奇跡のプレイボール: 元兵士たちの日米野球 (ノンフィクション知られざる世界)
- 金の星社 (2009年12月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
- / ISBN・EAN: 9784323060842
作品紹介・あらすじ
数千万の尊い命を失った太平洋戦争-戦争という時代のうずにのみこまれた日米の元兵士たちが、60年以上の時を経て、ハワイに集った。戦後、多くを語らなかった元兵士たちが、この試合に望んだ理由とはなんなのか。そして、国という壁、言葉という壁をこえ、「野球」というスポーツで、ともに元兵士たちが得られたもの-それは一体なんだったのか。戦争とは何か、平和とは何か、生きるとは何かを問う、奇跡のプロジェクトの物語。
感想・レビュー・書評
-
う~ん、やはり実話に勝るものはないなぁと、今更にして。
アメリカではいまだに、日本の真珠湾攻撃で戦争が始まったと思い込んでいる人が
大多数なのだと、この本で知ることになった。
このあたりは日本人の認識と相当ズレがあるが、自国民さえ洗脳してしまうのが
勝者の歴史であり、論理なのだろうね。
同じように、自分たちが原爆を落としたことで戦争を終わらせたと思っているようだし。
相手国を憎み続けてきたという自分の人生に区切りを付けたくて、
日米のおじいちゃんたちがハワイに集まったのだ、なんと野球をするために。
武器をバットとグローブに持ち替えての「日米スーパー親善野球試合」だ。
この一冊の中に、試合実現までの様子が事細かに描かれている。
著者・大社氏の「かつて命をかけて戦った人通しが、何人集まってくれるのか」と言う不安、
そしてその後のメンバー集めと、球場探しと、助っ人に出会うまでの様子と、メンバーそれぞれの物語と。
肝心の試合の部分は思ったよりあっさりで(だってボロ負けだもの・笑)多少物足りなさも
感じたが、それはまぁ仕方がない。
その後の人生を変えるほどの熾烈を極める戦いだったのだ。
どうしても戦争体験の記述は多くなる。
抱えきれない思いを吐露する場面ほど、むしろ読みごたえがあるというもの。
「もともと相手に憎しみがあったわけじゃない」「生きていて良かったね」
と語り合うところは、万感せまるものがある。
生きていなければ、平和でなければそんな言葉も出ない。
エントリーして試合を楽しみにしていたものの、亡くなってしまった人もいたという。
その人の遺影も持参しての、ハワイ行きだった。
国立太平洋記念墓地に両国選手で祈りを捧げる場面でも、遺影を抱いている。
「愛は生きているうちに」と言ったのはジャニス・ジョプリンだったか。
許しあい・理解しあうのも生きていてこそ。
それがハワイの青空のもとで行われた野球を介してのことだったというのが、
何だかとても清々しい。
厳しい時代を生き抜いた日米の兵士たちの話に、平和を守り抜く難しさと義務を
ひしひしと感じさせる一冊だった。
第56回青少年読書感想文全国コンクール課題図書。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ことの始まりは2006年11月。大社(おおこそ)さんのオフィスのポストに、見覚えのない国際郵便が届いたのだ。おそるおそる封を切ると中には一通の手紙とDVDが…
それは、30年ぶりに連絡を取り合う中学校時代の友人から届いた依頼。アメリカで働く友人の取材したお年寄りの野球チーム“Kids & Kubs"が日本人と野球の試合をしたいと言っているというのだ。戦争が終わって数十年、野球でその決着をつけよう!と。
さっそくフロリダに飛び、メンバーに会った大社さんは、日米のお年寄りによる親善試合実行に動き出す。まずは選手集めだが、意外に難航して…
弟56回青少年読書感想文全国コンクール中学校の部課題図書
2007.12月、ハワイにおいて日米両国のお年寄りたちによる野球の親善試合が行われた。かつては、敵として戦い、戦争によって家族や友人を亡くした者たちが、今武器をバットとボールに替えて、エールを交換し合う。
「奇跡の…」とあるけど、本当にいろんな意味でなかなか実現が難しい(その分意義深い)プロジェクトだと改めて思います。
お互いに戦争の波に巻き込まれ、もがき現在まで生き抜いた男たち。憎むことでしか、あるいは忘れることでしか生きるすべがなかった者たち。すべてを無にして、互いに赦しあい、分かり合うことはムリでも、共に過ごすことでしか得られなかった何かがあるのでは思いました。
-
太平洋戦争で戦った日米の元兵士たちが、60年以上の時を経て、ハワイに集った。戦後多くを語らなかった元兵士たちが野球の親善試合に臨んだ理由とは…。戦争、平和、そして生きるとは何かを問う、奇跡のプロジェクトの物語。
第二次大戦を意識するこの時期、図書館に展示されていたので読んでみた。日米の戦争体験者の複雑な思いがよく描かれていたが、映像化が前提の書き物だけにやや物足りなさも。TVカメラを回していたNHKかTBSが放映したのだろうか。
(Ⅽ) -
太平洋戦争で戦った日米の元兵士たちが、戦後、野球で対戦して和解する。いい話だ・・・ということにしたかったのだろうが、「日本のチームと試合がしたい」と言い出したアメリカ側のシニア野球選手はともかく、日本側は従軍経験のある選手を公募したにわかチームだ。そういうチームがハワイに行って、真珠湾などにも立ち寄りつつ、アメリカチームと親善試合をするんだから、ほかの結論が出ようはずもない。
実話だそうだし、誰も悪意はないのだけれど、プロデューサーの意図が透けて見える白々しいテレビのドキュメンタリーを見ているような気分になって、しらけてしまった。だいたい本書の大半を占める、親善試合を実現するための苦労の数々は本題(?)と別に関係ないし。 -
戦争の話が思っていたより多かった。試合ができず亡くなっていく方も。戦争体験者が高齢化している。それだけ平和が続いていること。戦争を忘れず平和であってほしい。
-
太平洋戦争を経験した男たちが半世紀ぶりに野球を通して向かい合う。
当時のことを思い、今を考える。
個人レベルで戦争を望んでいる人などいないということ。 -
【22年度 読書感想文「課題図書」中学の部】
2006~2007年の1年間に渡って行われた、元兵士による日米親善野球を綴った本。
昔、TVで日米親善野球のドキュメンタリー番組放送していたのを観た記憶があるのだが、おそらくこのことだろう(よく覚えていない)。
事前に話の内容が分かっていたが、改めて本を読んで「戦争に勝者はいない」ことを痛感した。
また、プロジェクトを実施するための努力と人とのつながりの大切さも感じることができる内容である。
そのため、課題図書としては書きやすいだろう。 -
本書は、松下政経塾出身で、
地域振興やNHKのスポーツ解説など多才な活躍をしてきた著者が、
自身も関わった日米の交流野球を描いたドキュメントです
太平洋戦争で、敵味方に分かれ戦った日米の元兵士たちが、
ハワイで野球の交流試合をするまでの経緯を描きます。
今も鮮明に残る戦争や帰還時の記憶
アリゾナ記念館で受けた衝撃
交流試合を、奇跡とも言える成功に導いた不思議な縁―
など印象深い記述は多くありましたが
とりわけ印象深かったのは、交流試合後の夕食会のエピソードです。
一人の人物が下した決断が、多くの人間の未来を切り開き、
それがさらに多くの未来へと繋がる
その様子に思わず目頭が熱くなりました
それぞれに抑えがたい想いを抱きつつも、
未来に向けて生きる人々の姿を
温かく、そして爽やかに描いた本書。
児童向けの書籍と敬遠することなく、
一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です。