星野リゾートの事件簿2 なぜお客様は感動するのか?

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296108541

作品紹介・あらすじ

注目企業、星野リゾートの舞台裏を大公開――。
「『事件が会社を強くする』」(星野佳路代表)

ビジネスモデルが変わった地方の「グランドホテル」、結婚式の当日に起きた突然のアクシデント、そして宿泊業に大きな影響を及ぼすコロナ禍……。さまざまな「事件」を前に、星野リゾートの「スタッフはどう考え、どう動いたか。

◎事件は続くよ、どこまでも
2010~20年にかけて起きた想定外の出来事がテーマ。「現場チームが果敢にチャレンジするからこそ、当然いろいろな事件は起こる」(星野代表)

◎ドラッカーのイノベーション理論を実践
事件とは「予期せぬ失敗」=イノベーションにつながる可能性のある機会になる

◎はじける現場、突き抜けるサービス
結果、「経理担当は踊り出し」、「若手は畑を耕し」、「ベテランは赤レンジャーになった」!?

【本文より】
ユニークな戦略を次々に打ち出してきた星野にとっても、思いがけないアイデアだったのだろう。提案を聞くと、こう言った。
「それで大丈夫?」
だが、フラットな組織の自由な議論から出てきたアイデアに対して、スタッフの気持ちは前向きだった。 (本書「崩れたスクラム」から)

事件と向き合った一人ひとりのスタッフの経験を、会社のナレッジとして蓄積していく……。そしてそのなかにダイヤモンドの原石のような大きなイノベーションの機会が隠れていると考えている。大事なのは、事件とは避けようとすべきことでなく、活用すべき体験である、ということだ。 (本書「解説」=星野代表=から)

感想・レビュー・書評

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  • 良書。星野リゾート躍進を描く第2ステージの書です。

    テーマはエンパワーメント、個人や集団の持つ力を引き出し、活性化することです。
    創業、第1ステージでは、星野氏が自ら先頭に立ち、改革をすすめてきましたが、この第2ステージでは、現場のそれぞれのメンバーに権限を委譲し、問題解決を図っていきます。

    もう一つのテーマは、事件、事件を解決するから事件簿となっています。終章にピーター・ドラッカーの「イノベーションと企業家精神」の中で、イノベーションが起きる7つの機会についての記載があります。その一つが、「予期せぬ成功と失敗を利用する」です。星野氏は、星野リゾートに起こったさまざまな課題と、「予期せぬ成功と失敗」=事件と称し、企業変革のためのイノベーションであったことを告げています。

    気になったことは以下です。

    ・実家の事業を継承したときの最初の大きな課題は社員の採用難と低い定着率であった。その解決方法として着目したのが米国の経営学者、ケン・ブランチャード氏のエンパワーメント理論だ。①会社情報を全社員と共有、②階層組織の思考をやめる、③失敗を学習の機会と考える といったステップを忠実に実践。役職や年齢にかかわらず、自由で対等に意見交換する「フラットな組織文化」を導入すると、スタッフが考えながら仕事をするように変わっていった。

    ・状況を変えるにはそれまでの部門のあり方や部門間の関係を見直し、一体となって相乗効果を出して競合に向かうべきだ。このとき星野が掲げたキーワードが、「スクラムを組みなおす」だ。

    ・これをやっていれば伸びる。という確信がまったくもてないままだった。さらに言えば、それまで考えていたことも改善策も机上の空論だった。このままではコロナ禍が終わったとしても、客がくるイメージがない。マーケティング戦略の責任者として自分納得できる戦略をつくらないことには進まない。そのためには自分で現場を見たほうが早いと判断した。

    ・正しいロジック、説得力のあるロジックをつくるためには、現場を正しく把握することが必要になる。完成度を高めるには、実際のお客様を知ることが大切になってくる。

    ・(アクシデントに際して)寄り添う気持ちを忘れないことだと改めて感じた。スタッフと一致団結して案を出しあえたし、それまでにない出来事の中で、少しだが、強くなれた気がする。

    ・(老舗旅館のリニューアルに向けて)歴史、伝統を紡いできた施設が「いつのまにか閉まっていた」ではもったいない。「丁寧に閉じる」というクロージングイベントの方向性を示す言葉が自然とでてきた。

    目次は、以下の通りです。

    はじめに

    第1章 考えて、議論して、動いたら、ここまできた
      崩れたスクラム OMO7旭川
      消えたビジネス客 BEB5土浦

    第2章 ミスもピンチも前向きなエネルギーに変える
      寒風の絶景温泉 界箱根
      停電の結婚式 軽井沢ホテルプレストンコート
      大浴場、稼働に試練あり 情報システムグループ
      ビュッフェ中止の残念感 リゾナーレ熱海

    第3章 常識からの決別
      冬期営業、再開の高い壁 奥入瀬渓流ホテル
      近くて遠い大観光地 ロテルド比叡

    第4章 次のステップに踏み出す
      踊り出した経理担当 星のやバリ
      前例なき再生 界長門
      「長すぎた階段」との別れ 界熱海

    あとがきに変えて ユニークな働き方が次々に生まれる理由

    解説 変わったことと変わらないこと 星野佳路 星野リゾート代表

  • 現場起点でまず意見を言ってみるという風土が根付いていることに驚いた(そう見せているのかもしれないけれど)。

    サービス業で規模もそこそこだからこそできることもあるだろう。

    訪れる側からすると、元々あった材料やうまく組み合わせて目新しさやコンセプトを出しているだけ、とも言える。だからこそ、次々と小当たりを出し続けないといけないのが難しそう。

  • 家業の一軒宿の経営改革から始め、軽井沢町からスタートした温泉旅館。今や全国50近い運営をしている。
    2010~2020年の間の開業にまつわる物語。
    施設を所有せず、運営に特化している。
    ケン・ブラハード氏、マイケル・ボーダー氏の経営理論を崇拝。
    自由で対等に意見交換するフラットな組織文化を構成する事に成功。
    ・評価面接は2回/年 考えて行動して成果がだない時も、プロセスをしっかり踏まえて居ればきちんとした評価が得られる。
    ・こんな働き方もあるのか?と驚くスタッフが多い
    ・経営情報をスタッフにも共有している

  • なぜ星野リゾートで働く方が生き生きして見えるのか理解できた。事件の中で、エンパワメントが自然発生しているのだろうと感じた。ただフラットな組織にしただけでは、星野リゾートのようにはならないと思う。事件の解決までのプロセスの裏側をもっと知りたくなった。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/651257

  • 有名な星野リゾートの舞台裏で日々どのような事件(予想できない失敗)が起きていて、どのように解決してきたのかをジャーナリスト視点(日経BP)で書かれた本。
    舞台裏を知る上では面白かった。

  • 星野リゾートの旅館ブランドがいくつかあることは存じ上げていたが、各地域にゼロから立ち上げているのかと思っていた。
    が、実際は ほとんどが"地域旅館から運営委託→事業再生" ということに驚いた。

    それ故に、顧客としては、
    星野ブランドとしての安心感がありつつ、
    その土地ならではの上質な空間を楽しめるのだと思う。

    いわゆるホテルチェーンとは異なる素晴らしいスタイル。

  • 星野佳路解説より

     大きく変わったことの1つは、代表を務める私の施設運営へのかかわり方だ。「事件簿」のころ、私は全ての施設の運営により深くかかわっていた。運営を開始するときにはコンセプト委員会を立ち上げ、定期的に現場の会議にも参加し、課題もつぶさに見ていた。 しかし、社内体制が整備されてきたことによって、最近では私が施設の運営に直接かかわるケースは少なくなっている。今ではそれを経営委員会にあたる「赤岩会議」のメンバーが機能別に担って いる。運営施設数が増加し、社員数が増え、事業規模が拡大していることに合わせて、星野リゾートのマネジメント手法も、当然ながら変わっていかなければならない。

     振り返れば、各施設の詳細な運営にかかわっていたときにも、私は「自分が現場を訪問してできることは限られる」と思ってきた。現場で何かに気づいたとしても、いつもいるわけではないから起きている事象はたまたまのことかもしれない。にもかかわらず、それをとらえて意見を述べたり指示を出したりするとしても、正しい方向とは限らない。現場を一番よく知るのはやはり、毎日そこで働いているスタッフであり、日々運営を担当しているチームが自ら解決策を考えることを意識していた。サービスの質を向上させ継続するには、現場のチームメンバーが目標とする最終像に共感し、自ら考え、発想し、行動するしか方法はなく、経営の仕事はそういうチーム活動をサポートする環境を整えることだ。

     これは米国の経営学者、ケン・ブランチャードのエンパワーメント理論において、重要な要素として取り上げられている。そのプロセスにおいて起こるべくして起こっていることが「事件」なのである。


     ドラッカーと「事件」
     「事件簿」が世の中に出てから12年が経過し、組織や経営体制が進化してきたにもかかわらず、星野リゾート内には、相変わらず事件が日常的に起こっている。
     「なぜ事件がなくならないのか」「多くの事件が日々発生することは問題ではないのか」と思う人がいるかも知れない。しかし、リゾートや温泉旅館で発生しているさまざまな事象に、現場チームが果敢にチャレンジすれば、当然いろいろな事件は起こるのであり、事件を起こさない経営をしようとは思っていない。おそらくどんな会社でも、 最前線の現場ではさまざまな事件は起こっているはずだ。起きている事件を組織の成長のチャンスとして捉えることが重要だ。

     米国の経営学者、ピーター・ドラッカーは著書『イノベーションと企業家精神』において、イノベーションが起きる7つの機会について記している。

     7つのうち1番目が「予期せぬ成功と失敗を利用する」ことだ。 星野リゾートで起こっている事件とは「予期せぬ失敗」であり、つまりそれはイノベーションにつながる可能性のある機会といえる。

     実際、事件に向き合う社員のチームがたどりついた解決策が星野リゾート全体で採用されたケースは多々存在し、それがサービスの差異化につながっている。つまり継続的に発生する事件は、 現場チームに大胆な発想と行動を強制的に促し、それが星野リゾートの組織にとって重要な イノベーションにつながってきたのである。こうした経験を経て、私にとって「予期せぬ失敗」 が7つのなかで一番好きなチャンスとなった。


     事件の共有は組織を強くする
     事件を組織の中でイノベーションの機会ととらえ、組織の成長と進化につなげて行くための前提条件がフラットな組織文化だ。

     星野リゾートの接客現場では、小さな事件は毎日無数に起き、直面しているスタッフが知恵を 悪戦苦闘している。事件が起きるのはサービスの最前線なので、違った内容が起きることも多々あるが、似たような事は沢山起きているはずだ。いずれにしても、それらを可能な限り共有することは、以下の2つの理由で重要であると考える。

     ①似た事象の解決策を共有することで、会社全体の基準として育ち、それが組織を強くする。
     ②特異な事象であっても共有することで、そのときにチームが何を発想してどう行動し、どんな結果が得られたのか、という経験を伝える。これによって、組織が効果的なプロセスについて学習する。

     つまり、これは事件と向き合った人ひとりのスタッフの経験を、会社のナレッジとして蓄積していくということでもある。 そしてそのなかにダイヤモンドの原石のような大きなイノベー ションが隠れていると考えている。大事なのは、事件とは避けようとすべきことでなく、 活用すべき体験である、ということだ。そのためには、事件が起きた原因を個人の評価につなげようとする仕組みや組織文化はマイナスになる。 そういう文化のなかでは、我々は事件を起こさ ないようにするし、万一起きたときにも表面化させないようにするだろう。それではダイヤモンドの原石を見つけることはできない。

     フラットな組織文化が事件を支える
     フラットな組織文化というと、「会社の組織構造のレイヤーが浅く平らである」ととらえる人が多いが、ここでいうフラットはそれとは違い、組織文化のことを指しており、組織内の人間関係がフラットであることを意味している。組織図上のピラミッド構造がどんなにレイヤーがあっても、そのなかの人間関係がフラットということは可能だ。

     フラットな組織文化の構成員は、それぞれの役割と権限が明確になっているが、それ以外においてはフラットな関係であり、言いたいことを、言いたい人に、言いたいときに言えるような人間関係が維持されている状態を指す。私は現場チームが事件に遭遇したときに正しい経営判断にたどりつくためには、チーム内で正しい議論ができる環境が必要であると考えており、そのためには普段からフラットな人間関係が不可欠なのである。
     そして、それは日々起こる事件をチームで解決していくために必要な環境でもある。フラットな組織文化が定着しているチームでは、スタッフは議論をするときにお互いに遠慮しない。それは私も同じであり、フラットな組織文化の一員として議論するときに「温かく見守る」「任せてみる」といった気持ちはさらさらなく、言いたいことを言いたいときに主張している。正しい議論においては、「誰が言っているのか」が重視されるのではなく、「何が正解に近いのか」が重視され、そこにチームの結論が自然に帰結していく組織を目指している。

     私はまだまだスタッフとの議論には負けないと自負している。それは権限に裏打ちされたポジ ションがあるからでなく、単に論理性と説得力で負けないと思っているのである。しかし近年、 議論しているなかで私にはない発想を目の当たりにする機会が増えていることも感じていて、そういう主張に自然に結論が帰結していくことを体験するときに、この組織の進化を感じ、誇りに思うことが増えてきた。

     そういう体験の中で気づくことは、私が重視しているのは結論ではなく、結論にいたるまでのプロセスであるということだ。自律的なチームのなかで、正しく十分な情報に基づき熟慮し、提供するサービスに対して情熱を持ち、論理的に発想する正しい議論が行われているのであれば、 私は結論に実はあまりこだわっていない。 逆に、それらのどれかが欠けていて、かつ発想の論拠が、短期的な成果または過去に誰かが設定した予算などが強く影響しているときに、プロセスの 脆弱(ぜいじゃく)性を強く感じるのである。

     議論を重視するからといって、結論は多数決で決めるということはない。 意思決定をする役割を担っているのは、施設の場合ならば総支配人である。 総支配人は必要な意思決定をタイムリーに行う権限と責任がある。

     フラットな組織文化における総支配人には、もう2つ大きな役割がある。1つは正しい議論を確保するためにスタッフに経営情報を共有することだ。情報量に差があると、対等な議論にはならない。もう1つはチーム内の議論をファシリテーションをしていくことである。これらはフラットな組織文化を重視する組織のリーダーには重要な能力になってきている。

  • イノベーションを起こせる組織のあり方を考えることができる本です。
    コロナ禍では、本当に様々なことが変化しましたが、コロナ禍となる以前から、変化の激しい時代となったことは指摘されていました。
    顧客のニーズが大きく変化すれば、それに対応していく必要がありますが、その変化の兆しは、現場で起こる「事件」からつかめるようです。
    有名リゾート施設で実際に起こった「事件」と、それをきっかけにしたイノベーションの実例を、経営者の声とともに紹介しています。
    変化の激しい時代の中、自社が生き残れるか不安に感じるビジネスパーソンの方が読むと、その不安を解消するヒントを得られる1冊ではないでしょうか。

    【特に覚えておきたいと感じた内容の覚え書き】
    「正しいロジック、説得力のあるロジックをつくるためには、現場を正しく把握することが必要。数値化しにくいものは感性にかかってくるが、完成度を高めるためには、実際のお客様を知ることが大切になってくる。ここがしっかりできれば、こだわりを持って話すことができる分、会議などで反論されても崩れない。」
    「人気のあるサービスでも毎年同じことを繰り返すのではなく、スタッフの声を生かしながら毎年何らかのバージョンアップを加える。一見すると地味な取り組みでも、サービスを差異化するポイントになる。」
    「成功したものを捨てる決断は大きいが、差異化するには相手がまねをしにくい方向に進む必要があり、それには、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない関係であるトレードオフの考え方が必要。」
    →現場の顧客の声やデータに基づき、持続的なイノベーションによる差別化を繰り返すか、これまで成功していたものでも捨てて、破壊的なイノベーションを目指す。過去からビジネスにおいて重要なことでしたが、情報伝達が高速化し、技術進歩も加速した現代でこそ、その重要性が高まっていると感じます。

    【もう少し詳しい内容の覚え書き】

    ・サービス業には、クレームもあれば、要望に対して敏速に対応すべく解決策を練ることもある。社内でさまざまな行き違いが起こることもあれば、計画通りにいかないことも多い。それらは「事件」だが、リスクや問題でなく、チームが成長するためのプロセスと捉えれば、解決していくことでスタッフの自信になる。
    ・発生しているさまざまな事象に、現場チームが果敢にチャレンジすれば、当然いろいろな事件は起こる。どんな会社でも、最前線の現場ではさまざまな事件が起こっているはず。事件を起こさない経営をしようと思わず、起きている事件を成長のチャンスとして捉えることが重要。
    ・事件をイノベーションの機会と捉え、組織の成長と進化につなげるための前提条件がフラットな組織文化。似たような事象がたくさん起きているはずで、可能な限り共有することは重要。事件と向き合ったスタッフの経験を、会社のナレッジとして蓄積する。その中に大きなイノベーションの機会が隠れている。
    ・解決策の共有が、会社全体の基準として育ち、それが組織を強くする。特異な事象でも、そのときにチームが何を発想して、どう行動し、どんな結果を得られたのか、という経験を伝えることで、組織が効果的なプロセスを学習する。
    ・自律的なチームの中で、正しく十分な情報に基づき熟慮し、提供するサービスに対して情熱を持ち、論理的に発想する正しい議論が行われているのであれば、結論にはあまりこだわらなくてよい。
    ・議論は重視するが、意思決定をするのはリーダー。必要な意思決定をタイムリーに行う権限と責任がある。情報量に差があると対等な議論にならないので、正しい議論を確保するためにスタッフと経営情報を共有することも大事。チーム内の議論をファシリテーションしていく役割も求められる。

    ○考えて、議論して、動いたら、ここまできた
    ・状況を変えるには、それまでの部門のあり方や部門間の関係を見直し、一体となって相乗効果を出して競合に向かうべき。トータルな力で顧客に価値を提供するために、「スクラムを組み直す」。進むべき方向の手がかりを掴む上で重要なのは、具体的に考えるために必要なデータを集めること。
    ・正しいロジック、説得力のあるロジックをつくるためには、現場を正しく把握することが必要。数値化しにくいものは感性にかかってくるが、完成度を高めるためには、実際のお客様を知ることが大切になってくる。ここがしっかりできれば、こだわりを持って話すことができる分、会議などで反論されても崩れない。

    ○ミスもピンチも前向きなエネルギーに変える
    ・フラットな組織の下で、スタッフ一人ひとりが自分で判断し、切磋琢磨してお客様のために行動していくことが大切。
    ・デジタルの自社開発の強みを生かすために、ミニマムの開発でリリースし、導入後に機能追加して育てる。必要なのは、課題解決のために新たな発想を取り入れること。正解がわからないことは導入後に改善すればよい。得られる効果が明確ならば、小さく始める選択で課題解決に的確に対応できる。
    ・フラットな組織文化で、いろいろな部門と課題を共有していると、直接顧客と対面することがない情報システムグループなども、顧客満足度を高めるための提案を行えるようになる。

    ○常識からの決別
    ・最近の状況から短期的に考えた安易な考えはやめるべき。覚悟が必要。持続的にできることが大切。そのためのプロセスをしっかり踏むことが大事。
    ・人気のあるサービスでも毎年同じことを繰り返すのではなく、スタッフの声を生かしながら毎年何らかのバージョンアップを加える。一見すると地味な取り組みでも、サービスを差異化するポイントになる。
    ・成功したものを捨てる決断は大きいが、差異化するには相手がまねをしにくい方向に進む必要があり、それには、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない関係であるトレードオフの考え方が必要。

    ○次のステップに踏み出す
    ・歴史や文化が違うと、いきなり現場から出てきた声をしっかり聞くのは難しい。自分からも問いかけてみる。話しやすい雰囲気を作りながら、気づいたこと、思ったことを言ってもいいことを少しずつ理解してもらう。
    ・面的な再生は一般に成果を上げるのが難しいが、行政のリーダーシップ、後継者の姿勢、外部のノウハウを受け入れる環境があった長門湯本温泉では、観光業以外の地元も前向きであったことから、成果を上げつつある。
    ・古い建物は、残して期待に100%応えられるに越したことはないが、最初から古いものを生かすことありきではない。長い歴史を持つ伊勢神宮の式年遷宮は、つくり直すこと自体が伝統になっており、様式や雰囲気を引き継いでいく素晴らしいやり方。
    ・伝統ある施設のリニューアルでは、「閉じ方」を意識する。しっかり思い出をつくりながら、閉じることをきちんと祝う。区切りをつけることで納得感が高まる。閉めること、変えることに対する了解を得るため、儀式のようなものがあったほうがいい。
    ・提案を評価する際、どんな提案が形になったかより、いかにして実現まで主体的に動けたか、周囲をいかにサポートできたかという点。提案の内容も、やってみたらよかったではなく、提案の客観的な根拠や、戦略的な目標を持って進んでいるのかなどがカギ。提案者の主観や現場での「肌感覚」に加え、データに基づいた戦略性を備えている必要がある。

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著者プロフィール

日経ビジネス副編集長。1966年新潟市生まれ。慶応義塾大学卒業後、毎日新聞記者を経て日経BPに入社。日経ビジネス編集部、日経トップリーダー編集部、日本経済新聞社企業報道部などを経て2018年4月から現職。著書に『あの同族企業はなぜすごい』(日本経済新聞出版)、『星野リゾートの教科書」「星野リゾートの事件簿』(ともに日経BP)など。

「2021年 『星野リゾートの事件簿2 なぜお客様は感動するのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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