孤島の殺人鬼 (光文社文庫 あ 2-18 文庫の雑誌)

制作 : 鮎川 哲也 
  • 光文社
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (491ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334721657

感想・レビュー・書評

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  • 今回は通常の『本格推理』シリーズとはちょっと違い、今まで採用された方々の2作目を纏めたもの。しかし、これがやはり苦しいものだった。
    前の『本格推理⑥』の時も書いたが、一番鼻につくのが商業作家でもない人間が勝手に自分で創造した名探偵を恥ずかしげも無く堂々と登場させていること。しかもそういうのに限って内容は乏しい。魅力のない主人公をさも個性的に描いて一人悦に入っているのが行間からもろ滲み出ている。こういうマスターベーションに付き合うのが非常につらい。もっと応募者は謙虚になるべきだ。
    しかし、今回こういった趣向を凝らすことで実力者と単なる本格好き素人との格差が歴然と目の当たりにできたのは非常にいいことだ。現在作家として活躍している柄刀一氏、北森鴻氏、村瀬継弥氏とその他の応募者の出来が全く違う。他の方々の作品が単なる推理ゲームの域を脱していないのに対し、この3名の作品は小説になっており、語り口に淀みがない。
    新本格が現れた時によく酷評された中でのキーワードに「人間が描けてない」という表現がある。しかしこの言葉は真に本格を目指すものにとってはロジックとトリックの完璧なるハーモニーを目指しており、半ば登場人物はそれらを有機的に機能させる駒でしかないと考える者もいるからで非難よりも寧ろほめ言葉として受取ることにもなる。
    今回これら素人の作品を読んで、この何ともいえない不快感というか、物足りなさをもっと適切な言葉で云い表せないかと考えていた。その結果、到達したのが「小説になっていない」である。物語である限り、そこには何かしら人の心に残る物が必要なのだ。それが確かに世界が壊れるような快感をもたらす一大トリックでも構わないし、ロジックでも構わない。しかしそのトリック、ロジックを一層引き立てるのはやはりそこに至るまでの名探偵役の試行錯誤であり、苦労なのだ。これが私の云う所の物語なのだ。
    今回のアンソロジーでは村瀬氏の「鎧武者の呪い」が最も物語として優れていた。あの、誰もが何だったのだろうと思う、野原に立てられた朽果てた兜のような物が刺さっている棒切れの正体がこんなにも納得のいく形で、しかもある種のノスタルジーを残して解明される、このカタルシスはやはり何物にも変えがたい。これはやはり村瀬氏が小説を、物語を書いているからに他ならないのだ。
    今回2ツ星なのはこの村瀬氏の作品による所が大きい。これが無かったらまたも1ツ星だったろう。
    頑張れ、本格。
    頑張れ、ミステリ。

  • イメージ参照(http://blogs.dion.ne.jp/kentuku902/archives/5176365.html)
    (収録作品)踊る警官(北森鴻)/オニオンクラブ綺談(大友瞬)/鎧武者の呪い(村瀬継弥)/蜘蛛の塔(天宮蠍人)/ふたたびの葬送(佐々植仁)/ともしび(江島伸吾)/仮面の中のアリア(鈴木一夫)/見えない足跡(永宮淳司)/逆密室の夕べ(柄刀一)/ゆり荘事件(日下隆思郎)/遺産相続ゲーム(八木健威)/僕を悩ませるミステリーについて(紫希岬真緒)

  • obtnd

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