価値の探究者たち

  • きんざい
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784322130263

感想・レビュー・書評

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  • 【みきまるさん株式投資本オールタイムベスト2017年度版第12位】

    一般社団法人金融財政事情研究会(きんざい)という
    珍しいところから出ている本で、著者のこともまったく知らなかったが、
    神レベルで素晴らしい本。
    名著「マーケットの魔術師」にも並ぶ、希有なインタビュー本だ。

    第1章 ウォルター・シュロス
    ご存知、“グレアム・ドット村のスーパー投資家“でバフェットの兄弟子。
    2012年に95歳で逝去。

    「大恐慌の間に父は教訓を得て、それを教えてくれた。
    “自分の身にひどい災いが降りかからなかったら、それだけで儲けたようなものだ”。
    私はそれを心に刻み込んだ。だから、私がウォールストリートで働き始めたときの
    目標はカネを失わないことだったんだ」

    「ベンは単刀直入で明晰だった。多難な大恐慌を切り抜けた経験から、
    彼の中心的な投資戦略は、株価が下落してもなんらかの保護策があるような銘柄を探す
    というものだった。」

    「ベンジャミン・グレアムという先生から習った部分が大きいのは当然だが、
    いまの自分を4年間の従軍経験が形作っているという思いもある。
    マーケットで生き残ることは、戦場で生き残ることと本質的に同じことだ。
    できるだけ損失を出さないようにして生き残ることさえできれば、
    結果的にいくらかの財産ができているものさ」

    「もう一つ学んだことがある。人生は短いものだから、自分に自信を持って、
    嫌いなことに時間を使うのではなく、好きなことに粘り強く取り組めばいい。
    それが財産を生んでくれるのさ」

    『ベンジャミン・グレアムと証券分析』という名の短い回想録で、シュロスは次のように回想している。
    「ベン・グレアムは独創的で、明晰な思想家だった。高い倫理観を持つと同時に、謙虚で控えめだった。彼に比肩するものはいない…。ともかく物事をシンプルにとらえようとしていた。アナリストが投資判断の際に、難しい数字を用いることには反対していて、算数レベルのものと多少の代数で十分だと考えていた」
    「『証券分析』の第一版の前書きを改めて読んで、ベンの考え方に改めて感銘を受けている。まず、概念、方法、基準、原則、そして何よりも論理的な思考に関心を寄せている。私たちはセオリーを重要視するが、それはその完成度という点だけではなく、実務に活かせるかという点を含めてのことだ。従うのが難しい基準や、使うのが大変すぎて効用と見合わない技術的な方法は採用しない」
    「ベンは大恐慌で痛い目にあったこともあり、値下がりリスクから身を守ることができる投資を心がけていた。値下がりリスクを避けるための最善の方法は、そうすれば損を回避できるであろうと思われるルールをいくつかか整備しておくことだ。」
    「投資の世界において、感情に影響されず、常に明晰な頭脳を働かせることは至難の技だ。恐れや欲望は往々にして私たちの判断を歪める。ベンはそれほど金に執着しなかったので、他の投資家に比べれば感情に左右されることは少なかった」

    「私はストレスを好まず、それを遠ざけた。だから、マーケットのニュースや経済データに過度に注目することはなかった。…私はマーケットでのタイミングの取り方も上手ではなかった。マーケットの次の動きをどのように予想するかをよく質問されたけど、彼らの予想と私の予想は同じ程度の的中率だったと思うよ」

    シュロスの戦略は、株の本来の価値と、現在の株価の差がもたらす安全域にある。この安全域が大きいほど、シュロスはハッピーというわけだ。とはいえ、割安になった株が本来の価値を反映する株価に戻るには時間がかかるため、忍耐も必要になってくる。
    「私の平均的な株の保有期間は四年から五年だ。それだけの時間があれば、安値になっていた株価も本来の価値を反映する」
    「株価が運転資本を下回る金額であれば、その差は投資家にとっては一種の保険だと考えてもいい」

    他人の資金を運用することは、とても責任が重いことだとシュロスは言う。だから、自分にとって心地よい状況にして、夜もしっかりと眠れるようにしておくことがきわめて重要だ。

    「うまくいかなかったとか、もっとうまくいったのにとかいって悔やんでも仕方がない。人生において大事なのは、次のことにとりかかることだ。私の目標は損を抑えることなのだ。すると、いくつかの銘柄の株価が上昇してくれれば、複利効果でリターンは上昇するものだ」

    「投資家になりたいのであれば、自分自身の長所と短所を知っておくべきだ。次に自分自身の投資戦略を工夫する。この投資戦略は複雑なものではダメだ。複雑だと、ゆっくり眠れなくなる!株は企業のビジネスと同じだということを覚えておこう。投資判断の前には企業の財務状況を理解しておく必要がある。しっかりと意思を固めた後は、自分の考えが実現するまで持ち続けるよう勇気を持つことだ。マーケットの動きに自分の感情が影響されないようにしなければならない。投資は楽しく、挑みがいのあるもので、ストレスと不安を感じるようなものであってはならない」

    「いつも50から100銘柄に分散投資をしていた。そうすると、そのなかの一銘柄が私に反抗したとしても成功を収めることができるからね。心の持ちようはウォーレンと私とでは異なっている。多くの投資家はウォーレンのようになりたいと思っているようだが、彼はアナリストとして優れているだけではないということを認識すべきだと思う。彼は、人に対してもビジネスに対しても優れた判断を下すことができるのだ。私は自分の能力の限界をわきまえている。だから、自分に心地よい方法で投資するのだ」

    「投資というのはアートであり、論理的で感情に左右されないものであるべきだ。私たちは一般的に投資家がマーケットの状況に影響されてしまうことを知っているから、できるだけ合理的に振る舞うことで優位に立とうとする。グレアムもいっているよ。“マーケットはあなたに奉仕するためにある。あなたを導くものであってはならない!”」

    最後もバフェットに締めてもらおう。

    「ウォルターは、彼が扱っている資金は客からのものであることを決して忘れることなく、損失を出さないように細心の注意を払っていた。彼は首尾一貫していたし、自分のことを理解していた。預かる資産を減らしてはいけないし、投資対象としての株で損を出すわけにもいかない。この考え方から、安全域という考え方が生まれたのだ。ウォルターは最大限に分散していた…彼は、その企業オーナーであれば期待するであろう株価よりもずっと安い株価で売られている銘柄を見つけ出す方法を知っていた。これが、実は彼のやり方のすべてなのだ。一月であるとか、月曜であるとか、大統領選挙の年であるとかはどうでも良かったのだ。もしそのビジネスに一ドルの価値があるなら、40セントで買えば、その後にいいことが起こると彼は言う。そして、彼はそれを何度も何度も繰り返したのだ。彼は私よりもはるかに多くの株を持っているが、個別の株の背景にあるビジネスにはほとんど興味を持っていなかった。つまり、私がウォルターに与えたものは多くはないということだろう。だれも彼に影響を与えることができないということも、彼の強さの一つなのだろう」

    第2章 アービング・カーン
    グレアムの証券分析の授業の初期の受講生であり、
    1931年にはグレアムの補助教員になった。2015年に109歳で逝去。

    1930年代が大変な時代であったことは間違いない。
    しかし、カーンは前向きに振る舞い、いつも忙しく頑張っていた。彼の考え方はこうだ。

    「どんなときでも何かやることはあるものさ。ちょっとだけしっかりと物事を観察し、
    クリエイティブになって、柔軟に考えればいいだけのことだよ」

    「大恐慌はすべての船を沈める大嵐のようなものだ。
    正しい接し方と、何に注意を払えばいいのかを知っていれば、
    そんな中でも儲けを出すことはできる。恐慌時にも財務状況がよく、
    現金しか持たない企業があったのだ。例えば輸出を中心とする商社の中には
    大恐慌にもそれほど影響されていないものもあった。
    それにもかかわらず、株価は下がっていた。
    …つまり、環境に適した投資モデルがあれば大丈夫だったということさ」

    不況の時や、マーケットで株価の修正が起きている時に、
    バリューという観点からホットな投資アイデアが生まれると、カーンは必ず株を買った。

    「本当の投資家は弱気になったりしないものなんだ。
    だってマーケットが下げている時にこそ、バリューのある株が買えるのだからね!」

    カーンは、投資の成功には広範なテーマでの読書に加え、忍耐、規律、
    そして猜疑心が必要だと考えている。割安さに重きをおくバリュー投資というやり方は、
    当初はマーケットの多くに理解されない。
    時間が経つにつれてマーケットが展開していうことを待つ忍耐が必要とされる。

    自ら考えるという規律は極めて重要だ。
    他人からどの株を買うのがいいかアドバイスされてばかりいると、怠け者になってしまう。賢明な投資家は必要な時には猛勉強するし、
    投資判断をする際にはしっかりと財務数値を読み込むといった努力を怠らない。
    規律こそ、投資家独自の優れたアイデアのもとなのだ。

    【賢明な投資のためのシンプルなルール】

    ①将来の価格の予想は、最近の、あるいは直近の株価を使って行ってはならない。
    あなたがそれを使って予想する前に、他の投資家が既にそうしているということを
    忘れてはならない。

    ②株価は不安、希望、信用できない予測で形成されている。
    平均的な価格よりも良い価格で買わないことには、
    投資資金は常にリスクにされされると考えよう。

    「酒とたばこはいけない。栄養のあるものを食べなさい。活動的でいなさい。世界中の人に会って刺激を受けなさい。たくさんの書物を読みなさい。特に今は実現していなくても、将来、可能となる物事について書かれているものを読みなさい。心をシャープにして、行動的にしておけば、必ずいいことがあるものだよ」

    「人はみな経済や世界情勢を憂慮している。2008年の金融危機と、2011年のヨーロッパのソブリン危機以降は特にそういう傾向が強い。人生は常に前に進んでいるのだから、人はもっと前向きになることを学んだほうがいいと思う。新たな政策や、科学的な新発見が素晴らしいサプライズをもたらすことだってあるのだからね」

    「世界は複雑きわまりなく、メディアは宣伝で溢れている。必要でもないのに買うのはそろそろやめにしよう。本質に着目しよう。そうすると長く幸せに生きられるよ。人生の目標は幸せになることなんだ。だから、そのために意味のあることだけをしようじゃないか!」

    第3章 トーマス・グレアム・カーン
    アービング・カーンの息子。若い頃から父のもとで
    「カネを働かせることが重要で、カネのために自分が働いてはダメだ」
    ということを学んできた。

    「父にとって、投資は仕事でもあり、趣味でもあったと思う。…
    父は、もし自分の運命をコントロールしたいなら、目先の楽しみのために無駄遣いするのは後回しにして、カネを貯めて賢く投資しなさい、と教えてくれたよ」

    「感情に左右されることは悪いことではないのだけれど、投資の世界では
    自分自身のぶれない基準を持たなければならない。常に自分の心の動きに
    気をつけていれば、市場に影響されることはない。時には何もしないことが
    最良の対応になることもある。でも、市況が良くて、みなが“買いだ”といっているときにそれに流されないようにするのは、言うは易し、行うは難しだよ。同じように、マーケットが危機に瀕していて、みなが“マーケットは死んだ”と言っている時は、逆に買う勇気を持たなければならない。逆張り投資家であるコントラリアンになるためには、いろいろな場面で修練が必要なのだ!」

    「みなとは反対の投資をしているうちに、投資とは科学ではなくアートだと考えるようになった。もし投資が数字や計算だけで出来るなら、理屈の上では最新のコンピュータプログラミングを用いれば、正しい評価方法を入力することで常に成功することができるだろう。でもそうじゃないよね。だから、投資はよりアートの近いのだ。適切に心を保ち、企業を理解するというアートなのだ」

    「ベンと同じく、私たちも価格と価値の差を狙いに行く。
    でも、価値の定義や、眠っていた価値を健在させる触媒が何かについての考え方が、
    ベンの思いと一致しているとは限らない」

    「ある銘柄が私たちの評価を下回る株価で取引されていて、十分な安全域を確保できるようなら、その銘柄をより深く分析する。その銘柄が、コンサルタントの分類する大型なのか、小型なのか、エマージングなのかはどうでもいい。私地はどんなカテゴリーであっても、
    強くて、値下がりリスクを抑えることができる銘柄に興味があるんだ」

    「直近の高利益よりも、企業が健康であることの法が優れた安全域をもたらすのだ!
    しっかりしたバランスシート、強固な運転資本、低い財務レバレッジを持つ企業の法が、
    借り入れを多くすることで目先の利益を増やす企業よりも好ましい。
    事実、近い将来の予想利益が低くとも、場合によってはゼロであっても、
    バランスシートが健康な企業に投資することがある。
    こういう企業は結果的にはバリューが高くなるのだ」

    「私たちはこういう企業を“地上に落ちた天使”って読んでいるよ。
    こういう天使たちは良い顧客と財務内容を持っているのだが、
    短期的になんらかの課題を抱えている」

    投資家はバリューのある株を保有する際に、短期的な時間軸で物事を判断してはいけない。数カ月あるいは数年間で株価が上昇しないからといって、その銘柄が良いパフォーマンスを生まない株だとは言い切れない。バリューかぶはその保有期間の大部分においてマーケット全体に対して遅れをとることが多い。しかし、最終的にその本当の価値が株価に反映された時、マーケット全体に比べて魅力的な年次のリターンに投資家が驚くことも良くあることだ。

    「割安株は何も起きなかったら、割安な株のままだ」

    「私たちは常に、この価格が低下した株を上昇に転じさせる触媒は
    なんなのかを考えているのだ。その答えは、私たちの経験、知識、洞察力といった
    質的なものから生まれてくる。この質問の答えに正しいとか間違いとかいうことはないが、それを考えることは、われわれのリサーチのプロセスの重要な一部分となっている」

    「投資とは資産を増やす機会を探すことであって、伸びていく企業を探すことではない。
    …何が正しいのかとは聞かずに、何が間違っているのかと聞くのだ。
    状況が壊滅出来ではなく、株価はかなり売り込まれているということは、
    値下がりリスクは限られていて、値上がり期待がかなりあるということを意味する。
    バフェットな言うように、“よい値で売ろうとしないこと。
    安く買っておけば、それほど売値が良くなくても結果がついてくる”というわけだ」

    「本当の投資家はいくつかの景気循環を経た後に、
    福利年率のリターンが長い期間にわたって一貫しているかどうかを試される。
    だから、投資哲学と投資戦略の一貫性が大事なのだ。
    もちろん、長い間、戦いの場に立ち続けるための健康な体も必要だ」

    「読書をしないで投資アイデアを考え出す投資家を見たことがない。
    父は何千冊もの本を読んでいたけれど、なかでも科学の本はお気に入りだった」

    「安全域に配慮すること、人気はないけれど潜在的に価値のある株を
    長期にわたって保有し続けることを常に心に留めていれば、
    私たちの保有株は最終的にはまた人気が出るだろう」

    第4章 ウィリアム・ブラウン
    若いときからグレアム、バフェット、マンガーたちと付き合いのあった
    トゥイーディー、ブラウン・カンパニーのマネジャー。

    「よいビジネスをしている企業を探し出すことで、その企業から長く恩恵を受けられる。
    よいビジネスは自ら成長し、環境に適応し、利益を再投資してますます大きな利益を生む。
    優れた人材と資本を持ち、競争力を保っている限り、投資家に常に利益をもたらしてくれる


    ウォーレン・バフェットも言っている。「よいビジネスを普通の価格で買うほうが、
    普通のビジネスを安く買うより、よほどいい」

    「株式投資における本当のバリューは、長期にわたって投資家に利益をもたらす、
    優れたビジネスを買うことを意味するのだ」

    「マーケットを出し抜いたり、好機をとらえようとしたりするのではなく、
    客観的でしっかりした理由に基づいて投資することに集中すべきではないか」

    「保有株から得られるリターンの80%から90%は、その株を保有している全期間のうちの
    2%から7%という短い間に稼ぎ出されている。そのほかの期間において、株はほんの
    少しのリターンしか生み出さない」

    「投資に置いてやるべきことは、生き残る確率が高い企業を見つけ出すことだ。
    見つけ出したら、一定のルールで株価が買うに値するかどうかを評価する。
    そうすれば、正しい結論に行き着く可能性が高くなるよ」

    第5章 ジャン・マリー・エベヤール
    フランス生まれのバリュー投資家。
    資産運用業界のプロたちから非常に尊敬されている人物だそうだ。

    「バフェットがかつて、バリュー投資の考え方は、すぐに理解できるか、
    まったく理解できないかのどちらかしかないと言っていたと記憶している。
    人はバリュー投資家かそうでないかのどちらかであって、
    徐々にバリュー投資家に変わっていくということはありそうにない」

    「私が成長株投資を楽しめなかった理由の一つは、それが世界には一貫性があり、
    かつ安定していると仮定していることにある。それは違う!
    バリュー投資であれば、将来は不確実であるという事実を認識することが許される。
    大きなリターンを出すことよりも、損を避けることを第一に考えることが可能なのだ」

    「もしバリュー投資がうまくいくのなら、なぜバリュー投資家はこんなに少ないのだろう。
    これには人間の心理が関わっていると考えている。バリュー投資家であるなら、
    長期投資家でなければならない。長期投資家であれば、短期的には仲間の投資家や
    ベンチマークよりもパフォーマンスが劣ることを受け入れる必要がある。
    それは心理的にも金銭的にも苦しみに耐える覚悟を持つということだ。
    簡単に祝福されることなどないことを受け入れる必要がある」

    「人間は完全ではなく、間違うこともあるから、謙虚でいることは大事だ。
    必要以上に高値で買わないために、投資に当たっては十分な安全域を確保する
    注意深さも必要になる。…投資が実を結ぶまで長期間待つことができる
    『忍耐力』を持たなければならない」

    「投資には忍耐が必要であり、特によい結果を求めるなら、途方もない忍耐が必要になる」

    「徹底的に考え、ビジネスの強みと弱みをそれぞれせいぜい3つか4つ以内に
    集約することが必要だ」

    「私は知り合いのアナリストたちに、単純な投資アイデアで金を儲けることは
    決して悪いことではないと話しているんだ。バフェットは、『私はわざわざ2mの
    バーを飛び越えようとはしない。それよりも軽くまたげる30cmのバーを探すよ!』
    と言っている」

    「保有銘柄を少なめにする集中投資は上げ相場の発想だと思う」

    「バリュートラップは、投資期間がきわめて短いトレーダーや、
    投機筋が陥りがちなものだと思う。本質的価値が変わらないのに、
    ただ株が下がっているのなら、それは相変わらずバリュー株だと言える。
    株価が本質的価値を反映するまで待てないからといって、
    単純にバリューとラップという概念を持ち出すのはおかしなことだ。
    正しい分析をし、忍耐強く待っていれば、株価は必ず本質的価値を反映するはずだ」

    「何を買うかではなく、何を買わないかが重要なときもある」
    →1988年の日本株、2000年初頭のハイテクバブル

    「将来は不確実なものだから、安全域の重要性を忘れてはならない」

    第6章 フランチェスコ・ガルシア・パラメス

    「ほかの投資家が見向きもしない株を保有し続けるのは並外れた忍耐力が要求される」

    「しかし、ファンダメンタルズがよい方向を示してくれているのなら、
    忍耐は必ず報われる。良いときも悪いときも乗り越え、迷わずに投資戦略を実行し続けて、
    初めて長期的なリターンを最大化することができるのだ」

    パラメスは、サー・ジョン・テンプルトンの言葉を大事にしている。
    「投資をするにあたって最も危険な言葉は、“今回は前回とは違う”である」

    「割安な株を探すのではない、よいビジネスを探すことが重要だ」

    「売りたたかれているビジネスへの投資は破滅につながることがある。
    よいビジネスへの投資にはその心配はない」

    「ついトレンドに乗りたくなったり、話題になっているテーマを追い求めたり
    したくなってしまう。でも重要なのは目先のことではなく、今後10年間にわたって
    そのビジネスをうまくやっていけるかということだ。
    もしうまくやっていけるのであれば、辛抱強く待てばいつかリターンを得ることができる。
    私も待ち続けて、そろそろ15年ほどになる銘柄がいくつかあるよ」

    「どのような時代であっても、EQ(心の能力の指数)はIQよりも重要なのだ」

    第7章 アンソニー・ナット

    「ブラックマンデーは、バリュー投資の効果を確認させてくれたようなものだ。
    割安になった株を買うこともできるし、
    割高な株を売ってトラブルを避けることもできるのがバリュー投資なんだ」

    「株式市場は短期的にはカジノと同じだという事実から目を背けることはできない
    …私は株式市場をカジノとして扱いたくないので、長期的に考えて買い持ち戦略を
    徹底するようにしている」

    「投資の終了時期を決めるのはタイミングではなく、バリューの有無のみなんだ」
    →価格が価値を最大限に織り込んだとき、あるいはビジネスの状況が
    悪化し始めた場合にのみ売却する

    「落ち着いた精神状態と、適切な投資期間があれば、後は他人の考えではなく、
    自分自身の考えで投資判断をすべき」

    「先頭をきって走っていようが、後からついて行こうが、それは本質的には
    どうでもいいということだ。大事なことは最後まで走りきるタフさを持つことと、
    ひたすら続ける勇気を持つことだ」

    第8章 マーク・モビアス

    「投資判断をするときに決して他人のアドバイスを受け入れてはならないということだ。
    常に自ら学んだことに基づいて判断し、自ら収集した情報にのっとって行動する。
    それで状況が悪くなったとしても、少なくとも自らの失敗から学ぶことはできるからね」

    「ジョン・テンプルトンは長期で考えること、ファンダメンタルズに注目すること、
    独自の考えを持つことの大事さを教えてくれた。投資の世界には群集心理が働く。
    よりよい結果を出すために、その他大勢と異なる選択をすること。でも一方では、
    判断を下す前に状況を怠らないことを勧められた」

    「だまされてしまった後は、自らの失敗から教訓を得て、気持ちを切り替えて
    前に進むしかない。…必要なのは思い込みを持たず、事前調査を入念に行い、
    ときおり危機に見舞われることはあったとしても、
    世界は日々良くなると信じることだけだ」

    「よい投資家になるために必要なのは、心を閉ざさず、世界で何が起きても
    受け入れる心の準備をしておくことだ」

    「物事は変化する。重要なことはマネジャーとして、
    メッセンジャーとして、投資家として、流動性と柔軟性を維持することである」

    第10章 阿部修平

    バリュー投資は阿部にとって、投資の真の価値と市場価格との間の
    裁定取引の機会を探し当てるようなものだ。

    「こう自問すべきだ。このビジネスが儲かる理由は何か。このビジネスでいちばん大事な
    要素は何か。そのうえで経営者の視点から、ビジネスの価値がどれくらいなのかを検討する。投資分析とはアートと科学、その両方なのだ」

    「明日は、昨日と今日から連続する流れである。その流れの中で毎日常にベストを尽くすこと、決して気を抜かないこと、これが重要なのだ」

    第11章 ヴィーニー・イェ

    「結局、自分が満足できる価格を見つけることが重要で、他人がどう考えるだろうかとか、
    マーケットはどう反応するかなんて気にするべきではないんだよ」

    「投資をするには、幅広く、かつ、さまざまな側面から物事を見る心構えが必要だ。
    投資対象となる銘柄を探す場合、最初に考えることはキャッシュフロー状況だ」

    「優れた投資家と普通の投資との分かれ道は、まさに再投資のスキルにある。
    優れた投資家は常に再投資の準備をしていて、複利効果を働かせることができるんだよ」

    「冷静で忍耐強い性格なのであれば、バリュー投資が向いているだろう。
    もし頭がどんどん回転してしまい、ともかく動いていたのであれば、
    トレード回数を増やして勝負する投資スタイルが向いているだろう。
    投資は型にはめられたものではない。投資手法に対する自分の適性を理解し、
    時間をかけ、経験を積みながら投資方針を発展させていくことが求められるのだ。
    もし性格に合わない投資をしていたら、いつも自分自身と戦うことになってしまう」

    第12章 チア・チェング・フィェ

    「俊敏であるために、できるだけ小さくあれ。
    強くあるために、できるだけ大きくあれ」


    まとめ

    結局、投資はたのしくあるべきであり、かつ、チャレンジングであるべきだ。
    ストレスや不安になるものではない。不確かな世の中にいてバリュー投資を実践するのは、
    実際のところ、穏やかな心を保つための一つの手段である。
    安全域にフォーカスし、長期的に考え、忍耐強くあることで、
    時間をかけて安定的な投資を実現するというゴールに至る。
    そのプロセスにおいて、投資家は人生における幸福感や満足感を得ることもあるだろう。

    最後はバリュー投資家の父ベンジャミン・グレアムの言葉で締めくくろう。

    「投資家にとっていちばんやっかいな存在、
    最も悪しき敵でさえあるものは、自分自身であろう」

  • バリュー投資の達人達のインタビュー。読み応えあり。

  • 著者はパンローリングの「バフェット合衆国」も書いていて、単なるインタビューだけではなく、生い立ちや投資スタイルが形成された過程を丁寧に書かれています。
    いずれもバリュー投資の使い手であるファンドマネージャー12人ですし、なかなか日本では取り上げられない投資家も多く、貴重な本と思いますね。
    通常こういう本はアメリカ人中心なんですけど、フランス人、スペイン人、イギリス人、日本人、中国人と多岐にわたってますし、新興国市場を主な投資先とするグローバル投資家も取り上げられていますので、新興国に対するバリュー投資という観点でも参考になる面もありました。

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