ヒルビリー・エレジー (光文社未来ライブラリー)

  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (456ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334770525

感想・レビュー・書評

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  • ヒルビリーという単語がそもそもわかっていませんでした。

    よく使う英辞郎というウェッブ辞書を見ると、「山岳住民」「田舎者」とあります。私は後者の意味でぼんやり覚えていましたが、本作の内容からより正確には、アイルランド・スコットランド系のアパラチア山脈付近に定住する白人労働者階級、という階層の方々ということで理解しました。

    では本作はそうした階層へのエレジー(哀歌)とは何かというと、この階層の悲惨さややるせなさ、貧困や無気力のスパイラルについて描いているものです。実際には本作は、筆者のサクセスストーリーといってもよいでしょう。ただし、それは厳しい環境から奇跡的に起きたものであり、何とか這い上がれた自分とほかの周囲との違いがほとんどないこと、そしてまた自己の周囲にある悲惨がまた繰り返されることも暗示しているようでもあります。

    ・・・
    印象的だったのは、それまでに筆者が知らなかった『(海兵隊員としての、大学生としての、イエール在学生としての)あたりまえ』を教えてあげる人・コネクションがヒルビリーには圧倒的にかけているという事実です。

    ちなみに『あたりまえ』は『面接のときは海兵隊のアーミーパンツでいかない』というごくごく初歩的なことも含みます。

    繰り返される養父の変更(母親の結婚離婚)やそれに伴う引っ越し等、落ち着かない家庭環境にあり勉学などやる気もなかったところから、祖父母の絶えざる慈愛をうけて何とか高校を卒業し、その後海兵隊へ入隊、除隊後はオハイオ州立大学へ進学、その後イェールの法科大学院を卒業したという筆者。とりわけイェールでの学業・就職活動ではコネクションによる情報提供やメンタリングがあるものの、本人は全くそうした社会的資本を持っていなかった為に非常に苦労したと語っています。

    この社会的資本やコネクションの欠落は、ヒルビリーである筆者や、ヤク中になったり貧困にあえいでいた友人たちにも同様のことが言えます。どのように這い上がればよいかを伝えるコネが圧倒的にかけているのだと思います。というのも、少しでも上層に上がれる余裕がある人は、まずは引っ越しをしてその地域を離れてしまうからです。

    ・・・
    では色々知っている人がいればそれで事足りるかというと、それもまた違います。過酷な環境にいる子供たちを鼓舞する・守る大人が必要なのです。

    本作ではその役目は祖父母でありました。でもこれは政府のお金云々ではどうにもなりません。『愛をもって家庭を守ろう』などとたわごとを言っても個人主義の昨今、響くものでもありません。

    ましてや成人年齢が精神年齢ではないことも問題をややこしくしています。
    ヒルビリーではなくても、私だって結婚して子どもをもってもまだ自分が子どもだという気分が抜けませんでした。自分がやっと大人に近づいたなと感じたのはマジで最近です。つまり、子どもが子どもを育てているようなものです。だからこそいろいろな面で支えてあげる大人が必要になります。

    筆者の祖父母はその点、移住・引っ越しした核家族であり、周囲の手助けのなさが家庭環境を冷たいものにし、スパイラル的にその子どもたる筆者の母に影響したと考えているようです。

    ただそれだと日本はかなり核家族化していますよね。共働きが増加している昨今、日本の方親家庭は本作のようにスパイラルの入り口にいる可能性はあるかもしれません。心配です。

    ・・・
    ということで、米国下流社会の作品でした。家族の大切さを痛感しました。

    本作はトランプ大統領当選時に話題なったそうで、彼のような単純だけど響くメッセージが『ヒルビリー』受けしたということのようです。

    でももしそれ程にヒルビリーの影響が大きかったとすると、そのボリュームが大きくなったことにこそ驚きがありそうです。

    改めてアメリカという国の不可思議さに驚きつつ、興味が湧いた次第です。

    本作、米国のエスニシティに興味があるかた、格差社会に興味がある方、等々にはおすすめできると思います。

  • アメリカの取り残された人々の実態。自分が悪い境遇にいるのは他人や政府のせいにする、仕事もせずに生活保護でくらす、正しいことがわかっていてもそれを行えない等々、とても衝撃的。日本もこうなるのか、あるいはもうなっているか?こういう人がアメリカにはたくさんいて、陰謀論とか信じてしまって、トランプとかに流されてしまう。

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