あたたかい水の出るところ

著者 :
  • 光文社
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感想 : 64
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784334928223

作品紹介・あらすじ

温泉。それは地上最強のパワースポット。心も体もあったまる。わたしは、自分が凍えていたことに、気づく。息が詰まるような日常にも、きっと風穴があく。極上のガール・ミーツ・ボーイ・ストーリー。

感想・レビュー・書評

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  • 痛い。
    痛くて、読み進められなかった本というのは久々だ。

    主人公の家庭は、支配的な母親と影の薄い父親という、典型的なacの家庭である。
    彼女の自我の希薄さ、身についてしまった無意識のお気楽演技は、現実世界から自分を守るための術であり、温泉は、彼女がその過酷な現実から解き放たれる唯一の世界だったのだと思う。
    その、『幻想』の世界が生きていくための現実と結びついていくことはとても素晴らしく、救いがある。
    家族を捨てることも、綺麗事ではなくていい。
    変わらない家族のためにいつまでも傷つかなくていい。
    何もかもを背負い込むのは無理なのだ。そして背負い込む必要もないのだ。
    自分のために、好きなところで、好きなひとと、苦労しながら、生きていいのだ。

  • 読む前から、タイトルと目次をみるだけで、いろいろと予想が広がる1冊。
    そしてなぜ表紙に猫がいるのか?その謎は、ラストまで読むとガッテンできるかと思います。

    目次は、4章を「起承転結」で分け、それぞれに見出しがついているという、おもしろい方法です。
    「結」の見出しから「このお話の最後は、よい方向でまとまるんだな」ということがわかるのですが、しかしこの「結」までの展開が、なかなかのものでした。

    冒頭に、温泉の湧きでる銭湯が登場し、「これは温泉銭湯大好き女子高生・大島柚子(ゆず)の、のほほん話か?」と思いました。

    しかし「承」の章に入り、主人公・柚子の家族背景があきらかになるにつれ、一見「フツー」に見えた柚子やその家族の、それぞれに抱えているものの重さが、浮きぼりになってきます。

    柚子が銭湯で、ある理由からぶっ倒れたとき、入院先の変わり者おじいちゃん医師・オンジの言葉が、ずしりと物語全体に響きわたります。

    「きみは、自分の家庭が、フツーだという。それは、なにと比べて言っている?テレビのホームドラマに出てくるような、幸せな家庭だという意味で、フツーなのか。」(116ページ)

    「子供には、自分の体験の全てが『フツー』であると感じられる。たとえそれが、人権的にはどうかと思うような扱いを受けている場合であったとしても、それ以外の人生を知らなければ、子供はどうやってそれを、異常と見抜くことができるだろう?」(117ページ)

    ひどい目にあったとき、それがひどいことなんだと気づくためには、他の世界を知ることが必要です。
    でも、比べるものをもたない人は、その状況が自分のなかの日常であり、「フツー」であるため、なかなか自分では気づけません。
    それに、そもそも他の家族の様子なんて、見えるものではありません。

    柚子のおかれている状況は、読み手からみると「ん?ちょっと、なんか、ジワジワしんどくない??この状況…」と思えるものです。
    でも柚子にとってはそれが日常で、そこで生きるしかありませんでした。
    そんな柚子にとって温泉銭湯は、唯一生きる理由をあたえてくれるものであり、心の底からあたたかくなれる場所だったのです。

    そう考えると、今日も各地の温泉銭湯に通ってくるもお客さんの中には、柚子のように心から安心したくて、文字通り、身も心もあたたかくなりたくて通ってきている人もいるのかもしれない…と、思えてきます。

    しかし、先に目次をご覧になった方は、「この「承」の展開からどうやってラブを入れてくるの??」という感じですよね。
    ご安心ください。
    「転」の章では「アレ~??ウソ~??」というくらい、ちょっとドキドキするラブ要素が入ってきます。

    だからといって、愛の力で柚子の家族問題がするっとまるっとすべて解決!というわけではありません。
    けれど読み終えたときには、「あたたかい水の出る」源に、ようやくたどりついた柚子のこれからを、精いっぱい応援したくなりました。

    温泉仲間のおばちゃん・平松さん、おじいちゃん医師のオンジ、柚子の同級生、そして三の丸工務店の部長さん…などなどの、キラッとひかる名脇役ぞろいのこのお話。
    主人公・柚子とおなじ高校生にも、そうでない方にも、オススメしたい1冊です。

  • なんというか、不思議な作品でした。
    タイトルと可愛らしい表紙に惹かれて手にとったものでしたが、読み始めて「あれ?ちょっと失敗したかな〜」と思ってました。

    銭湯が大好きで、ぽわ〜んと抜けたお気楽な性格の高校3年生の女の子、大島柚子。
    軽い文体だし、柚子の間抜けな行動や発言から、一体何を伝えたい物語なんだろう?ただマンガの様に、楽しく読ませたいだけなのかな?と、読むページがなかなか先に進みませんでした。

    急にグイッと引き込まれてきたのは半分を過ぎた頃。軽い文体は相変わらずなんだけど、けっこう重いテーマが語られているんですよ。
    ひと言で言うと家庭崩壊。

    柚子の自分がこれ以上傷つかない様に、気持ちに折り合いをつけて家族と接している姿が切なくて鼻の奥がつーんとなってしまいました。

    家族のゴタゴタは解決しないままだったけど、しっかりと自分の道を切り開いていこうとしている姿は眩しくて、いい読後感でした。

  • 小学生の時に近所のお風呂屋さんが温泉を掘り当てその時に温泉に目覚めた柚子は高校生になった今も何よりの幸福を温泉で満していた。
    甘ったれで自分本位な大学生の姉、勉強ができたばっかりにすべてをそれに縛られて鬱屈とした暴力で発散する妹、妹にすべてを傾ける母親は自分の都合で家族を雁字搦めにする、父親は仕事にも家族にも疲れ影の薄い毎日。
    頭のできは分かっているから高校を出たら働くことになるだろうが、果たして自分はどんな仕事ができるのか?
    家族のこと、将来のこと、すべての不安を温泉(正確にはそこから繋がる世界の根元)で癒してきた柚にとある夏の日、お風呂屋さんから新たな出逢いが生まれる。
    果たして彼女が辿り着く未来は?

    木地さんの優しさと捻くれが全開のお話。何故か柚子のお風呂屋さんセットの語りがすごく好きだった(笑)

  •  女の子友だちの誘いを断っても、高3のゆずが週に3度も通う銭湯「松の湯」。小学校3年生のとき、温泉に模様替えされた「松の湯」にハマりっぱなしのゆずは、常連のおばちゃんたちとの会話も難なくこなす。もうすぐ直面する将来のことや、両親の関係が冷め切っていること、妹をかわいがる母に家事を押しつけられていること、恋愛至上主義の姉や、勉強漬けの優等生の妹のはざまで窒息しそうなことも…そこはゆずがすべて忘れられる素敵な空間だった。
     そんな松の湯で、ある日出会った生意気そうな大学生と口論になったゆず。もう会うこともないと思われたけれど…。

     読み始めは、ゆずの温泉好きがほほえましかったものの、中盤はゆずの置かれた環境があまりにも痛ましくて、ちょっと読むのしんどいなぁと思ったけれど、あれよあれよで一気読みでした。
     なんとコメントしたらよいのか、なにを書いてもネタバレになりそうで…。これはまぁ、とにかく読んでみて!としか言えません。ゆずの母、父、姉とどうしようもない大人の中で、担任とか、工務店のおじさんとか、お医者さんとかがしっかりしていて、安心できました。

  •  読み終わって虚脱状態になった……。
     もしかしたら今まででいちばん柔らいかと思ったけど、細部はえぐかった。現代的で、すぐ隣りにいそうなえぐさ。
     登場人物誰一人完全無欠な奴がいない。そのリアルさ、救いようや甘えがないさまが良かった。形式と結末がお伽話だから他のとこできつくしめてちょうどいいんだなと。
     素材や扱いたいものはやっぱりこれまでの作品と通じている感じ。ゆずはいわばぴりか側の女の子だけど、ぴりかの位置よりはフツーへの順応力を持っている……と感じたのは全編ゆずの視点で、ゆずの考えが丁寧に描かれているために、捉えやすいと錯覚してるだけかもしれないと感じた。
     これ読んでほっこりしたとか癒されたって言えるひとはまだ大丈夫なひとだと思います。どうしようもない気持ちになってしまったひとのほうがやばい。この本を必要とするひとのところに届きますように。

  • 本屋さんで一目惚れして買った本です。
    展開が早いなあ!と思ったけど、
    主人公の女の子のキャラがいい!
    読み終わった後、ほっこりしました。

  • 温泉。それは地上最強のパワースポット。心も体もあったまる。主人公ゆずは問題を抱えた家庭に生まれ育った次女。恋愛に全力を注ぐ姉と成績優秀で母親の期待を一身に背負っている妹に挟まれ、温泉につかることを楽しみに生きているだけの毎日。しかし、一人の男子に出会い、いつも感じていた気持ちを共有したことで、自分が凍えていたことに気づく。息が詰まるような日常にも、きっと風穴があく。極上のガール・ミーツ・ボーイ・ストーリー。

    ブクログでの評価が高かったので読んでみた。初の作家さん。表紙と序盤の主人公の癖から、もしやこれは陽だまりの彼女的に実は猫でした!とかなるんじゃないかと思ったんですが、普通に人間でしたwえーと、福一との決定的な瞬間になるときの不思議な力(透視?)は何だったんだろう。ファンタジーっぽいね。家庭で苦しい気持ちは私にもあったのでゆずのつらさはよく分かります。楽なものに逃げる気持ちも。でも実際こんなぼんぼんに求めてもらえるとか奇跡的だよな・・・羨ましい。ゆずは自分から何かをしたわけでもないのに(まあ妹への言葉とか福一と話す決心したのは偉いけど)結局幸せになれるのかぁと若干ひがんだ見方をしてしまいました(^^;)

  • もしかしたらこれからのわたしを支えてくれるかも知れないよき本に出会いました。

    ずっと持ち歩きたくなる一冊です。

  • 2日間で読んだ。

    レビューを書くにあたって、誰かの言葉をを借りたかった。
    伝えたいことがありすぎて、でも自分の表現力や語彙力では乏しすぎるからだ。

    まず、柚子の家庭。
    確かにいまどきありがちだ。
    ちょっと誇張した感じ。
    でも、これを表現するのはすごい。

    福一、イケメン過ぎる、かっこいい。
    大好き。

    柚子ははっきり言って、努力していないし、あまりにもシンデレラ・ストーリーすぎると思う。現実は甘くない。
    でも、小説として、あくまでも「理想」として楽しみたい。

    そして、なにより「心情描写」。
    これは本当に上手だなと感じる。

    表紙の赤と黒猫白猫の意味がわかったときはなかなか感動した。

    すっと頭に入りにくいが、
    お気に入りの一冊。

    ずっと持ち歩きたくなる。

    温泉、入りたいなぁ。

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著者プロフィール

1971年石川県生まれ。作家。
日本大学芸術学部演劇学科卒業。1993年「氷の海のガレオン」(群像新人文学賞優秀作)でデビュー。作品に『ねこの小児科医ローベルト』『悦楽の園』「マイナークラブハウス」シリーズ、『あたたかい水の出るところ』『夢界拾遺物語』『ぼくらは、まだ少し期待している』などがある。

「2023年 『ステイホーム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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