黒川温泉 観光経営講座 (光文社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334032944

感想・レビュー・書評

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  • 黒川温泉や後藤哲也の魅力やその所以、また現在の姿が語られる対談。その中にあって唯一、「日本各地の"公共温泉"について語る」という、独特な趣の章がある。

    「語る」とはいうものの、要は、批判、非難である。
    "ニセモノ"の温泉(塩素を加えて循環させる。湯を長く取り替えない)という視点。大金を投じて強引にボーリングで掘る(湯音も低い)という視点。趣も個性もなく日本全国同じものだという視点。そして、民業(地元の温泉旅館等)を圧迫するだけだという視点。。。
    議論には説得力があり、思わずこれまでに入浴を経験してきたいくつかの地方の公共温泉施設を思い出す。

    まちづくりに、忘れてはならない論点。

  • いま全国でもっとも注目を集める観光地・黒川温泉の
    再生ノウハウを、「山の宿 新明館」館主・後藤哲也
    が「温泉教授」こと松田忠徳に語り尽くす。景観造り
    や宿造り、風呂造り、そして人造りを、どういうビジ
    ョンに基づき、どういう方法で成し遂げたのか、その
    秘密に迫る。(2005年の刊)
     第一章 黒川温泉はスゴかあ!
     第二章 後藤哲也はスゴかあ!
     第三章 現代人のための温泉論
     第四章 公共温泉という矛盾
     第五章 黒川温泉の現在

    ブックオフで購入。面白そうだと思ったが、予想通り
    面白かった。本書は国土交通省の「観光のカリスマ」
    に選定された後藤哲也氏による黒川温泉観光経営講座
    である。「もてなしの心」というが、氏の取り組みは
    徹底している。街中に木を植えて景観を造るところか
    ら始めている。氏は温泉を第一と考える。ゆえに業者
    任せにせず自分で温泉を造る。お金が無いゆえに磨か
    れたスキルであるという。氏は自分だけが良ければと
    思っていない。黒川温泉全体の底上げが必要だと考え
    る。当初、露天風呂の無い旅館には、旅館組合で整備
    したという。黒川温泉がいかに一枚岩でガードを守る
    かを考えている。

    本書では、黒川温泉が知られる前の1999年と人気
    温泉地となった2004年の対談が収録されている。
    後者の対談をではとところどころに後藤の危機感があ
    らわれているが、9年経った現在の黒川温泉はどの様
    になっているのだろうか。興味深いところである。

    地域づくりや観光振興に興味のある方は必読の書と言
    える。(もっとも第四章公共温泉という矛盾は行政関
    係者には耳が痛い話かもしれない)

  • 観光行政の勉強のために読んだ。
    本書は後藤哲也と松田忠徳の対談で、後藤氏の哲学がうまく引き出されている。
    後藤哲也は、九州阿蘇山のふもと黒川温泉再生の父。松田忠徳は札幌国際大学観光学部の日本初の温泉学教授(観光ビジネス学科)。
    後藤哲也氏の経営哲学をまとめると、以下の3点に集約される。
    ①顧客中心主義
    お客に感動を与える。後藤氏の原動力はここに尽きる。感動を与えるにはお客が何を求めているかを知らなければならない。そのためには客の声を聞くこと。後藤氏は、バスの運転をしながら、フロントに立ちながら、客の声に耳を傾けたという。
    ②総合戦略
    客に感動を与えるためには、雰囲気が大事だという。まち全体の雰囲気が良くなければ、感動を与えることはできない。いまの都会の人は、自然の中で真の癒しを求めている。本物志向。
    ③集中戦略
    その上で、特に大事なのは、風呂だという。客は温泉で疲れを取りに来るのだから、風呂が良くなければダメだという。
    後藤氏のすごいところは、総合的な戦略を取りつつ、集中的な戦略を取っているところではないだろうか。
    風呂だけ、料理だけでは、客に感動を与えることはできない。リピーターを獲得することもできない。
    だから、総合的な雰囲気作りも大事。しかし、誰にも負けないと自負する風呂も大事。
    ここは負けても良いという点があっても良い。新明館の料理は昔、良くなかったという。しかし、ここはダントツという一点突破がやはり必要だ。一点突破、全面展開。

  • 黒川温泉を全国的に有名にした温泉協会会長の本。
    温泉地を観光地を成功させるためには、来訪客の声をしっかり聞き、彼らのニーズを正確に理解していくことが大切だと説く。それに対して、多くの観光地は、宿や庭の設計を東京の建築士・設計士に一任してしまい、さらに個々の宿が個別に動くので、温泉地全体の一体感や雰囲気作りに失敗してしまっている。温泉地の経営者は経営していないと断じる。
    「お客さんは宿ではなく、温泉地の雰囲気を楽しもうとしている」「なので、1つの宿の評判が温泉地全体の評判を左右してしまう」。ALL FOR ONE, ONE FOR ALLの精神。
    本の後半はやや自信過剰の自慢話のように聞こえなくもないが、それでも素人が、温泉地の現状や、苦労のポイントを理解するのに非常に役に立った。

  • こんな真冬に急に行きたくなった温泉に向かう、その電車内で読む。2人の対談形式。
    ・黒川温泉を名温泉郷にした後藤さん
    ・日本の温泉を渡り歩き、"造られた天然温泉"をいつも憂慮する松田さん

    湯だけではなく、その温泉街全体の雰囲気が大事、というのに共感する。実際、たしかにその雰囲気が楽しみというのもあるし。

    後半はほとんど悲観的な内容。以前に話題となった白骨温泉の問題が氷山の一角であり、「天然温泉」に塩素が入ったり循環だったりというのもまだまだある、というのがけっこうショッキングだった。

  • 黒川温泉は一昨年行きましたが、今まで行った温泉街で一番いい温泉街でした。そんな温泉街を作った人と温泉マニアの人の対談。温泉のプロデュースについての考え方や哲学が見えます。
    「駐車場に降りたところで感動させるような旅館じゃないとだめなんだ」という考え方や、「昔からずっとあったように木を植えた」「自然にあったように木を等間隔ではないように植えたり石を設置した」というのが印象に残った。
    そういえば黒川温泉の思いではゆっくりできる雰囲気だったのと自然に溢れてた感じ。これもうまくプロデュースに乗せられてるんですな。
    また、温泉の一般的な知識とか他の温泉街の適当さ(湯布院とか別府)や循環湯のこととか知れます。
    対談の割りに結構挑発的な質問とか意見もしててその辺のやり取りも結構面白い。

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著者プロフィール

近畿大学文芸学部准教授、大阪芸術大学客員教授。グラフィックデザインに関す る実践と研究を行う。
著書にアジアのグラフィックデザイナーを取材した『YELLOW PAGES』 (誠文堂新光社、2018) がある。
同書をもとにした展覧会「GRAPHIC WEST 7: YELLOW PAGES」 (京都dddギャラリー、2018) や
Sulki & Minを個展形式で紹介した「GRAPHIC WEST 9: Sulki & Min」 (京都dddギャラリー、2021) 、
Na Kimとコラボ レーションした「FIKRA Graphic Design Biennial 01」 (U.A.E.、2018) など
韓国の グラフィックデザイナーとのコラボレーションも多い。
ソウル国際タイポグラフィビエ ンナーレTypojanchiでも、2013年と2015年にキュレーターを務めた。

「2022年 『K-GRAPHIC INDEX』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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