腐爛の華: スヒーダムの聖女リドヴィナ

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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784336035660

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  • 三島が「デカダンスの聖書」と称し、澁澤が自らの翻訳のうちでも気に入りであったという『さかしま』を、私は学生のころから繰り返し読んだ。
    『さかしま』は、没落した貴族の末裔のデ・ゼッサントという腺病質の男が、館を自分の偏狹的宇宙に改造し、そこで、甲羅に象嵌を施した亀を歩かせてみたり、窓や部屋を改造して船のなかにいるようにしてみたりと、ひきこもり青年の道楽の軌跡を読んでいるような本だが、この変わり者のデ・ゼッサントが飾った絵が、ギュスターヴ・モローの『サロメ』2枚とオディロン・ルドンなのだからほっとくわけにはいかない。
    『彼方』では、ジル・ド・レーを描き、戦慄の世界を描き出したジョリス=カルル・ユイスマンスは、改宗し、その後、中世キリスト教の基盤に立つ作品を何冊か著している。
    本書、『腐爛の華』のサブタイトルは、スヒーダムの聖女リドヴィナ。改宗後の作品である。
    1380年、オランダのハーグのそばのスヒーダムでリドヴィナという女の子が生まれた。
    この少女は、信心深く美しい子に成長する。15歳までは健康であったようだ。
    その後、スケートに行って転倒し、肋骨を折ってしまうが、骨折のあとに膿瘍ができ、膿瘍は破裂し、膿と血を吐き、壊疽し、それは全身に広がって、汎潰瘍化し、腐爛し、ウジ虫がわいた。右目は失明し、口や耳や鼻から血を流した。
    カリエス、ペスト、丹毒などの感染症にも見舞われた。
    これほどの蝕みが少女に襲いかかってもリドヴィナに死は訪れなかった。
    医師は神憑っていると告げた。
    リドヴィナは、こんな凄まじい苦痛の毎日を過ごしつつ行き続ける。母が死んでも父が死んでも兄弟が死んでもリドヴィナは腐ったからだのまま行き続け、53歳まで生きた。
    リドヴィナは自分の身におこっている責苦を罪を犯した者たちの贖罪であると位置づけ、主に彼らの代わりに自分を罰してほしいと祈った。
    このような身代わりは、日本でも身代わり地蔵や身代わり観音などにもみられるが、生きながら贖罪を負う聖人は西洋によくみられる。
    亡くなって屍になったリドヴィナは、発病する前の愛らしい姿に戻って、全身の傷も癒えていたという。
    ユイスマンスは、スヒーダムを訪れて、最後の章に聖女を偲びながら旅の囘想を記している。
    書中にリドヴィナが死後数年たって生まれたボンバストゥス・パラケルススが『オプス・パラミルム』に書き、ユイスマンスが引用している一文が忘れられない。
    --「すべての病気が贖罪であることを知らねばならぬ。もしも神が贖罪が終ったと考えぬなら、どんな医者も病気を中断させることができぬ。・・・医者はその治療が主によって決定された贖罪の終わりと偶然に一致せぬかぎり病気を治すことができぬ」--

  • 若いときにユイスマンスの作品の中で最後に読み、ユイスマンスのイメージが一転した作品。

    好きだったなあ、生々しさも伝わり…。

  • 10年以上前に購入したが、なぜか今まで読んでない・・・

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