会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション (光文社新書)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334046224

感想・レビュー・書評

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  • 三木那由他さんの『言葉の展望台』がとても興味深かったので、続けてこちらを手にとってみた。
    『言葉の展望台』が「エッセイと評論のあいだくらい」で書かれたものならば、こちらはもう少し評論寄り。ではあるけれど、「コミュニケーション」と「マニピュレーション」というものを哲学の問題として取り扱う研究内容を理論的に紹介するといったものではなく、著者が研究によって得た視点から、さまざまな会話がどのように見えているのかといったことが語られる。
    そして本書の面白い点は、そういった会話の例を数々の人気フィクション作品(主に小説・漫画)から取り上げていることだ。
    作中の登場人物たちのやり取りを通じて、「コミュニケーション」と「マニピュレーション」という観点から「会話という営みの複雑さと面白さ」を描き出している。

    簡単に各章で扱われるテーマと、題材となるフィクション作品の一部を紹介したいと思う。
    ひとつ注意していただきたいのは、フィクション作品を題材とすることから、シーンによっては「ネタバレ」が必然的になってしまうこと。その点が気になるかたは先に題材作品を読まれるなどしてみてくださいね。

    ▷第一章 コミュニケーションとマニピュレー
         ション
     ・「会話」とはいかなる行為か
     ・約束事の形成としてのコミュニケーション
     ・心理や行動の操作としてのマニピュレー
      ション
     ・コミュニケーションとマニピュレーション
      の関係 など

    ●取り上げられた作品
     『勝手にふるえてろ』

    〈メモ〉
    著者の考える「コミュニケーション」
     話し手と聞き手のあいだで「約束事」を形成
     する側面。
     →話し手が発言をおこない、それによって聞
      き手とのあいだで共有の約束事が形成され
      るとき、その発言はコミュニケーションを
      おこなっている。
    ※「約束事」については、『言葉の展望台』でも丁寧に説明されているので、そちらを先に読むと一層理解しやすいのではと思う。

    「マニピュレーション」
     話し手はコミュニケーションの裏で、まった
     く別の企みのもとで聞き手にメッセージを届
     けたり、聞き手の心理や行動を一定の方向に
     導いたりすること。
     →発言によって聞き手に影響を及ぼそうとし
      ているとき、話し手はマニピュレーション
      を試みている。
     たとえば……
     ・あえて白々しい何らかのコミュニケーショ
      ンをおこなうことによって、聞き手を怒ら
      せようとする。
     ・何かをコミュニケーションのレベルに持ち
      込まないように巧みに計算した発言をしつ
      つ、その何かを聴き手に情報として伝え
      る。

    著者は「会話を通じて構築されていく話し手と聞き手のあいだの約束事という側面に関わるコミュニケーションと、コミュニケーションを通じて話し手が聞き手に対しておこなおうと意図していることというマニピュレーションを、しっかり区別して考えていこう」とする。

    ▷第二章 わかり切ったことをそれでも言う
     ・バケツリレー式コミュニケーション観
     ・約束事は責任を生む
     ・話し手と聞き手のあいだの約束事 など

    ●取り上げられた作品
     『同級生』
     『うる星やつら』 など

    AがBに対して「好きだ」と告白したとする。その告白を受けたBも実はAのことが好きなのだけれど、恥ずかしかったり照れたりして「好きだ」と口に出して言えないとする。
    でもAはBの仕草や表情などから、自分のことが好きなんだと理解する。
    そのようにお互いに恋心を抱いているのは「わかり切っている」状態のなかで、それでもAはBから直接「好きだ」との言葉を聞きたい。それはなぜなのか。
    このような「すでに互いにわかり切っているようなことをわざわざコミュニケーションにすることの意義」を、「コミュニケーションとは一種の約束事の形成である」という観点を手掛かりにして語られる。

    以下、同様に一章ずつ紹介していきたいのだけれど、それでは長くなりすぎてしまうので、各章のテーマといくつかセクションとフィクション作品をピックアップするだけにして記しておきたい。

    ▷第三章 間違っているとわかっていても
     ・話し手は自分が正しいと思う情報を伝えな
      いとならない? など

    ●取り上げられた作品
     『オリエント急行の殺人』
     『金田一37歳の事件簿』
     『HER』 など

    ▷第四章 伝わらないからこそ言えること
     ・伝わらない言葉だからこそ
     ・伝えたくはないけれど……
     ・もういないひとに向けて など

    ●取り上げられた作品
     『しまなみ誰そ彼』
     『ロミオとジュリエット』
     『マカロンはマカロン』 など

    ▷第五章 すれ違うコミュニケーション
     ・コミュニケーションが失敗するとき
     ・コミュニケーションに追い詰められる
     ・意味の占有 など

    〈メモ〉
    「意味の占有」は「コミュニケーション的暴力」とともに『言葉の展望台』に詳しく書かれているので、そちらを先に読むとわかりやすいと思う。 

    ●取り上げられた作品
     『魔女の猫探し』
     『魔人探偵脳噛ネウロ』
     『違国日記』 など

    ▷第六章 本心を潜ませる
     ・副音声的なものとしてのマニピュレーショ
      ン
     ・あえて矛盾を引き受ける など

    ●取り上げられた作品
     『ONE PIECE』
     『パタリロ!』
     『鋼の錬金術師』 など

    ▷第七章 操るための言葉
     ・心を操る
     ・比喩の威力
     ・マニピュレーションと差別 など

    ●取り上げられた作品
     『オセロー』
     『同志少女よ、敵を撃て』 など


    こうして「会話」というもの、あるいは「会話」におけるさまざまな現象というものが、フィクション作品を題材にして語られていく。
    これら「会話」という営みが、ストーリーをドラマチックな展開へと導くための必要なテクニックでもあるのだと面白く読むことができた。
    だけれど、第五章で語られる「コミュニケーション的暴力」、第七章の「悪質なマニピュレーション」だけは別物で恐ろしく感じた。

    「聞き手に気づかせないでおこなうマニピュレーションが効果を及ぼしたとき、聞き手は誘導された思考を、自分自身の思考として守ろうとする傾向を持つ。こうした特徴ゆえに、マニピュレーションは差別を煽るような文脈で多く使われる傾向がある。」
    悪質なマニピュレーションに関して、いかに非難するか、責任を問うか、そしてこれらの問題はフィクション作品のなかだけではなくて、私たちの身近にも存在しているということを覚えておかなければならないだろう。

    「ゲイを差別するわけではないけれど、でもみんながみんなゲイになったらどうなると思う?」
    この発言をマニピュレーションのレベルで考えた場合、発言者によって思考が一定の方向に誘導されていることに気づけただろうか。

    「会話の参加者のあいだで社会的なマイノリティとマジョリティという差があるなら、それはそのコミュニケーションについて周囲の人間に語るときの影響力の差をもたらす」ことについては、『言葉の展望台』でもうちょっと考えていきたいなぁと思っていたことだし、加えてマニピュレーションについてもちゃんと理解を深めていこうと思っている。

    • いるかさん
      地球っこさん お返事ありがとうございます。

      実は「言葉の展望台」もすごく気になっていて、本棚には登録していました。
      だっちゃ 懐かし...
      地球っこさん お返事ありがとうございます。

      実は「言葉の展望台」もすごく気になっていて、本棚には登録していました。
      だっちゃ 懐かしいです。
      ちょっと調べて、地球っこさんの言われる順番に読みたいと思います。
      いつもありがとうございます。。
      2022/08/25
    • いるかさん
      2冊とも在庫があったので、取り置き出来ました。
      週末に取りに行きたいと思います。。
      ありがとうございます。
      2冊とも在庫があったので、取り置き出来ました。
      週末に取りに行きたいと思います。。
      ありがとうございます。
      2022/08/25
    • 地球っこさん
      いるかさん

      いるかさんとの共読本が増えると思うと楽しみです♪
      いるかさん

      いるかさんとの共読本が増えると思うと楽しみです♪
      2022/08/25
  • 地球っこさんのレビューをみて読みたくなった本。。

    とってもよかった~。
    「言葉の展望台」を先に読んでいたので、すごく理解しやすかった。
    コミュニケーションとマニピュレ-ションに絞った言葉の哲学。
    マンガなどフィクション作品を取り上げ、哲学的に解説。
    「オリエント急行の殺人」は本当に素晴らしい。
    シェイクスピア作品も。

    「ゲイを差別するわけではないけれど、でもみんながみんなゲイになったどうなると思う?」
    この発言がいかにひどい発言かを説明。
    マニピュレーション 怖すぎる。
    ここに書かれているようにマニピュレーションにも責任を負う必要があると思いました。

    何気なく話している言葉。
    人のマニピュレーションに流されることのないようにしたい。
    自分の言葉も、もっと大切にしたい と思いました。
    これからの生き方に影響を受ける一冊となりました。
    地球っこさん ありがとうございました。

    • 地球っこさん
      いるかさん、こんにちは~♪

      うんうん、自分の言葉を大切にしたいよね。私もそう思いました。
      マニピュレーションて初めて知った言葉だったんだけ...
      いるかさん、こんにちは~♪

      うんうん、自分の言葉を大切にしたいよね。私もそう思いました。
      マニピュレーションて初めて知った言葉だったんだけど、怖いですよね。
      知らず知らずのうちに自分も流されていたことあったと思うし、自分でも知らないまま使ってたかもしれない。

      いるかさんのレビューに、またいろんなことを考えました。ありがとうございます。やっぱり考えることはやめてはダメですよね。
      2022/09/03
    • いるかさん
      地球っこさん こんばんは。。

      コメント ありがとうございます。
      この本も本当に考えさせられました。
      今後の生き方にいい影響をもらっ...
      地球っこさん こんばんは。。

      コメント ありがとうございます。
      この本も本当に考えさせられました。
      今後の生き方にいい影響をもらったと思います。

      なんだかこれから言葉をしっかり吟味しなかれば と思いました。
      地球っこさんのレビューを見なければ絶対読まなかった本。
      自分にとって、すごくよかった本です。
      次の本も楽しみです。
      ありがとうございます。
      2022/09/03
  • 蟹ブックスさん(「でああす」の作者、花田菜々子さんの本屋)にて激推しだったので購入、読了。

    本作、なかなかに面白い本でしたー(^ ^)

    普段何気なく行っている「会話」という営みを「理論的に構造化、言語化して解説してくれる」内容になっています。

    上記に書いた通り「普段何気なく行っている」ことなので、改めて理論的に理解することに何か意味あるの?って疑問はあるかと思うんですが…個人的には「会話というものをより味わい深く楽しめるようになる(フィクション、ノンフィクション問わず)」効果があるのではないかと思いました…ひいては、ほんの少しくらい人生豊かになるのではないかなと(´∀`)笑

    メジャーなフィクション作品を事例として取り上げて(ワンピース、鋼の錬金術師、うる星やつら等)解説するというのも良い構成だなと。

    あと、作者の各作品への愛情が要所要所に滲み出ているところも好きでした…本筋とは違うところだと思いますが(笑)

    蟹ブックスさんの選書、好きだなぁと…
    また近々行ってみようかな( ̄∇ ̄)

    <印象に残った内容、考えたこと>
    P4、コミュニケーションとマニピュレーション
    コミュニケーション
    →発言を通じて話し手と聞き手のあいだで約束事を構築していくような営み
    マニピュレーション
    →発言を通じて話し手が聞き手の心理や行動を操ろうとする営み

    P26、コミュニケーションにおいて、約束事のなかで語られているものは必ずしも本当に思っていることである必要はない

    P 76、うる星やつらの事例
    「一生かけていわせてみせるっちゃ。」
    「いまわの際にいってやる。」

    P 286、会話の仕組みを抽象的な概念を持って理論的に捉える本書は、それだけ見ると何の意味があるのかよくわからない机上の空論的な試みに見えるかもしれません。でも会話というものを細かく理解したならば、それはフィクションでの会話をより細部まで楽しむための素敵なオペラグラスにもなりますし、また日常で出会う危険性への盾にもなります。そしてもちろん、すぐそばにいるひととの会話をいま以上に大切にするためのガイドブックにもなるかもしれません。


    <内容(「BOOK」データベースより)>
    私たちは会話を通じて何を伝え、何を企んでいるのか。
    あるいは相手の心理や行動にどんな影響を及ぼそうとしているのか。
    気鋭の言語哲学者が、『ONE PIECE』や『鋼の錬金術師』などの人気の
    フィクション作品を題材に、「会話」という営みを徹底分析!
    コミュニケーションとマニピュレーションという二つの観点から、
    会話という行為の魅力と、その中身をわかりやすく解き明かす。

  • 私は「会話」とは情報の伝達だと思っていた。いや、そもそも会話について深く考えたこともなかった気がする(考えるきっかけを与えてくれただけでも、本書を読んだ意味は大きい)。

    著者の三木さんは、会話には2つの側面があるという。すなわち、コミュニケーションとマニピュレーションである。
    コミュニケーションとは、会話する者同士が約束事を構築していく作業としている。一度構築された約束事は、以後、両者の発言や行動を規定するようになる。目に見えない法則で支配されたフィールドみたいなものか。
    マニピュレーションは文字通り、人を自分にとって都合のいい方向に操ることをいう。マニピュレーションというと、リハビリや徒手的療法でよく使われるが、言葉に対しても使われる用語とは思わなかった。
    いずれにせよ、会話はやはり相手があってこそのものだとわかる。

    そして、ここからが本書の独特なところだが、これら会話の2つの側面を漫画や映画などフィクション世界のセリフを引用して検証していくのである。これが面白くないわけがない。

    哲学とは世界の切り口を考える学問であり、その切り口を知る前と知った後とでは、世界は決定的に違って見えるものである。本書を読んだ後、普段の会話を第三者目線で見る自分がいる。

  • 「会話とは何を行っているのか?」を掘り下げている

    情報の授受や共有というコミュニケーションでは説明できないやり取りが存在する
    マンガ、小説、映画などで繰り広げられる会話を例に、そのやり取りの説明など


    ・目次
    第1章 コミュニケーションとマニピュレーション
    第2章 わかり切ったことをそれでも言う
    第3章 間違っているとわかっていても
    第4章 伝わらないからこそ言えること
    第5章 すれ違うコミュニケーション
    第6章 本心を潜ませる
    第7章 操るための言葉


    コミュニケーションは表面的な情報のやり取り
    マニピュレーションは相手を操作するもの

    会話を通じて行われていることは、「約束事を積み上げる」行為
    その時点でのお互いの認識と今後の約束の合意形成

    バケツリレー式コミュニケーション


    お互いに分かり切っている事でも明言させる意図
    口に出す事で約束事にするため


    間違っているとわかっていて約束するのは、表面的な約束を破らずに真意を達成するため
    その示唆としての会話


    「伝わらない」という前提で行われる会話
    伝わらないけれども、伝わっている可能性がある
    「伝わっていない」という約束事を前提にした会話

    自分の内心で思う「内言」とは異なる
    内言は自分の中で約束事が成立してしまう


    表面的にはコミュニケーションがズレていると思われる会話
    しかしマニピュレーションとしては成功している

    約束事を破る前提でなされる会話

    約束事を守りつつ、言わない事で情報を伝える方法


    マニピュレーションの実践

    疑問を投げかける事で、思考に選択肢を増やす

    比喩でイメージを置換する

    「誤解を与えたとしたらお詫びする」という謝罪になっていない言い訳




    意図的か無意識かは別として、会話の中には色々なマニピュレーションが入ってるなぁ

    某大学のアメフト部の「やらなきゃ意味ないよ」「わかってるだろうな?」
    某芸能事務所の「考え直して」
    などはわかりやすいけど、相手の思考や行動を促すという目的であれば日常会話でも常に行われている


    バラエティ番組で「押すなよ押すなよ」は「押せ」の意味というのは別に問題ないけど
    悪用すればパワハラなどいくらでも例が挙げられる
    家庭内のモラハラもそう
    今思えばあれはそういうマニピュレーションだったのかと理解できる

    日常会話でも、発せられた言葉から相手の意図を勝手に読み取って会話をしているという認識ができた
    フィクションの会話を例にしていたけど、マンガや小説でいいなと思えるシーンはそんなコミュニケーションとマニピュレーションのズレがある場合が多い気がする

  •  本文はさまざまな作品(書籍・映画など)からの引用文を参考に説明しているが、「会話の哲学」そのものを理解するのは極めて難しい。だが、現代の「マニピーレーション」的な言葉、意見、行動はとても敏感であると感じる。特にネットでは短文なことで「深い意味」を勝手に連想させ、行動しまう可能性が高まっているのが少々恐ろしい。

  • 『言葉の展望台』が面白かったので読んでみました。
    「初めて哲学系の本を満足に読んだ♪」と喜んでいたら
    かなりエッセイ寄りだったとのことでした。

    この『会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション』は前著に比べればややエッセイから離れました。
    こんなふうに少しずつ難しくしてくれれば
    私でも最後にはすごい哲学通になれるかも?
    よろしくお願いします!

    『言葉の展望台』同様、漫画なども参考にしていて
    しかもその漫画が実際に載っているので
    すごくわかりやすかったです。

    ところで私はマニピュレーションって初めて聞きました。
    〈コミュニケーションとマニピュレーションの区別はわかりにくかもしれませんが、音声多重放送における主音声と副音声みたいな関係にあると思ってもらったらいいかもしれません〉
    すごくよく理解できて面白かったです。

    ただ、フィクションを題材にするぶんにはいいけど、
    ここ数日ニュースやYouTubeでロシアばかり見ているもので
    この本と関連していろいろ考えてしまいます。

    ロシアの件がすべて終わったら
    三木那由他さんに過去の動画
    プーチンの演説やロシア人たちのインタビューなど
    分析する本を出してほしいなぁ。

    早く戦争が終わりますように。

  • この連休で読み終わりたかったので、読了できて良かった。

    内容は分かりやすいけど、難しい。だって講義をまとめたものやもんね、そして哲学やもんね、そりゃそうだ。

    会話を続けるっていうのは、相手との約束事を積み重ねていくっていうことなんだ。会話を続けることで相手との共有点が増えていき、より親密になっていくのだ。親密になっていく中で相手との縛り、縛られという関係もできてくるのでは?

    また、それはChatGPTなどの生成AIとも一緒。人生の副操縦士と会話しながらより親密になっていくのでは?

    上手くまとめられへんけど、そんなことを考えた。

  • 「言葉の展望台」にも書かれていた、コミュニケーションとマニピュレーションの概念。
    コミュニケーションとは、会話を通じて「話し手はこう考えている」という約束事を形成すること。
    マニピュレーションは、コミュニケーションを通じて相手の心理や行動を操作しようとする企み。

    約束事を形成するといってもそれが常に真実であるとは限らなくて、互いに嘘だと分かって約束を交わすこともある。
    相手を追及、糾弾せずに済むように。関係に傷をつけないために。などの理由で。
    確かに色んなフィクション作品でそんな場面を目にしてきたと思う。
    そのときどのような現象が起きていて、どうして切なさや感動を喚起されたのか。
    言葉のやり取りに注目すれば、きっと物語の面白さを今よりもっと言語化しやすくなる。

    マニピュレーションは会話を豊かにする一方で、差別の煽動など、暴力として使われやすい側面もある。
    そしてあくまでコミュニケーションに潜ませているものなので、悪質であっても責任を問うことが難しい。
    特定の差別用語を使用した、など具体的な発言レベルの問題でない場合、私たちはどう対応することができるだろう?
    著者は、マニピュレーションの責任を問う場合には、より一般的な行為の善悪の次元で責任感を問うべきなのでは、と論じている。
    差別的な意図の有無を追及しても「(そんな意図はなかったが)不快な思いをさせてしまったならお詫びします」といった不明瞭な謝罪で済まされてしまう。
    なので、発言がもたらす結果の悪質さを指摘する。
    話し手の立場からそのような発言をすることで、社会にどう影響を与えたか。人々の行動をどう促す/抑制することになったか。
    そこに焦点を当てることで、責任逃れしやすい構造のこの差別行為をどうにか食い止めたい。
    また、そのようなマニピュレーションでは仮定や比喩、言い換えが巧みに用いられる。
    どうしてこの人は実現し得ない仮定をわざわざ出してきたのか?あえてこれに例えたのは何故?といった視点をもって、自分が扇動されるがままになることも避けていきたいと思う。

  • めちゃくちゃ面白かった。
    会話を“魅力的な現象”と捉える筆者の考え方が好き。
    漫画や小説を題材にした解説も分かりやすくて楽しい。
    「発言を通じて、話し手が聞き手に何らかの影響を与えようとする行為」=マニピュレーション。
    言葉通りじゃないやり取りが成立する理由がまさにこれで、この営みが会話を面白くしている。
    本書で取り上げられた作品を片っ端から読んでみたくなった。

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著者プロフィール

1985年、神奈川県生まれ。2013年、京都大学大学院文学研究科博士課程指導認定退学。2015年、博士(文学)。現在、大阪大学大学院人文学研究科講師。著書に『話し手の意味の心理性と公共性』『グライス 理性の哲学』、共著に『シリーズ新・心の哲学1 認知篇』、共訳書にブランダム『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』がある。

「2022年 『言葉の展望台』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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