TALENT——「人材」を見極める科学的なアプローチ

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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784295408222

感想・レビュー・書評

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  • 珍しく外国の方が著者のビジネス書読んでみたが学びが多かった!
    人材探しにおいて 優れた候補者とは大成功の経験がある人ではなく、誰よりも努力しトップに立とうと決意している人である。
    “スポーツ選手と同じで継続的に何かに対して努力しているか?”

    特殊な人材(クリエイティブなひらめきを持った人、いかなる文脈においてと新しいアイデアを生み出したり、新しい組織をつくったり、既知の製品を生産する新しい方法を開発したり、知的活動や事前活動を主導したり、その人存在自体やリーダーシップ、カリスマ性で他の人にインスピレーションを与えたりできる人のこと)は人の目に留まりにくい。

    情熱よりもGRIT(度胸と復元力、自発性と執念から構成される能力、やり抜く力)が重要


    知能の高さよりも、意欲、自発性、好奇心、倫理観が重要

    人材が才能を発揮できるかは、環境、風潮、競争意識である。

    集団がいる場所に住んでみる、イベントに参加する、本を読むことが向上心を高める上で効果的。

    ジゼルブンチェンはサンパウロのショッピングセンターでスカウトされたことを知った。スカウトマンの才能は凄い。

    男女による性質の差や人種による差などにも触れられていた。世界的にみても女性のほうが自信を持っていない人が多い。

  • ターゲットとなる人材が主に非凡な人で、そのような人をどうやって見つけるかに主な焦点がある。
    なのでインキュベータやVCなどには有効そうだが、一般の人が読んで学べるところがどこまであるのかはわからない。

  • 結局、よい人材プールを持っているかどうか。

    前半は非構造化面接を分析する。
    面接における有用な質問は時代遅れになるという視点が学び。
    つまり、どれだけいい質問を用意しても相手が答えをあらかじめ準備できていれば意味がない。
    本書でも有用な質問と意図はそろえているが、そのまま使いづらいと感じた。
    その上で相手にストーリーを語らせることと、職種によっては定量的に測れる箇所を使い分ける必要はありそう。
    相手に野心や成功について聞く質問はおもしろい。用意できないので。

    誠実性もいいけどGRITもねを感じる。
    あと応答速度は一つの基準と感じた。

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12810351193.html

  • TALENT——「人材」を見極める科学的なアプローチ
    ダニエルはタイラーから、採用面接では「ピアニストが音階の練習をするように、あなたが練習しているものは何ですか?」という質問をするといいと教わったのを覚えている。進歩を続けるために何をしているかがわかれば、その努力の効率の良さを評価できるだけでなく、そこから何かを学べるかもしれない。また、その人特有の習慣だけでなく、継続的進歩についてどう考えているかもわかるはずだ。

    人材探しは、ほぼすべての人間の暮らしの中で、最も重要な活動のひとつなのだ。
    イーロン・マスクはスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ( スペースX〕社で雇った最初の3000人を全員直接面接したという。確実に適切な人材を採用したかったからだ。

    大企業なら髙い報酬を提示して「見るからに」優秀な人材を雇うことができる。しかし、小規模な企業の場合、大手と肩を並べるのはなかなか難しいだろう。やる気に満ちた忠実な唯一無二のチームをつくるには、これまで見落とされていたキャリア後半の女性や目立たないはみ出し者のプロデューサー、隠れた天才を的確に選び出すのが一番だ

    それに何より、私たちはアメリカ経済および多くのアメリカ人や地球市民に不利益をもたらしている人材探しのお役所的アプローチには反対であり、見直していくべきだと考えている。私たちが定義するお役所的アプローチとは、ミスと損失を最小限に抑えようとし、何よりもコンセンサスを重視する方法のことだ。誰もが非常に厳しい一連のルールに従って行動させられて、個人主義は隠蔽、あるいは撲滅されることさえあるだろう。しかも決して急ぐ必要はないので、事実上際限なく新たな手続きを適
    用することもできる。こうしたすべての結果として、採用プロセスが、最近流行の政治学用語を使うとkludgeその場しのぎのいいかげんな方法) 」やsludge(汚泥)だらけになり、同じような気質の候補者ばかりが応募してくることになる。

    人材の不足と重要性は、非常に大きな問題であり、マクロ経済のレベルにも影響が表れている。というのも、現在はベンチャーキャピタルが相対的に多く、経済学でいう「過剰貯蓄」が増えていることからも明らかなように、資本の量に対して人材が不足しているのだ。
    つまり、彼らには資金があり、常に不足状態の人材を探し
    ているのだ。

    学歴が高いだけでは収入に限界があり、本当に見返りが得られるのは学歴に加えて才能も兼ね備えている人々だけなのである。

    ベンチャーキャピタルにおいてダニ エ ルが注目する感情は恐怖だという。とりわけ売り込みに来たファウンダーが持つ、成功するためなら手段を選ばないという、大胆な野心と気迫がもたらすかすかな恐怖だ。これはファウンダーがダニ エルを怖がらせようとしているわけではなく、むしろ彼らからにじみ出る野心にダニエルが反応しているのだ。

    ピーターは文系出身で、科学やテクノロジーではなく哲学と法律を専攻しており、彼のアプローチは機械的な公式では十分に表現することができない。ピーターはスタンフォード大学在学中にフランスの人類学者で哲学者でもあるルネ・ジラール教授に師事し、その指導のもとで聖書について研究していたため、現在もその関心の多くは宗教関係の問題に向けられている。私たちはピーターが、哲学的さらには道徳的に人々をとても厳しくテストしていると考えている。もっとも、これはピーターの政治に対するアプロー
    チ、さらにいえば道徳観に同意するかどうかが重要だという意味ではない。人間にとって道徳的判断は最も鋭く、意欲的な洞察の源であり、ベンチャーキャピタルでの人材評価に関する上で、それがピーターの強みになっていることを彼自身も理解している。そのため、ピーターは実際に相手に対して自分が成功に値すると思うか問い、相手の心の中にあるとても感情的な質問から補足的な情報を引き出しているのだと私たちは考えている。人間の最も深く最も力強い直感を呼び起こすのは、往々にして道徳的判断なのだ。

    簡単にいうとマネー・ボールの哲学は、統計を使い、野球界で過小評価されている選手や戦略を見いだすことにある。このように、数字は活用できれば素晴らしい道具となるが、多くの場合は重要でないこともわかっている。

    GRIT“度胸と復元力、自発性と執念から構成される能力。やり抜くカと呼ばれる性質が重視されているが、数字で見てみると、粘り強さは情熱よりもずつと重要な性格的特徴だ。

    どんな場合に当てはまり、どんな場合には当てはまらないだろう? 」と自問すること。私たちはこの最後の問いを「横断的バリエーションの探究」と呼んでいる。ある特定の主張について、どんな場合、どんな場所に当てはまらないかがわからないとしたら、そもそもその主張を理解できていないのかもしれない。したがって、あまりその主張に頼らないほうがいいだろう。文脈を理解すれば、才能を敏感に察知できるようになる。

    この本を適切に活用するには、一種の弁証法的見方を採用する必要がある。矛盾を恐れることなく、相手の成し遂げたことに対する驚きと人的ミスの原因の両方を同時に念頭に置くべきだ。驚きのほうが強く伝わる( これは世界が素晴らしいところだということだ) が、両者のバランスを保てれば、才能に対する複数の見方を活用し、良い効果を最大限に得られる。

    この素晴らしいタイトルを載せておこう。「人格は週末に現れる」

    みなさんはどのような練習が成功への一番の近道かご存じだろうか? 答えは教師が考えた練習法ではない。自分が主導し、自分で管理し、一人で行う練習だ。練習の習慣は、継続的に学習し、業績を上げるための手段と考えてほしい
    面接相手がどんな練習の習慣を持っているか確認しょう。そうすれば仕事に対する姿勢のひとつの側面が明らかになるからだ。また、自分の能力を高めることをどれだけ意識しているかも確認しよう。

    時間の使い方と実際の行動を観察するには、ベンチャーキャピタル社元社長のサム・アルトマンが応答速度と呼んでいたスピードを調べるという方法もある。
    迅速な行動力と判断力を持たないファウンダーが成功するのはかなり難しいでしょう。その理由は、私も完全に理解したわけではないのですが、恐らくスタートアップ企業の唯一の強み、あるいは大企業に優る最大の利点である機敏性とスピード、コンセンサスにこだわらない姿勢、投資の集中、驚異的な集中力と関連していると思います。これがあれば実際に大企業に勝つことができるのです。

    構造化面接とは、多くの場合、組織レベルで事前に一連の質問を用意しておく方法で、組織全体で多くの候補者に対して共通の基準を当てはめて評価する。これは大規模な組織にとっては重要な方法で、お役所的な採用方法を踏襲したものだが、本書で教えている方法とは異なる。

    非構造化面接は、特定の目的はあるものの、より自然に普通の会話のように進められる。実際のところ、構造化面接に分類される面接であっても、ほとんどの場合、非構造化面接の部分を含んでおり、私たちのアドバイスのほとんどはこの非構造化面接の部分を対象としている

    最初から嘘くささを回避することのおもな利点は、できるだけ早く候補者を会話モードにできる点であり、これは面接において非常に重要である。会話モードなら、相手が職場で普段どのようにほかの人に接しているか、通常の面接よりもはるかによく理解できる。
    少なくとも「偽りの人物の本物バージョン」を知ることはできるので、それだけでも、相手が面接用に準備してきた回答の意味を解読しようとするより価値がある。

    事実やあらかじめ用意された回答より、候補者自身のスト—リ—を語ってもらおう

    退屈さは云染する。わかりきった質問のおもな問題は、わかりきった回答を引き出してしまう点だ。事前に準備されがちなストーリーについて質問しないようにしよう。

    雄弁さを過大評価してはならない。それよりも、質問に対する回答の内容と質に注目しよう。能力の高い候補者の多くは、即答したり、よく練られた響きの良い文章で語ったりはとくにしないが、それでも内容が良かったら注目すべきだ。

    ピーターの話の聞き手も必ずしもいつも理解しているわけではないが、それは問題ではない。彼の主張には筋が通っていて、その論理を最高に強い確信をもつて伝えており、聞き手は彼の主張の根底にある、失われたダイナミズム、悲観主義、他者やその習慣をまねしたいという実に人間らしい欲望といった一貫した世界観を正しく感じとる。

    具体的で強制力のある質問をしよう

    グーグル社の人事担当上級副社長だったラズロ・ボツクは「当社は、頭を使う難問は、完全なる時間の無駄であることに気づいたのです」と明言している。
    ほとんどの職種においては、対象となる仕事に直接関係す
    る分析的質問をしたほうが良いだろう。そうすれば経済やプログラミング、数学などに関する候補者の知識を試すことができるからだ。というわけで、グーグル社と関連したこうした大半の質問には、敬意を持って退職を促すべきだろう。

    面接官と候補者の立場を入れ替えるメタ質問もある。ぜひ「あなたならどんな基準で採用しますか?」という質問を試してほしい。この質問も募集中の職種や自分自身、面接のプロセス自体について候補者がどの程度理解しているかをテストできる。

    懺悔と心理療法の状況に共通する要素のひとつは、目を合わせないことで、告白したくなる、あるいはしやすくなる、または少なくともそのきっかけがつくれる点だ。
    神父が懺悔者の目をじっと見つめていたら、たとえば家族に対する責任を果たせなかったことなどを認めるのは難しくなるだろう。その上、匿名性も保てなくなる。同様に心理療法においても、患者は誰の反応も直接見えないほうが
    幼少期のトラウマなどについて話しやすいだろう。

    私たちは個人に関する最も信頼のおける情報源である「実証された優先傾向」つまり、実際の人生における活動や功績をとても重視している。

    非常に才能があり、業績分布のトップ近くに位置する人々は、いくつかの基本的意味で発明家と類似していると私たちは考えている。こうした人々がそれぞれの専門分野でトップに立てたのは、新しい方法をいち早く開発したからだ。

    才能だけでなく、努力する意志とチェス以外のすべてを犧牲にする覚悟、精神的強さといったあらゆる要素を考慮すると、すべてを備え、頂点を極められる人は多くありません。プレイヤーが世界的エリートの域に到達するために必要な要素はたくさんあるのです

    トツプレベルのCEOや野球投手になったり、科学者としてノーベル賞を受賞したりするこよ、さまざまな特徴を兼ね備えていなければならないが、この場合も、全体は各パーツの合計を超えている。これを私たちは完全なパッケージと呼んでいる。

    最も才能ある人々はたいてい何か非凡なことや斬新なことをしていて、信じがたいほど才能に恵まれているため、少なくとも彼らの最終的な業績が完全に明らかになるまで、ほとんどの人は彼らの才能をよく理解できないことも多い。
    非常に才能のある人々を最もよく見いだせるのは、非常に才能のあるほかの人々であり、そして世の中には非常に人材探しの才能に恵まれた人はあまり多くないということだ。

    完全なパツケージを持つた人を見つけるには、さらに深い総合的な能力とかなりの幸運、そして私たちが起業家的注意力と呼んでいる、ほかの人々には見えない才能を見つけ、認識する能力が必要なのだ。

    知能は文脈に左右されるものであり、その企業が市場に関して既に好ましい状況にあるときに最も重要となるとして、マイクロソフト社とグーグル社をこの現象の例にあげている。知的な人材募集中という看板を出したり、論理的難題を解くよう社員に指示したりするだけで成功した企業はない。知能が髙いのはもちろん良いことだが、ほかの要素がすべて同等なら、人材を雇う上でより重要となるのは意欲と自発性、好奇心、倫理感だとマークは論じている。また、彼はとくにインターネツトを使って余暇に自分の専門分野について無料で最新の動向を把握できる時代において、意欲のある人はかなり高い確率で好奇心も強いとも述べている。

    は「勝者の呪い」と呼ばれる現象が起き、他社と張り合って必要以上の賃金を支払うことになるかもしれない。ある一人の働き手を獲得するため、いくつもの企業が名乗りを上げている場合、この競争に勝つ可能性が高いのは、その人物を過大評価した企業であり、こうした企業は最終的に割高な賃金を支払うことになる。
    たとえ勝者となる企業が候補者の資質に対してさほど過大な値を付けていなかったと
    しても、獲得競争に勝って得られる利益は期待していたほど多くない場合もある。

    全米大学雇用者協会による2020年の雇用見通し調査を見ると、知能を重視していることがわかるが、同調査は( アメリカではマイノリティである) 大学の卒業生に焦点を絞っているため、これは驚くことではない。採用候補者に最も求められる資質は「問題解決能力」であり、これはかなり明らかに直接的に知能と結びついている。しかし、二番目は「チームで働く能力」と「強い労働倫理」であり、全体としては上位ー〇位のうち七つは知能と関係していなかった。つまり、この調査によれば、知能が重要であることは明らかだが、こと適性においては圧倒的優位を占めているわけではないということだ

    イー ロン・マスクは、活動の幅を広げ、彼のように卓越した知性を持っていてもそれだけでは及ばなかったであろう範囲まで影響を及ぼす上で、性格がいかに重要であるかを証明した。

    未来の労働者は開放的で冒険的、 大胆など、最新の標語にうたわれている特性を兼ね備えていなければならないというのだ。通常、こうした主張はある程度正しいが、当てはまるのは特定の文脈のみである。そのため、性格について考える上で必要不可欠なスキルのひとつは、性格と仕事に関する主張を聞いたら、その主張が普遍的なものではなく、いかに文脈に左右されるかに気づける能力だ。

    ビックファイブ理論
    神経症傾向
    恐怖、悲しみ、困惑、怒り、罪悪感、嫌悪感などの否定的な感情と否定的な影響を経験する一般的な傾向。
    外向性
    外向性の高さは社交的な性格、人懐こさ、愛想のよさ、話し好き、ほかの人々とかかわりたいという積極的な欲求として表れる。
    開放性
    この特性には寛容さ、新しいものや多様な考えを探究する意欲、実験を好む傾向、好奇心、さらなる可能性を考える積極的な想像力が含まれる。
    協調性
    協調性の高さは、他者と仲良くし、他者を助け、他者に同情し、協力したいという欲求を意味する。協調性が低い人は、競争的で他者と異なる行動をしようとしかちである。
    誠実性
    誠実性が髙い人は、自制心が強く、とても責任感があり、義務感が強く、通常は頼リになるため、計画を立てたり、物事を組織したりするのがうまい。

    最終的にみなさんは特定の仕事について、特定の特性の組み合わせが望ましいかどうか判断しなければならないが、これらの性格特性が良いか悪いかを最初から決めてかかると情報を得る上で足かせとなる。

    優秀な戦闘機のパイロットは、ある程度大胆不敵で虚勢を張れる必要がある。卜ム- ウルフはこうしたパイロットを研究した著書『ザ・ライト・スタッフ— 七人の宇宙飛行士』の中で、「へ?気違いじみた滅茶苦茶な競争もしたことのないパイロッ卜なんか一文の値打ちもねえな。それだって正しい資質( ザ・ライトスタッフ) のうちなんだ」( 「ザ・ライト・スタッフ— 七人の宇宙飛行士』トム・ウルフ著、中野圭二、加藤弘和訳、中央公論新社、ー九八三年)という見解を引用している。

    非倫理的な人は生まれつき非倫理的であり、 囚人が改心するように突然倫理的になる可能性は極めて氐い。

    職場の倫理観が損なわれると、それががんのように広がるため、このアドバイスはとても普遍的だ。倫理的な社員は非倫理的な新入社員に嫌悪感を覚えるだろう。そして、周りにいる— 既に雇われた— 非倫理的な人々は、行動をどんどん悪化させる言い訳を見つける。非倫理的な人物を雇うメリットはほとんどない。その人物が優秀であればあるほど多くの問題を引き起こすだろう

    スタミナは人材探しにおいて、とくにトップレベルの人材やり—ダーおよび大きな実績をあげている人々を探している場合、大いに過小評価されがちな概念のひとつだ。

    最も成功した人々は、ほかの人よりもはるかに多くのエネルギーとスタミナを持っているのだ。
    思うにこれは『なぜこの卓越した若き天才は成功しなかったのだろう? 』と思う多くの事例を説明するのに役立つ。彼らにはしばしばスタミナあるいはそれを生かす意志がなかったのだ。私はそういう人々を何人も知っている

    ボブ・ディランは信じがたいほどのスタミナを持った有名人の好例だ。彼はー 〇代のころから取りつかれたようにフォークとブルースを学び、六〇年近くのあいだに何十枚ものアルバムを発表。二〇ニー年後半の時点で八〇歳にもかかわらず( 少なくともコロナ禍前までは) コンサート活動を続けている。

    才能を評価する上で最も重要なスキルのひとつは、人々が複利の利回り曲線に沿って成長しているか否か判断する感覚を養うことだ。多くの性格理論は、性格特性のレベルあるいは絶対的度合いを観察することを重視している。しかし、みなさんはむしろダイナミズム、知性、成熟、野心、スタミナ、その他の関連する特性について変化率がプラスかどうかを重視すべきだ。

    驚異的な人々にはある種のバイタリティが備わっている。こうした人々は早口で、行動も早く、概して人生に夢中になっているように見える。頭の中ではアイディアのあらゆる組み合わせが試されどのような可能性があるか、より深く理解しようとしている。また、彼らの性格特性としては、開放性のレベルが高い傾向がある。私たちはこの資質を「生成性」と呼んでいる。

    私たちが不安によるオーバーアチーブメントと呼んでいるのは、自分の出した成果が優れていることを深いレベルでは理解しているにもかかわらず、決して安心できない( やや神経症的な) 資質のことである。この資質は批判的な心の声と髙いレベルの野心に起因することが多い。

    悲観的完ぺき主義に分類される人々は何度も挫折感を味わわないですむように、前もって言い訳をしたり、早々にキャリアをあきらめてしまったりする。

    専門用語で「要求回避」と呼ばれている性格特性( 「病理学的要求回避」と呼ばれることもあるが、この言葉はあまりにも主観的な価値観に基づいているように思われる)
    もあまり議論されていない。この言葉は( 臨床的ではなく) より実践的な意味において、なかなか上司に従えない人々のことを表している。こうした人々は職場のヒエラルキ—をあまりにもよく理解しているため、上下関係に苦しむのだ
    要求回避型の人々は適切な環境があれば極めて生産性が髙いが、こうした環境はとても特殊な場合もある。彼らの多くは学者になり、ファウンダ— になることもあるが、そのほかの人々の多くは上司を恨みながら暮らし、転職を繰り返す。

    「スティーブは、自分の望む落としどころに話を持っていく術も心得ており、硬軟織りまぜて攻めていく」
    ジョブズは決して気難しかったわけではなく、むしろ極端な目的志向型だったのだ。感情尺度を自在に使いこなした名匠ジョブズは、愛想の良い魅力を使うこともあれば、無愛想な悪意を見せることもあったが、いずれにしても常に正しいメロディを奏でて目標を達成した。

    パターンマッチングと呼ばれ、私たちは候補者と同じような特性を持つ別の知り合いを思い出し、候補者もその知り
    合いと同じような特性を持っていると予測する。

    グレタ・トウーンべりは気候変動に衆目を集めることに大成功した。彼女の成功物語は「障がい」を持つ人々がそれを「克服」したからではなく、障がいがあるからこそ、驚くほど有能になることもあるという重要な教訓を与えてくれる。自閉症の人々の多くは表現方法がとくに単刀直入で、社会的正義に強い関心がある、または執着していることさえあり、趣味や仕事に没頭しがちであり、偽善を強く嫌うと考えられている。グレタの主張を広め、成功に導いたのは、まさにこれらの資質だった。

    ピーター・ティールは多くの講演で「アスペルガー症候群」であることは多くの社会的出来事から自分を隔離するのに便利であり、それゆえ独創的な思考を維持できるのだと言っている。
    自閉症やアスペルガー症候群の人々は、通常の社会的圧力と模倣の欲求のループの外にとどまれる分だけ、独創的で順応主義的ではない思考をしっかり持ちつづけることができるのだろう。実際、彼らは順応できないこともあり、そのおかげで彼らの思考は新しい別の方向へ進みやすくなるのだ。

    まずは障がいが次の三つの機能により、才能を発揮したり高めたりできることに注目したい。
    ①ほかの人と異なるものに注目し、 努力の方向を変える
    ②当初の障がいを補って適応する、あるいは埋め合わせする
    ③「スーパ— パワ—」あるいは障がいのある人々も優れた能力を持てるようになる方法

    自閉症の人々の認知的優位性には次のようなものがある。
    .好みの分野の情報収集および知識の整理における高い技術
    ・わかりやすい例として、 科学など、 好きな分野における細かい情報を理解し、 収集することにおける高い技術
    ・パタ— ン認識およびパタ— ンの詳細に気づく高い技術
    ・鋭い眼力と優れた音調知覚
    ・目の錯覚に惑わされにくい
    ・サンクコスト( 訳注- 既に支払ってしまっていて回収不能のコスト) に対する偏見が少な
    ・行動動経済学の文献に提示されているとおり、 フレーミング効果( 訳注、同じ意味を持つ情報であっても、何を強調して選択肢を提示するかによって意思決定が影響されること)による錯覚および授かり効果(訳注へ自分の持っているものの価値を他者よりも高く評価すること)の影響を受けにくいため、 意思決定の際はより合理的なアプローチをと

    ・数字や暗号などの扱いに秀でているなど、 サヴァン症の能力を持っている確率が高い
    ・一般に膨大な量の読み物を速いスピ—ドで吸収し、記憶しておける能力を含む過読症
    ・および社会的正義の感覚が強く、自閉症の人々はまわりの人々からの直接的クレ— 厶よりも非個人的な正義に重点を置く

    現代社会はいまだに「ルッキズム」に苦しめられることが多すぎるということだ。ルツキズムはスマートで「能力のある」人々がどのように行動し、どんな活動をし、どんな話し方をすべきかというとても具体的な物理的イメージに当てはめようとする。こうした先入観にはできるだけとらわれないようにしよう。

    性差とは、以下のものである。
    -女性は男性よりもリスク回避型の行動をとる。
    -女性は男性よりも競争を嫌う。
    "女性は男性と比べて自信の格差に苦しんでいる。
    ・いくつかの重要な点で、 女性は男性より「自分を前面に押し出す」ことが少ない。まず

    いずれも職場、とくに髙い役職における男女間のおもな格差のひとつが自信の格差と呼ばれる概念であることを示唆している。

    明白な偏見がない場合でも、黒人やその他の少数派集団は、自分の才能を伝える上で非常に現実的な障がいに直面する可能性があるということだ。

    独学の機会が増えていることから、スカウトはますます重要になっている。かってないほど多くの人々がさまざまな職業に挑戦するようになったことで、才能を発掘し、職業につなげるメカニズムにますます大きな負荷がかかるようになった。また、独学で業績を上げている人々ももつと受け入れるべきだろう。

    第一に、優秀なスカウト担当者は、総合的に見て優秀なパ
    フォーマーと同じ資質を持っているわけではない。優秀なスカウト担当者は、パフォーマンスそのものよりも、ネットワークづくりの達人であることが一般的だ。
    第二に、優秀なスカウト担当者は、 ある程度のカリスマ性を持っているべきだ。スカウト担当者が有能な人材を探しているだけでなく、有能な人材もスカウト担当者を探している。
    第三に、優秀なスカウト担当者は、とくに大規模で官僚的な組織の場合、雇用主に清報を云える能力に長けている必要がある。
    第四に、非伝統的な方法で才能ある人材を探す場合、昔ながらの方法で専門家をそろえるだけでは不十分だ。。定量的データを躯使する金歐アナリストや人文科学の専門家のほうが、狭い分野の専門知識よりも価値がある場合もある

    アテネには、学問をしたり、哲学的議論を闘わせたり、演劇のための執筆活動をしたりするための制度的な構造に加え、それにふさわしい風潮と文化的背景があり、そのすべてが才能ある人物を見いだし、活躍の場を与えるのに役立ったのである。

    本当に重要なのは環境、風潮、競争意識であり、組織のエコシステムに適切な条件をつくりだすことができれば、人材の活用に大きな影響を与えることができるということだ。

    常に一歩上を目指し、ほかの人々も一歩上を目指せるように指導するのだ。将来、会社が漁業に代わって、より環境に優しい優れた食材をより低価格で生産するようになるところを想像してみてほしい。そして、漁業に代わる方法を人に教えよう。私たちは今まさに目標に向かって進んでいるのだ。

    私たちは中心的な見解のひとつとして、トップレベルの業績を上げられそうな人はできるだけ早い時期に当該分野で最も髙いレベルの才能に触れるべきだと考えている。
    これは、非常に優秀な家庭教師やメンターを持つことやハーバードやスタンフォード、MITなどの一流大学に進学することで得られる価値の大部分を占める。授業や指導がほかの大学よりも格段に優れているからではなく ( 劣っている場合も少なくない) 、これらの大学では、学生はそれぞれの分野の非常に優れた頭脳がどのようなものかを見る機会があるからだ
    これまでの人生で目にしたことがないような髙いレベルの才能や業績、向上心を見せよう。もし彼らが真の野心を持っていれば、この経験は単に一過性のものではなく、将来の業績を表す軌道全体がずっと急な右肩上がりになるはずだ。

    多くの才能ある若者にとって、旅費を支援するトラベルグラントは、マンハッタンやベイエリアといった素晴らしい才能の集まる場所へ旅できることを意味する。多くの人は、自分の好きな分野や職業で「一流」を経験する機会がないため、その潜在能力を十分に発揮することができないのだ。

  • 今朝何をして過ごしましたか?
    これまでの人生でどんな変わったことをしましたか?

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著者プロフィール

米国ジョージ・メイソン大学経済学教授。1962年生まれ。「世界に最も影響を与える経済学者の一人」(英エコノミスト誌)。経済学ブログ「Marginal Revolution」運営者。著書に全米ベストセラー『大停滞』 (NTT出版)など。

「2020年 『BIG BUSINESS(ビッグビジネス)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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