世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史 (幻冬舎新書)

著者 :
  • 幻冬舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784344986855

作品紹介・あらすじ

フランス革命以降、人権への強い関心の潮流は止まらず、世界は今最もリベラル化していると言える。とはいえ、さらに男性に変化が求められる近年は、フェミニズムの視点抜きで、国や企業の成長は語れない。世界標準に遅れ、その分、伸びシロたっぷりの日本が知るべき「男女同権」の歴史とは? 米国で家族法を学び、自身も後発で目覚めた著者が、熱狂と変革のフェミニズム史を大解剖。ウルストンクラフト、ボーヴォワール、マッキノン、与謝野晶子など、主要フェミニスト五十余人を軸に、思想の誕生とその展開を鷲掴みした画期的な入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 「フェミニズム」と聞いた時に想像するのは、声高に、時にヒステリックに、既存の社会の在り方を否定するタレント識者さんのイメージだったりはしないでしょうか?

    そのイメージはメディアによって作られたものでご本人たちの本意ではないのかもしれませんが、結果的には私が「フェミニズム」を敬遠する原因になっていました。
    同じ感覚の方もきっと多いはず。

    著者の山口さんも最初はそうだったようです。
    「勉強しようと思って本を読んだが、偏りなくうまくまとまっている入門書に出会えなかったので、じゃあ自分で作ろうと思った」とフェミニズムの歴史を紐解き、解説を加えてまとめられたのが本著です。

    熱く語る一部の方と、それを冷めた目で見る方との温度差が激しい分野ですが、山口さんの手によって程良い距離感と温度感に仕上げられていて、どういう立場の方でも読みやすいと思います。

    昨今の経済界の動きから弊社でも「女性活躍」を掲げる活動が始まり、意図せず参加することになりました。
    ベースとしてフェミニズムの何たるか位知っておかないとまずいかなぁ、とさほど積極的ではない気持ちで読み始めましたが、結果的には読んで良かったです。

    フェミニズムに興味のある方もない方も、好意的な方もそうでない方も、是非一度目を通してみていただけたら良いなと思いました。

  • 書名の通り、フェミニズムの歴史が大変わかりやすく、易しい文体で解説されている。フェミニズムの四つの波とそれぞれの時代における活動家の主張の要点について、コンパクトにまとめられている。最後の章では、日本のフェミニズムについて、こちらもコンパクトな概説がある。入門書としてとても良い。

  •  フェミニズムを理解したくて苦悩していたときに書店で手に取り、まえがきにあった「この本は首を垂れて拝聴すべき説教集ではないし、ましてやあなたを糾弾するマニフェストでもない」というのを読んで即購入を決断した。
     「フェミニズム」をきちんと学びたいと思ったときに、歴史から全貌を優しくざっくりと教えてくれるかなりの良書。ただしそれでも難しいので、気合を入れて読まないといけなかった。
     自分の苦しみの原因が社会全体の「フェミニズム」からの糾弾などではなく、ただの「攻撃的なお気持ち」であり、気にする必要はないと思わせてくれた。

     第一の波は、イギリスやフランスの中産階級(そこそこ裕福)の女性たちの参政権獲得に向けた動き、というふうにざっくり括れるだろうか。
     第二の波は、リベラル・フェミニズム、ラディカル・フェミニズム、マルクス主義フェミニズム、カルチュラル・フェミニズムという形で多様なものが紹介されており、最もわかりにくい。
     まず「女にも教育・報酬・自立」を求めたのがリベラルフェミニズム。大量生産・大量消費社会で男たちの労働が神聖化され、仕事に矜持を抱いて自己実現するという考え方が育った裏側で、女性たちは家庭という閉鎖的な空間に閉じ込められる役割を負い、それに矜持を抱くように仕向けられるようになった。人間としての尊厳を中心に据えて「性差別的な現行システムの改良」を目指した。
     これに対して、「男社会をぶちこわせ」と考えたのがラディカル・フェミニズム。システムの改良による「男女の平等な取り扱い」を求めるのではなく、男性優位の社会の仕組みを根本的に作り直すことを求めた。この運動は、人種差別に抗議する運動(公民権運動・学生運動)内で横行していた女性差別への反発から生まれた、いわゆるリブ運動に端を発する。政治、宗教、軍事、産業、科学など社会における権力はすべて男性によって支配されているという考え方である。女性の生殖方法のコントロールやポルノの廃絶を訴え、家父長制という概念を生み出したのが特徴。しかし論理的な議論になると反論はすべて「それも男性優位の社会構造のせい」に帰着してしまい、一部の支持者が強固に支持するばかりになって急速に力を失っていく。
     そしてマルクス主義フェミニズムで一番わかりやすいキーワードは「家事労働に賃金を」であろう。資本家と労働者の間に搾取構造が存在すると論じたマルクス主義の理論では、分析対象の「市場」から「家庭」が抜け落ちていた。この「家庭」では家族の健康維持や労働力の再生産が行われているが、マルクス主義では労働とはみなされていなかった。その家庭の内部で存在する、男性と女性との間の搾取構造を、マルクス主義の考えを取り入れて理論化したのがマルクス主義フェミニズムである。先の「家事労働に賃金を」というスローガン自体は現実性がなく下火になっていったが、愛という名のもとに無賃労働が存在しているということを指摘した点で非常に高く評価されているフェミニズム理論のようだ。これが発展し、家事労働や、労働力の再生産(出産・育児)を市場に取り込もうとすると「高く付きすぎる」というネオ・マルクス主義が生まれてきた。結局、家事労働や労働力の再生産は無償という現状は変わらないが、そこには資本に代えがたい価値がある、という認識が生まれたのは良いことなのではないか。
     カルチュラル・フェミニズムは、「男と女は社会的にも本質的に違う」という考え方である。男がいわば「正義の倫理」を持つ一方で、女は「ケアの倫理」を持つとする。そして社会が「ケアの倫理」をもっと高く評価するべきだとする。リベラル・フェミニズムは、看護師やキャビンアテンダントになりたい少女の尻を叩いて医師やパイロットを目指させ、男性しか入学が許されていない過酷な士官学校を起訴して女性を入学させる。男も女も同じように働くことを求め、すべては個人の努力にかかっている社会を望む。一方カルチュラル・フェミニズムは、看護師は医師と同等の報酬を与えるべきで、男性専用の士官学校の隣に保育士養成学校を立てて同等以上の資金をつぎ込むべきだと主張する。個人的にはやはりこれが一番受け入れやすい考え方だなと思ったが、それは筆者の言う通り「男女が違うという現状をやさしく包みこんで肯定してくれるため耳障りが良い」のだろうと思った。

     第三の波はセックスとジェンダーが切り離されたうえでさらに細分化され、「100人いれば100人のジェンダー」という時代である。男女だけではなくLGBTQ+、障害者などを含む色々な層が生まれ、着たい服を着る、好きな男と寝る、セックスやポルノもYes、といった流れが生まれてきた。こうした動きは従来のフェミニズムとの軋轢を生み、「強い女」を自称する女は男性優位の資本主義に絡め取られているだけだという批判も受ける。
     第四の波はSNSを主体としてカジュアルにフェミニズムが議論されるようになった点が特徴である。フェミニズムは男性嫌悪ではなく人権問題であり、男性も一緒に考えることだと言ったのはエマ・ワトソン。そうして広くフェミニズムが受け入れられるはずの土壌が整っている中で投下されたのが#MeTooという爆弾だった。Me Tooというワード自体は、本来は「一人ではない」と寄り添うために始まった、SNSとは全く関係のない運動だった。それが、自分と同調する意見だけを取捨選択して勢いづいてしまうことが多いSNSの特質とも相まって、ラディカル・フェミニズムの再来とも感じられるような、攻撃的な活動へと繋がっている。現実にそれで毎日のように深く傷つく人間もいるはずで、この最悪な”フェミニズム”が今後どうなっていくのか不安でしか無い。

     最後の章では、日本のフェミニズムについて紹介されていた。日本が欧米と大きく異なるのは、女性性を「母性」というポジティブなものとして称揚してきた点だ。アメリカのフェミニズムは「男も女も男になれ」、日本のフェミニズムは「男も女も女になれ」であるという対比は非常に興味深かった。「保育園落ちた日本死ね!!!」が違和感なく受け入れられた日本は、母性の保護は国家の役割というカルチュラル・フェミニズムの考え方を共有しているのではないかと筆者は指摘する。
    日本には日本のフェミニズムがあり、欧米をスタンダードだと受け入れずに発信していくことも重要なのではないかと筆者は説いている。ちなみに、この点に関して与謝野晶子と平塚らいてうの間で論争があったというのは知らなかった。生活のために必死に稼いできた与謝野晶子は女も「男となれ」と唱えるリベラル・フェミニズム的な考え方で、一方で平塚らいてうは母性を重要なものと見なすカルチュラル・フェミニズムのような考え方だった。

  • けっこう達者なコンパクトフェミニム史。

  • 良くテレビに出てる人なのであなどってたけど、フェミニズム通史としてめちゃめちゃ良かった
    必読。

  • オーディブルで読了。
    フェミニズムの歴史の変遷、また分派を分かりやすくまとめた初心者向けの一冊。近代的な経済やライフスタイルの変化を大きな流れとしてフェミニズム運動と結び付けて著述し、その中でどのように大きな波が作られたのかという視点が面白い。
    西欧諸国と日本のフェミニズムの違いを対比する章で、西欧は子供を産まない自由を、日本は産む自由を求めるという下りは興味深い。

  • 正直あまり期待せず読みはじめたが、フェミニズムの思想をダイナミックな波としてわかりやすく読める、まさに入門にふさわしい一冊。
    特に日本のフェミニズムに対する解釈にはハッとさせられた。確かにそろそろ日本は世界に向けて、フェミニズムを説明しなければならない段階にきているのだと思う。読んでよかった!

  • メディアへ出まくってる人間の書く本はあまり信用してないのですが、本書は面白かった。フェミニズム史のアウトラインを学ぶのに分量も文体もちょうど良い。

    ただ帯の「怖くない!面白い!ビジネスパーソン必須の教養」「フェミニズムが解れば人も企業も“成長”が見えてくる」などと、フェミニズムとビジネス、成長を安易に結びつけるコピーには辟易させられる。このコピーを考えた奴は絶対中身読んでない。

  • フェミニズムを今?と思い手にした。

    フェミニズムは「ジェンダー論」に吸収され、価値中立的なものになってしまったのかと思っていた。
    あるいは、ジェンダーどころかセクシュアリティまで構築物になり、アイデンティティも細分化されて以降、運動体として成り立ちにくくなってしまったのではないか、とも。

    比較的若い世代の著者がどういうスタンスで、このテーマを取り上げるのかということにも、興味があった。
    読んでみると、思いのほか熱量が高く、驚く。
    パンクハースト夫人などは、名前くらいしか知らなかったけれど、本書を読んで、どのように闘ったのか、どのような人柄だったのかなどということを、初めて知った。
    筆者は、そのように、それぞれの運動の熱気や、関わった人たちを努めて伝えようとしている。
    その論述の姿勢に、共感が持てた。

    200年のフェミニズムの歴史を4つの波にわける。
    1 フランス革命以降の人権思想の中で興ったフェミニズム
    2 第二次世界大戦後のフェミニズム(リベラル・フェミニズム、ラディカル・フェミニズム、マルクス主義フェミニズム、カルチュラル・フェミニズム)
    3 90年代のフェミニズム
    4 2000年代以降のフェミニズム(パワーウーマンによるトリクルダウン・フェミニズムと、SNSを舞台とする動き)

    こうしてみると、やはり90年代以降がなんともまとめにくいことが改めてわかる。

    そして、日本のフェミニズムに関わる論争史の概略も抑えてある。
    平塚らいてうと与謝野晶子の母性論争。
    林真理子と上野千鶴子、アグネス・チャンのアグネス論争。
    上野千鶴子と青木やよひのエコフェミ論争。

    日本のことを取り上げるのは、筆者に、日本のフェミニズムが海外に伝わっていないことへの危惧があったようだ。
    ああ、そういう観点は自分にはなかったな、と改めて気づかされた。

  • 第1章 フランス革命とヨーロッパ、フェミニズムの息吹―フェミニズム第一波
    第2章 マクドナルド化とリベラル・フェミニズム―フェミニズム第二波
    第3章 生み落とされたラディカル・フェミニズム―フェミニズム第二波(1960年代後半)
    第4章 マルクス主義フェミニズムの希望―フェミニズム第二波(1970年代前半)
    第5章 異質なカルチュラル・フェミニズム―フェミニズム第二波(1980年代)
    第6章 セクシー&エンパワメントの波、男女の解体―フェミニズム第三波・第四波(1990年以降)
    第7章 日本のフェミニズム―欧米に影響されつつ独自の発展

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著者プロフィール

1983年、札幌市出身。2006年3月、東京大学法学部を卒業。同年4月に財務省に入省。08年に退官し、15年まで弁護士として法律事務所に勤務。15年9月~16年8月、米ハーバード大学ロースクールに留学し、卒業。17年4月、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に入学。17年6月、米ニューヨーク州弁護士登録。20年3月、東大大学院を修了。20年4月から信州大学特任准教授となり、翌年、特任教授に就任。

「2023年 『挫折からのキャリア論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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