- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309254135
感想・レビュー・書評
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1950年7月2日未明に起きた金閣寺放火事件の犯人・林養賢と、
事件を元に『金閣寺』を執筆して高く評価された三島由紀夫について、
精神科医・内海健が取材と資料の読み込みを元に書き下ろした
ノンフィクションにして作家・三島論という、
精神病理学と文学論を縒り合わせた一冊。
林の内面と三島が透視した風景を抉り、
白日の下に晒したかのような――。
事件当時、逮捕された学僧・林養賢は
動機を「美への嫉妬」と称し、
この発言が三島由紀夫の『金閣寺』執筆を促したということは、
一つの情報として漠然と承知していたが、
読み進めるうちに目から鱗。
林養賢は統合失調症となったために
自らの職場に火を点けるといった惑乱に陥ったと、
ずっと誤解していた。
元々、性格的に独特な偏りのある人物ではあったが、
医師の診断上、発病したのは1951年2月頃で、
裁判で懲役七年が確定した直後だったという。
北山鹿苑寺で僧侶としての務めに従事しつつ
大学に通わせてもらっていながら、
さしたる理由もなく学業を放擲した彼は、
後ろめたさから「皆に嫌われ、悪口を言われている」と思い込み、
師である住職・村上慈海が自分の企みを見抜いている、
秘密を知っていると直感。
では、その秘密とは何かと自らに問いかけたところ、
「金閣を焼こうと思っている」との想念に立ち至ったのではなかろうか
……と、著者は推察する。
狂気のポテンシャルが様々な偶然の重なりによって臨界点を超え、
動機や理由に回収できない地点にまで辿り着いたのでは、と。
そして、もう一人の主人公・三島由紀夫(本名=平岡公威)は、
恵まれた環境に生まれ、世間並みの苦労を知らずに育ち、
しかも早くから類稀な文才を発揮したため、
文芸によって独自の空間を作り上げ、その中に自身を封じ込めて、
リアルな生活上の実感から紡ぎ出された小説とは
異質な美の世界を構築するに至った。
世の中の様々な事象は実体験を得る前に頭の中で組み立てられ、
完結してしまっていた。
そこから脱出するための開口部として、晩年の肉体改造や、
最終的には割腹による自決という行為を必要としたのだろうか
――といった話になってくる。
後で読もうと思っていた『金閣寺』のオチを
先に知ってしまったけれど(笑)それはそれとして、
じっくり楽しめそうな気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知らなかった事実ばかりで楽しく読んだ
以下、書籍紹介より
金閣寺の放火僧・林養賢。当時、その動機を「美への嫉妬」などと語ったが、そういうことなのではない。三島の『金閣寺』も援用しながら、分裂病発症直前の、動機を超えた人間の実存を追う。 -
前半の林養賢の精神分裂病(統合失調症)、後半の三島由紀夫のナルシシズムが、『金閣寺』という作品の中で互いを写しあっている様を克明に描き、言語を内在することで生じる離隔、意識の絶対的な立ち遅れという近代的人間の抱え込んだアポリアを描き出す。三島由紀夫没後五十年、驚くべき労作。
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実存が先にあり、認識はあとから出てくる。
人間の内面を見つめた、精神科医らしい作品。 -
◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC01023713 -
2020I072 493.763/U
配架場所:C2 -
タイトルに魅かれて読みたいと思っていた。しかし、単行本であることと、書店ですぐに見つけられなかったこともあって、読まずじまいできた。最近、図書館にまた行き出したので見つけて読んでみた。ことばが難しい。「離隔」きっとキーワードなんだろう。何度も登場するが、結局イメージがつかめないまま読み終わった。わかったこと。当時の金閣寺の住職は、小説の中の人物とは違って吝嗇(りんしょく、ケチ、このことばは覚えた)であった。林養賢の母は、息子が金閣に火を放ったということを知り、京都にやってきた。その帰り、山陰線の鉄道から保津峡へと身を投じた。三島由紀夫は小林秀雄から、どうして最後に溝口を死なせなかったのかと問われている。私自身、幼いころに、金閣寺は一度焼かれたことがあるということを聞かされていた。大人になってから三島の小説を読む。二度目に読もうというとき、小説の中で、いったい金閣は本当に焼かれたのだったか、そんなふうに思っていた。だから、燃えているシーンよりも、主人公の溝口が「生きようと思った」ことの方が印象的だったのだと思う。溝口が死ななかったということは金閣を焼かなかった、計画を実行には移さなかった、と勝手に感じていたのだろう。つまり、金閣を焼いたのならば、溝口は死ななければならなかった、そう考えていたのだろう。結局、小説でも実際にも、金閣は焼かれ、そして火を放った張本人は死ななかった。しかし、養賢は数年後に結核で死ぬことになる。ところで、私は、周りの評判がどうかは別として、「金閣寺」よりも「鏡子の家」の方が好きだ。あの最後のシーン、犬が解き放たれるシーンが印象的だった。それと、あとがきによると、著者はimago誌上にて、安永、木村、中井の鼎談を企画したそうだ。我が家にはいまもこの雑誌が創刊号からそろっている。
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実際に金閣に火をつけた男とそれをモデルにした三島由紀夫の二人を精神学者が分析し、深く掘り下げる。
その内容もさることながら、表現が文学的で哲学的だ。
大事件を引き起こした2人なのだが、炎や自死などとも絡んで、やや美しく表現しすぎなのではという印象もある。 -
2021.01.22 社内読書部で話題になる
2012.03.15 読書開始
2021.03.26 社内読書部で紹介する
http://naokis.doorblog.jp/archives/reading_club_32.html
2021.03.27 朝活読書サロンで紹介する。
http://naokis.doorblog.jp/archives/reading_salon_174.html
2021.04.17 読了