くじ引き民主主義 政治にイノヴェーションを起こす (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334045722

感想・レビュー・書評

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  • 民主主義=議会制民主主義という思考に陥りがちな中、民主主義の多様性について考えさせられた一冊だった。「政治家がダメだから投票率が低い!」というのは簡単だけれど、この本を読むとそうした非生産的な意見ではなく「このシステムはもっとこうした方がいい」と生産的な意見を持てるのも魅力の一つだと感じた。国家、地方だけでなく、日頃の日常にもこの本の思考の仕方は応用できるなと感じた。

  • 「くじ引き」で選ばれた人々が、話し合い、公的な意思決定を行う。近年、世界で広がりつつある「くじ引き民主主義」の動き、考え方を解説する書籍。

    主権者が代表者たる政治家を選挙で選ぶ民主主義のことを「代表制民主主義」という。
    代表制民主主義において政治への信頼は不可欠な要素だが、21世紀に入り、「議会を信頼しない」とする各国市民の割合は増加傾向にある。

    今日、政治家や政党は信頼されていない。
    しかしこれは、代表制民主主義を問題視するものであり、民主主義の理念そのものを否定するものではない。ほとんどの先進民主主義国において、「民主主義が大事だ」とする意見は多数を占めている。

    「くじ引き民主主義」とは、地域の市民や住民、国民から無作為抽出で選ばれた代議員や委員が、特定の課題や目的について話し合い、その上で意思決定をする仕組みのことである。
    2020年のOECD(経済協力開発機構)の報告書によると、くじ引き民主主義は、2010年頃から急速に広がっている。

    くじ引き民主主義は、政治を刷新すべきだという人々の意識が高まって生じた点で、ポピュリズムと同じ発生源を持つ。
    しかし、ポピュリズム政治がアウトサイダー的な政治家によるトップダウンでの刷新を目指す運動であるのに対し、くじ引き民主主義はボトムアップ的な民意形成で政治の刷新を試みるものである。

    個人の能力に応じてモノや地位が与えられるべき、という考え方は、新自由主義などと相性がよい。しかし、人の能力は、資質だけでなく、受け継いだ様々な資本に大きく左右される。「機会の平等」さえもが不均等な現代において、この平等を人智でもって取り戻すのが、くじ引きの役割である。

  • 機能不全を起こした代表制民主主義の補完を期待して、くじ引き民主主義の導入について検討している。代表制民主主義の行き詰まりにくじ引きがどう役立つのか、各国の具体例を示しながら利点と弱点を解説し、理解しやすく議論が展開されて読みやすい。
    特に、興味深いと感じた点は、くじ引きで選ばれて議論を進める中で意見が変化する可能性を否定しないことだ。民主主義=選挙、投票して終わり。ではなく、課題を議論する過程を民主主義の強みとする考え方は新しい視点を得た。直接参加するくじ引き民主主義が、代表制民主主義を補完する役割になることがよくわかった。

  • 政治のプロに任かせる代理制民主主義では左右とも支持団体の圧力により既存の既得権を打破できないのであれば素人から抽選で選んだ方がまだマシではないかと問います。政治参加がなかなか進まない中身近な地方の議会あたりから検討するのもいいかも。

  • 社会の分断がトランプを生んだ

    くじ引き民主主義ロトクラシー

    第三極化 デジタル・レーニン主義
    P23 議会を信頼してないとする市民の割合
    P.25 日本のどの機関を信頼しているか
    →代表になってない作動しない代表制民主主義
    政治不信
    ・市民の批判意識の高まり
    ・政治のパフォーマンスの悪さ
    ・社会関係資本がなくなった社会への変化

    アメリカの分断←多様性と党の戦略
    しかしヨーロッパでも分極化・部族化

    限界
    ①時間的
    頻繁な選挙という短いサイクル→政策の射程が短期的になり、長期的な政策に取り組めない
    ②空間的
    グローバル化という大きな空間での問題と小さな空間でおこる個人の実存的な問題
    ③非対称性
    P.44 議員と市民の所属の非対称性
    情報の非対称性 選挙時と当選後

    選挙によらない政治参加
    インターネットを活用した政治運動
    M15@マドリード オキュパイ運動@ニューヨーク BLM運動@米 黄色いベスト運動@仏 平和安全法制反対デモ

    代表制が機能するためには
    ・共同体を有効に統治
    ・人々が代表されていると感じている
    ・国民が代表制を機能させている

    代表制の幻滅、民主主義への期待

    日本国憲法の権威→権力→福祉のサイクルのフィクション化

    ドイツ 計画細胞
    アイスランド アンティルによる憲法会議 憲法を決めるためのマクロレベルのくじ引き
    アイルランド 憲法改正
    フランス 気候市民会議

    ミニ・パブリックス

    くじ引き民主主義
    ・政策について熟議による市民による決議・市民への諮問
    ・政策についての市民の意見表明
    ・特定の政策・法律についての市民の意見表明
    ・常設の諮問評議会

    必要条件
    ・統計的代表性
    ・情報提供
    ・市民による討議
    ・公開性と匿名性
    ・目的

    ⇔熟議民主主義、参加民主主義

    P.137 民主主義のカルテット

    ベックの「再帰的近代化」

    P.166 柄谷

    設計
    ①アジェンダの設定(目的)
    ②くじ引き(抽出)
    ③情報の提供(input)
    ④熟議(検討)
    ⑤投票・意見提出(output)

  • 機能不全に陥っている代表制民主主義を補正・修正し、民主主義にイノベーションを起こす方策として「くじ引き民主主義」を提唱。
    タイトルを見た時は一見突飛なアイデアのようにも思ったが、「くじ引き民主主義」の歴史的、また理論的背景が理解でき、代表制民主主義を補うものとして、その可能性を感じた。

  • 民主主義のOSとして欠陥が見え始めた代表制民主主義に代わる制度としてくじ引き民主主義(ロトクラシー)の可能性を紹介した本。
    自分にとっては新しい話だったので関連する団体・人物や参考文献も色々と紹介してくれたのは有難い。これから学んでいこうと思う。
    終章の「スローな民主主義にしてくれ」は昨今のスローライフ志向や書籍『遅いインターネット』など”速すぎる時代”への反動に呼応するものだと思った。
    全章を通して民主主義の不完全性について語られているが、民主主義はその不完全さゆえ、時代を超えて広く受け入れられてきた政治体制なのではないかと思った。(不完全さが民主主義の強さ、というか。)

  • 民主主義=選挙とは限らない! 選挙によらない民主主義の形態を歴史的に振り返りつつ、「くじ引き」の可能性を示す。

    はじめに――政治のイノヴェーションに向けて
    第1章 作動しない代表制民主主義
    第2章 増発する「くじ引き民主主義」
    第3章 参加して、議論する民主主義
    第4章 くじ引きの歴史と哲学
    終章 「スローな民主主義にしてくれ」

  • 選挙で選ばれた議員による代表制民主主義が、世界の各国で機能不全を起こしているのではないかという問題意識の下に、くじ引き民主主義という代替案を提案している。

    政策の議論をする代表者やそれを実行する行政の長をくじ引きで選ぶという方法は、歴史的にギリシア以来存在しており、また現在でも多くの国で事例が見られる。そういった意味で、この議論は突拍子もないアイデアというわけではない。

    しかし、直接民主主義と代表制民主主義を民主主義の代表的な形態として教わり、その中で歴史の経過とともに代表制民主主義が主流になっていったというストーリーで理解をしてきたため、くじ引き民主主義という代替案のイメージはすぐには掴みづらい。

    この本では、どのようなケースでくじ引き民主主義が有効なのか、それを実行するにあたってどのような点に注意すべきなのかといったことを丁寧に解説しており、この意外な方法が、実際に検討可能な一つの方法であるということを認識させてくれる。

    基本的な理解として印象に残ったのは、くじ引き民主主義であっても、それは熟議のためのメンバーを選ぶ方法として使われるというのが主な意義であるということである(本書では熟議のメンバーを選ぶ以外の場面での使われ方も紹介されているが)。

    世界の各国で議会に対する市民の信頼度が低下する傾向が続いているが、その一つの理由が、議会に自らの声が適切に代表されていないと感じる人が増えているというものであるという。確かに、議員を選ぶプロセスには、組織力、資金力、知名度など様々な要因が影響しており、結果として選ばれた議員の属性も、市民の属性の構成とは大きく異なっている。

    仮に専門性や論理的思考力の高い人を選ぶという理由があったとしても、やはり議員には自分の声が届かない、議会の議論は市民の一般感覚から乖離していると感じる人も、多くいると思われる。

    それに対して、くじ引き民主主義では、さまざまな属性、利益集団の構成を反映したメンバー抽出が可能である。さらに、その抽出に偶然の要素であるくじ引きを導入することにより、公平性を明確にすることもできる。

    そして、そのような形で選ばれた代表者による議論の結果というのは、政治的な力が強い人や集団だけの意見を反映したものではなく、より個々人の判断を重視したものになる可能性を秘めていると思われる。

    そのようなメンバーを選定した上で、テーマとなる政策に対する十分な事前情報の提供や議論の過程の公開性、結論を出すプロセスの明確化といった点を留意することで、くじ引き民主主義は、実際に政策決定のための討議の手法として有効に機能し得るという。

    当然、くじ引き民主主義が万能の方法であると主張しているわけではなく、適用する対象やそのプロセスを慎重に設計しないと、結論に対する市民の信頼が得られない結果となる。

    筆者はくじ引き民主主義の弱点(もしくは留意点)として、以下の3点を挙げている。

    1点目に、くじ引き民主主義は特定の目的を達成する手法や手段を討議するもので、どのような目的を達成するのかを決定するのには向いていない。アジェンダ・セッティングには専門家による検討が必要であり、それによって目的と定められた政策決定に対して適用されるべきだという。

    2点目に、決定が拘束する範囲を明確にし、対象となった共同体全体を拘束することの正当性についての疑義を予め取り払っておく必要がある。他の手法でも同様ではあると思うが、決め方に納得していなければ、くじ引き民主主義の結論であろうが代表制民主主義の結論であろうが、社会的に受け入れられることはない。

    3点目に、決定の妥当性の担保や、民意に委ねるべき課題と委ねるべきではない課題を腑分けする必要性が挙げられるという。アジェンダ・セッティングとも関連すると思われるが、社会課題と政策の論点がずれていた場合には、結果として効果的な政策実現には至らない。また、くじ引き民主主義で出された結論が仮に間違っていたとして、その責任の所在はどこにあることになるのかということも、考えておく必要がある。議員は選挙結果という形で責任を明確化できるが、くじ引き民主主義にはそのようなメカニズムは働かない点にも注意が必要である。

    本書を読んで、偶然の要素を盛り込むことで、党派色や既得権益の影響が薄い形での意思決定の場を作ることができる可能性が出てくるのではという印象を持った。社会の分断や政治不信が言われて久しいが、このような方法を場面に応じて適切に使うことでより納得感の高い政策決定が行われ、その蓄積によって民主主義が再生してくれるのであれば、非常に有意義なことであると思う。

  •  くじ引きを入れて政治を決めていくくじ引き民主主義について。

     くじ引き民主主義というとそんなバカなと思うかもしれないが、歴史上でも現在でも民主主義にくじ引きを混ぜる試みが多く行われている。選挙の代わりにくじ引きだと現実的ではないが、実際はくじ引きを混ぜる様な形で多様に民主主義の中でくじ引きは行われているのだ。
     コロナがまさにそうだが、私達の民主主義は正しい正解を選ぶのではなく、何を正解とするかを選ぶものだ。そう考えた時にむしろくじ引きを混ぜる方が民主主義にとって自然な様にも感じた。

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著者プロフィール

1975年東京生まれ。東京大学総合文化研究科(国際社会科学)博士課程修了(学術博士)。
慶應義塾大学法学部卒,日本貿易振興会(ジェトロ),日本学術振興会特別研究員等を経て,現在は北海道大学法学研究科/公共政策大学院准教授(ヨーロッパ政治史)。
主要業績:「フランス:避けがたい国家?」小川有美・岩崎正洋編『アクセス地域研究Ⅱ』日本経済評論社,2004年;「フランス政党政治の『ヨーロッパ化』」『国際関係論研究』第20号,2004年;「『選択操作的リーダーシップ』の系譜」日本比較政治学会年報『リーダーシップの比較政治学』第10号,2008年;「フランス・ミッテラン社会党政権の成立:政策革新の再配置」高橋進・安井宏樹編『政権交代と民主主義』東京大学出版会,2008年;伊藤光利編『政治的エグゼクティヴの比較研究』早稲田大学出版部,2008年など。

「2008年 『ミッテラン社会党の転換』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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