The unseen見えない精霊 (カッパ・ノベルス カッパ・ワン登龍門)

著者 :
  • 光文社
3.31
  • (4)
  • (9)
  • (25)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 92
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334074661

作品紹介・あらすじ

インドの森の奥深く、僕の目の前の老婆は突然語り始めた。その声と言葉は、自らの不可能な死を語るカメラマン「ウィザード」のものだった。飛行船の闇の中、彼に死を与えるために来た美しい少女と、見えることしか信じない彼の戦いが始まる。彼の武器は鋭利な頭脳、巧妙な論理の罠。だが、彼の罠を次々に突き破る少女の論理と見えない精霊の力。大胆に読者に突きつけられる質問状、あなたは解けるか?

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 一気に読んだあとで眩暈がした。これだけ報われぬ疲労感に襲われるミステリも珍しい。 舞台設定があまりにも異様なのですぐに引きずり込まれたが、途中から感じたイライラとムカムカは最後まで治まることがなかった。その理由に思い当たらなかったが、“読者への挑戦”を読んで気が付いた。馬鹿丁寧に同じことを何度も説明しているが、悲しいかな、不明瞭すぎて全く説明になっていないのである。飛行船の構造や事件現場についての理解は早々に諦めた。思うに、導入部分と“読者への挑戦”だけ読めばコトは足りるのではなかろうか。 ウィザードの論理はそれらしく聞こえるが、屁理屈をこね回しているだけで見苦しい。屁理屈といえば、本作品全体がその様に思えるのは私だけだろうか? 手掛かりをこと細かく読者に開示したことがかえって仇になったような……。目的に到達するにはかなりの根気を要する。

  • ほぼワンアイデアで成立しているミステリで、トリック自体は悪くないんだけど。
    どうも小説としてあまり面白くない。
    マジックショーでも見ている気分になる。登場人物たちも、唯々諾々と誰かの指示に従っていて、人形のようだ。
    やはり小説の読者が感動するのは、登場人物が泣いたり笑ったり怒ったりするからだろう。エモーショナルな部分が欠落しているため、ディスカッション・シーンの連続も、論文を読まされているようで、いまいち気分が乗れなかった。
    まあ不可能犯罪を成立させているアイデアそのものは面白い(かなり危なっかしいトリックだが)ので、トリックを知るために読むのも悪くないかも。

  • ワントリックをベースに強引に作品を仕立て上げたような作品。
    しかし、あまりにも不自然で奇妙な状況設定や、主人公(誰かも曖昧だけど)や登場人物のキャラがどれもこれも魅力が無く、さらにはやたらと解説調の地の文章が長ったらしくて退屈(あの手をつなぐ話とか…)。

    伏線や、読者への挑戦があるのは意欲的で嬉しいのだけど、ワントリックが分かってしまうと全く退屈な作品になってしまった。
    いかんせん、作者の筆力が今一つなのだけど、本格に挑戦する姿勢は嬉しいので、新しい方の作品を読んでみよう。

  • 出てくるのはシャーマン、精霊、飛行船、奇妙な儀式に仮面の男。インドの森の奥で、密室状態の飛行船内で殺された男がお婆さんの口を借りて語ります。この舞台の持つ幻想的な雰囲気は結構好きです。きちんと読者への挑戦が挟まる本格で、描写がこれでもか、というほど細かいので思わずメモを取ったりしましたが全く歯が立たず。解答が示されて初めて、がっつり伏線が張ってあった!と今度は歯ぎしりをしたくなりました。人により評価は変わると思います。トリックありきの作品だと思いますが、読後感も悪くなく、私はさくっと楽しめました。

  • 評価
     サプライズ ★★★☆☆
     熱中度   ★★★☆☆
     インパクト ★★★★★
     キャラクター★☆☆☆☆
     読後感   ★★★☆☆
     希少価値  ★★★★☆
     総合評価  ★★★☆☆

    〇 サプライズ ★★★☆☆
     ウィザードと同じ顔をした人物が殺人犯である。そのため,各自の証言を照らし合わせるとその人物の姿が見えないように感じるというトリック。ウィザードと同じ顔をした人物が犯人なので,まるで見えない精霊が犯人であるかのように捕らえることができる。本来であれば短編小説向きのこのアイデアを効果的に示すために,インドを舞台にしたり,飛行船を舞台にしたり,催眠術を登場させるなど,かなり無茶な設定にしている。しかし,このトリックを見抜くことができてしまった。よって個人的にはサプライズは★3。見抜くことができなかった人にとってはサプライズは★5だろう。マジックのタネとは分かってしまうとバカバカしいと思うくらいの方がサプライズは大きい。

    〇 熱中度 ★★★☆☆
     特殊な舞台設定である。ウィザードが大シャーマンの写真撮影に成功するまでもそれなりに熱中して読める。その後,ギレン,ズオウ,シロクの殺害と捜査が続く。しかし,後半部分はややダレる。ワンアイデア作品なので,アイデアが途中でばれないようにしなければならない。そのため,少し冗長な捜査部分をじっくり描かないといけないということだろう。

    〇 インパクト ★★★★★
     抜群。見えない精霊の謎を合理的に解決するには,ウィザードと同じ顔の男を登場させるしかない。そして,この人物が登場することを予期させる伏線が至るところにあったことに気付く。このワンアイデアの作品。こういう一つのアイデアだけの作品は忘れがたいインパクトを残す。

    〇 キャラクター ★☆☆☆☆
     ウィザードと少女はやや個性があるが,そのほかは記号のような存在。登場人物の内面はほぼ描かれない。よってキャラクター性は皆無。小説というより長編推理クイズである。個人的には,こういつ長編推理クイズのような作品は結構好きである。

    〇 読後感 ★★★☆☆
     取って付けたような語り手である「僕」がインドのシャーマンを傷つけないような選択をするというドラマ性がある。しかし,ほとんど意味をなしていない。読後感は良くもない。悪くもない。人が死んでも,その死にほとんど意味はない。謎解き,ゲーム小説である。

    〇 希少価値 ★★★★☆
     絶版。もともと古本屋さんでしか手に入らない。そして古本屋でもあまり置いていない。ネットでしか手に入らない作品。その価格もジワジワ高騰している。林泰広が「分かったで済むなら,名探偵はいらない」という短編集を出している。その影響で,「見えない精霊」を読みたいという人が増えているのかもしれない。再販されればぐっと手に入りやすくなる。しかし,再販されなければまだまだ価格が上がっていきそう。

    〇 総合評価 ★★★★☆
     泡坂妻夫がカバー裏で推薦。ずっと読みたいと思っていた作品。泡坂妻夫や綾辻行人が好きそうな作品。最近読んだ中では,綾辻行人の「鬼面館の殺人」が印象として近い。鬼面館の殺人は,登場人物の名前が同じというワンアイデアの作品だったが,見えない精霊は,被害者と犯人が同じ顔というワンアイデアの作品。このアイデアを効果的に使うために設定が考えられている。インドには人口が10億人以上いるので,同じ顔の人物がいてもおかしくないといった伏線が嫌というほど張られている。ほかにも,ウィザードと似た男がいたこと,シロク達がなぜ飛行船に向かっていったのか,最初長老がウィザードに親しげだったのはなぜかなど,読み返すと分かる伏線は多数。良くできたミステリである。
     こういった作品はアイデアが命。なので量産できるものではない。一つ間違えれば(間違えなくても?)バカミスになりそうなアイデアである。設定もリアリティは全くない。受け入れられない人にはまるで受け入れられない作品だろう。好きな人はとても好きな作品。私自身もこういう「手品」のような遊び心に満ちた作品は好きである。こういうバカミスチックな遊び心に満ちたミステリは、意外に数が少ない(売れないし,酷評されるからだろうか。)。貴重だと思う。★4にしたい。

    メモ
     主人公のカメラマンである「僕」は,インドのジャングルで虎に襲われたお婆さんを助ける。そして,そのお婆さんから,「ウィザード」というカメラマンが死んでいることを聞く。ウィザードの死を信用しない「僕」に,そのお婆さんはウィザードの魂を呼び出すので直接事情を聞けという。そのような経緯があり,お婆さんの口からウィザードが経験した4つの不可解な死について語られる。
     ウィザードは不可能を可能にする伝説のカメラマン。他人が撮ることができない被写体を撮影する。ウィザードが狙っていたのはインドの大シャーマンの写真だった。大シャーマンの写真は誰もとることができなかった。しかし,ウィザードは気球,催眠術,酸素ボンベといった小道具を使ったトリックで大シャーマンの撮影に成功。大シャーマンは写真を撮られたことで死んでしまう。ウィザードは,自分達が撮ってはいけない写真を撮り,大シャーマンが死亡したのであれば,報いを与えるのは精霊であるはずだと挑戦する。
     飛行船の中で,召喚されたら直ちに,村人達の目の前で自分たちを殺害しろ。精霊だからこそ可能な状況で自分達を殺害されなければ意味がない。ウィザードはそのように挑戦をする。
     ウィザードは長老に取引を持ちかける。精霊はいない。だから精霊によって自分達を殺害することはできない。そこで,自分達は村から消える。そのために,協力しろ…と。長老は取引を受けない。そして,結界の村から一番強い力を持つ者を村に読んだという。結界の村から呼ばれた少女とウィザードの勝負が始まる。
     部隊はヴィマーナと呼ばれる飛行船。操縦士は二人。運転室を含めて部屋は4つある。運転室は下にあり上には3つの部屋がある。生の部屋,死の部屋,霊界の部屋がある。それぞれ一方通行であり,生の部屋からは死の部屋にしか行けない。死の部屋からは霊界の部屋にしか行けない。。霊界の部屋からは生の部屋にしか行けない。その日は月食。月食が明けるまでの時間に精霊はウィザード達4人を殺害するという。飛行船に乗るのはウィザード,シロク,ギレン,ズオウ,5人の村人(見届け人),少女と2人の操縦士。合わせて12人
     少女は霊界の部屋で精霊を呼ぶ儀式をする。ウィザード達は,暗闇の部屋で,手をつないで輪を作り,ゆっくりと回る。結果としてギレンが死ぬ。
     ギレンの死の捜査。ウィザードは運転室を疑う。しかし,副操縦士の証言により,運転室はギレン殺害に使われていなかったことが分かる。次にウィザードは副操縦士が犯人だという説を上げる。そして副操縦士がギレンを殺害するためのポイントとして,催眠術に掛かりやすいという特異体質を持つシロクの存在をあげる。
     ウィザードはシロクに催眠術を掛けて,シロクの意識の下の記憶を確認する。シロクの記憶では,回転している最中にウィザードとギレンの間に仮面の男が入ったことになる。催眠術の最中,誰もいないはずと隣の部屋からドアを叩く音が聞こえる。ズオウが捜査に行く。ズオウは死ぬ。
     ウィザードはズオウ犯人説を唱える。これはトラップ。少女に凶器がないことを言わせるためだった。凶器のナイフはシロクに刺さっている。シロクも死亡。
     ウィザードは謎を解けない。そこで,少女に催眠術を掛けて尋問したいという。少女はこれを受ける。しかし少女の催眠状態での証言を聞いても謎は解けない。その後,精霊と呼ばれていた13人目の人物がウィザードを襲う。ウィザードはその人物の顔を見て全てを理解した。
    【謎】
    ① 仮面の男はどうやって飛行船に入ったのか。
    ② 仮面の男は密室状態の飛行船からどうやって消えたのか。
    ③ 仮面の男はどうやって輪の密室の内側に入ったのか。
    ④ ウィザードとギレンの間に仮面の男はどうやってはいったのか。
    ⑤ 謎の人物はどうやって空っぽの密室に入ったのか。
    ⑥ ズオウを殺害した人物はどうやって部屋からいなくなったのか。
    ⑦ シロクはどのようにして殺害されたのか。
    【解決編】
     精霊と呼ばれていた男は,ウィザードそっくりの顔の男だった。その伏線は至るところに用意されていた。精霊を見た人物は精霊をウィザードだと思い込んだ。そうすることで,いろいろな不可解な謎が生じた。 
     ウィザード,シロク,ズオウ,ギレン

  • 「ウィザード」と呼ばれる日本人カメラマンら4人が、精霊が支配する村で禁じられた行為をしてしまった為、飛行船というクローズド・サークルの状況下で次々と「精霊」に殺されてしまいます。

    トリックは小ネタですが、オンリーワンな設定が巧く読者を幻惑させています。4つの死に纏わる8つの謎が一撃で解決する破壊力は圧巻です。
    ただ、ストーリー性は皆無なので、あくまでもトリッククイズとして楽しむ作品だと思います。

  • 詰将棋のような小説で、楽しめた。薀蓄描写でいくらでも引っ張れそうな話を必要最低限の情報で纏めている。実写かアニメで見たい。

  • 場所はインドの奥深く、密室空間が飛行船で・・・・神秘的な物語であるが
    実はシンプルな密室ミステリと意外性が目を引く怪作である。
    伏線が見事にはってあるにもかかわらず唖然としてしまったトリック。
    騙されたと言うか呆れたと言うか・・・・・

  • 悔しいのを認めたくないような気分です。本格推理ということで腰をすえて望んだだけにロジックに足をすくわれたような…。惨敗です。

  • 出だしに笑いました。
    と同時に果たしてこれはちゃんとしたミステリなのかと不安にもなりました。
    ですが、解決はきちんとしたミステリ的解決でした。
    トリックに関しては伏線がちゃんと張られていたのですが、気がつけませんでした。
    精霊やシャーマン等と設定が異様で物語の始まりのインパクトも強烈なので、好き嫌いが別れそうです。

全12件中 1 - 10件を表示

林泰広の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×