俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない (光文社文庫 み 37-2)

著者 :
  • 光文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334791544

感想・レビュー・書評

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  • 目が覚めるたびに違う人になっている、しかも年月日も変わっている。
    って、それだけでも自分の身に起こったらなにがなんだか大混乱なのに、そこにどうやら連続殺人事件が絡んでるときたら、もう、混乱どころか恐怖に震えますよ、誰か何とかしてくれ!と叫びたくなる。

    毎日そんな転生を繰り返す中で、少しずつぼんやりと「殺人事件」と自分のヒントが見えてくる。
    本当の自分は誰なんだ。なぜこんな転生を繰り返しているのか。事件とのかかわりは。被害者か、関係者か、あるいは、容疑者なのか。

    自分が誰かわからないままも必死で事件を阻止しようと奮闘する姿に心打たれる。
    さまざまな状況をつなぎ合わせて、自分なりの推理を働かせて、そして転生先で「死」を経験しながらもあきらめないその姿に。

    すべてを思い出し、あの日から始まったそのすべてがつながり明らかになる。
    最後の最後まで「奇跡」なんて起こらないじゃん、どこに「奇跡」なんてあるのさ、とやさぐれそうになったとのときに、見えた光。あぁ、これが「奇跡」だ。ここからまた始まるんだ、と胸がいっぱいになる。

  • すごかったー。
    “一気読み必至”“驚異のノンストップエンターテインメント”という惹句は決して大げさではなかった。


    『俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない』 水沢秋生 (光文社文庫)


    いやー、すごい勢いで引きずり回された。
    息をするのも忘れるほど目まぐるしい場面展開。
    ページをめくるたび、なんてもんじゃなく一行ごとにひっくり返される事実。
    自分が自分にネタバレさせる危険を回避するため、先に視線が行かないように一行だけに集中して読み進む緊張感。


    主人公である「俺」がある日目覚めたら「蒲原悦子」という見知らぬ女になっていた、というシーンからこの物語は始まる。

    よくある人格入れ替わりモノかと思いきや。
    「俺」は目覚めるたびに違う人格になるのだ。

    外国人留学生になったり、おじいさんになったり、引きこもり女になったり、はたまたアル中のサラリーマンになったりし、年齢や性別のみならず日付けもバラバラで、時には時間が戻ったりもする。

    「俺」は、自分が男であるらしいということ以外は何も覚えておらず、名前はもちろん、年齢も顔さえも分からない。


    もうね、この他人に成り代わるスピード感がすごいのよ。
    こっちが、え?なんで?どういうこと?と思っている間に彼はもう別の人になっている。

    それでも読者が置いてきぼりにされないのは、他人の体になった「俺」の現在進行形のリアルな感想がストレートに読む者に伝わってくるからだ。

    特に、一番最初に「蒲原悦子」で目覚めた時は、女の体になってパニックになっているさまが、主人公の口の悪さも手伝って実にテンポよく語られ、すごく面白い。

    が、その反面、全編「俺」の独白で物語が進まざるを得ない閉塞感は重苦しい。
    ちょっと乙一さんの「失はれる物語」を思い出した。


    「俺」の発する言葉は成り代わった先の人物の言葉になり、中身である「俺」の感情は他人からは見えない。
    「俺」は苦悩する。
    俺はいったい誰なんだ?
    そもそも俺は存在するのか……?


    ある日、「似鳥くん」という二十代後半の青年になっていた「俺」は、週刊誌の電車の中吊り広告にあった“カップル連続殺人事件”の記事に強く反応する。
    この事件は俺と何か関係があるのか?
    まさか、俺が……!


    さて、様々な人に成り代わっていく中で「俺」は、これらの人々はみな連続殺人事件に何らかの形で関わりのある人物であることに気付く。
    意味もなくただ成り代わっていたわけではなかったのだ。

    さらに「俺」が“ある法則”に気付いてからは、物語の展開はさらにスピードを増していく。

    過去に成り代わってきた人たちの輪郭がくっきりとし、それぞれの生きざまが意味を持ち始める過程にゾクゾクしてしまう。
    伏線回収というのとは少し違う不思議な感覚だ。
    普通ならただの脇役、通りすがり、で終わる登場人物たちは、「俺」が入り込むことによって全員が主役になる。


    時系列が複雑に前後するため、“殺人犯”ではなく“殺人者”と表現されているのは、なるほどなと思った。


    「俺」は、事件の被害者たちを死なせないために命懸けで奔走する。
    いいヤツなのだ。本当に。
    だから顔を持たない幽霊のような存在であっても、その“心”に肩入れしてエールを送ってしまう。


    物語の終盤にすべてを思い出した彼がとった行動、それに続くラストシーンはほろ苦い。
    彼が守りたかったものは少し形を変えてしまったけれど、それはきっと過去を変えようとしたことの代償なのだろう。

    ミノルのことは納得いかないけど。
    なんで?と作者に膝詰めで問い詰めたいよほんと。


    起きたと思ったらそれもまた夢だったという“覚めても覚めない夢”を見たことが、この作品を書くきっかけだったと作者の水沢さんは言っておられた。
    確かにそれは怖いな。


    この物語はテーマとしては重いのかもしれない。
    でも、抗えない運命の行く先に奇跡があるとするなら、なんかそれっていいなと思う。

    赦しと希望を感じる読後感だった。

  • 先が気になってほとんど一気読みした。
    内容も、ありそうであんまり無い設定で、ちゃんと伏線も回収している。
    途中登場人物の多さに混乱したけど、少なかったらすぐわかってしまうので多い方が良かったのかもしれない。
    最後、よくわからなくてページを戻って読み返したりして、一応納得。
    題名がちょっと誇張されてる感じはあるけど全体的に面白かった部類には入るかなと思う。
    時系列がよくわらなくなるからメモしたらもっと理解できるかも?
    最後も、主人公が入れ替わってる間の記憶がちゃんとあるところが良かった。それで、懐かしい顔ぶれとちゃんと会ってるところもスッキリする。

  • 先が気になって途中からは一気読み。
    主人公を応援しながら、それぞれの関係性や一日を見守りつつ、どうなるのかわくわくした。
    ほんの小さなものが、なにかにつながってる。それはただの偶然かもしれないし運命かもしれないし、でももしかしたら奇跡かもしれない。

    読み終わってふと、周りにいる人と自分、知らない誰かと誰か、そんな繋がりを考えてみたくなる。

    この最後のページのあと、幸せな続きが彼にありますように。

  • 眠る度に意識が他人に乗り移る。
    自分は何者なのか?
    そんな葛藤と共に、連続殺人犯を探し出してどうしても阻止したい、そんな思いに至る。
    果たして、、、

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著者プロフィール

著者:水沢秋生(みずさわ あきお) 1974年、兵庫県神戸市生まれ。
出版社勤務などを経てフリーライターに。
2012年、第7回新潮エンターテインメント大賞を受賞した『ゴールデンラッキービートルの伝説』でデビュー。
青春の残酷さと美しさを描いた傑作『プラットホームの彼女』が話題となる。
主な著作は『運び屋』『わたしたちの、小さな家』『俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない』など。

「2018年 『あの日、あの時、あの場所から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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