孤独の科学---人はなぜ寂しくなるのか

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309245065

作品紹介・あらすじ

その孤独感には理由がある!脳と心のしくみから、遺伝と環境、進化のプロセス、病との関係、社会・経済的背景まで…「つながり」を求める動物としての人間-第一人者がさまざまな角度からその本性に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 引き続きコロナ禍において、孤独担当相もできるということで、ある意味でホットな話題。孤独な連休の読み物として手に取りました。
    原題は "Loneliness : Human Nature and the Need for Social Connection"直訳すると「孤独:人間の性質と社会的繋がりの必要性」となるか。

    以下内容です、三部構成からなり、
    第一部「孤独な人たち」ではそもそもの”孤独感とは”と、孤独感を覚えた人の結果としての行動、その健康への影響、を議論する。
    第二部「人間という社会的な生き物では脳の認知機能にも触れながら、人類がいかに孤独を嫌う種として進化をしてきたか、そして孤独な人がいかに孤独の負のループに入り込んでいく様を描写する。
    第三部「社会的繋がりに意味を見出す」では、他の類人猿(ボノボ、チンパンジー)の社会と比較し、人類がいかに利他的な行動とそれに付随する社会的繋がりを発達させているか(著者が「第3の適応」と呼ぶ)、そして自らの孤独感を癒すために、何より他者に手を差し伸べることの重要性を語る。
    孤独感自体は空腹などと同じ、”欲求”であるけれど、孤独自体は健康に悪いし、社会的なパフォーマンスにも悪影響を与える。その解消のためには何より他者を助けること。あらゆる宗教で謳われる「隣人への寛容と貢献」は間違っていない。

    結構ボリュームもあり、認知心理、脳神経、哲学、進化、ゲーム理論などの分野に関する用語が頻発されるので、なんとなくはわかっても、深く理解するのは結構難しかった。多種多様な実験内容が説明されるのは面白いけれど、多少理系的知識がないと読み切るのはしんどいかも。
    私自身も斜め読みになってしまった部分はあるけれど、「孤独」というテーマは当然思うところがあり当事者として読めて面白いし、もっと早く読んでいれば(本作にも度々言及されるR・ドーキンス『利己的な遺伝子』より先に!)結構人生観的なところにインパクトがあった気がする。

    本作が書かれたのは2008年。著者はあくまで、コミュニティの存在を重要視し、人と対面で会話し、触れ合うことの意義を強調する。
    読んだ満足感はあるものの、このコロナ禍で多くの人が陥った困難と孤独感においては明瞭な答えは出せていないかな、と思います。(このコロナ禍で可能だった人のためになることをというのは、募金などある程度お金のある人じゃないと難しかったと思うので。) 全世界的に見ればワクチン大作戦で少しずつコロナ以前の姿が戻りつつありますが、この1年で著者が捉える「孤独の科学」がどう変化したか気になりました。

  • 心理学者で、「社会神経科学」の創始者の一人である著者(カシオポ)が、長年の研究をふまえ、孤独感が人間の心と体にどのような影響を与えるかをさまざまな角度から明かしたもの。

    言いかえれば、「人はなぜ他者とのつながりを求めずにはいられないか?」のメカニズムを研究した書でもある。

    私は一人でいることが苦にならないタチであり、だからこそフリーライターという職種を選んだという面もある(そもそも、フリーライターの重要な適性の一つは「孤独への耐性」だ)。ゆえに、「孤独感がいかに心と体に悪いか」が明かされた本書を読んで、打ちのめされたような気分になった。

    本書によれば、孤独感は「高血圧や運動不足、肥満、喫煙に匹敵するほどの影響を健康に与える」という。そして、孤独がいかに心と体を蝕むかが、客観的データから「これでもか」とばかりに説明されていく。

    《中年になると、孤独な人はそうでない人よりもアルコールの摂取量が多く、活発に運動をしない。そして食事には脂肪分が多い。睡眠は孤独でない人と時間は同じでも効率が悪い。つまり、回復力に乏しいわけで、日中の疲れを余計に感じる、と報告している》

    《私たちは進化の作用によって、仲間といれば安全を感じ、心ならずも独りになったときは危機感を覚えるようにできているので、孤立の感覚と脅威の感覚は互いに強め合い、警戒心を募らせて持続させる》

    《孤独な人は幸せな人の顔写真に特異な反応を示すことがわかった。通常、幸せな人の顔を見ると脳の報酬領域が活性化するが、孤独感はこの反応を鈍らせるのだ》

     最後の引用部分にはゾッとさせられる。孤独でない人は他者の幸せをも自らの喜びと感じられるのに、孤独な人にはそのような共感能力が乏しい、というのだ。

     本書は「人は独りでは幸せになれない」という昔からの真理を、科学のメスを入れることで改めて立証したものといえる。そして、人の心と体を蝕む慢性的な孤独感から、いかにして抜け出せばよいかの簡単な処方箋も示されている。

    《喉の渇きが、水分補給を忘れないようにという刺激であるように、孤独感は人間がどれほど互いに頼り合っているかを思い出させてくれる刺激だ。ポジティブな心理的順応をすれば、すぐに効果が顕れ、報われる。》

  • これを読んで、そういえば漱石の「こころ」は孤立化する社会=アイデンティティを重視する自立の時代を問う内容があることから、教科書に採用されているらしいというのを思い出した。
    完全な自立を理想とする社会は、孤独感を増加させる。孤独感は、空腹感と同様の「危機的状況のシグナル」である。社会的なつながりを重視することができたら、自分も(生物学的特性の力を借りて)より良い環境を作り出せるかもしれない。

  • 「自分はひとりぼっち」と思い込むと、人はだらしなくなり、病気にもかかりやすくなる!?

    誰もが人生の中で感じる「孤独感」について、
    そう感じる仕組み(人間は遥か昔から1人では生存できなかったため、1人でいることに対し警告が発せられる仕組みが作られた)や
    体や心に及ぼす影響(免疫機能の低下、自己調節能力の低下…)、
    そしてそれを減少させるための方法(ささやかな優しさを他人に提供するだけで良い!)について、書いている本です。

    実験や脳の仕組みの解説も交えて書いてあるので説得力もありますし、例え話も多いので読みやすいです。

  • 生物学的な側面や脳科学、心理学に社会学に経済学と、あらゆる学問分野の視点を取り入れて結論に導いていく過程は興味深い記述ばかりで感心した。
    特に人間以外の生物の生態やコミュニティの作り方などから、本能レベルでのあり方と、さらに人間に不足している能力、持っているのにうまく活用できていない能力を表すのにもってこいの事例ばかり。
    巧みな説得を以ってして納得させられる。

    孤独感、というテーマに、自分の中で心当たりがあったため思わず購入してしまったのだが、案の定自分や、身の回りの他者に当てはまる内容ばかりでぐうの音も出ない。
    読み進めるうちに心が抉れていくようで、何度も自棄になって読む手を止めた。
    その行為こそ、自分が孤独感を慢性的に感じていることの証明だったように思う。
    もし、「孤独感」のワードに思うところあって手に取る方がいれば、どうぞ途中で投げ出さずに最後まで読んでみてほしい。
    孤独感は病ではなく、性格特性ですらなく、私たちを回復させるためのサインであると。
    最終章に挑む頃には、その兆候を読み取り対処するための方法について深く共感できるはず。

    他者と関係がうまく築けない、被害妄想が強い、人と親密になりたい。
    そう思う人には、是が非でも読んでみてほしい。

  • 孤独感の覚え方と遺伝(と環境の相互作用)の関係。
    孤独感を覚えると認知が歪む。
    認知行動療法のすすめ。
    孤独感は健康や幸福や成功に害を及ぼす。

  • とにかく、単身赴任をしている又はさせている人事部の人に読んで欲しい。孤独は人の能力を低下させます。という本
    長所:視点が面白い。ナルホド納得な部分多々あり。
    短所:途中、少し孤独の科学の話とはずれる部分や、すでに有名な話の紹介があるのが、マイナス。
    読後の変化:とにかく単身赴任はよくないことがわかった。けど、私の力ではどうにもならない…。日本の人事部の人よ、とにかくこれを読め!けと、

  • 孤独という心理状態が人間に及ぼす影響とそのメカニズムを解析した1冊。結局、人間を含めた生物は単一で生きることはできず、他とのかかわり合いの中で、自身の相対的な位置を確認しながらでしかその存在位置や意義を確認できないのだろうな。

  • 孤独は有害。
    孤独だと要求ばかりするようになる
    孤独だと批判的になる
    孤独だと行動が消極的になり、引きこもる

  • 社会神経科学の第一人者であるジョン・カシオポと
    ライターのウィリアム・パトリックによる
    「科学によって幸福に生きる手助けとなる知識を得る」
    ことの最高の実践書のひとつ。

    いわゆる文系・文化のカテゴリーの中では、
    これまでさんざん「社会性が重要なんだ」ということは
    主張されてきているが、自然科学の分野では、それが
    本当かどうなのかというところがいまいちはっきりして
    こなかったのだろう、と私は理解した。

    しかし、近年の遺伝、生命研究、神経科学の急速な発展と
    そのクロスした知見によって、どんどん、それが
    自然科学的に明らかにされている。

    そして本書で、カシオポらは、人間は生物として、
    他者とのつながりを求めているもので、それが幸福の源泉に
    ある、一方で孤独は心にも体にも大きなダメージが与えるのだ、
    ということをわかりやすく、豊富な切り口で
    語っている。

    原題は
    Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection

    まぁ、とにもかくにも頷くことだらけの一冊である。
    「社会神経科学」とは実によく表現したもので、
    まさにヒトの神経の仕組みが社会性の積み重ねの中の進化プロセスで
    形成されたのだろうということは、もう間違いないんだと
    確信できる。

    ミラーニューロンに関して、私はいくつか関連書を読んでいたけれど、
    どうしてそれが個体の環境適応に役立つのかがいまいちしっくり
    来なかった。
    模倣はもちろん重要だが、模倣行為とミラーニューロンそのものに
    等価性はないじゃん、と思っていたのだ。

    だが本書の第9章になるほどという解説が出てくる。

    -------------
    p.202
    まさに、「心は何をおいても、体に関するもの」なのだ。しかし
    頭の中で行われるこの簡略化された模倣行動は、随意の制御は
    伴わない。こうした模倣やシミュレーションはまた、ほかの反応
    よりもすばやい。つまり、反応が起きた時点では本人もまだ自覚
    していない場合がある。たとえば私たちは、魅力的な人に微笑み
    かけられると、反射的に微笑み返すが、こうして無意識に反応する、
    つまりは体が共鳴するからこそ、私たちは他者の内的経験に
    アクセスする特権を獲得できるのだ。私たちが初めて相手の
    戯れの意図を感じ、ことによるとそれを自覚するのは、身をもって、
    すなわち自らが同じ戯れを込めた仕草をしたときなのだ。
    -------------

    なるほど!
    無意識の、いわば情動の次元での模倣を可能にすることで、
    私たちの共感の糸口は生まれるわけだ。ミラーニューロンは
    きっとここで大いに役立っているのだろう。
    サルやヒトといった社会性の生物でしか見つからないのも
    大いにうなずける。

    また、本書では自然科学にとどまらず、現実社会でいかに
    孤独をなくし、つながりを感じることが大事かを事例や検証結果を
    もとにいろいろと教えてくれる。

    -------------
    p.281
    私たちはどの要因から人の幸せの変化を予測できるかを見極めるために、
    三年間にわたる縦断分析を行った。最終的に、私たちは要件を満たす
    次の3点を発見した。

    1 「社会的な結びつき」
    2 「家計収入」
    3 「年齢」
    -------------

    ここで注意すべきは、家計収入の増加が幸せの原動因ではないということ
    である。
    実は関係が逆で、幸福感の増大は社会関係のつながりをポジティブにすることで
    収入の増加を後押しする、ということなのだ!

    また、年齢というのも、一般的な思い込みとは逆で
    「年齢が上がれば上がるほど幸福」になるという。
    脳のネガティブセンサーである扁桃体が鈍くなっていく可能性がひとつ。
    あとは余命の少なさを理解して、ポジティブ行動をとりやすくなるのがひとつ。

    いやー、おもしろい。

    -------------
    p.283
    彼の答えはきっと次のようなものになるはずだ。
    「人は本来、社会的な生きものなのです。その3つをすべて得るカギは、
    あなたにとっても、あなたの近くや遠くにいる人にとっても有意義で満足のいく、
    強い社会的つながりを築くことです」
    -------------

    最後に、著者の力強く、あたたかく、実践的メッセージを。

    ------------
    p.338
    本書を通して私が力説してきたのは、私たちの社会的現実の多くは、
    自分である程度まで制御できるということだ。制御の及ばない力でさえ、
    それをどう解釈し、それにどう対処し、どう応答して行動するかが、
    自分の未来に劇的な影響を与えうる。これは個人レベルだけでなく社会レベルでも
    同様に機能する。私たちは個人として、そして集団として、「第三の適応」を
    めいっぱい活用するという選択をし、自分自身や自分の所属する部族といった
    集団をはるかに超えた大きな善のための献身的な行動を通して
    解決策を探し求めることができる。あるいは、チンパンジーと同じ位置に
    とどまって狭い視野で自己中心的なままでいることもできる。
    私の希望は、私たちが孤独感の生物学的な側面を理解し、それによって、
    倫理的で思いやりのある行動がより大きな幸せばかりか経済的な幸せのための
    処方箋でさえあると悟ることだ。これは心に留めるに値するメッセージだ。
    なぜなら、厳密に金銭的な意味でも、社会的な孤立が招くコストは驚くほど
    大きいからだ。
    ------------

    僕はしばらく、企業家とは自然科学の見地からはどう説明が
    つけられるのだろうと考えていたのだが、
    それにふと答えが出たような気がする。
    たとえば日本のすごい経営者、京セラ稲盛氏やユニクロ柳井氏などは、
    私心や私欲のために動いているところは一寸も見られない。
    より大きな社会的善の信念を志向して行動していると感じられる。
    それがすなわち、ここでカシオポが言うような「大きな善のための献身的行動」
    なのだろう。
    優れた企業家は、まさにヒトの社会的生物として授かった能力を最大限に
    高めて、現実を変えるべく行動している存在なのだ、と。

    これだ。

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著者プロフィール

リトル・ブラウン社、ハーバード・ユニバーシティ・プレス社など複数の出版社で科学・医学書編集者としてエドワード・O・ウィルソン、ジェーン・グドールらの本を手掛け、その間にSpirals(Houghton)、Blood Winter(Viking)の小説2作を発表。1999年よりフリーランスの著述・執筆協力専業となり、数々の著名人の作品を編集。共著者/ゴーストライターとして、Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection(W. W. Norton)〔ジョン・T・カシオポ『孤独の科学』(河出文庫)〕、The Measure of a Man(HarperSanFrancisco)〔未邦訳のシドニー・ポアチエ自伝(Harper)〕、Thieves of Baghdad(Bloomsbury)〔マシュー・ボグダノス『イラク博物館の秘宝を追え』(早川書房)〕、Legacy of Ashes(Doubleday)〔ティム・ワイナー『CIA秘録』(文春文庫)〕などに携わる。

「2021年 『疾病捜査官』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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