人間の街: 公共空間のデザイン

  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306046009

作品紹介・あらすじ

街の主役は人。私たちが街をつくり、街が私たちをつくる。
人間的スケールの「生き生きした、安全で、持続可能で、健康的な街」を取り戻すには――。実践に裏づけられた公共空間デザイン論。

感想・レビュー・書評

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  • 印象に残った一節があります。

    「猫を見ていると、良質な場所がどんなものかよくわかる。ある学生が私にそう話してくれた。猫は戸口に出てくると、そこで一旦止まり、まわりをゆっくり確かめ、その後、誰が見ても最善の「場所」に向かって注意深く移動し、優雅に体を丸めてうずくまる。

    「街をつくるときは、常に猫を幸せにすることを考えなさい。そうすれば人々も幸せになる」。それがこの話の教訓である」p.175

    猫にやさしい街は、人間にもやさしい。

    私たち人間よりもはるかに小さな身体で本能的に生きる猫が、道を快適に往来でき、時に建物の陰で身を休め、ある時は広場で仲間と集って交流のできる、そんな街。街の最小単位にとって自由なアクティビティを実現する場所こそ、幸せな街といえると思います。

    逆に著者は非人間的な街の例として“世界遺産都市”のブラジリアを挙げています。上空から見ると鳥が羽を広げた形をしたこの街は、国家の肝いりで招聘された著名な建築家によってマスタープランが作られました。

    上空から見ると美しいこの街も、建造物は冷たく、どれも巨大で非人間的なスケールを持っています。また自動車を主体としてデザインされた道路網は、歩行者を疎外しその行動を制限します。

    思えば居心地のよいヨーロッパの古い町や、たとえば京都の路地裏なんかにも野良猫が多く住んでいて、心地好さそうに大あくびをしています。そして道を歩く人もどこかホッとした表情でくつろいでいるように見えます。反対に幹線道路沿いをゆく人の表情は固く、身を守るようにぴかぴかの服をまとって、早足で歩く……。

    幸せのカタチかは人ぞれぞれですが、「まちづくり」は最小単位の幸せを実現することが重要です。トップダウンではなくて、ボトムアップ。むしろアップする必要すらなく、調和によって持続可能な公共空間にしていくのが今日的な課題といえるでしょう。

    「よい建築家であるためには、人を愛することが必要です。なぜなら建築は応用芸術であり、人びとが生活するための枠組みをつくるものだからです」p.238

    とは、著者の敬愛する建築家ラルフ・アースキンの言葉。

    ヤン・ゲールが都市計画に大きく貢献したコペンハーゲンにも、一度は行ってみたい。きっと人間の尊厳への敬意にあふれた空間に違いないから。規模が違えばアプローチは違うけれど、その思想は間違いなく普遍的なものだと感じます。

    以下、抜書きをいくつか。

    p.63
    昔ながらの有機的都市は、長い時間をかけ日々の活動を土台にして成長した。移動は徒歩で行われ、建設は何世代にもわたる経験に基づいて進められた。その結果、街は人間の感覚と能力に適合した規模を備えていた。

    p.81
    政治家、開発業者、不動産業者、建築設計者が生き生きした魅力的な街を実現することに関心を持つなら、高層、高密度に焦点をしぼるのは的はずれであり、重要な点は別にあることを忘れないでほしい。街のアクティビティに影響を与えるのは、量的には多くの人を引きつけることであり、質的には人びとの滞留時間を長くし、交通を減速することである。そして多くの場合、質を高めることの方がすなわち来訪者を増やすより、そこで多くの時間を過ごす欲求を高めることの方が容易で効果が大きい。また、数と量を増やすより、時間と質を高める取り組みの方が、日常生活にとっても都市の質を改善するのに役立つことが多い。

    p.91
    街路アクティビティの必要条件は、多くの人びとが気軽に散歩できる地区内を動きまわることできる適度な建築密度である。家の前に一定量以上の徒歩活動が存在していなければ、住宅地の公共側のゾーンで時を過ごすことに意味や楽しみを見いだすことは難しい。前庭や屋外テラスが設けられていても、道路を自動車が占領している地区では、家の前でゆっくりしている人がほとんどいなかった。

    p.96
    都市空間のアクティビティと魅力にとって、活発で開放的で生き生きしたエッジほど大きな影響力を持つものは他にない。街並みがリズミカルで、間口の狭い建物で構成され、多くの扉を持ち、1階のディテールが注意深くデザインされていれば、街と建物周辺のアクティビティを盛り立てることができる。街のエッジがうまく機能すれば、街のアクティビティが強化される。活動が互いに補いあい、体験が豊かになり、安全に歩くことができ、歩行距離が短く感じられる。

    クリストファー・アレグザンダーは、著書『パタン・ランゲージ』(1977年)の中で、エッジの重要性を要約して「エッジが破綻したら、空間はけっして生き生きしない」と述べている。

    簡潔で的を射た表現である。

  • コンパクトシティについて深いレベルで考えることができる良い本。お薦めです。

    コンパクトシティ論で私が苦手なのは、ただクルマが大嫌いで街から排除したいという浅い議論に終始しているものがかなり多いこと。しかも大概はヨーロッパの事例の紹介(良いとこどり)と翻って我が地元の現状を嘆くというような構成で、挙げ句の果ては、クルマに依存するのは田舎者だ、街でコンパクトに暮らしている人は賢いと感情論に及びもうそれは論ではなくなってしまいます。

    この本も、車を排除して歩行者と自転車のための街にするべきというコアの主張は同じです。しかし、感情や生きる意味、生活の品質といったより根本的なところからコンパクトシティのあり方について論じているので、極めてまっとうな内容になっています。

    根本には、人間のスケールがあって、それは時速60kmではなく時速5kmで移動する五感のための街づくりがあり、それが生身の人間にとって楽しく刺激的で、安全で健康的な街に繋がります。

    ファサードは何よりも1階が肝要で、歩行者の目線は水平にあり水平方向の変化に富んだ道こそ楽しい、だからラインは横ではなく縦に配置する。立ち止まったり、寄り道したり、オープンカフェで街を眺めながら座っていられる、そういった街こそ喜びであるということです。

    建築関係か行政関係の人にしかあまり知られていないような感じがするコンパクトシティ論は、どうも最初に書いたようなことが原因で印象が悪いのではないかと思いますが、この本に書いてあることを出発点に、都市計画をもっと思想的な面から捉えることが必要ではないかと思います。

  • 空間を描くときに、まず公共空間から発想し、そこから建築を考えていくということや、アクティビティが最も大切であり、そのための滞在人口を大切に考えるという視点に非常に共感できる。

    また、ヤン・ゲール氏の事務所ではすでに数十年にわたって都市空間の評価を実態調査(人数のカウントや寸法の計測等)をベースに積み重ねて来ており、その実績をもとにした本書の整理は、非常に説得力がありかつ具体的だった。

    また、写真が豊富であることも非常に分かりやすい。

    同じ筆者の『建物の間のアクティビティ』が具体例をもとにしながらも比較的理論的に積み上げて書かれている印象があったのに対し、本書は実践編といった印象である。末尾の「道具箱」も、都市の公共空間を考える際につねに参照したい分かりやすい整理になっている。

  • 記録

  • 2022.05.20
    まんぼう期間の在宅ワークの合間で読み始めたものの、まんぼうが明けてしまい、読む間もなくなり、ようやく読み終えた。

    ソフトシティに続き、ヤンゲールの本を読みたくなって手に取った。
    通底する思想は一貫していて、人のために屋外空間をどのように作るかが、データに基づいて語られている。

    人が多く通る道に沿って、屋台が並び店となり道となり、都市ができた。つまり、都市の出来方は、アクティビティ→空間→建築なのか!
    というのが1番の驚きだった。

    寄りかかれる広場のポールや壁際のベンチなど、小さなデザインによる都市空間の質の向上と、車道の整理、歩行者空間化などの大きな政治的転換。
    都市計画にはこの異なる2つのアプローチが必要だなあと改めて思った。

    特に、この政治という奴が厄介だなぁ。

  • SDGs|目標11 住み続けられる まちづくりを|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】 
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/704555

  • 50年の時を経て、ジェイン・ジェイコブスと類似の主張が建築家からなされている。人間目線での街づくりは普遍の真理か。

  • 人のアクティビティ 空間 そして最後に建築…
    都市計画において交通計画そして建物を配置する流れ…しかし 人びとが生き生きと生活する街は魅力的であり古い歴史ある街などを紐解きながら説明 また 問いを投げかける。

    人間のスケール感を大事に…
    それが一番の肝になる…
    インテリア 建築 造園 ランドスケープ その全てを総合的にしかも同時に考える事が必要!と感じる!

    深いなぁ

  • 水方さんが持ってた

  • 都市の生活ってすばらしい!という写真がたくさんあって、白黒でも魅力はそのまま伝わってくる。原著はカラー写真らしいので、いつか手にとってみたいです。

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著者プロフィール

ヤン・ゲール(Jan Gehl):
ゲール・アーキテクツ共同創設者、元デンマーク王立芸術アカデミー建築学部教授
1936年生まれ。デンマーク王立芸術アカデミー建築学部卒業。公共空間に関する教育・研究を行う一方で、コペンハーゲンやシドニー、ニューヨークなどの都市プロジェクトに携わる。デンマーク、英国、米国、カナダの建築家協会およびオーストラリア都市計画協会名誉会員。邦訳書に『建物のあいだのアクティビティ』、『人間の街』(いずれも鹿島出版会)。

「2016年 『パブリックライフ学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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