式子内親王 (コレクション日本歌人選 10)

著者 :
  • 笠間書院
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305706102

作品紹介・あらすじ

うたの森に、ようこそ。
柿本人麻呂から寺山修司、塚本邦雄まで、日本の代表的歌人の秀歌そのものを、堪能できるように編んだ、初めてのアンソロジー、全六〇冊。「コレクション日本歌人選」の第3回配本、式子内親王です。

そのしみじみと見つめる物思いの中には、自己をも肯定せず、見ている現実をも肯定できない式子のかなしみがあるように思う。ーー馬場あき子

式子内親王(しょくしないしんのう)
「しきし」とも読む。『百人一首』に「玉の緒(を)よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする」で知られる作者。後白河天皇の皇女に生まれ、若き日を賀茂斎院として過ごす。王朝崩壊から武家社会へ変革する政治の激動期に、母の死、弟以仁王(もちひとおう)の横死(おうし)に遭(あ)う。穏やかでない環境の中で歌を藤原俊成に学び、中世和歌の新風を感じさせる繊細優艶な作品を残す。高雅な精神から生まれた歌は、呪詛事件に巻き込まれるなど実生活の混濁から抜きんでた清澄(せいちょう)なもので、和歌史上に燦然(さんぜん)と耀(かがや)く。藤原定家との交流に材をとった能「定家葛(ていかかづら)」が今に伝わる。

感想・レビュー・書評

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  • 4.27/38
    『そのしみじみと見つめる物思いの中には、自己をも肯定せず、見ている現実をも肯定できない式子のかなしみがあるように思う。ーー馬場あき子

    式子内親王(しょくしないしんのう)
    「しきし」とも読む。『百人一首』に「玉の緒(を)よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする」で知られる作者。後白河天皇の皇女に生まれ、若き日を賀茂斎院として過ごす。王朝崩壊から武家社会へ変革する政治の激動期に、母の死、弟以仁王(もちひとおう)の横死(おうし)に遭(あ)う。穏やかでない環境の中で歌を藤原俊成に学び、中世和歌の新風を感じさせる繊細優艶な作品を残す。高雅な精神から生まれた歌は、呪詛事件に巻き込まれるなど実生活の混濁から抜きんでた清澄(せいちょう)なもので、和歌史上に燦然(さんぜん)と耀(かがや)く。藤原定家との交流に材をとった能「定家葛(ていかかづら)」が今に伝わる。


    目次
    01 色つぼむ梅の木の間の夕月夜はるのひかりを見せそむるかな
    02 山深み春とも知らぬ松の戸にたえだえかかる雪の玉水
    03 ながめつる今日はむかしになりぬとも軒端の梅はわれを忘るな
    04 いま桜咲きぬとみえて薄ぐもり春にかすめる世のけしきかな
    05 八重にほふ軒端の桜うつろひぬ風よりさきに訪ふ人もがな
    06 花はちりてその色となくながむればむなしき空に春雨ぞふる
    07 ふるさとの春を忘れぬ八重桜これや見し世に変らざるらん
    08 忘れめや葵を草にひきむすび仮寝の野辺の露のあけぼの
    09 まどちかき竹の葉すさぶ風の音にいとど短かきうたたねの夢
    10 夕立の雲もとまらぬ夏の日のかたぶく山にひぐらしの声
    11 たそがれの軒端の荻にともすればほにいでぬ秋ぞ下にこととふ
    12 秋風を雁にやつぐる夕ぐれの雲ちかきまでゆく蛍かな
    13 うたたねの朝けの袖にかはるなりならす扇の秋のはつ風
    14 ながめわびぬ秋よりほかの宿もがな野にも山にも月やすむらん
    15 あともなき庭の浅茅にむすぼほれ露の底なる松虫の声
    16 千たび打つ砧の音に夢さめてもの思ふ袖の露ぞくだくる
    17 更けにけり山の端ちかく月さえて十市の里に衣うつこゑ
    18 桐の葉も踏み分けがたくなりにけり必ず人を待つとなけれど
    19 秋こそあれ人はたづねぬ松の戸をいくへも閉ぢよ蔦のもみぢば
    20 わが門のいなばの風におどろけば霧のあなたに初雁のこゑ
    21 風さむみ木の葉晴れゆくよなよなに残るくまなき庭の月影
    22 みるままに冬はきにけり鴨のゐる入江の水ぎは薄ごほりつつ
    23 さむしろの夜半の衣手さえさえてはつ雪しろし岡のべの松
    24 身にしむは庭火の影もさえのぼる霜夜の星のあけがたの空
    25 天のしためぐむ草木のめも春にかぎりもしらぬ御代の末々
    26 松がねの雄島が磯のさよ枕いたくなぬれそ海女の袖かは
    27 たそがれの荻の葉風にこのごろの訪はぬならひを打ち忘れつつ
    28 玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする
    29 忘れてはうちなげかるる夕べかなわれのみしりてすぐる月日を
    30 我が恋はしる人もなしせく床の涙もらすな黄楊のを枕
    31 しるべせよ跡なき波に漕ぐ舟のゆくへもしらぬ八重の潮風
    32 夢にてもみゆらむものを嘆きつつうちぬる宵の袖のけしきは
    33 逢ふことをけふ松が枝の手向草幾夜しをるる袖とかは知る
    34 君待つと寝屋へもいらぬ槙の戸にいたくなふけそ山の端の月
    35 さりともとまちし月日ぞうつり行く心の花の色にまかせて
    36 生きてよも明日まで人もつらからじこの夕暮を訪はばとへかし
    37 みたらしや影絶えはつる心地して志賀の浪路に袖ぞぬれにし
    38 ほととぎすその神山の旅枕ほの語らひし空ぞわすれぬ
    39 今はわれ松の柱の杉の庵に閉づべきものを苔深き袖
    40 斧の柄のくちし昔は遠けれど有りしにもあらぬ世をもふるかな
    41 暁のゆふつけ鳥ぞあはれなるながき眠りをおもふ枕に
    42 暮るるまも待つべき世かはあだし野の末葉の露に嵐立つなり
    43 日に千度心は谷になげはててあるにもあらずすぐる我が身は
    44 さりともと頼む心は神さびて久しくなりぬ賀茂の瑞垣
    45 静かなる暁ごとに見わたせばまだ深き夜の夢ぞかなしき歌人略伝

    略年譜
    解説「斎院の思い出を胸に 式子内親王」(平井啓子)
    読書案内
    【付録エッセイ】花を見送る非力者の哀しみ--作歌態度としての<詠め> の姿勢(抄)(馬場あき子)』
    (「笠間WEB SHOP」サイトより)


    冒頭
    『  01 色つぼむ梅の木の間の夕月夜はるのひかりを見せそむるかな
    蕾がかたく、まだ色のきざしもわかりにくい梅の木の間から、ほのかに夕月がさしている。その光はもうぼんやりとした春の明るさをみせていることだ。

    「式子内親王集」の巻頭部分にあるイメージの美しい歌である。まだひらく気配のない蕾をたくさんつけた梅の木はおそらく大木で、その差し交わす枝のあいだから月の光が洩れているのだろう。』


    『式子内親王 (しょくしないしんのう)』 (コレクション日本歌人選 10)
    著者:平井啓子
    出版社 ‏: ‎笠間書院
    単行本 ‏: ‎122ページ

  • 新古今和歌集のビギナーズクラシックスを読んで、これはもしや式子なのではと思ったので買ってみたけれど大正解だった。数百年の時を超え、憂き世を孤独に生きた女性の思いが切々と伝わってくる。古典、大変良い。また、平井啓子さんの解説が愛に満ちていて心打たれた。
    しかし新古今和歌集をぱらぱらして、どうももうこの時代の和歌ってちょっと硬直してて総体としてはあんまり楽しくないかもと思ったので、やはり次は万葉集あたりまで遡りたいと思う。ちなみに、別途で女流の系譜も辿りたく、やはり小野小町からか。

  • 日本の良いところって、なんだろう?と考えると、わたしの場合は、「歌」ということに行く。短歌や俳句など、短いなかに込められた情感とか、思い、気持ち。

    全部を言語化しきらなくても、短いなかから、立ち上がってくる意味。そして、わたしの思いをそのまま伝えるだけでなく、過去に読まれた歌の伝統にも敬意を払っている。伝統と創造性が両立しているところがすごいな〜と思う。

    短歌については、万葉集や古今和歌集もよいけど、新古今和歌集がどちらかというと私の好み。

    この平安末期〜鎌倉初期といった時代では、すでにたくさんの歌が読まれていて、全く、新しい独創的な歌を読むというのは、難しくなっていて、また歌も自分での体験をそのとき、そのまま歌にするという感じではなく、題詠、つまり与えられたテーマについて、歌を詠むというのが多くなっている。

    つまり、和歌も爛熟というか、マニエリスムの時代になってきて、技巧的になり、本歌取りの元歌をしらないとなにを歌っているのか、不明で、わたしごときが、新古今の歌を十分にあじわう能力があるわけではなく、解説を読みながら、なんとか付いて行っているというところ。

    そうした新古今的な世界において、西行とか、技術レベルとしてもすごいのだけど、仕上がったものは技巧を感じさせなく、思いが、イメージとともに、すっと伝わってくる(ように思える)歌人もいて、ほんとすごいなと思う。

    で、最近、新古今を読んでいて、強く惹かれるのが式子内親王。

    ほんとに激しいストレートな恋の歌があるかと思えば、限りなく繊細な心のひだを自然のちょっとした変化のなかに読み込んだ歌とかある。そして、それらが高い技巧に支えられているようで、この時代を代表する歌人なんだなと改めて思った。

    なんかちょっと出会ってしまった感じがあって、もしかすると、一番好きな歌人かもしれない。もうちょっと、関連する人も読みつつ、式子内親王を深めてみたい。

  • 式子内親王といえば、「玉の緒よ」の和歌です。
    忍恋の名手らしく、額田王を思い起こさせる思う気持ちが伝わる和歌も多くて、やっぱり格別だなぁとしみじみと和歌を堪能しました。

    恋の和歌意外にも、枝からもれる月の光だったり、斎院時代を回想する和歌だったり、新古今の時代に求められたという新しい美や、物思いの和歌が魅力的でした。

    この時代の和歌は修辞で飾り付けをしている和歌が多くて読みにくいイメージでしたが、式子内親王の和歌は読み取りやすい。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、2階開架 請求記号:911.108//Ko79//10

  • 勉強になりました。

  • 人気の高さのわりには、専門家による歌論書が、
    あまり出ていない式子内親王。

    今回の本は、百人一首の著名な歌だけでは満足できず
    もう少しこの歌人について知りたいという人へ
    格好の1冊と言える。

    コンパクトにまとめられ、鑑賞や解釈も平易な言葉で
    しかも深く述べられている。

    式子の人生の概略も、作品を通してわかりやすく述べられ
    最新の研究書のブックリストも添えられていて、親切である。

    名著「式子内親王」の著者、馬場あき子さんの文章も
    抜粋ながら収録され、内容的にも充実している。

    著者の平井啓子さんは、近著に「式子内親王の歌風」を
    持っておられるが、こちらも併せて読めば、さらに理解が
    深まることだろう。

    ブログの記事はこちらから。

    http://ameblo.jp/sweetviolt/entry-11180557301.html

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著者プロフィール

*1947年岡山生。
*ノートルダム清心女子大学大学院文学研究科博士後期課程修了。
*主要著書・論文
『式子内親王の歌風』(翰林書房)
「ノートルダム清心女子大学附属図書館蔵『後水尾院御集』紹介」(『清心語文』第3号)
「黒川真頼頭注『新勅撰和歌集抄』(弄花軒祖能)--〈翻字〉」(『清心語文』第7号)

「2011年 『式子内親王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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