外骨戦中日記

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  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309024684

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  • 「頓智協会雑誌」で大日本帝国憲法発布をパロディ化し、ガイコツが
    「頓智研法発布式」を行っている絵を掲載して不敬罪。禁固3年の刑。

    それ以外にも筆禍で入獄4回、罰金及び発禁は29回にも及び、明治・
    隊商の時代には反藩閥政治、反官僚、反権力で言論の自由を確立し
    ようとした稀有なジャーナリスト宮武外骨。

    私が勝手に「言論四天王」と名付けて敬愛しているひとりである。
    諧謔を武器として言葉を操って権力を笑い者にしてきた外骨だった
    が、太平洋戦争から敗戦までは沈黙を保った5年間があった。

    外骨の甥である著者が、遺品のなかから発見したのが空白の5年間を
    埋めると思われた外骨の「戦中日記」だ。

    しかし、そこには荷風散人『断腸亭日乗』のような戦時下の生活の
    詳細が綴られているのでもなく、清沢冽『暗黒日記』のように軍部
    や政治に対する批判もない。

    日付と天候、個人名、単語などが時系列に記されているだけ。著者は
    この簡潔な日記から戦中の外骨の生活を読み解くと言う試みをしている。

    労作であると思う。高円寺の自宅にいた頃は、既に70歳を過ぎた身で
    遥々と千葉県まで食糧の買い出しに行っている。当時の交通状況を
    調べ、外骨がどのようなルートで千葉県まで行き、どんなルートで
    帰宅したかを推測したりしている。

    そして、よく釣りをしている。本書のカバー写真もフロックコートに
    山高帽で釣りをしている外骨の写真なのだが、これが味があっていい。

    外骨は「明治の人」との印象が強い。それは、昭和初期から軍部が
    台頭したことで外骨得意の権力に対するパロディを続けていては
    命までも失いかねないと感じていたからか。

    筆て抵抗することを休んで、そのかわりに協力もせずに礼賛もせず、
    沈黙を保つことでの抵抗であったのかもしれない。

    桐生悠々のように赤貧洗うがごとく生活をしながら、反戦の文章を
    綴ることも抵抗だろうし、外骨のように黙することもひとつの意思
    表示だったのだろうな。

    この辺りが精神論を振りかざして戦意高揚を煽った徳富蘇峰とは
    対照的だ。のちに、外骨は徳富蘇峰を「戦犯」としているんだよな。

    外骨さん、その昔はかんしゃく玉をさく裂させたりしていたが、近親者
    のことにはとても親身なっているのが著者の日記解釈から伝わって来る。

    そして、空襲警報発令の際に身を置かなければいけなかった防空壕が
    怖かったなんていうのは意外だ。この防空壕嫌いが疎開を決心させた
    らしい。

    やっぱり「過激して愛嬌あり」だわ。

  • いやいや、外骨先生のかっこいいこと。
    「何もしない、ということの意味」という章に、明治の自由民権運動期に、天地間無用の人を標榜して明治政府を筆誅した成島柳北のこと、役に立たない無用者という意味の散人、を自称していた永井荷風のことが書いてある。外骨も同様に考えて、戦争に対して徹底的に非協力の姿勢を貫き、沈黙を守ったという。

  • 戦前、戦中、戦後を生きた反骨のジャーナリスト 宮武外骨。
    明治、大正期、投獄されても書くことをやめなかった外骨が沈黙していた時期。その空白期(戦争中)を補う資料が、外骨の甥でもある筆者が発見した戦時中の日記。
    その日記と、背景から戦時中の外骨の暮らしを綴っている。
    たまたまいま放送中の、朝ドラ「とと姉ちゃん」の状況と合わせ、戦時中の暮らしが生き生きと伝わってくる。
    ただ、読み手側に、明治、大正期の外骨さんに対する知識が少なく、先にドーナッツの穴から食べ始めてしまった感が強いが、それは読み手の責任。
    きちんと勉強して、再度読み直したい。

  • 気になる人物がいる
    その一人が「宮武外骨」さんである。
    初めて「滑稽新聞」をある人から紹介してもらった時は
    本当にびっくりした
    そして、そのしたたかさに強く惹かれた
    それ以来、時々世の中の出来事を見ていくときに
    「外骨」さんなら、どういうふうに感じてどういうふうに発言するだろうか
    と 思うようになっている
    今回の外骨さんの甥っ子である吉野孝雄さんは
    きっと、ずっとそういう風に思われ、数々の著作を世に送り出されているのだろう
    この一冊は、「あとがき」から読み始めることをお勧めしたい

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著者プロフィール

1945年、東京生まれ。1980年、『宮武外骨』(小社)で第7回日本ノンフィクション賞を受賞。著書に『過激にして愛嬌あり』、『飢は恋をなさず 斉藤緑雨伝』(以上、筑摩書房)、『自由は人の天性なり』(日本経済新聞社)編著に『予は危険人物なり 宮武外骨自叙伝』(筑摩書房)などがある。その他、宮武外骨の紹介者として、『宮武外骨著作集』(小社)などの編集に携わる。

「2016年 『外骨戦中日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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