創造性をデザインする: 建築空間の社会学

著者 :
  • 勁草書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784326654345

作品紹介・あらすじ

自発性を育む学校、アイデアが生まれやすいオフィス──人々の創造性を誘発しようとする現代的建築空間を社会学の観点から分析する。

私たちが日常的に利用する空間は今日、どのような問題意識と希望のもとでどのように設計され、私たちのふるまいや心理にどのような影響を与えようとするものなのか。フーコー派社会学の立場による学校建築・オフィスデザイン・公共空間デザインの分析から、現代的建築空間が創出するハイブリッドな「主体性」のあり方を明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  • 1990年代以降の日本における建築をめぐる言説から、学校、オフィス、公共空間のデザインを見ていく。リサーチクエスチョンは「建築空間を対象として、それが私たちの振る舞いや心理にどのような作用をもたらす技術として設計されているのか、またそうした作用の継続的な効果としてどのような主体性が喚起・生成されようとしているのか」である(p.287)。

    広範な渉猟によって浮かび上がるのは「人々のさまざまなアクティビティを喚起・誘発する、ヒューマンスケールのささやかな仕掛け(p.288)」が、これらのビルディングタイプのデザインにおける共通したトレンドになっていることである。これは「効率性や合理性をもっぱら重視する従来的建築計画に抗して進んできた(p.289)」ものではあるが、建築計画を批判してその先のポストモダンを目指すというよりは、従来の「近代」における建築計画等の蓄積を活用しつつアップデートを図るものであったとする。これらは「ふるまいの導き」という理念型としてまとめられる。

    そして、リサーチクエスチョンの後半にあたる「建築空間が構成しようとする主体性」は、次のようなものであると列挙する(p.291)。
    - 自ら場所を選び、動き、発見し、ものごとの新たな意味づけを自ら、あるいは協働的に生み出していく主体性
    - 他社のアクティビティの触媒となって、相互に公共性を喚起し合うような主体性
    - 自らの問題意識と心情を重視しsて、状況を共同的にそのプロセスに確かな意味づけを与えながら変えていこうとする主体性
    これらを総合するキーワードとして「創造性」が導出される(p.292)。

    ここまでの整理は、評者自身も言及された当事者として、内容にはほとんど合意であり、端的な整理だと思った。

    面白いのはここからで、著者は、このような主体性は、新自由主義(ネオリベラリズム)が要請する主体性とかなり重なり合うものであるようにみえる、という(p.272)。こうした主体性は「規制緩和、民営化、準市場化といった動向」を伴う「新自由主義」による「自律的なふるまいを導く今日的な「統治」の産物」であって、「人生における各種選択の責任を個人化して格差拡大を助長するもの」として批判されてきたものである(p.275)。

    つまり、上述のような建築のトレンドを牽引してきた言説の多くは、新自由主義に批判的であるにもかからわず、結局、新自由主義的な主体性を要請してしまっているというのである。著者はこの矛盾を「告発」したいわけではないというが、これは重要な指摘だと思う。

    著者も述べるように、こうした建築関係者の姿勢は、新自由主義的なガバナンスを社会的な趨勢として、前提として、設計プロセス的にいえば「与件」として、受容(あるいは受忍)しつつ、当の「ガバナンスがまさに要請するといわれる主体性(p.276)」を行使して内破することを指向するものではないかと思う。要するに「タクティカル」なのだ。

    畢竟、建築は権力のものであって、建築家はアーティストじゃない、だからタクティカルにやるしかないんだよ、とうそぶくこともできなくはないけれど、文句言いながら現状追認かよ、タクティカルな方法しかないのかよ、ストラテジーはないのかよ、と言われれば悔しい。

    上述したような、デザイン思考のできる創造的な主体性は、まさに評者自身が求めてきたものであるけれど、そうではない主体性のあり方を考えてみたいと思った。

  • 【図書館の電子書籍はこちらから→】  https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000126629

  • 第一章 主体性のハイブリッドな構成――建築空間の社会学的分析に向けて
     1 私たちの行為と建築空間
     2 行為を物理的にデザインする――建築空間への社会学的アプローチの現状
     3 ミシェル・フーコーの「権力の物理学」に立ち戻る――本書のスタンス
     4 主体性はどうデザインされているのか――本書の目的

    第二章 アクティビティを喚起する学校建築――「ポスト規律訓練」的学校空間の組み立てとその系譜
     1 学校とはどのような場所なのか――規律訓練の空間としての学校?
     2 学校建築の社会学に向けて――本章における研究のスタンス
     3 戦前における学校建築の定型化・画一化――戦後学校建築の前提条件
     4 「計画性」という希望――戦後の再出発と新たな定型化・画一化
     5 開かれた学校建築への期待――一九七〇~九〇年代前半
     6 アクティビティを喚起する学校建築――一九九〇年代後半以降
     7 「ポスト規律訓練」的学校空間における自由とは

    第三章 オフィスデザインにおけるヒト・モノ・コトの配置――「クリエイティブ・オフィス」の組み立てとその系譜
     1 「ハイブリッドデザイン」としてのオフィス
     2 能率と「流れ」への埋め込み――一九五〇~六〇年代
     3 創造性への注目と空間の多様化――一九七〇~九〇年代
     4 ワークプレイスという視点とハイブリッド化――一九九〇年代中盤
     5 創造的なアクティビティのデザイン――一九九〇年代後半以降
     6 創造的主体性とその棲み分け

    第四章 公共性の触媒を創り出す――公共空間のハイブリッドデザイン(一)
     1 都市開発の要所としての公共空間
     2 公共空間デザインの分析に向けて――本書における研究のスタンス
     3 現代的公共空間デザインの源流――ジェイコブズとゲールに注目して
     4 公共空間におけるアクティビティ誘発のディテール
     5 公共性の触媒を創り出す

    第五章 編集・自分ごと・戦術――公共空間のハイブリッドデザイン(二)
     1 公共空間をめぐる規制緩和
     2 公共空間を編集する――リノベーションとマネジメントをめぐる挑発的提案
     3 「自分ごと」と「織り込み」のデザイン――まちづくりワークショップの派生的展開
     4 自分で公共空間を創り出す
     5 公共空間に戦術を仕掛ける――タクティカル・アーバニズムとプレイスメイキング
     6 公共空間を創り出す主体性とその解釈

    終 章 創造性をデザインする
     1 アクティビティを誘発する建築空間
     2 創造性をデザインする
     3 規律訓練から管理へ?
     4 今後の課題――建築の社会学に向けて

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著者プロフィール

牧野 智和(まきの ともかず) 1980年、東京都生まれ。2009年、早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学、博士(教育学)。現在:大妻女子大学人間関係学部准教授。主著:『自己啓発の時代――「自己」の文化社会学的探究』(勁草書房、2012)、『日常に侵入する自己啓発――生き方・手帳術・片づけ』(勁草書房、2015)、『ファシリテーションとは何か――コミュニケーション幻想を超えて』(共編著、ナカニシヤ出版、2021)。

「2022年 『創造性をデザインする 建築空間の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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