字面からはどうしても情景を思い描くことができず、途中で映画を見た。映像の訴える力は圧倒的だ。改めて原作を読んでみたい。同時に今まで身の回りで起きてきた不条理な出来事を想起した。そして、現在進行形で起きている身近な事象についても。歴史や文化の差はあっても、日本で若い人らの声を汲んだYA小説は、もう書かれているだろうか。 -
ずっと読もうと思っていた作品を、やっと読むことができた。幼なじみが目の前で警察官に撃たれた……BLMについて描いた作品。とはいえ、それだけではない。ゲットーの治安の悪さ、ギャングの問題。貧困。ドラッグ。人種差別。クリスのようにホワイト・ギルティを感じている白人もいれば、自分で意識もせずに差別的な発言をする人もいる。黒人としてのアイデンティティ。重いテーマを扱っているけれど、主人公スターの白人のボーイフレンドに父親や兄が怒り狂う様子や、ボーイフレンドとのイチャイチャとか、クスッと笑える場面があって、ほっとする。被害者の中には自分が笑うことすら罪悪感を覚える人もいるというから、スターの家庭に笑顔があることがうれしい。
先に挙げたような問題はほとんどが日本にすんでいる日本人には関係ないことだと思われるかもしれないけれど、勇気を出して1歩踏み出すスターの姿、「怖がらないことが勇気なのではなく、こわくても前に進むのが勇気だ」という母親の言葉、友達のいいなりになるのではなく、相手とつきあうことでいいことと悪いことどちらが多いのか冷静に見極めること……様々な場面で何か感じることがあるはずだ。
続編も読まなくては。カリルの件について、なにか進展があることに期待。
こちらこそ、ありがとうございます。お役に立てたようで、本当に嬉しいです。
本当、本って読んでみないとわからないですよ...
こちらこそ、ありがとうございます。お役に立てたようで、本当に嬉しいです。
本当、本って読んでみないとわからないですよね。
私の娘たちが以前いた小学校でも、娘が借りてきた漫画を読んでびっくりしたことがありました。
戦時中の広島を描いたものだったのですが、そこになんと不必要ではないかと思われるセックスシーンがあったのです。
寄贈本(誰がするんだい!?)だったということで、本棚に入れたと図書ボランティア仲間は言っていましたが、やっぱり彼女も良くないと思っていたようで、相談して、こっそり書庫に持っていきましたよ。
他には、"福屋デパート(広島地元の百貨店)をやたら褒める"ぐらいしか怪しいところがなかったので、読んでいないうちには発見できませんでした。
こういうの、読んだ子どもも教えてくれませんしね(小さい子はわからないし、大きい子は恥ずかしいし)。
「11番目の取引」いいですよね。私も大好きです。
じいじの「神は慈悲深い」の言葉が染みます~。
読書感想画っていうのもあるんですね。
「これからを生きる君へ」なんて、物語じゃないけどどんな絵を描かれるんでしょう。こういうのも、面白そうですね。
またお話してくださいねー。
写真を撮影されて、自分が攻められている気になったことがあります。あ、あまり 関係な...
写真を撮影されて、自分が攻められている気になったことがあります。あ、あまり 関係ない話、失礼しました。
それは大変な目に遭われましたね。お怪我とか大丈夫でしたか?
警察の人も、紳士的な人とヤクザさんと区別が...
それは大変な目に遭われましたね。お怪我とか大丈夫でしたか?
警察の人も、紳士的な人とヤクザさんと区別がつかないような人とがいらっしゃいますよね。
お仕事だから仕方ないんでしょうけど、もう少し、当たりが柔らかくなると良いなぁって思うこと、ありますよね。