##NAME##

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309031279

感想・レビュー・書評

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  • 〈あなたの名前はなんですか? 空欄の場合##NAME##と表示されます〉

    名前の物語だ。
    なぜ、我々は自らの名前に縛られて生きていかなくてはならないのか。
    誰かに背負わされた荷物も、自らの責任も全て一緒くたにして。

    毒親の物語でもある。
    全て我が子の可能性を引き出すためという親心からの無自覚で、だからこそ、たちの悪い虐待。

    第169回芥川賞候補作品。
    そして、推しの作家さんの新作。
    某予想サイトでは「ハンチバック」と同じくらいの受賞有力候補に挙げられていた。
    僕が選考委員なら二人とも受賞させていた笑

    デジタルタトゥーと化したかつてのジュニアアイドル時代。最も自分らしくない画像が社会的評価の素材となる。
    断ち切って自分らしく生きていくためには、
    「まともに傷ついてどうする」
    と自らに言い聞かせるしかないのか?

    なんとも辛い話だが、サバサバとした語り口なのであまり悲壮感は感じさせない。
    妙なセンチメンタリズムに陥らないところは文学的で僕は好きだが、好みは分かれるかもしれない。

    ー 君が名付けた私の名前は、私のために鳴る最も短い歌で、私たちの間に走る閃光で、私たちだけの言語だったから。

    締め括りの一文はさすが作詞家!
    鳥肌が立つキラーフレーズだわ!

    ♪Better Friend/Nao(2021)

  • 自分の本名にしっくりきている人は、どれだけいるのだろう。名前は「親からもらった初めてのプレゼントだ」と言われるように、とても大切にしないといけないもののように思うけれど、自分で自分の存在に名前をつけたわけではないから、実際の自分と本名との間に違和感を持つ人もいるのだろうなと思った。

    SNSやゲームなど、自分を名乗るときに使う名前に、本名を使う人は少ないだろう。本名をもじったり、まったく関係ない名前をつけたり、それぞれだと思うけれど。
    さらに、あだ名というのもある。作品ではそれだけでなく芸能活動の際の芸名も出てくる。
    そういった様々な呼び名が1人の人間にあって、それぞれがそれぞれの関係性の中でその名前を使用する。

    この作品では、過去に使用していた芸名が現在を苦しめる一方で、その過去に呼ばれていたあだ名が私を生かしている。

    夢小説の自分の名前欄を空欄にしていた主人公##NAME##は、自分の本当の名前を手にした今、そこに自分の名前をいれるだろうか。
    いれられるようになっていたらいいな、と思った。

  • 芥川賞候補作。

    雪那(せつな)は芸能事務所に通う小学5年生。1つ年上の美砂乃(みさの)とは違って仕事は決まらない。
    水着やレオタードを着て行うレッスンシュートや撮影会は笑顔が作れず苦手である。
    ある日美砂乃に、「雪那のことをゆきと呼ぶ」、「自分のことをみさと呼んでいいよ」と言われた。そのうちにその呼び名に飽きるだろうと思っていたが…

    『名前』をキーワードにして過去と現在とを行き来しながら、一つ年上の女の子へとの憧れと友情、デジタルタトゥー、母子関係、いじめ、性被害問題などが書かれています。

    『##NAME##』は夢小説(登場人物の名前を読んでいる人の名前に置き替えて読める二次創作)で登場人物の名前を置き替えなかった場合、名前の代わりに表示される文字です。

    夢小説や前略プロフィールが何であるかを知らなかったので、スマホで検索しながら読みました。出てくる言葉についていけなかったのですが、それ以上に人物説明や状況説明に無駄な表現がなく文章が上手いと感じさせらるので、読みにくさはありませんでした。

    主人公をはじめ登場人物が皆、いい人でもなく、悪い人でもないところにリアルさを感じます。
    特に母親には、なんで雪那に撮影会をさせるの?とモヤモヤする一方、子供に勉強などをさせたい私自身と一致するところが多く、複雑な気分になりました。
    淡々と話が進み、話を作ったわざとらしさがなく、読んだ後も本の雰囲気が頭の中から離れません。

    名前や呼び方を変えることによって現実から避難する。
    どの名前も自分を指すものであるけれども、それが本当の自分ではないかもしれない。
    あだなや呼び方によって人を侮蔑する。
    自分の名前がデジタルタトゥーになって生きづらくなる。
    平安貴族でなくても、名前は魂そのものかもしれません。

  • ジュニアアイドル、写真のモデルと思っていた仕事は、小学生当時には気づかなかったが、
    児童ポルノめいた仕事だった。
    本名を使ってはダメ。
    ネットの世界に残ってしまう。
    夢小説→ 主に恋愛などをテーマにした、web上などで公開されている二次創作小説のうち、登場人物の名前を読者が自由に改変することができるもの。
    タイトルの意味がわかった。
    受け固定→ BL界隈では「特定のキャラクター2人以外のカップリングを受け付けない」カップリング固定と、「受けと攻めを固定して、リバを受け付けない」受け攻め固定を指す。
    ジプトーン天井→白い石膏ボードの不規則な穴が空いたよく見るやつ。
    ルーマニアの巨大マンホール帝国の感想。
    前略プロフィール→プロフサイト。
    バスケ部員からのいじめ。SNS上で嫌な言葉を吐かれる。
    決して闇ではなかったが、
    自分の名前を変える葛藤。
    ジュニアアイドル時代の唯一の友達、美沙乃の存在がずっと残っている。
    じわる。


  • 行きつ戻りつしながら進む話の中で、
    どんどん息苦しさが増して行って、
    なんとか読み終えて最初に思った事は
    どれが一番のテーマだったんだろうでした。

    夢の残滓や友人と喧嘩別れした後悔、
    ままならない将来への不安、
    他者から搾取されていたことに対しての怒り、
    胸の奥で幾重にもなったわだかまりが
    しこりのようになって堆積していく主人公。

    人を形作るのは単純なものじゃないだろうけど、
    どんどん沼に嵌りこんでいくようで
    一向に明るい出口が見えないのは、
    読んでいてちょっと辛かった。

    主人公はラストで方向を変えようとするけど、
    明るいと思って選んだ方法がそれなのか、
    と正直なところ共感できなかった。

    もっと読み取るべきものがあったような…
    読解力の無さを嘆きます。



  • 最初はタイトルを見て、自分もかなりオタクしているので、二次創作の夢小説にハマった腐女子の物語かなと思って購入しました。しかし、芥川賞候補ということもあり、表紙と本の薄さからは考えられないほど、深い物語でした。

    本の構成としては、主人公視点でジュニアアイドル時代と現在(大学生)の時系列を行き来するというものでした。

    仕事だからやっていた事なのに、ジュニアアイドルを辞めた今でも付き纏う「過去」。しかもそれが今となっては、自分からもそして、誰からも「児童ポルノ」ととられそうなグレーだった過去。自分の名前と過去に縛られながら生きていく主人公を見ていると、上手くいかないことばかりで、主人公の生き辛さをひしひしと感じられました。

    個人的には部室での、尾沢さんの言動が、終始偽善ぶってるようにしか聞こえず、かなり腹ただしいかったので、主人公がインクを顔にぶちまけたときはスッキリしました。その場面は、人の掘り返されたくない過去をわざわざ掘り下げ、挙句の果てには「作品にして書けば?絶対賞取れるのに」などと言い放ち、尾沢さんに対する胸糞ポイントでしたね。

    あらすじにある「二次創作」や「夢小説」というような単語をみると手に取るのを躊躇する人も多少入るでしょうが、自分の心のうちと世間が食い違う生き辛さが感じられるいい作品なので、ぜひ読んで欲しいです。

  • タグ「児玉雨子」一覧 | Book Bang -ブックバン-
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    なしのはな - pixiv
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    ##NAME## :児玉 雨子|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309031279/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      児玉雨子が『##NAME##』に込めた「戦えない人」への想い。小説は「人間の弱さ」のためにある | CINRA(2023.10.10)
      h...
      児玉雨子が『##NAME##』に込めた「戦えない人」への想い。小説は「人間の弱さ」のためにある | CINRA(2023.10.10)
      https://www.cinra.net/article/kodamaameko_gtmnmcl
      2023/10/13
  • 以下、ネタバレやや含みます。




    夢小説、という存在を知っている人はどれくらいいるのだろう。

    主に漫画やアニメの二次的な創作で作られる小説の一種で、同人誌のようなその作品に出て来る登場人物たち同士のifではなく、主人公やヒロインを、自分自身の名前に変えられる機能を持っている。

    小学生で芸能活動を始めた雪那は、水着での撮影やファンとの撮影会に違和感を感じながらも、美砂乃と共に、その世界に身を委ねていく。
    しかし、雪那の通う学校では、そうした活動をいかがわしいと評され、中傷されてしまう。

    そんな雪那がハマるのが、とある作品の夢小説だった。

    私の勝手な感想だけど。
    夢小説に、自分の名前を書き込まないことでこそ、その世界に没入することが出来る……その気持ちが分からなくもないなと思う。

    自分の名前を打ち込んだ時点で、虚構そのものが、矮小な現実に、つまり自分そのものにしか、ならないような気がする。
    生身の私は強くなければ、大義も背負っていない。

    名前は、雪那を縛り付ける。

    名前は、##NAME##へとは変わってくれない。

    自分の名前を検索画面に打ち込んだ結果を、どうして、私自身が背負い続けなければならないのか。
    行為と、責任。
    でも、ネットにあげるという行為は、私がしたことではないのに?
    私自身の過去が、善悪が、価値観が揺れ続ける世界で、賭され続けているような気がするのだ。

    きっと多くの人に響く作品だと思う。

  • みさとの思い出のジュニアアイドル時代が甘やかなものとして描かれてるかというと、さほどでもないかな。
    みさをもっと深く描いてほしかった。

    ところどころ、惹きつけられる言葉や描写もあったけど、この題材ならもっと胸にグッとくるものが読みたかった。こんなこと言うと尾沢さんみたいに墨汁かけられるかも(笑)

  • ただただ苦しい。言葉にならない雪那の想いがひりひりと伝わってきて胸を突き刺す。大人達は知らんぷり。子ども達に背負わせていいのかな?と疑問しかない。これはグレーでこれはセーフなんてあるのかな?きっと気づかないように、傷ついてないようにして、生きていくしかない。そんな選択肢しか子どもにはない。現実の世界は本当はもっと酷いのだと思うし、児玉雨子さんだから書けた物語だとも思う。

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著者プロフィール

作詞家。1993年神奈川県生まれ。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドル、声優、テレビアニメ主題歌やキャラクターソングを中心に幅広く作詞提供。本作が初の著書。

「2021年 『誰にも奪われたくない/凸撃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

児玉雨子の作品

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