古典モノ語り

著者 :
  • 笠間書院
3.72
  • (2)
  • (11)
  • (4)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 158
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305709783

作品紹介・あらすじ

争いの舞台装置「牛車」、言えない言葉を託した「扇」、中と外の人の距離感が表れる「御帳台」……。
小物から家具、植物など、古典文学には人物の感情や象徴的意味を表現する印象的な“モノ”が数多く登場します。

本書ではそうした“モノ”にスポットを当て、古典文学の新しい読み解きかたを提案。
『源氏物語』や『枕草子』などの名作から知る人ぞ知る史料まで、幅広い作品での描写を挙げながら、それらの“モノ”に込められた意味と担った役割を解説します。

章ごとに“モノ”をピックアップしてそれにまつわるエピソードを紹介しているので、古典が苦手な人でも楽しみながら当時の知識を学べます。古典が好きな人にとってはより作品の理解を深め、新しい味わい方を見つけるのにぴったりの1冊です。


【目 次】
はじめに
目次
本書で登場するモノたち
第1章 牛車1 走る
第2章 牛車2 争う
第3章 築地1 囲む
第4章 築地2 呼び込む
第5章 橘1 実る
第6章 橘2 待つ
第7章 犬1 集う
第8章 犬2 呼ぶ
第9章 泔1 整える
第10章 泔2 手こずる
第11章 御帳台1 護る
第12章 御帳台2 侵す
第13章 扇1 あおぐ
第14章 扇2 託す
第15章 物への書き付け1 切羽詰まる
第16章 物への書き付け2 遺す
引用作品・参考文献
引用作品概要
地図等
あとがき

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今年最後に山本淳子先生の新刊が読めるなんて、嬉しい読書納めとなった。

    今も昔も、私たちの生活は物と共にある。物は人を取り巻く森羅万象であり、人がそれらを何かの目的で使う時、道具となる。
    平安時代の記録や文学作品を繙いてみても、そこにはどれだけ多くの、また多種多様な物や道具たちが登場することか。
    しかしながら、それらは、一つには場面の主役とはなりにくいこと、一つには時代を経てしまってわかりにくいことから、えてして読み飛ばされがちであろう。
    そこで山本淳子先生は、記録や作品を横断し物たちが登場する場面を拾い上げ、説明をされるとともに、その物たちが負っている意味や思いについて考察された。

    ここにあるモノたちは、平安貴族が日常生活で使うものばかりで、特別なものは一つもない。
    私は『源氏物語』を読んでいても、価値のある唐物の贈り物や女君たちの衣裳など、高級感溢れるキラキラしたもの、特別感のあるモノについ目を奪われがちだった。だから日常のモノたちに目を向けることで、貴族たちの素の部分が見えるかも…と、私にとっては新鮮なテーマだった。

    本書に登場するモノたちは、「牛車」からはじまり、「築地」「橘」「犬」「泔(ゆする)」「御帳台」「扇」「物への書き付け」である。
    なんだか地味だよね…とちょっぴり思ってしまったけれど、読みはじめると貴族たちがモノに込めた「祈り」に対する、山本先生の考察にじーんと胸が熱くなってしまった。ほんと、山本先生の考察って気持ちがこもっていて、いつもウルウルしちゃうんだよね。本書も夢中で読む。

    やはり『源氏物語』や『枕草子』からの引用が多く、続いて『伊勢物語』『うつほ物語』『和泉式部日記』や『古今和歌集』辺りかな。
    これらの作品の引用されてる部分は知っていることがほとんどだったのだけれど、今までモノについてはあまり気にせずに読んでいたことに気づかされた。
    改めてモノを起点に作品を追うと、そのモノに込められた想いが「祈り」へと昇華していくような感じがして、それらの作品をまた読もうという気になってくる。

    どのモノも、エピソードや先生の説明は面白かったのだけど、あえて選ぶとしたら「物への書き付け」は初めて知ることばかりで深く印象に残った。
    なかでも歌人・伊勢と宇多天皇、ふたりの和歌が並んだ書き付けが貼っていたという“弘徽殿の壁”の「別れの書置き」のエピソードと、女官・讃岐典侍(藤原長子)が、病で崩御した堀河天皇が書き付けを貼っていた壁の痕跡を見つけた「書き付けの跡」のエピソード。
    これらふたつのエピソードはどちらも終わってしまった恋のエピローグのようで、ロマンチックだなぁ。
    伊勢と宇多天皇のふたりの筆跡の並んだ書き付けは、やがて一対の和歌として人の口に上がるようになった。伊勢と宇多の歌語り(成立秘話が付いて語り伝えられる和歌)は、『大和物語』に収められている(別に『後撰和歌集』、『大鏡』)。
    また長子と堀河天皇のふたりの恋は『讃岐典侍日記』に、優しかった天皇の追憶が幾つも記されている。
    『大和物語』と『讃岐典侍日記』は、今まで気に留めてなかったのだけど、この恋人たちの悲恋に思いを馳せたく、来年読んでみようと思う。

    壁に貼られた書き付け。その跡に、誰もが忘れ去った後も、ただ恋人たちの思いだけが永遠に刻みつけられる、それでいいのだろうなぁと、しんみりした。とても好きなエピソードとなった。

    今年も読書がとても楽しい1年となりました。
    まだまだ読みたい本があること、それらの本を読みたいときに読むことができること。そして本のことを語り合える皆さんがいること、私は幸せもんだなと思います。
    来年もどうぞよろしくお願いします。
    皆さま、よいお年をお迎えください。

    • 5552さん
      地球っこさん、こんにちは。

      今年もお世話になりました!
      毎レビュー、毎レビュー、興味深い本の紹介ありがとうございます。
      『言葉の展...
      地球っこさん、こんにちは。

      今年もお世話になりました!
      毎レビュー、毎レビュー、興味深い本の紹介ありがとうございます。
      『言葉の展望台』外出途中で寄った本屋にあったので、ついつい買っちゃいましたよ♪
      今、積読中です。
      地球っこさんや、他のレビュアーの皆さんもそうですが、あふれんばかりの「好き」は、他の誰かを動かすチカラになりますね☆
      来年も地球っこさんらしい「好き」に邁進してください。
      勝手についてきます!

      来年もよろしくお願いします。
      良いお年を☆彡

      2022/12/30
    • 地球っこさん
      松子ちゃん

      こちらにまでコメント、ご丁寧にありがとう。

      ほんと一緒の本を読んで語り合えるって、すごく楽しいことだったんだね。
      視野も広が...
      松子ちゃん

      こちらにまでコメント、ご丁寧にありがとう。

      ほんと一緒の本を読んで語り合えるって、すごく楽しいことだったんだね。
      視野も広がってすごく大切な経験となりました。
      ありがとうございました。
      英語のお勉強頑張ってね!

      来年もよろしくお願いします。
      よいお年を~(*>∀<*)ノ
      2022/12/30
    • 地球っこさん
      5552さん こんにちは♪

      今年もお世話になりました。
      こちらこそ5552さんの選ばれる本が楽しみでした。
      「ちるとしふと」と「回転ドアは...
      5552さん こんにちは♪

      今年もお世話になりました。
      こちらこそ5552さんの選ばれる本が楽しみでした。
      「ちるとしふと」と「回転ドアは、順番に」が気になります。5552さんのレビューからすごく妄想が膨らみます、ドキドキ。

      『言葉の展望台』は視野が広がりました。読んでよかったなと思えた本です。
      5552さんはどんなふうに感じられるか楽しみです。

      私も5552さんや皆さんの「好き」が溢れるレビューにエネルギーをもらってます!
      来年もどうぞよろしくお願いします。
      よいお年を~ヽ(*´∀`)ノ
      2022/12/30
  • 自分、不器用なんで 和歌とか古典とか
    滅多に読みません。
    まして色恋に器用だった光源氏のヒーローエピソード集なんか、高校生の頃は授業で渋々
    目にする唾棄すべき女たらしの話と
    考えていて、100%アンチ光源氏でした。笑

    今となっては、違います。
    「千年前のフィクションなんだから
    こんな奔放な色恋もありじゃないの、
    当時は許されてたんでしょ、憧れでしょ。」と
    考えられるようになりました。
    成長したんですかね。よくわかりません。

    それはそうと、著者の山本淳子先生の
    古典文学に対する愛が
    門外漢の私にもわかりやすく伝わってきて、
    読んでいると、良い時間を過ごせました。
    イヌの話と扇の話が気に入りました。

  • 平安時代の日常生活に取り巻くモノを切り口に「源氏物語」「枕草子」「伊勢物語」や和歌集にまつわるエピソードを紹介し、山本先生の解釈を披露されます。エッセイのようで読みやすい。また、「源氏物語」のあれこれを思い出すのも楽しいひとときでした。六条御息所の生霊説に疑問を呈したり、夕顔娼婦説を否定されるところは同感です。定子が産褥で苦しみながらも辞世の歌を詠み、御帳台にくくりつけるというのは愛染の極みですね。ふと一条天皇の微妙な辞世の歌を思い出しました。2人の歌は、は果たして響き合っているのでしょうか。

  • 古典に出てくるアイテムを紹介してくれる本。
    「あさきゆめみし」で源氏物語を知ったクチですが、この時代の風物の背景がより分かって新しい発見があれば…と手に取りましたが。。
    『十二単を着た悪魔』を読んだ時にも思いましたが大和和紀先生かいかに美しく話を纏めてくれていたのかを再認識しました。源氏と若紫が結ばれるところは「あさきゆめみし」ではキレイにまとまってましたが実際はそんな書き方だったのか!?と驚きました。一度ちゃんと原文に近い形で源氏物語を読んでみたい気もしました。

  • モノを通した文学解説が味わい深くて、ステキ。
    読んでいる間中、雅な古典の世界を楽しむことができました。

  • 平安時代の物語や和歌に出てくるもの(牛車、扇、ゆする等)をその状況に合わせてどうあったか解説されている本。
    私的には橘が面白かったです。橘の表現は源氏物語でよく出てきてましたが、青々とした葉っぱの木のイメージしかなかったです。橘といえば柑橘も含まれるものとは、そして柑橘系が花と実が一緒に見られるのは知らなかった…(実が落ちないまま、新たな花が咲くシーズンになって、花と実と青々とした葉が見られる)今まで想像してた平安時代より鮮やかになった気がします。

  • 面白かった。
    古典に現れるモノの持つ意味、エピソード…。
    そこから生き生きと当時の人々の暮らしや思いが浮き上がってくる。

    牛車のグレードから、車争いで有名なあの場面の意味することや六条御息所の不憫さがつたわってきたり、整備されていない築地が意味するのは経済的支援のない女性の姿であるということだったり…。
    モノを考えることで、より深いところで理解でき、イメージが膨らんだ。

    全体的に「枕草子」や、「源氏物語」の例が多く、モノそのものを多面的に知るという面と、モノからさまざまな古典作品の理解を深める面がある。
    取り上げられたモノ自体は少ないのだが、読み終えた後は実物の出土品などが飾られている博物館でも役立ちそうな話がたくさんあった。
    あまり出土品に心ときめいたことはなかったのだが、この本のおかげで、考古学的な視点からも古典を深掘りして読めるようになれたと思う。

    しかし、平安町の女性たちや、くらいの高い人々の気苦労は計り知れない…。
    御帳台の話では、紫の上の複雑な心境がよく伝わってきた。
    やはり古典作品は、現代の作品よりも立場や血筋、または文化といったさまざまな目線で理解する必要がある。

  • 平安時代のモノを特化して、古文から紐解いて解説して進んでいきます。牛車とか日常雑貨などはよくみられるけど、犬のところは衝撃でした。
    猫は唐猫で可愛がられているのにこの差。かなり昔からいたということなので、野生の狩の習性からきているのか。そこからどうやって変遷したののも気になりました。所々イラストが入りわかりやすかったです。

  • 2024年1-2月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00609478

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

山本淳子
<プロフィール>
京都先端科学大学教授。京都大学文学部卒業。高等学校教諭等を経て、1999年、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都学園大学助教授等を経て、現職。『源氏物語の時代』(朝日選書、2007)でサントリー学芸賞を受賞する。他の著書に『枕草子のたくらみ』(朝日選書、2017)など。

「2022年 『古典モノ語り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山本淳子の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
西 加奈子
沢木 耕太郎
宇佐見りん
髙樹 のぶ子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×