ひとりぼっちが怖かった きょうも傍聴席にいます

  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344037373

作品紹介・あらすじ

息子61歳。朽ちる父の遺体と3週間。40年、父と2人暮らしだった息子は、誰にも父の死を伝えず、そのまま一緒にいることを決めた――。
朝日新聞デジタル・人気連載。記者が見つめた法廷の人間ドラマ30編。



「泣けた」「他人事ではない」。朝日新聞デジタルの人気連載「きょうも傍聴席にいます。」、待望の書籍化第3弾。
孤独に耐えられなく父の遺体をそのままに、認知症の祖母の暴言に耐えかねて、望まぬ妊娠に悩んで、長い介護の果てに……。さまざまな掛け違いの果てに、日常の一歩先に引き起こされる事件。
多くの裁判を傍聴する記者たちが、特に強く心に残った事件を厳選し、ニュースに書けなかった人間ドラマを描き出す。
介護、子育て、貧困、孤独……。なぜ、こんなにも追い詰められてしまうのか? 傍聴席で生の声を聞き、表情を読み取ると、事件は当初の報道とは異なる様相を帯びてくる。「きょうも傍聴席にいます。」から大反響の30編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 実際にあった事件の裁判傍聴記録。
    このシリーズは読むたびいつも胸が痛み、頭の中がさまざまな感想で埋め尽くされる。

    あの事件、事故だ、と思うもの、記憶にないなと思うもの。
    私のような「他人」には「ああこんな事件もあったっけ」であっても当事者にとっては一生忘れられない苦しみ。
    それを消費していいのだろうか、いや、公開の裁判であるのだからそれを知った上で何かをすればいい。
    いや、でも何をすれば。

    子供を3回落として殺した母の事件は読んでいて辛かった。
    産後うつは人ごとではない。
    この母親は自分で病院に行ったり、夫に助けを求めたり、周囲に何度もヘルプを出していたのに。
    子供の鳴き声が自分を責めているように聞こえる、ただ泣き止んでほしい、もうそれ以外考えられない気持ちはよくわかる。
    この母親は、私だったかもしれない。

    介護殺人や老親、配偶者の死体遺棄もまた辛い。
    人は眠れなくなったり、一人で頑張り続けたりすると、ある日突然、頭の回路がプツッときれる。

    本書を読んで、ああすればよかったこうすればよかった、意味わからない、なんで、というのは簡単だ。
    根本的な問題として、誰かの適切な助けがあれば、というのは共通項と思う。
    誰かの助けを得ることは恥ではないし、当たり前のこと。
    周囲も甘くみず、かといって騒ぎ立てず、寄り添いつつ淡々と手助けをすればいくつかは防げたかもしれない。

    だが助けとはなんだろう。
    相手が固辞しているところに無理矢理にでも介入することが本当にいいのか?
    ことが判明すれば、無理矢理にでもやればよかった、となるが、そうでなければ別の問題を引き起こす。

    だから共通認識として持つべきは、助けを求めることは恥ではない、ということだ。
    助けは片方だけが手を伸ばすだけでは成立しない。
    自助共助公助、そしてそれを実現するための教育。

    誰かを傷つけてしまう前に、誰かを叩くより先に。
    行うべきこと、できることは、最もそばにあって、最も小さきところにある。

  • 「きょうも傍聴席にいます」のシリーズは、新聞連載中から目に付くときは必ず読んでいた。第一弾の『母さんごめん、もう無理だ』も確か書籍で読んだと思う。本書に掲載されている事件も、多くは新聞紙面で掲載されているときから見知っているし、このシリーズで記事を読んでいるものもいくつもある。

    改めて書籍になったものを読むと、どうして、と思わずにいられない事件も多い。
    罪を犯してしまった人物は、たいていその当時は視野狭窄に陥り、冷静な判断ができなくなっている。本書に取り上げられている事件も、裁判での被告の発言を見ても、その時は他に考えられませんでした、といった類の発言ばかりだ。

    とても腹立たしかったのは、数年前という最近の事件であるにも関わらず、検察や裁判官が、子どもへの虐待について「それほど苛烈な虐待ではなかった」「虐待と呼べるのかどうか」と発言している案件だ。
    業務として携わっている身から言わせてもらえば、そこにあがっている保護者の行動は、紛うことなき虐待の数々で、虐待かどうかを疑うなんて無知も甚だしい。知らないでいることを恥じてもらいたい。二十年三十年前ならいざ知らず、これだけ虐待について社会で問題になっているにも関わらず、だ。子どもに対する虐待の影響の根深さは、今や科学的なエビデンスとともに立証されているというのに。検察官や裁判官でさえこんな認識なのか、と悲しくすらあった。お粗末極まりない。
    つい最近も、実父からの長年にわたる性的虐待を「被害者が抵抗していなかった」という理由で、一審無罪としたあまりにも通り一遍の審判があったばかり。
    法を遵守することが大切なのはわかるが、社会通念上それがどうなのか、ということを、裁きを下す側は丁寧に見定めていただきたい。そのための裁判員裁判導入でもあったはず。

    あとは、やはり障害や介護に関する問題が気になったかな。家族にだけその負担を負わせないように、様々に制度が整備されてきているのだが、申請主義であるが故か、はたまた周知不足か、本当に必要なところに支援が届かない悲惨さ。この問題は、もっとおせっかいなくらい、ずけずけと家庭に入り込んでいかなければ解決できないのではないか。少しでも手助けする方法はいろいろあったのに、と悔しい気持ちになる。

    福祉の在り方そのものを、社会全体で考えないといけないのじゃないかなあ。

    それにしても…愛知県が多いなあ。

  • 何かで知って借りたもの。表紙見て、何か読んだことある?と調べたらなかったけど、最後のあとがきでシリーズもの?と知り、それを読んでたわ。多分同じような感じで、やっぱ一つ一つが短くていまいちなんだよな。あと、量刑が低すぎる気がする。老老介護だけでなく、ヤングケアラーも多い。ほんと気の毒だ。あと、皆鬱状態になってたんだろうな、と思う。そこまで行ってなかったら、こんなことにはなってなかっただろう。逆に言えば、誰でもうつになるし、誰でも人を殺してしまうかもしれない。執行猶予がついた人達、今どうしてんだろうな、と思う。地元の事件も2つ出ていて、特にそう思った。どうしてんだろうな。

  • 前作「母さんごめん、もう無理だ」に引き続き胸にズシンとくるタイトル。
    介護の末の・・・が多くて目をそむけたくなるが、これが現実。

    どの事件もつらいが、幼児虐待は・・言葉も出なくて・・・

    事件が起こるたびに「社会全体で担っていく問題」などと叫ばれるが、
    それで丸く収まるものでもないだろうに。

    昔通っていた歯医者の待合室に掛けてあった色紙の言葉
    「子供叱るな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの」

    叱る前に熱湯をかけたり閉じ込めたり、笑わずに手をかける。
    これが、現実。

    いたずらを叱ったり、ボケを笑うほうが平和。

  • 犯罪の背景になっている、家庭環境・人間関係などがどんどん明らかになり引き込まれた。もちろんそれを理由に罪がなくなるわけではないけど、社会が救いの手を差し伸べられることもあるのだと感じた。1つずつの話をもっと詳しく知りたいと思った。

  • 到底許されないような身勝手な犯行から、読んでいて胸が痛くなる犯行まで様々な事件の朝日新聞記者が傍聴した裁判の記事。

    どんな理由であれ、人を殺めてはいけないこと。ただ、介護や育児から精神的に追い詰められ犯行に及んでしまう。真面目な人だからこそ逃げられなかったり、助けを求められなかったり。そんな事件を目にすると、本当に切なくなる。
    俗に言うワンオペ育児を経験したことがある身としては、子供に手を上げるか思いとどまるかは本当に紙一重だと思っている。
    そして、きっとこの先、介護に関わることになると思うと、正直他人事ではなく怖い。

    家族はもとより国や行政にも、こんな悲しい事件が起こらないよう、もっともっと深く考えてほしい問題。

  • 裁判という自分にとっては非日常の現場をありありと描写してくれている。被告の気持ちを全く理解できない事件から、運転事故や介護問題等の自分ごととして考えさせられる事件まで。いずれにしても、ノンフィクションだからこそ刺さるものがある。今、この本を読んでいるまさに今。読んでいる事件の被害者や加害者、被害者家族や加害者家族が生きている。
    裁判の傍聴に行ってみようかなと思わせてくれる一冊。

  • 新聞記事をまとめて本にしたもの。
    調べてみると第3弾らしい、さすが新聞記者が書いた文章なので、読みやすさは抜群。内容は、読んでいて辛いものが多かった。人の心の闇は誰しも持っているもの、それに多く触れることで、人に共感する感度を上げていける可能性があるのかもしれない。

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