日本の会社のための人事の経済学

著者 :
  • 日経BP 日本経済新聞出版
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296117680

作品紹介・あらすじ

本書は、過去30年にわたって続く大きな環境変化と想定外の事態が頻発する不確実性の時代にあって、日本企業の雇用・人事管理担当者、また、広く、雇用・人事システムに関心を持つ方々に、今後の雇用・人事システムのあり方を考え、再構築するための「羅針盤」や「海図」、つまり、基本となるフレームワーク・考え方・知識を提供するもの。

 本書の執筆のきっかけは、まず、コロナ下で流行語になったジョブ型雇用に関して氾濫する誤解を正したいという強い思いだ。また、企業側が導入を迫られることで進んだ在宅勤務などのテレワークについても、その意義や取り組み方について必ずしも十分な理解が行き渡っているとはいえない。

 それは、議論を行うための共通の土台であるフレームワーク・考え方・知識に大きな隔たりがあるからだ。
 具体的には、1980年代までに大企業を中心に隆盛を極めたいわゆる日本的雇用・人事システム(および、それを裏で支える情報システム)の本質、その対比としての欧米のシステムの特徴・差異、そして日本、欧米のこれまでの変化、雇用・人事システムの個々の仕組みを評価していく際に不可欠な理論的フレームワークである。こうした議論の土台の共有こそ迂遠のようにみえても、実は理解、認識の共有化にとっては必要不可欠なものであろう。そこで本書では、議論の土台をなす考え方を解説する、いわば理論・教科書編を設けることにした。

 一方、理論・教科書編だけでは、特に、日本の企業の人事・雇用管理を担当されている方々に対し、今後の雇用・人事システムの構築を考えるための指針を示すという点においては不十分であろう。なぜなら、理論・教科書編だけでは、ジョブ型雇用の誤解を解いたり、内外の雇用・人事システムを正しく理解することはできても、人事担当者の立場から雇用・人事システムをどう変えればよいかはみえてこないからだ。もちろん、前述のとおり、企業ごとに求められる雇用・人事のあり方は異なるかもしれない。しかし、日本全体を取り巻く長期的・継続的な大きな環境変化への対応から議論を出発させれば、どの企業にとってもベースとして考慮すべき戦略の姿が見えてくると思われる。そこを明らかにするのが本書後半の実践・戦略編である。

 以上を踏まえ、本書は、理論・教科書編(ジョブ型雇用と日本的雇用システム)(第1~4章)と実践・戦略編(新たな環境変化への対応戦略)(第5~8章)の二つのパートから構成されている。前半の理論・教科書編では、ジョブ型の誤解を解き、今後のあるべき雇用・人事システムを考えるためには内外の雇用・雇用システムの正しい理解が必要であるという認識に立ち、「人事の経済学」「ジョブ型・メンバーシップ型」という2つのフレームワークに基づいた解説を行う。

感想・レビュー・書評

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  • ジョブ型、メンバーシップ型、成果主義などのメリットとデメリットがわかるだけでなく、どうあるべきかを職務内容や企業ごとに解説している。

    理想論と思われるが、かっちりとした制度がある会社が利益を出しているわけでない理由がわかった気がする。

    コロナ後の働き方、ハイブリッドワークにまで踏み込んでいるので、いろいろと参考になった。

  • 著者は、以前からジョブ型雇用の普及を推進してきた立場とのことだが、最近のジョブ型雇用ブームには誤解が多いと言う。

    ジョブ型だから解雇自由というのは完全な誤解だし、ジョブ型=成果主義というのも誤解で、ジョブ型雇用は職務に賃金が結びついているので成果主義の要素が元来無い。Job Description(ジョブ定義書)があればジョブ型ということでもなく、メンバーシップ型雇用でもJDは有用であり得る。

    そして、ジョブ型雇用はテレワークの要件でもない。テレワークが進まないのはジョブ型とは関係なく、環境・制度の準備ができていなかったただけ。テクノロジー遠最大活用すれば、対面と変わらぬレベルでのコミュニケーションが実現できるはずだと。

    一方で、日本特有のメンバーシップ型無限定正社員システムは、年功昇進と後払い賃金の仕組みとの組み合わせで、かつては有用であったが、自己犠牲や長時間労働などの弊害を孕んだシステムであるだけでなく、経済・社会の不確実性の増大、少子高齢化などの環境変化により、イノベーション力や共働き・シニア雇用などの多様性が求められる状況下で限界を迎えている。

    ここにどのようにしてジョブ型雇用を採り入れていくか?著者の提唱するジョブ型への現実的な移行戦略は「途中からジョブ型」の導入、無限定メンバーシップ型との複線化だと言う。

    日本企業がマクロ環境の変化に対応して、ジョブ型雇用をうまく活用しながら、イノベーティブで多様性を生かした組織になっていくにはどうしたらよいのか?著者が挙げるポイントは、自己犠牲・減点主義に基づく評価を改め過去の成果ではなく将来に向けた変化を評価すること、多様な構成員に「職場にいないことを許容する仕組み」を提供しつつ求心力を生み出すために企業の理念・社会貢献目標などのパーパスを共有すること、構成員のウェルビーイングの向上を通じて人的資本が一定でもその稼動率を上げることでパフォーマンスを高めること。

    自分の勤めている会社でも、ここにきてジョブ型雇用の導入や評価制度の改変など、動きが始まっているが、それらをどう捉えてどのように運用していくべきか、指針を与えてくれる良著であった。

  • 登録番号:1027227、請求記号:336.4/Ts84

  • 序章 なぜ、いま、「人事の経済学」なのか
    第1章 ジョブ型雇用とはいったい何かーー氾濫する誤解を解きほぐす
    第2章 日本の雇用システムーー欧米システムとの本質的な違い
    第3章 「ジョブ型イコール成果主義」ではないーー賃金決定の経済学
    第4章 企業組織の情報システムーー「対面主義」の経済学
    第5章 ポストコロナ・AI時代にふさわしい企業組織・人材・働き方の「見取り図」
    第6章 ジョブ型雇用への移行戦略ーーシニアから始めよ
    第7章 ポストコロナに向けたテレワーク戦略ーー「テレワーク」の経済学
    第8章 ゼロサム・ゲームからウィンウィンの関係へーー企業と従業員関係の大変革
    終章 人事の経済学の「レンズ」でみた「ミライのカタチ」

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著者プロフィール

慶應義塾大学大学院商学研究科教授
東京大学理学部数学科卒業、オックスフォード大学経済学博士号( D.Phil.)取得。経済企画庁入庁、OECD 経済局エコノミスト、日本銀行金融研究所研究員、経済産業研究所上席研究員を経て、現職。安倍政権の下で内閣府規制改革会議委員(雇用ワーキンググループ座長)(2013~ 16 年)を務め、雇用改革の切り札として「ジョブ型雇用」の普及を掲げた。

「2023年 『日本の会社のための人事の経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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