カルロ・ロヴェッリの 科学とは何か

  • 河出書房新社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309254418

感想・レビュー・書評

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  • カルロ・ロヴェッリさんの言えば「時間は存在しない」の著者
    何か読んでみたいと前々から思っていた
    たまたま書店で目についたのでこちらが1冊目のカルロ・ロヴェッリ氏


    アナクシマンドロス
    紀元前610年、ミレトス出身の古代ギリシアの哲学者
    著者によれば、科学史における、最初の概念上の革命を実現し、物理学、地理学、気象学、生物学の先駆けとなった人物とのこと
    さらには世界像を捉え直すことへの道を切り開いた科学的思考の源流に立つ思想家とする
    そのアナクシマドロスの今もなお影響が生きている革命について語られるのが本書だ

    アナクシマドロスの時代は巨大な宮殿も、半神のような王の存在も、組織化された宗教的権威も聖職者階級もない新しい時代(ちょうど暗黒時代の終焉後)である
    経済と文明が再生したギリシャはいわゆるポリス(都市国家)が形成され、民主的な政治プロセスが形つくられていった
    このような新しい社会・政治の構造と科学的思考の誕生は関連がある
    自由に批判を表明させ、議論を受け入れ、誰に対しても発言の権利を認め、あらゆる提案を真剣に検討する
    このポリスという仕組みが民主制や多くの哲学者を生んだのだ
    〜上からの軋轢のない新しい社会 その代わり自分達の手で全てやらなくてはいけない社会 常に人任せにせず考え議論が絶えない社会であったことが想像できる

    さらにアナクシマンドロスと師のタレスの密接な師弟関係に著者は注目する
    師の教えを徹底的に学び、我がものにする
    その知を土台にして、師の思想の間違いを発見し、修正し、世界をより良く理解する方法を探求する
    これこそが知の発展への扉を開く鍵だという著者
    最初に実感したのがアナクシマンドロス
    古代の世界に溢れかえる師弟関係でこのような関係性を築いた例はないだろう
    孔子と孟子、イエス・キリストと聖パウロ…
    〜アナクシマドロスも凄いがタレスの懐の広さが探求の道を広げたのだ!

    中国の引き合いが面白い
    中国文明は何世紀もの間さまざまな分野で西洋文化より優越していた
    しかし科学革命に比する変革は起こらなかった
    なぜか
    中国の思想において師が決して批判されず疑義が呈されなかった
    既存の思想の深化、肥沃化のみに特化された
    (アナクシマンドロスが中国に居たら皇帝に首を刎ねられていただろう 現代の社会で言えば会社で上からの反発にあい解雇されちゃうタイプですね)

    そして資源現象を常に神話的、宗教的に結びつけた時代にも関わらず、(雨降らすのはゼウスであり、風を吹かすのはアイオロスであり海の波を揺らすのはポセイドン)
    「資源現象は神の意志や決定ではない」とする
    この立役者がアナクシマドロスなのだ!

    具体的なアナクシマンドロスの発見
    異なるものもあるが現代とイコールな科学的思想
    ・生命が海から生じ、大地が乾燥すると海の中にいた生物が移動して大地に適応した
    ・大気現象 雨は太陽の熱を浴びて大地から立ちのぼった蒸気に由来
    ・大地はなにものにも支配されず、宙づりであり、自らの居場所にとどまる
    ・物体は「大地の方へ」落下する 
     つまり「下方」に向かって落ちるのではない

    星の観察結果程度の乏しい素材から、世界全体を描き直した偉大さ
    わたしたちが暮らす大地は開かれた空間に浮遊している…
    〜凄い!表現力はともかく全てが本質を突いている

    イオニア学派3名の万物の基礎にある「唯一の起源」の追求
    ※備忘録

    ■タレス…水
    「すべては水でできている」

    ■アナクシメネス…空気
     空気を圧縮すると水が得られ、水を希釈すると空気が得られる
    水をさらに圧縮すれば大地が得られる

    ■アナクシマンドロス…アペイロン
     アペイロンとは「無限」、「不特定」
     存在の起源は、限界の持たない自然であり、天地に存在する万物はそれに由来する



    アナクシマンドロスがどうしてパイオニアなのか環境や時代背景などさまざまな角度から理解できた
    今を生きる我々にとって当たり前のことを紀元前160年頃、世の中や自然の仕組みの本質を理解するというのは桁外れの知力である
    他にも宗教との絡みや哲学、科学だけではない歴史が散りばめられており、思わぬ勉強になった
    勉強と言っても実にわかりやすく楽しめる
    ところどころ理屈が理屈で塗り重ねられ、結局何が言いたいのかよくわからない部分やあったが…
    知的レベルの高い方のお考えは難しいです(笑)

    全く思っていた内容とは違ったものの、知らない世界の知的好奇心を満たしていただき満足である
    そうユヴァル・ノア・ハラリ氏の「サピエンス全史」を読んだ感覚に似ている

    引き続きカルロ・ロヴェッリ氏の著は読んでいきたい

  •  私にはちょっと難しかったです。興味深いですが、読みにくかったです。東野圭吾さんが懐かしいです。
     矢沢○○さんの歌を否定するようなタイトルの本を書いているカルロさん、科学の未来に危惧されてる点があるようで、人類最初に概念の科学革命を実現させた、約2600年前のアナクシマンドロスさんまで立ち返って、科学的であることの大切さを説かれていました。
     アナクシマンドロスさんより古い時代は、神様を持ち出して自然を解釈していたのを、アナクシマンドロスさんたちは、雨は神様が降らせたのではなく、川や海の水が巡っている、と考えるような、自然現象をその関係性で考察されたようです。今当たり前でも、2600年前とはすごいです。
     カルロさんは、いまでも人類の半分は神様抜きで世界を理解しようとしていない、と心配されています。反科学とか前科学はもうやめようよと。
     科学の発展には批判的精神が大切、アナクシマンドロスさんにはそれがあり、彼は自分の先生であっても、過ちはきっちり指摘されていたようです。それについては、中国文明との対比が面白かったです。
     そしてカルロさん、異質なものに心開き、耳を傾ける大切さを語られていました。ブクログに「おすすめの読書家さん」がありますが、そういう意味で「おすすめしない読書家さん」もありかも。Amazonでおすすめしない商品を表示されても困りますが、ブクログならありなんじゃないでしょうか。

  • 【はじめに】
    イタリアの科学者で、『すごい物理学講義』や『時間は存在しない』といった一般向けの科学ものベストセラー作家のカルロ・ロヴェッリがそういったヒット作の前に書かれた実質上の処女作が本書『科学とは何か』である。イオニアの哲学者アナクシマンドロスを科学的思考の源流に立つ思想家として、それがなぜそのように言うことができるのかということを通じて、科学的思考というものは何かを問い直したものである。

    【概要】
    イオニアの哲学者アナクシマンドロスの世界観から本書は始まる。確かに彼の思考回路には数学的法則の探求や実験による検証といった科学的思考に必要な発想が欠けてはいる。一方で、彼は、気象分析における水の循環や、アペイロン(無限定なもの)と呼ぶ万物の基本要素を水や火など以外の一般的な物質ではない何ものかに求めたこと、そして「大地は有限な物体であり、宙に浮かんでいる」としたことなどが科学的思考の芽生えとして評価されるべきだと考えるのである。何よりも自然を説明するために神々を必要としないところがそれまでの思想と比べて革命的であったという。

    アナクシマンドロスは、批判的思考の結果として、空は自分たちの上だけに広がっているのではない、と高低に関する問題設定を疑った。これは、アインシュタインやハイゼンベルグが20世紀に起こした科学革命も同じで、彼らの功績はそれまでの科学の否定ではなく、問題設定そのものの見直しを迫ったのだ。

    著者は「科学が信用に値するのは、科学が決定的な解答を提供するからではなく、現時点での最良の解答を提供するからである」という。科学は自らの不確実さを意識し、疑問に対してつねに開かれた姿勢を貫くがゆえに信用に値するのだ。それこそが、宗教との違いであり、アナクシマンドロスが開いた境地でもあるという。アナクシマンドロスは始めて神々の存在なしに世界を説明しようと試みたのである。そして、師匠であるタレスの「万物は水である」という考え方を否定したことから、彼らは思考は間違いうるということを受け入れたのである。不確実性を受け入れること、それこそが科学的思考につながる発見だったのだ。

    著者は、自身が研究を進めるループ量子重力論も、これまでの科学的知識の蓄積の延長において、時間の概念に対する捉え方を変える仮説であるのだと主張する。その具体的なところはこの後の『時間は存在しない』や『世界は「関係」でできている』などで明らかにしている。

    【所感】
    イオニアの哲学に関しては柄谷行人も『哲学の起源』で触れている。後期の主著『世界史の構造』を書くにあたり、イオニアの哲学から説き起こす必要があり、そのためにかなり深く考察をしたものを別の独立した書籍としてまとめたものである。その中で柄谷も次のように書いている。

    「生物の考察を主とするアリストテレスと違って、イオニアの自然哲学者は、タレスから原子論のデモクリトスにいたるまで、目的論を斥けて、宇宙の生成、生命の発生、生物の進化、さらに人間社会の歴史的発展について考えたのである」(p.105)

    アナクシマンドロスについては、タレスの弟子であり、アペイロン(無限定なもの)の提唱者として触れられている。何より驚くのはファリントンが『ギリシア人の科学』の中でアナクシマンドロスを評して、「かれは人間のことさえこうした神様の助けを借りないで説明している。アナクシマンドロスの考えでは、魚は、生命の形態の一つとしては、陸棲動物より先きに生存していたものであり、したがって人間も、もとは魚の一種であったが、乾いた土地が出現するに至って、或る種の魚は陸上での生活に順応するようになった」としていることである。

    さらには柄谷は次のように語る。もし、こういった考え方を日本の思想家も持っていると知ったらカルロ・ロヴェッリはどう感じるだろうか。また、柄谷も先端的研究を進める科学者もイオニアの哲学に起源として着目していることを知れば、我が意を得たり、と思うのではないだろうか。

    「さまざまな点で、イオニアはの思想は今も活力をもっている。先にも指摘したように、質料と運動を分離しないイオニア派の考えは「魔術的」なものだとみなされる。実際、近代のフィジックスはそれらを分離することによって成り立っている。しかし、このような分離はデカルトが示したように、「神」あるいは神のような視点を前提としている。つまり、その点で、アリストテレス的メタフィジックス=神学を受け継いでいる。このような観点を決定的に粉砕したのが量子力学であった。量子力学は、ある意味で、質料と運動は不可分離だというイオニア派の考えを回復したのである。すなわち、量子(光や電子のような微粒子)は粒子(質料)であると同時に波動(運動)である」(p.110)

    ソクラテス以前のイオニアの哲学はあまり振り返られることなく、ある意味では古代のエピソードとして紹介されるのみであったが、科学的思考を始めとする近代社会の源流としてもっと注目されるべきなのかもしれない。

    -----
    『すごい物理学講義』 (カルロ・ロヴェッリ)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309467059
    『時間は存在しない』 (カルロ・ロヴェッリ)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4140817909
    『世界は「関係」でできている: 美しくも過激な量子論』 (カルロ・ロヴェッリ)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4140818816
    『哲学の起源』 (柄谷行人)
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4000240404

  • 著者のカルロ・ロヴェッリは、第一線の物理学者にして、科学啓蒙書の人気作家でもある。『すごい物理学入門』などの著書は、日本でも多くの読者を得ている。

    本書も一般向けの科学啓蒙書には違いないが、専門の物理学の話はほとんど登場しない。
    これは、地球が虚空に浮かんでいることを世界で初めて見抜いた古代ギリシアの賢人・アナクシマンドロスを主人公に書いた、ユニークな科学史の書なのだ。

    アナクシマンドロスは、タレス(「万物の根源は水である」と考えたことで、倫理の教科書に載っている人)の弟子であり、「ミレトス学派」の哲学者である。

    一般的な知名度はあまりなく、生涯についてもあまりよくわかっていないアナクシマンドロスの人物像が、著者の考察によって少しずつ明らかになっていく。
    アナクシマンドロスはなぜ、中世の科学者たちにはるかに先駆けて、地球が虚空に浮かんでいるという真実に辿りつくことができたのか? 著者はその謎に迫っていく。

    アナクシマンドロスは巧まずして科学的思考を身につけていたからこそ、真実に気付いたのだ……というのが著者の見立てである。
    つまり、彼が地球が虚空に浮かんでいることを見抜いたのは、単なる「発見」ではなく、科学的思考の始まりであり、後世のニュートンやガリレオらの偉業にも比肩すべき偉大な「科学革命」の一つだった、と著者は言うのだ。

    アナクシマンドロスを媒介に、科学の本質に迫っていくスリリングな論考である。

  • h10-図書館ー2024/02/21 期限3/6 読了2/28 返却2/29

  • 主にアナクシマンドロスのお話です。

  • それほど新しい考え方ではない

  • 現代科学に最も貢献した人物は、ニュートンでもアインシュタインでもなく、アナクシマンドロスらしい。
    彼は、地球を「なにもない空間に浮かぶ円柱」であると予想し、雨は海の水が蒸発したものであると予想し、すべての生き物は魚のようなものから派生したと予想した。

    彼の生きた紀元前5世紀では、まだ世界の理解には神が必要不可欠であったが、「自然」にその解答を見出そうとした。(しかもかなり真実に近い)
    これは当時にしてはかなりの発想の飛躍であり、常識を疑うという科学の本質を、初めて実践した人物らしい。

    こういった予想を立てることができた背景には、彼の天才的な才能だけでなく、当時のギリシャ(のミレトスという都市)の活発な異文化交流、師に対しても異議を申し立て議論する風潮、上流階級による知識の独占が無かったことなどが大きかったのではないかということ。


    普通におもろかった。
    タイムマシンがあったらどこ行きたいか論争が良くあるが、僕は古代ギリシャに行って、神いない説を打ち立ててみんなで盛り上がりたい。

  • 本書のテーマは「科学的思考の歴史」。
    著者のカルロ·ロヴェッリはその科学的思考の一大転機を、古代ギリシャの都市国家ミレトスのアナクシマンドロス(BC610生まれ)とする。
    その時代は、あらゆる事象はギリシャ神話に出てくる神々の意思と結びつけられてていたが、彼は
    1.雨水は元々海や川の水で、それが太陽の熱で蒸発して降ってくる。地震は酷暑や豪雨が引き金。
    2.大地は有限で宙に浮遊し、落下しない理由は落下さる特定の方向わ持たない=他の物体に支配されていないから。
    3.太陽、月、星は地球の周りを完全な円を描いて回っている。
    4.自然を形づくる事物の多様性は、全て唯一の起源(アペイロン)から生じている。
    5.ある事物が別の事物に変化する過程は必然に支配されている。
    6.この世界はアペイロンから「熱さ」と「冷たさ」が別れた時に生じた。これにより世界に秩序がもたらされた。
    7.あらゆる動物は、海かかつて大地を覆っていた原初の水に起源を持つ。
    と言うことを初めて提唱した。
    また
    8.人類史上初めて世界地図を作成した。
    9.ギリシャ世界に太陽の高さを棒の影の長さで図ることが出来ることを広めた。
    10.横道の傾きを初めて測定した。
    人為的に整えた物理的状況下で実験を行うという発想が欠落しているとは言え、この時代にこれらの着想が出来るのが素晴らしい。

    著者がアナクシマンドロスの功績の中でも特に貴重なのは、「私たちの考えは間違える。しかも極めて頻繁に」と言う。間違いを認めつつ、修正を加えることで科学は前進する。現行の知に敬意を払うが、一方で徹底的な反抗の身振りから新しい知識が生まれると言う一貫した主張が、全体に流れていることを感じた。

  • 請求記号 401/R 76

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著者プロフィール

1956年、イタリア生まれ。ボローニャ大学からパドヴァ大学大学院へ進む。ローマ大学、イェール大学などを経てエクス=マルセイユ大学で教える。専門はループ量子重力理論。 『すごい物理学講義』など。

「2022年 『カルロ・ロヴェッリの 科学とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

カルロ・ロヴェッリの作品

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