- Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
- / ISBN・EAN: 9784336060600
作品紹介・あらすじ
「厖大なウェストレイク作品の中にかなり変な作品があるらしい」
「ミステリではなく普通小説、いやポルノ小説、しかもメタフィクション!?」
……謎が謎を呼ぶ、伝説の作品がついに登場!
〈悪党パーカー〉シリーズや数々のコメディ・ミステリで知られる
巨匠ウェストレイクによる爆笑の半自伝的実験小説。
〈ウェストレイク全作品の中でも大傑作に属する、私小説にしてメタメタフィクション!〉若島正
ポルノ小説のゴーストライター、エド・トップリスの苦悩は、締切が近づいてもまったく書けないこと。いざ書き始めても、自身の生活や夫婦間問題のあれこれが紛れ込んで物語はなかなか進まない(そして小説は延々と1章25ページが繰り返される!)。ある日、書きかけの原稿が原因でエドは思いもよらないトラブルに巻き込まれることになる……リチャード・スターク名義の〈悪党パーカー〉シリーズや〈泥棒ドートマンダー〉シリーズでおなじみのコメディ・ミステリの巨匠ウェストレイクによる、仕掛けに満ちた半自伝的&爆笑のメタ奇想小説がついに邦訳!(1970年作)
感想・レビュー・書評
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スランプに陥ったポルノ作家が締め切りまでになんとか作品を書こうとする話。第1章を書いては破棄し書いては破棄し、作品の登場人物が作者と徐々に重なりあいながら全体としてメタ化していくので、ちょっとした奇想小説でもあるけれど、もっとも語り手が信頼できない語り手として機能しているので、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか判然としない。明らかに嘘をついている箇所も、嘘か本当か曖昧な箇所も見受けられる。そしてこれをミステリーととるか、ある種の私小説的な文学ととるかは読者に任されているのかもしれないけど、個人的には創作入門講座小説として楽しんだ。これはウエストレイクの実体験に負うところが多いのだろう。数々の作風を使い分けて大量の作品をものしてきた大御所にこんな実験的な小説があったことを知らなかった。たしかに彼の作品の中でも傑作の部類だろう。
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帯の惹句に「半自伝的実験小説」だとか「私小説にしてメタメタフィクション!」だとかいう文句が躍っているが、スランプに陥った小説家が何とかしてページ数をかせぐための苦肉の策じゃないか。しかも、ネタは自分の旧作からの引き写しだし。これが新作だったらかなりの批判が予想されるが、原作が刊行されたのが一九七〇年であることを考えると帯の惹句も満更、盛り過ぎというわけでもない。
エドはけっこうなハイペースで、ここまでは書いて来た。しかし、締め切りが近いのに突然書けなくなってしまう。スランプだ。しかし、エドにはスランプなどという言い訳は使えない。エドはゴースト・ライターなのだ。書けなければ代わりはいくらでもいる。妻子のいる今、実入りのいい仕事を失うわけにはいかない。
この仕事は大学時代のルーム・メイトのロンからの話だ。ロンはポルノに嫌気がさして、スパイ小説を書きはじめたら、これが売れて映画化もされた。この路線で行きたいが、ポルノの需要は絶えずあり、出版社としては人気作家の作品がほしい。そこで、大学時代の同期で売れていないエドにゴースト・ライターにならないか、と持ちかけたわけだ。
タイプライターに用紙を挟み、いざ書こうとするのだが、何も出てこない。スランプを克服するいい方法は、何でもいいから書くことだ。そのうちに調子が戻ってくる。そう聞いたので、エドはとにかく書き出すのだが、タイプ用紙に打ち出されるのはエドの現在の心境やら、ポルノ小説のセオリーやら、最近うまくいっていない妻ベッツィーとの関係といったポルノ小説とは関係のないことばかり。
この小説には上と下に二つのノンブルが打たれている。タイプ用紙二十五枚が完成原稿二十五ページに相当する。一章が二十五枚で十章書けば完成だ。しかし、二十五枚書けたところで原稿を破り捨て、はじめからやり直したりするから、下に打たれているこの小説のページ数は増えていくのに、上に打たれたノンブルはいっこうに数が増えていかない、という面白い仕掛け。いや、面白いのは読者にとってであって、主人公にとっては厄介のたねだ。
そんなこんなで七転八倒の挙句、どうにか第一章は書き上げるのだが、そのネタというのが、エド自身と妻ベッツィーをモデルにした身辺小説。実はエド、ポルノ小説は書いていても、妻以外の女性とセックスしたことがない。しかし、その分、頭ではいろいろ妄想している。一応作家なので妄想したことは書いて残している。ベビーシッターの十七歳のアンジーとのことも。実名なので日記みたいなものだ。しかし、すべては妄想であり、真実ではない。
ところが、エドの留守中にベッツィーがそれを読み、エドの帰りも待たずに子どもを連れて実家に帰ってしまう。実家には恐ろしい義兄二人がいて、話を聞いてエドの家に押しかけてくる。エドは這う這うの体で家を逃げ出し、ロンの部屋で原稿の続きを書く破目に。しかし、第二章が書けない。ポルノ小説でよく使う手に、章ごとに夫と妻の視点が入れ替わる、というのがある。それで行くと第二章はベッツィーが他の男とセックスをする番だ。今の状態でとてものことにそれは想像すらしたくない。
そこで、第二章を飛ばして第三章を書きはじめることにする。別の男女を次々とリレー式に登場させるロンド形式で行くわけだ。しかし、エドの家に探りを入れに行ったロンからの電話では、兄弟がこちらに向かっているらしい。慌ててロンの家を出たエドにはタイプがない。エドは百貨店のタイプ売り場で試し打ちをする客を装い、原稿の続きを書く。しかし、店員に見咎められ別の百貨店へ。
いつの間にか、エドが書いている話より、エドが置かれている状況の深刻さの方が数倍も興味深くなってきている。未成年のアンジーとのセックスは、ただの妄想なのだが、エド以外の人間にとっては犯罪である。警察がエドを追いかけ出す。追いつめられたエドは逃げ回りながら、タイプライターが使える場所を探しては、原稿の続きを書く。ここらあたりからの展開はジェットコースタームービーを観ているよう。
唯々、決められた枚数のタイプ用紙を埋めるために書き続けること、それが作家というものの至上命題であることが痛いほど伝わってくる。どうやら、元ネタになっているのは、ウェストレイク本人の実生活らしい。「半自伝的実験小説」、「私小説にしてメタメタフィクション!」の看板に偽りはないようだ。多作で知られる「ウェストレイク全作品の中でも大傑作に属する私小説にしてメタメタフィクション!」と若島正氏が絶賛するのも頷ける。
というのも、ネタに困ったエドがついつい持ち出す自身の逸話がいちいち思い当たる。大学に行ったのも、結婚せざるを得ない破目に陥ったのも、そこいらじゅうに転がっている、誰にでもある話だからだ。ゴーストだってライターであることにちがいはない。読者は面白がっているのだ。しかし、書いている本人は知っている。真の作家とそうでない者との差を。妄想日記で窮地に陥るところは、本当に面白い。それでいて、当人の心情を語る部分を読んでいると身につまされる。このギャップが凄い。
キスマークの中に、サイケデリック調(死語?)のレタリングで記されたタイトルといい、表紙の色調といい、七〇年代を知る者には懐かしい限りだが、意気阻喪したホールデン・コールフィールドばりのモノローグで押し通す語り口調に今の読者はついてきてくれるのだろうか。「メタメタフィクション」といえば、そうにちがいはないが、ついてない男の駄目っぷりをユーモラスかつシリアスに描いた、遅れてきた青春小説といいたいような出来映え。ファンは勿論、その実力を知るという意味で、初ウェストレイクという人こそ手にとるべき本かもしれない。 -
ポルノ小説のゴーストライターがスランプに陥り、延々と第1章を書き出しては諦め、脱線し、煮詰まるという変わった小説。全然話は進まないが、こんな小説を読んだことがないのでどんな展開になるのかが予測できず、面白くて止まらなくなる。
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2023/11/25購入
2023/12/21読了 -
武蔵野大学図書館OPACへ⇒https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=1000247799
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その後しばらくたってから、「Brother and Sister」(1961)という作品を読む機会があった。
悪党パーカーシリーズ第1...その後しばらくたってから、「Brother and Sister」(1961)という作品を読む機会があった。
悪党パーカーシリーズ第1作「The Hunter」を発表する前年に、エドウィン・ウエスト名義で発表したソフトポルノだ。
直接的な表現を用いたハードコアポルノとは違い、現在の感覚からすればベッドシーンもある普通小説・青春小説といった趣で、表現も間接的で充分に穏当なものだ。
当然の事故で両親を亡くした兄妹の物語で、17歳の妹アンジーと21歳の兄ポールの視点で交互に語られる12章で構成されている。まさしく「~シェヘラザード」で述べられた創作術に従って書かれており、何か納得してしまった。
アラン・マーシャルもエドウィン・ウエストも、悪党パーカー第2作の発表以降は使われていない筆名であり、決して隠そうとしたり忌避したりするものではないが、作家として自分が本当に書きたいものを書いて生活できるようになったということなのだろう。良かったね。
2022/05/15
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ミステリー作家としてのウェストレイクを読んだことがないため「これがあの作家の…」という感慨はないのだが、仕掛けありの面白いメタ構造。
「25ページ」をはじめ頻繁にページ数などに言及しているが翻訳はどうなっているのだろう、と思ったら後書きで原書は「15ページ」で翻訳は長くならざるを得ないので25にしたと。それにしても、翻訳で25で揃えとはなかなかの労作。 -
とても面白いんだが、え、もう終り、という感じ。出来事が出てこない、と言いながらそれなりに事件もある。書けなくても書けるプロの真骨頂。
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何これ?笑
相当癖強い。