コンテクスト・マネジメント 個を活かし、経営の質を高める (至善館講義シリーズ)

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  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334100582

作品紹介・あらすじ

組織とは、1人ではできないことを成し遂げるための装置であり、経営とは、人を通じてよりよいことを持続的になすことだ。では、人と組織の力を最大限に発揮するために、経営者リーダーが果たすべき役割とは何だろうか。ハーバードビジネススクールの経営政策プロセス学派は、その答えを、企業コンテクストのマネジメントに見出す。コンテクスト・マネジメントを切り口に、過去50年の欧米組織戦略論の知見を統合する渾身の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 経営学のハウツー的な本ではなく、企業独自の制度などがなぜできたのかというプロセス(文脈)を追いかけ、本質的なナニカを語ろうとしている。
    遠回しな表現が多いが、本質を掴みにいくための過程が重要であり仕方ないのかも。例によって規模がめちゃくちゃでかく、コングロマリット事業を営む企業群が調査対象になっているため鵜呑みにできないことも要注意。

    ◯コンテクスト・マネジメントとは
    組織による意思決定と行動を考察するフレームワークのこと。
    意思決定と行動のプロセスを分けて考え、デザインし、運営し、その中に魂を吹き込むことらしい。
    ▼個人的な解釈
    企業コンテクスト(文脈、歴史)によって引き出された要素から、経営管理すること。
    経営にはあらゆる組織に当てはまる普遍解はなく、オリジナルの固有解を追求すべきであり、コンテクストなしであれこれ戦略や制度を考えるのは有意ではない。

    ◯概要
    ・トップは、カルチャーの定義・醸成・定着に情熱を燃やし、執着するべきというのが全ての結論である。
    ・経営者がおうべき変数は、マッキンゼーの7Sによって明らかにされている。目に見える経営要素だけでなく、インビジブルな要素も着目すべきである。
    ・戦略の決定は、事実上ミドルが行っている。実行するのはミドルだから。だからこそ戦略実行について経営層は進捗を追い、実行とPDCAを見守らなければいけない。
    ・経営者は実行にある程度無力である。ミドルマネージャーを巻き込み最善を考え、行動しなければいけない。
    ・戦略もなにかも、実行するのは人である。ということは、実行に耐えうる知識やスキルをもった人を、組織的に育成しなければいけない。現場レベルのDoは現場で強制的に学べるが、それ以外は狙って「学習する組織」をつくらなければいけない。
    ・コントロールだけ考えてはいけない、組織固有のコンテクストを理解し、コンテクストにあっているのかを見るべき。

    ◯デカくなる企業の共通点
    ・社会に対する大胆な理念を掲げている。
    ・個に成長機会と自己実現の機会を与えるプラットフォームになりえている、そのように見せている。
    ・個と個の結びつきを、機会や仕組みで図っている。

    ◯学習する組織
    ・学習する組織とは、知識を創造、習得、移転する能力を有し、新しい知識や洞察を反映させながら既存の行動様式を変革できる組織。
    ・「他社他者から貪欲に学ぶ」「失敗から得た教訓を未来の行動に反映させる」「過去にとらわれず環境変化に迅速に対応する」「組織内で水平・垂直に学習を共有する」。
    ・学習する組織の基本は、対話である。なぜを繰り返す対話、雑的な対話、学習移転できる対話の時間をとれ、学習影響力が高い人物を評価できる制度があるかどうか。
    ・学習する組織の良い悪いは明確に図れる。事業を作れる人材の輩出率を見るべき。事業を創り出せる人材を、目標にするのも一手。※あくまでも普遍解はないためコンテクストに従うべき。
    ・学習するチームのドリームチーム(コミュニティではない、学習影響力の高い人材がいるドリームチームである)こそ、会社で最も称賛されるチームであり、経営者や幹部に据える人材はそこにいる。
    トップはどんなパーパスや戦略的方向性、目標を掲げているか。情報共有システムや人事評価システムはどうなっていて、失敗からの学びを全体で共有できる仕組みはどの程度整っているのか。
    行動規範はどのようなものが定められていて、トップの言動は、現場やミドルの率直かつ誠実な行動をどのくらい促せているのか。これら一連のことを考える必要がある。

    ◯7S 3つのハードな経営資源と4つのソフトな経営資源
    戦略(Strategy) :ある一定の目標を達成するために立てられる企業の限られた財的・人的資源の配分を目的とした一定期間の計画ないし行動方針
    構造(Structure):組織のしくみの特徴(機能的である、分権化している、など)
    システム(System):一定の報告パターンおよび会議形式のようなルーティンな方法
    スタッフ(Staff) :企業内の人員を重要な職種・特質別に分類・配分すること(たとえばエンジニア、企業家型、管理のプロなど)。ライン対スタッフといった意味合いではない
    経営スタイル(Style):経営幹部が組織の目標をどのように達成するかという特徴、およびその組織の文化的特質
    経営スキル(Skills) :経営の中心人物ないし企業全体の持つ顕著な能力
    共通の価値観(Shared Value):組織がその構成員に植え付ける理念あるいは指標となるような概念

  • コンテクストというのは、組織風土やカルチャーに近いものかと感じた。
    プロセスや体制を外形的に整備するだけでなく、なぜこのようなプロセス・体制になっているのか、それを通じてなにを成したいのか、トップが絶えず社内に発信することで初めてカルチャーとして定着する。
    トップの主な仕事は、このカルチャーの醸成・定着であり、それを成すだけの熱量や想いが必要ということなのだろう。

  • エネルギーがいる本

  • 同じ至善館講義シリーズの「経営リーダーのための社会システム論」がとてもよかったので、第二弾かつ同書の共著者でもあった野田さんのこちらの本を読んでみた。

    【総評】
    良くも悪くも骨太な本で、読みにくさも感じた。
    前作に続き「まとめ」はよくまとまっているので、それをコピーして置いておこうと思う。

    コンテクストマネジメントの枠組みは一定理解できたと思うが、自分の課題感(どうやって長期的な競争力の源泉となる企業コンテクストを生み出し、維持するか?)への示唆はあまり得られなかった。
    そのため、第1弾のように、衝撃を受けて一気に読みきるところまではいかなかった。

    【特に印象的だった点】
    ・人は性善でも性悪でもなく「性弱」
    (おかれた場の匂いによって行動を変える不思議な動物)
    ・組織を「プロセスの束」ととらえる

    【そこそこ印象的だった点】
    ・北米でスーパーカブを売って成功したホンダの例は、完全に事前設計されていたものでも、単なる偶然の産物でもない。北米に進出するという大胆な判断、偶然をもとらえて市場での成功につなげるプロセス(企業コンテクストに導かれた、一見場当たり的な、しかし合理的な一連のふるまい)にある
    ⇒戦略分析でもなく、偶然でもなく、組織プロセス

    ・経営者リーダーは「戦略」「経営管理(組織や制度など)」「組織行動(行動規範など)」の3点で企業コンテクストを構築することで、間接的ながらトップダウンで影響を与えていく

    ・U-Form(機能別組織)からM-Form(事業部関組織)への変化は革新的だったが「本社が現場から離れてしまう」「目標・予算の綱引き」「縦割りになりやすい」などの葛藤・問題が起こり「分権」と「集権」が繰り返される傾向がある

    ・リクルートの独特な手法「合算」。各担当者の目標の合算を組織目標とする。下振れはもちろん、上振れても評価が下がる。(マーケットを見通せていない、部下の力量を把握していないという点で)

    ・経営の世界はあまりに変数が多すぎ、一般解はない。分析も、定量的なものはなじまず、創造的なジャンプを伴う洞察が必要

    ・株主にとっては、企業が多角化するより、自分たちの投資ポートフォリオを多角化した方が良い
    ⇒本社の付加価値やシナジーによって、投資ポートフォリオ分散以上の価値を生み出す必要がある ※あくまで株主価値に重きを置くスタンスの場合

    ・本社の役割
    ⇒①規律ある内部資本市場(資本の効果的配分など)
     ②ユニット間共同のための中枢神経
     ③革新に向けたインキュベーター(起業家精神の涵養など)

    ・組織である以上、矛盾や葛藤は必ず起こる。これに対して、目を背けたり翻弄されるか、うまく付き合うか。それが「よい経営」と「そこそこの経営」を分ける

    ・マネージャーの役割の革新
    フロントマネージャー:
    オペレーションの実行者⇒積極的な起業家
    ミドルマネージャー:
    経営管理上の監督者⇒規律正しく見守るコーチ
    トップマネージャー
    資源配分の決定者⇒企業コンテクストの建築家
    ↑ここは特によかった

    ・経営者は、「私に見えていなくて君たちに見えているものは何なのか?」という思いを持ち続けないといけない

    ・行動規範は、トップ自らが日ごろの言動(背中)で見せる。経営者の究極のミッションは人のマインドセットに働きかけること

    ・人と社会と未来に貢献する高いレベルでのアスピレーションを掲げ、組織の成員を挑戦にいざなうこと。
    組織の目的と社員の目的の高い次元でのアラインメントを図り、組織に広がるアクティブ・ノンアクションを払しょくすること。
    そして、意志の力をはぐくんだ個人(まじめな不良)が現状を打破し未来を創造していけるように、支援のコンテクストをつくり出すこと。
    それこそが、経営者リーダーに今求められていることだと、僕は確信しています。

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著者プロフィール

野田 智義(ノダ トモヨシ)
アイ・エス・エル(ISL)理事長
1959年京都市生まれ。83年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行に勤務。88年渡米後、マサチューセッツ工科大学より経営学修士号を、ハーバード大学より経営学博士号を取得。ロンドン・ビジネススクール助教授、インシアード経営大学院(フランス、シンガポール)助教授などを経て、2001年7月に、全人格リーダーシップ教育機関であるISLを創設。財界人、経営プロフェッショナル、大学教授、社会リーダーなど約300名の協力を得て、次世代のビジネス・社会のリーダーの育成に注力している。インシアード経営大学院では「企業変革と戦略リーダーシップ」と題するMBAコースで、過去3年連続で最優秀教授賞を受賞した経歴を持つ。著書に『リーダーシップの旅』(共著、光文社新書)などがある。

「2015年 『アクション・バイアス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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