結婚と家族のこれから 共働き社会の限界 (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334039271

感想・レビュー・書評

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  • 結婚して家族を養うことがどうしてこんなに大変なのだろう..。複雑で厳しい現状を知る一歩

    ●感想
     「なぜ、結婚して子供を育てていくことがこんなにも大変なのだろう?」誰もが疑問に思うこのことを、本書は定性的・定量的なデータを駆使しながら説明してくれる。根本的な問題は「お金がないと家族運営・子育てできない」「共働きをしても経済格差が解消されるわけではない」ということ。収入の低い男性も女性も結婚によって問題を解決できるわけではない。結婚相手は同程度の収入・学歴を有する場合が多いからだ。世帯収入の少なさが子育ての厳しさに直結するから、「共働きしてもお金がない夫婦」にはどうしようもないという現状がある。加えて、「共働き」は手段である。本来の目標であるべき「自由な親密性の実現」を損ねてはいけない。
     本書の分析をすっきり理解するのは結婚難しい。厳しい現状を踏まえて「次どうしていくべきなのか」が分からない。実行するコトは読者自身が自分のアタマで考えていくことなのだろう。「普通に暮らしていくことが、なんでこんなに大変なんだっけ?」と思ったら、読み返したい。

    ●本書を読みながら気になった記述・コト
    *「その子供は誰の子どもなのか?」明らかでなくても良い時代があった
    ・「農耕を行う集落にとって重要なのは、みんなが協力し合って農作物を収穫することです。そこでは、子どもは貴重な労働力です。そして、子どもをもうけるためには、男女が関係を持つことが必要です。しかし、生まれてくる子どもが誰の子どもなんかについては、もちろん気になるところではあったと思われますが、とことん追求する必要がありませんでした」
    *「誰の子どもなのかはっきりさせる必要があるのは世継ぎが必要な場合」
    ・血統を重視する武家社会では誰の子どもであるかはっきりしていなければならなかった。そのため、姦通が罰せられることとなった
    *子育ている世帯を優遇すればよい、という単純な話ではない
    ・フランスでは子どもがいる世帯の税制を控除している。では日本もそれを取り入れるべきかというと、そう簡単ではない。国をあげて「単身者を差別する」ことになりかねない
    *世帯単位課税とは
    ・世帯単位課税の世界では、同じ1000万円の世帯所得を夫婦がどのように分担しようとも税率は変わりません
    ・夫が1000万円すべてを稼いでいようが、夫と妻で500万円ずつ分担しようが、おなじ
    ・世帯単位課税は、そのなかに二つの方式がある。一つは合算非分割方式、もうひとつは合算分割方式。非分割方式は、世帯の人数にかかわらず、単純に世帯所得に課税する方式。分割方式は、世帯所得を世帯の人数で割ってそれぞれに課税する
    ・非分割方式では、高所得者同士が結婚することによって、発生する世帯間の所得格差を是正できる。1000万円の所得を持つ男女が結婚した場合、独身時にはそれぞれ1000万円に課税されていたのが、結婚すると2000万円に対応した高率の課税が適用される
    →この税方式問題:所得のある人と結婚する動機が小さくなる。結婚が減るか、女性の就労機会を減らす
    ・分割方式はフランスなどで導入されている。分割方式では、夫婦の所得を平均した額に課税される。したがって、分割方式では、高所得者が低所得者と結婚するインセンティブを持つ
    *少子高齢化の問題は「自由な親密性の交友」を失わせること
     暮らす相手が選べない、結婚相手も選べない、子どもを持つことも選べない、というのが不幸な状態。少子高齢化が進み経済的に国・国民が困窮すれば、生活の選択肢は狭まっていく 

  • ◯著者が社会学者だけあってか、さまざまな視点から家族のあり方についてを分析されている。所得税も検討しているのはやや意外。
    ◯文体が(なぜか)口語的に記載されており、家族の話だけあって幅広い読者層を踏まえているのか。ただ内容との兼ね合いから、すっと頭に入ってこない。
    ◯内容としては、保守的な家族のあり方が念頭にあると、中々受け入れにくい検討がされているが、結論としてどのようなあり方が現代日本に望ましいのか、その際の政府の対応としてはどうあるべきかが、具体的かつ分かりやすいものではない。そういった意味では、あくまでフラットに分析しているということなのか。

  • 家父長制が成立する前とそれ以降の家族のあり方、周囲の環境変化、個々人の中での結婚の意味の変遷を解説された一冊。
    著者の個人的見解を含め、表現は極めてフラットであるため読んでいてしんどくならない、このジャンルでは稀有な本だと思った。
    今までの内容を定期的に小括しながら進めてくれるので読みやすいところも良かった。
    現状に至った経過や、改善するための政策や仕組み構築がうまくいかない要因を明らかにされて暗澹たる気持ちにならないかと言えば嘘になるが、「腑に落ちた。わからなかったことが整理されてすっきりした」というのが読後の感想。

    結婚して子供を作るのが当たり前と教え込まれてきた人間としては
    「ほとんどの人が結婚してそのなかで子どもを作るという社会は、二十世紀後半を中心に先進国で見られた例外的な現象です。少し乱暴に言ってしまえば、高い経済成長率と大規模な戦争の欠如により、たまたま可能になっていた状態なのです。 ー 235ページ」
    には、自分たちがごく最近の事象のみを一般化して常識としていたことを知らされた。
    今では不合理にしか見えない家父長制が、血統で資産や社会的優位性が受け継がれていく武家社会では合理的なシステムだったというのは新鮮な発見だった。
    政治的な判断で明治期に庶民の生活にも組み込まれた家父長制から少しずつ脱してきてはいる一方で、現代社会の単位が古代と異なる「夫・妻・子」に変わったこと、経済成長の停滞やグローバル化などが混在することで「食べるために家族を形成しないといけないが家族形成自体がリスクであり格差拡大につながりえる」という危機に直面しているという展開は恐ろしくもあり、身近な状況を思い浮かべて納得した。
    現在の生きづらさ、我慢大会のような家族の状況を変えるためには個人の努力では限界があり、社会全体の仕組みにアプローチし続ける必要があるが、複合的な問題が絡んでいるために一発逆転!や満場一致の解決策はないこともよくわかった。
    考え、動き、擦り合わせていく作業を続けていくしかない。
    やるしかないがため息ももれる。

  • 自由な結婚、男女雇用均等が、不平等を再構築する…

  • ♠家制度成立の前後から男女分業家族、男女平等家族への変遷とそれに伴うそれぞれの問題が語られていた。所得格差が生む親密性の差や不公平、国や時代ごとの家族体型の違いなど なかなか難しい…
    ♠「家族の負担を減らすこと、つまりある意味での家族主義から脱することによって、人々は進んで家族を形成できるようになるのです。」
    ♠「自由な親密性の世界が行きつく先は、決して平等な社会ではないのです。」

  • 前半では、家族や結婚のかたちの歴史を公平な立場で紐解いていく。「男は仕事、女は家事」という性別分業は、伝統でもなんでもなく、経済環境によってたまたま形成されたものに過ぎないと知って驚いた。
    後半は共働き社会がもたらす問題点について提示する。共働き化が格差社会を助長するという話は俄かに信じがたかった。また、家族への過剰な依存は、セーフティネットとして家庭を維持しなければならないという「家庭の職場化」に繋がるとのことだった。逆に家族を必要としない社会でこそ、人々は家族を求めるという考えは斬新ながら説得力があった。

    最初は人生設計の指南本だと勘違いして本書を手に取ったのだが、実際には個人というより社会全体での家族の在り方を公平に提示してくれる教養本に近かった。結果的にとても勉強になったので、満足している。

  • リベラルな立場を自認しつつ、常に複数の見方を提示した上で様々な文献と突き合わせて比較検討し、その上で著者の意見を述べるやり方は、研究の態度として非常に尊敬できる。家族という概念の歴史から掘り起こし、現代の家族像を分析してゆく。

    個人的に学びになったのは家概念の成立であった。家概念の成立以前は、閉じた地域共同体の中で性的アイデンティティを重視しつつ比較的自由な人間関係があり、血統概念は弱かったのだそうだ。それが変わったのが武士の登場であり、共同体が食べていけるかどうかが戦の手柄に依存するようになったことが原因だそうだ。戦は男がやるものなので、男が共同体を養う、そして強い男の嫡子はまた強いだろうという想像に影響され、血統が重視されるようになったそうだ。

    個人の生き方が昔より自由になった一方で、私的領域の公正さが担保されていないという指摘は我が意を得たりである。本書で最も重要で、かつ今後の検討が必要なのは次の二箇所だ。

    「家族やその他の親密な仲にある人と関係を結ぶことを通じて得られる情緒的な満足は、必ずしも公正に分配されているわけではありません。何らかの理由で、特定の誰かからのケア、気にかけを十分に得られない人は出てきます。」p239
    「たしかに、政府が介入して福祉を充実させ、経済的な条件をそろえることで、親密性から得られる幸福をある程度平等化させることはできるでしょう。しかし、親密性の原理は政治の公平性原理や経済の効率性原理とはどこか相性が悪いため、幸せの公平性をとことん追求することはできません。自由な親密性の世界が行きつく先は、決して平等な世界ではないのです。」p247

    自由や平等、公正といった近代理念が大きくきしみ始めたのを感じる。水野和夫氏の「資本主義の終わり」論(悪目高いが)と、本質的に大きな関係がある気がする。

  • ファッション雑誌STORYでオススメされていたので読んでみました。
    社会学、特に家庭や結婚といった身近なテーマの歴史的変遷を知ったのは初めてだったし、現代の世界における様々な家庭の分析も興味深いことばかり。
    雇用・家事育児・所得格差なども社会学的な視点でみるとどうなのか、などとても勉強になりました。

    備忘録、たっぷり書いちゃいます☆
    まずは歴史から。

    古代日本の婚姻はゆる~いものだったそうです。
    というのも日本は農耕民族なので村落共同体に所属していれば特に夫に頼らなくても妻は食べていけるし、強いリーダーがいなくても労働力さえ確保できれば(子供が増えれば)村は栄えることが出来たからです。なので、女は実家に所属しながら比較的自由に結婚離婚を繰り返していました。

    ところが、封建制度成立以降は、強い血統・リーダーの血筋、といった特別な能力が必要となり、婚姻は厳しいものになっていきます。
    その後、家が経済的な単位となっていったため、家督を相続させる正当性の根拠として父を確定させる必要があり、家父長制度が定着していきます。
    家父長制度の特徴は、父、長男は家に縛られる一方で(事業を継ぐ)、次男以降は冷や飯食い扱いで結婚もままならない状況でした。
    有償労働も無償労働もあいまいにしか区別されていなく、具体的には家長(社長)を中心に、使用人も親族も家事も仕事もしている状態でした。

    産業革命と工業化は、このような家事の在り方に変化をもたらしていきます。
    工業化によって家庭と職場(仕事)が分離され、資本家と労働者の所得格差が広がっていきました。
    それは悪いことのようですが決してそれだけではなく、男性(特に次男以下)の「家」からの経済的自立を即し、結婚もしやすい環境になっていくのです。
    (その一方で、男は家族を養う重責を担い、女は専業主婦になり経済的に依存するというマイナス面もある)

    更に、経済成長が進むと労働階級の所得も上がっていき、既婚女性は専業主婦になって夫の稼ぎに依存するという性別分業が一般化していきます。
    家事はもっぱら妻によって、家電製品などの技術に助けられながら行われます。

    殆どの人が結婚してその中で子供をつくるという皆婚社会は、20世紀前半を中心に先進国に見られた例外的な現象です。
    高い経済成長率と大規模な戦争の欠如により、たまたま可能になった状態なのです。

    その後の現代社会は、雇用された男女のカップルによる「共働き」が先進国の中心です。

    実は、共稼ぎに同類婚(共通の社会的、肉体的、もしくは精神的特徴を持つ者同士が結婚すること。同じような環境で育った経済環境も似たカップル)が加わると、それは所得格差を拡大するように作用するのです。
    格差を無くすためには異類婚が効果的ですが、政治的にそれを調整することはできないので、ワークライフバランスや税制改革など別の角度から、格差を無くすための政策を国は模索しています。

    その他、共稼ぎ世帯が抱える家事分担の問題は単なる技術的な問題ではなく、移民や不法労働、ケア労働の再分配などの大きな問題であること示していました。
    簡単に言うとアメリカ社会で既に起きている問題ですが、子育てや介護のケア労働は家電製品などでは代用しにくく、共稼ぎ世帯はそれらの仕事を貧民層(移民ら)に低賃金で請け負わせます。多くは不法移民で、彼女自身の子供は祖国に送る給料で他人が面倒を見るという、皮肉な結果につながっているのです。

    こんな現代社会は、家に縛られることもなく階級差別もなく自由恋愛が優先されるのですが実際には同類婚が促進され所得格差のが広がる為、皮肉にも結婚しない(できない)人の増加、子供をつくる人の減少、といった脱家族化の増大、という問題に直面しているのです。

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/597338

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著者プロフィール

立命館大学産業社会学部教授

「2023年 『災禍の時代の社会学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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