- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784334913519
感想・レビュー・書評
-
1946年、日本で初めて国産ポン菓子機を造った実在の女性をモデルにしたフィクション。
作家さんのプロフィールによると元々ブロガーだそうで、そのせいか文章は非常に読みやすい。キャラクターもありがちながら魅力的で、ヒロインが様々な壁にぶち当たりながらも周囲の人々の支えと諦めない心で乗り越えていく展開は朝ドラのような感じで楽しく読める。
ポン菓子と言うと素朴なお菓子というイメージしかないのだが、ヒロインとし子にとっては戦時下で飢えによる体力と免疫力低下で次々幼い命を落としていく子供たちを何とか救うための画期的な食べ物だった。
戦時下の大阪では米や雑穀が僅かながら手に入ったとしても、煮炊きをする燃料がないために生で食べるしかなかったという驚きの描写がある。飢えとは単に食べ物がないというだけのことではないのだ。何もかもが軍優先、戦争優先で国民の生活や命は後回しになっていた。
大阪の裕福な商家に生まれ『いとさん』と呼ばれてきたとし子だが、機械いじりが大好きで設計図も自分で書いてしまうほどの少し変わった子。
成長して教師となったとし子だが、可愛い教え子たちが日に日にやせ衰え、本来なら直ぐに治るような簡単な感染症や病気で亡くなっていく。なのにとし子を始め教員たちはなすすべもない。
家では『いとさん』らしくしろと言われ、家の外では何も知らないええとこのお嬢さんと言われ、一体何が『自分らしさ』なのかと悩む。
幼い頃に一度だけ食べたポン菓子。それを作る大きな音を立てる機械。それがあれば僅かな米や雑穀でたくさん子どもたちに食べさせることが出来るのではないかと思いつき、それを造り上げることが自身のやるべきことだと気付く。
そこからは一目散。だが壁は幾つも現れる。
まずは設計図が手に入らない。お金がない。そして何より鉄がない。
しかし当時日本の鍛冶場と呼ばれた八幡なら鉄がある。ならば行って作れば良い。
とし子の情熱は気持ちが良いくらい真っ直ぐだ。
だが壁に当たるたびに突き刺さる現実。何も知らないええとこのお嬢さん。
祖母に、父の愛人で芸者の吉乃に、商売人に、飲み屋街の女将に、職人に…。
そう言われ傷つく度に一つ一つ力と知恵を身に着け、覚悟も大きくなっていく。
意外といい味出していたのが吉乃。きっと言えないような苦労をしてきたのだろうし人々の色んな不幸も目にしてきたのだろうと想像出来る。
そして何と言っても修造さん。陰に日向にいつもとし子を支えてくれる。とし子の原動力になってくれる。これからもずっと。
空襲のシーン、飢えた子どもたちが簡単に死んでいくシーンは辛い。だがだからこそ何とかせねばと考えた大人たちがいる。一方でこんなご時世だからと自己の儲けだけを追求する者もいるのだが。
とし子の想いは雲の上の人にまで届くのか。
これからポン菓子を目にする度にこの物語が浮かびそうだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
少しの燃料と原料で、大量のお菓子ができる。
太平洋戦争末期に、ポン菓子製造機を作るまでの、実話をもとにしたフィクション。
面白かった。
男衆女衆がたくさんいるような旧家の〈ええとこのお嬢さん〉。
〈いとはん〉として、意思を尊重してもらえなかったり、世間知らずさを、社会の厳しさを知る大人に嘲笑われたり。
トシ子は最初からたくましかったわけではないが、ここぞというときは信念のために肝の据わった言動をする。
餓死する子どもをなくしたいという一念で、頑張り続けるトシ子の姿には、何度もジーンときた。
たくましい女性の痛快さや、コミカルな会話もあり、笑って泣ける作品。 -
実在の吉村利子さんをモデルにした小説で、昔語りを聞いているような文体も、物語の雰囲気に合っていて読みやすい。しかし、本作はただ単に読みやすい「女性の奮闘記」といった口当たりの良いものだけではない。
「ええとこのいとはんには、この辛苦はわからない」この言葉は、トシ子にとって鋭く切味の良いナイフよりも心を切り裂くものだったろう。でも、大阪時代のトシ子には確かにそんなところがある。本当に人を助けたいなら、理念だけで突っ走ってもだめだ。人の命を大切に思うならば、自分の命を大切にしなければならない。こんなこともわからない「お騒がせ女」に見える。
そんなトシ子が戸畑へ移ってどんどん成長していくところが読みどころ。根っこのところにある理念が変わらず燃えているのが、ここへきて一気に爆発していく感じで心を揺さぶる。兎角いろいろなことに妥協してしまいそうになる今日この頃だが、一つ芯の通った気持ちの良い話だった。 -
ポン菓子機を製造した吉村利子さんの実話。「いとはん」と呼ばれる頃とポン菓子機作りで福岡へ行った頃とでは一気に逞しさを感じずにはいられませんでした。
飢える人々に、少ない材料でたくさんのポン菓子を食べられるようにという強い意志を貫いたおかげで今のポン菓子があるのだと初めて知りました。
戦争の生々しい描写の中でポン菓子を配ろうとする姿は、胸を打つものがありました。
トシ子一人の夢ではなくみんなの夢が形になったのですね!!
ポン菓子機のことをもっとたくさんの方に伝わって欲しいと思う一冊。 -
太平洋戦争末期、日本は未曾有の食糧難に襲われていました。大阪旧家のいとはん(お嬢さん)の橘トシ子は、国民学校の教師。栄養不足で命を落とす子たちを、何とか助けたいと思い、お米を生徒たちに届けますが、お米を炊く燃料がなく食べることができないと言われてしまいます。ある日少ない燃料で、大量の穀物を食べられるポン菓子の存在を知り、その製造機を作ろうと考えます。そこで、機械を作る鉄と職人のいる北九州へ、設計図を持ち単身向かうことにしますが…。
国産初のポン菓子製造機をつくった、実在の人物をモデルに書かれた物語です。 -
戦火で焼け苦しむ人々の描写、、、かなり辛かったです。現在のウクライナもこんな状況なんだろうかと考えるとますます胸が苦しくなりました。
ポン菓子ができるまでという話よりも、戦争の惨さがひしひしと伝わる作品でした。 -
実在する女性の体験をもと
朝ドラのような
テンポの良い
情景の浮かぶ
19歳で学校の先生として目の前の子供達を何とかしたいという気持ち一つで沢山の人を動かして、目的を達成する!
逞しい女性に勇気をもらえて元気が出ました!
あっという間に読めました。 -
109大阪のいとはんが憎い戦争から子供たちを救うために大奮闘。朝が来た、の広岡浅子を彷彿とさせる大活劇で、悲惨な中にも希望の見える作品でした。テレビになりませんかね。上品で気の強い感じの若手女優さん居ないかな。