シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々 (河出文庫 シ 11-1)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467146

感想・レビュー・書評

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  • 「ずっとそういう場所にしたかったんだよ。ノートルダムを見るとね、この店はあの教会の別館なんだって気がするんだ。あちら側にうまく適応できない人間のための場所なんだよ」

    表紙絵の緑と黄いろのお店が「シェイクスピア&カンパニー書店」。
    パリのセーヌ河畔に建っている。
    「見知らぬ人に冷たくするな、変装した天使かも知れないから」をモットーに、朗読会・お茶会などイベントが充実し、本の博物館さながらの蔵書群。
    書架の間には簡易ベッドもあって人が寝泊りできるという。
    宿泊者は店の手伝いと一日一冊の本を読むことが条件。
    世界的に有名な書店だから、綺麗で敷居の高い店かと思うと全く違う。

    著者はカナダ生まれのジャーナリストで犯罪専門の記者。
    危ない橋をうっかり渡ってしまい、逃げるようにパリにやってきた。
    ちょうどミレニアムで世界が浮かれていたときのことだ。
    数か月滞在したこの店の思い出を、懐かしさをもって語る。
    まるでよく出来た小説のようにクセのある人たちが登場しては突拍子もない挿話を繰り広げ、最後まで飽きさせない。

    元祖シェイクスピア&カンパニー書店は、ヘミングウェイ、フィッツジェラルド、ジッド、ヴァレリーなど当時の名だたる作家たちが出入りしていたが、1941年ドイツ占領下で閉店。
    アメリカ人のジョージ・ホイットマン(この名前も出来過ぎだ)というはぐれ者が、敬愛する元の店主から蔵書を買い取り、セーヌ河畔の「ノートルダム」と向かい合う場所に店を開いて同じ店名を名乗るようになったのがその10年後。本書の中でのジョージは86歳だ。

    年齢を聞くとおじいちゃんと思いそうだがとんでもない。
    筋金入りのコミュニストでロマンティックな理想主義者。
    彼が経営していたのは「書店を装った社会主義的ユートピア」だった。
    異臭を放つトイレ。シャワーもない。だが泊まった客は延べ4万人という。
    「できるだけ少ない金で暮らして、家族といっしょに過ごしたり、トルストイを読んだり、本屋をやったりすればいいじゃないか」
    本書の最大の魅力は、このジョージのひととなりだ。
    エキセントリックで我がままな気分屋で、20歳の女の子に少年のような恋をする。

    哲学と、放埓さと、夢とロマンが同居する店。
    著者はジョージに気に入られ、彼の補佐役兼相談相手となる。
    共同生活の中で生まれる他の住人との友情、恋、読書、小説を書き金欠に悩みながらパリのボヘミアン生活を謳歌する。終盤、ひとり娘であるシルヴィアと父親ジョージの再会は非常に胸をうたれる場面だ。
    奇人変人揃いの青春小説のようで、日本人の感覚からは信じられないようないくつもの挿話に何度笑ったことか。
    ここで自己を見つめ直す機会を得た著者は、人生をより良く生き直そうと考え始める。
    冒頭の言葉は、その別れの場面でジョージが発したものだ。

    検索すると現在は店もかなり綺麗になり、娘のシルヴィアが経営を引き継いだ様子だ。
    雰囲気は変わっても、魅力あふれる書店が存続しているだけでも嬉しい。

    映画で見るフランス人は恋愛にうつつを抜かしてばかりいるように見えるが、私はこの本で一歩理解をすすめたように思える。
    彼らはちょうど花火のように、刹那の恋と知って真剣に身を焦がす。
    ロマンスそのものが好きで、そこには謝罪会見だの自己責任だのを求める風潮さえない。羨ましいほど個が確立している。その際立った存在がジョージだ。
    子どものような希望と楽観主義にあふれ、世界を変え、店に泊まる人々を変えることが出来ると信じている。こんなカッコいい大人になりたいものだ。
    最近ロマンを忘れているなぁというひと、ぜひこの本を読んでみてね。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      33000イエン?著書のサイン入り??
      んー判らない、、、ひょっとしたらタイプミス?
      nejidonさん
      33000イエン?著書のサイン入り??
      んー判らない、、、ひょっとしたらタイプミス?
      2020/12/11
    • nejidonさん
      猫丸さん。
      コメントをいただいて再度確認しましたが、
      価格は下がっておりません・(笑)
      なんというか、悪意を感じますね(+_+)
      そ...
      猫丸さん。
      コメントをいただいて再度確認しましたが、
      価格は下がっておりません・(笑)
      なんというか、悪意を感じますね(+_+)
      そうだ!追悼の達人がとても面白かったので、猫丸さんにもぜひぜひ!
      2020/12/12
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      世の中には、訳の判らないコトをされる方が居るのですね、、、
      nejidonさん
      世の中には、訳の判らないコトをされる方が居るのですね、、、
      2020/12/12
  • 実在する書店 シェイクスピア&カンパニーを舞台にした、大人の青春物語。残念ながら店主のジョージは天に召されたとのことだが、今は娘さんが継がれているそう。
    いつかパリに訪れた際には、是非見てみたい。

    この本の他にドキュメンタリーもあるとあとがきにあったので、そちらも気になるところ。
    今は無くなりつつある善意を信じる人間力のようなものを、見せつけられたように思う。

  • 舞台は、ヘミングウェイの『移動祝祭日』にも登場したパリの書店「シェイクスピア&カンパニー書店」から名前を受け継いだ実在の書店。つまり、これはノンフィクション。
    コミュニストであり、理想主義者である店主ジョージ・ホイットマン(もちろん実在の人)の「見知らぬ人に冷たくするな。変装した天使かも知れないから」と言うモットーの下、店に住み着く若者たちが後を絶たず、この本の著者もカナダからたまたま転がりこんだ元新聞記者。
    こんな若者が集えば当然悩む、共に悩む。恋、人生、さらに文学について。そして、もちろん、この風変わりな店主はその悩みに対して答えてなどくれない。
    でも、えてして文学とはこんなところで生まれるのかも、そして、こんな風にして生まれた文学は実は結構タフなのかも。ふとそんなことを考えた。

  • 題名や帯コメントから受ける印象とは、少し異なる読了感。
    シェイクスピア&カンパニー書店の破天荒な店主とそこに集まる人間たちの物語。社会の渦のなかに馴染めなかった人が多く集まる。
    正直物語全体から清潔感が感じられなかったり、日常の中で起こる出来事に少し違和感を覚えたり・・・と、あまり楽しめるタイプの本ではなかった。

  • セーヌ川を挟んでノートルダム大聖堂の向かいにある、誰にでも会え、本が読め、美人だって見られる小さな書店、作家を目指す若者の溜り場での日々、読み進む内に書店の中にワープする。

  • 本好きにはたまらない良書でした。言葉にすると、素晴らしさが半減してしまいそう!とにかく読んで欲しい一冊。実在するというのが、素敵です。この素敵な書店を私たちに向けいつも開けておいてくれる、ジョージに感謝を捧げたいです。

  • ジョージ・ホイットマン「与えられるものは与え、必要なものは取れ」「見知らぬ人に冷たくするな変装した天使かもしれないから」

  • 人間の美しさ、おかしさ、理不尽さをパリの街中心に描かれた物語。もともとカナダのメディアの社会部記者だった筆者の視点がいいスパイスになっています。

    映画を「読む」感覚。とても不思議な体験でした。

  • たまたま深夜のBSで見た番組でこの書店のことがとりあげられていたので読んでみた。

    作家を夢見る文無しの若者や、自称だけの詩人や、行きずりの旅人たちが自由に寝泊まりできる伝説的な書店。
    文学を愛する店主のジョージ老人は、若者たちを支援する意図で来るものを基本的には拒まない。

    「見知らぬ人に冷たくするな。変装した天使かもしれないから」
    書店に掲げられているジョージのモットー。

    こういう店、今の日本でやろうとしても眉を顰められてすぐに排除されるんじゃないかなとか思うんだけど、これがパリでは受け入れられて観光名所にまでなってる。
    社会のどこにも居場所がない人たちをゆるっと包み込むような場所。
    支援施設とかともまた違う距離感で。

    多分だいぶ清潔感とはほど遠い感じなんだけど(というか南京虫とか相当ヤバそうなんだけど)その雑然がまたなんというか、昭和のトキワ荘とか、全共闘時代の学生寮みたいなイメージとちょっと重なったりしてまた面白い。
    それぞれ事情を抱えた登場人物たちの恋や友情のドラマもあって、なんだか青春群像物語のような雰囲気もある。

    まさに十人十色、それぞれの人生がある。
    はみ出したり、適応できなかったり、自分さがしの途中だったり、とにかく型どおりの人生とは違うんだけど、それでもいいんだな、と思わせてくれる。
    お金持ちになったり立派な家を持ったりしなくても、一人でだって人生は楽しめるし、愛すべきものは自分で見つけるしかないんだろうなとも。

    ノンフィクションなんだけどすごく物語に動きがあって、エピソードもそれぞれ面白いので楽しく読める。
    なんといっても舞台であるパリの街の魅力も大きい。

    夢のようなパリでの時間、でもだんだん現実が迫ってくる。
    いろんなままならないこともある。すれ違いもある。不運だってある。
    だけど、ラストは映画のようなすてきな結末を迎えて、とてもうれしくなった。
    ハッピーエンドまでの展開がすごくいいの。

    パリには一度だけ旅行で行ったけど、古いものと新しいものが混在しているのが本当に魅力的で、さすが世界一の花の都、って印象だった。
    見るものがたくさんありすぎて。

    またパリに行って絶対この書店をのぞいてみたい!
    と思いました。

    いい本だったー。

  • 旅してる気持ちになるよ、って進めてもらったこちらの本。
    読み終わってから実話だと知ってびっくり!

    本当に自分がパリで放浪してる気持ちになった。

    読んでる途中、仕事してたり家事してたりすると、「あぁ、早く本の中に入りたい」みたいな気持ちになってて自分でびっくり。

    本を開くたびにすぐパリに飛べちゃう。

    ほっこりできて、旅してる気持ちになって、夢追い人の仲間入りもできる。

    書店のオーナー、ジョージの考え方も本当に素敵。(変わり者だけど)

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著者プロフィール

1971年カナダ生まれ。作家、ジャーナリスト。99年パリに渡り、シェイクスピア・アンド・カンパニー書店に滞在した経験をもとに本書を執筆。他に『ギロチンが落ちた日』など。フランス、マルセイユ在住。

「2020年 『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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