- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784326101474
作品紹介・あらすじ
フッサールへの誤解はどこからくるのか?従来弱点と思われた実在・時間・自我などをめぐる錯綜を解き、「動的不均衡」としての日常の経験構造を鮮やかに取り出す。
感想・レビュー・書評
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徹底して経験に内在する視点に立ちつづけたフッサールの思想は、「経験」というもっともプリミティヴな場面にいっさいを還元する基礎づけ主義として解釈されることがすくなくありません。著者はこうした解釈に抗い、「経験」そのもののうちに自己を組織化・構造化していくダイナミズムを見いだそうとしています。
本書ではまず、「対象」をめぐるフッサールの議論を読み解くことで、フェレスダール以来かまびすしく論じられることになったフッサールのノエマにかんする諸解釈を批判し、フッサールにおいて「対象」が反復可能性に条件づけられていることがたしかめられます。そのうえで著者は、フッサールの志向的相関にかんする思想がフレーゲの記述理論的な枠組みとは異なっていることを明らかにしています。
また、こうした志向的相関性にまつわるフッサールの思想と「現象学的還元」という方法論との関係についても考察をおこない、「還元」が志向的相関性の意義をいわば明示的にとらえようとする方法であるという見かたが提示されます。ここには、「われわれは徹頭徹尾世界と関係しているからこそ、われわれがこのことに気づく唯一の方法は、このように世界と関係する運動を中止することであり、あるいはこの運動とのわれわれの共犯関係を拒否すること……であり、あるいはまた、この運動を作用の外に置くことである」と述べたメルロ=ポンティの「現象学的還元」の説明を、具体的に展開したものと見ることができるように思います。
さらに著者は、時間や他我、歴史や文化といった問題に分け入り、それらが「経験」というダイナミックなシステムにおいてどのように働いているのかということを、ていねいに考察します。
全体を通じて、フッサール現象学の全体像を「反基礎づけ主義」としてえがき出す意欲的な試みだと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示