英語になりにくい日本語をこう訳す: 日本語的発想・英語的発想

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  • Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784327451257

作品紹介・あらすじ

普段何気なく使っていても、いざ英語に訳そうとすると、「?」となってしまう、そんな日本的表現をどう英語に直すか。その訳し方のコツと、さらには、日本語的発想に引きずられ、日本人がおかしがちな英訳の問題点をも具体的に指摘する。

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  •  「いただきます」や「お疲れ様です」、「いつもお世話になっております」のような日常的な挨拶から「ご笑納いただければ幸いです」、「乱筆乱文をお許しください」、「こうしてお会いできたのも何かのご縁でしょう」のようなちょっと改まった場面の挨拶、「水くさい」とか「無常観」のような英語にない表現、「休暇でハワイに行っています」など訳すこと自体が不自然なもの、「ホームパーティーを開く」や「助教授」など、不自然あるいは誤訳にまでなりかねないものなど、日本人のよくやる言語表現とそれが英語に置き換わることで生じる不自然、曖昧さ、軋轢について解説したもの。
     「英語になりにくい日本語をこう訳す」というよりは、半分以上は「英語にならないので、あえて訳さない日本語」という感じ。例えば「お世話になりありがとうございました」(p.30)を Thank you for looking after me. とやると、身の回りの世話を含めて全部やってもらったみたいなことになるので、Thank you for everything you did for me. と訳す、みたいな。訳というよりは、その場面で発話するとして、英米人がしそうな発言は何か、ということだから「ただいま」も「ご機嫌よう」も Hi! だし、「いつもすいません」も「過分なお志を頂戴いたし感謝しております」も You're always so kind. になる。でもこれだけ英語にならない日本語、がああって、これを英語で言えますか?的な本は世の中に溢れているのだから、むしろ逆の視点、日本語にならない英語、というまとめたら面白いかもしれない。息子が海外に留学して「おさびしいでしょうね」(p.108)は、You must be proud of your son. となるということだから、逆に I'm proud of my son. みたいな英語を集めた本、とかあっても良いと思う。
     そしてこの「おさびしいでしょうね」を You must be lonely. と訳す不自然さを理解するには、日本人の「親子関係の親密さ、両者の依存度の高さなどと関係があるのだろう」(p.108)ということで、個別の英語表現よりも先に文化について理解した方がいいかもしれない。その次の項目にも、「日本語の『いつまでも甘えちゃあだめよ』が持っている身内[近親者]意識に基づく"粘着性"」(p.109)というのもる。だからこの2つの表現は文化を理解することから始まる訳で、こういう文化的な事項からいろいろな英語表現にアプローチする本、というのもあっていいと思う(もうあるのか?)。それにしても「ご指導ご鞭撻」とか「恐縮」とか「~して申し訳ありません」とか「意見はありません」など、直訳すると本当に卑屈で、主体性がなく、不気味に響く、という例がたくさんあって、正直ずっと読んでるとうんざりするほど。もう分かったよ、という感じになるけれども、いくら頭で分かっていても、いざその状況ではつい直訳したりするおれがいるのも事実。アメリカの散髪屋で自分の英語が不味くて「謝罪」したこともあるし。「恐縮」や「詫びる」代わりに「感謝」、のようにある程度定式化できるものはないかなあ、とか思った。
     そして、ここまでの話は、英語をそれなりに勉強していれば持つ疑問だし、語られる話だし、正直この本を読んでいてもあんまり面白いと思っていなかった。特に「私もです」で "I'm, too."(p.10)っていうのかなあ?短縮形にしないんじゃ?とか思ったり。ただそれが第2部「日本語的発想による英訳の問題点」のところからすごく面白かった。まずは「水臭い」とか「ねじり鉢巻き」なんて、一昔前の京大の英作文とか好きそう、とか思ったり。あと、例えば普通に英訳和訳しただけでは気づかないことにハッとさせられる。make one's bedは、「日本人はこの日本語から"夜"を連想するであろうが、英語圏の人びとはこの英語から"朝"を連想するであろう。」(p.119)とか、英語と日本語の「誠実」の違い、つまり「英語でいう場合のsincerityの第一義は"自分に忠実であること"である。(略)日本語の"誠実"には、ほとんど常に"自他"が考えられているのに対して、英語のsincerityには、何よりも"自"が先行する。したがって、『彼は指示通りにして、上司に自分が誠実な男であることを印象づけようとした」という日本文は、相当に日本語的」(p.120)とか。この行為自体が英米人には不誠実だ、という話。あとはこれは難しい、というのは「このボタンを押すと~」(p.146)のif you push this button, だろうか。おれならwhenにしちゃうなあ。Push this button and the lift will start.にするらしい。「彼女、だれ?」はWho is she? (p.148) は、これは別の本でも書いてあったが、これはついつい言ってしまいそうになるのでかなり注意している。中学校のオーラルイントロダクションで女の人の登場人物の写真を見せても "Who is she?" とは言わないように。その次のp.149の "I'm looking for my job." も、よくやってしまうミスだなと思う。「わずらわしい繰り返し」(pp.156-7)の部分はとてもよく分かるしもっともなのだけれど、この繰り返している間に言うべき英語を考えている、というのも事実なんだよなあ、と思う。あと Please feel free to ask me if you have any questions. (p.159) と言われたら、I will.と答えてしまわないかなあ。"Thank you. I'll keep that in mind."と答えるらしい。けどおれ絶対I will.って言っちゃうし、つい最近も言っちゃったかも。「("うーん"と言って)腕組みをして考え込む」(pp.98-9)の部分は、納得。腕組みは英米人には「拒絶や反抗の動作と映ることが多い」(p.98)。こういう時はscratch one's head。逆に「答えを間違えて」も頭は掻かず、shrug one's shoulder.とか、これは言われればすぐ分かるけど、気づくのは難しい。こういうのを会得する意味でも英語圏の映画やドラマをたくさん見る意味はあるのだと思う。
     それからsomeoneという単語は最近中1に教えたが、I'm helping someone.という表現、「じつに平易な単語であるが、このような有益な使い方ができるということを、日本の学校でもっと教える必要があるだろう」(p.161)という。確かに。と思うけど、どうやって教えよう?最後の項目「できればご一緒したいのですが」(p.167)とか、うちの学校の中3か高1くらいの文法を扱う授業の定期考査で出せないかなあ。
     面白い本だが、ずっと英語を勉強し続けた人にとってはやや退屈かもしれない。中高生に提示できるように、もっとコンパクトにまとめることはできないかなあ、と思ったりする。(21/10/24)

  • 読み物としても面白い1冊。英語を使っていく内に気づいていく事柄ではあるんですが、それでも新たな発見や疑問の解決の手助けとなってくれる本です。

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