神を待ちのぞむ

  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393325537

作品紹介・あらすじ

師であり友であったペラン神父が、長い躊躇の末はじめて公表したヴェーユの、魂をゆさぶる信仰告白の記録。工場体験のあと直面した彼女の信仰への疑念を示した手紙を併録。戦間期の混乱のなかで、あらゆる価値観が崩壊していくのに直面して、教会をこえた信仰のあり方をとうた著作。工場労働者など虐げられたものたちへの共感など、シモーヌ・ヴェーユの柔らかい側面がかいま見える一冊。

感想・レビュー・書評

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  • シモーヌ・ヴェイユの書簡・論文を集めたもの。洗礼を受けて教会に所属することは拒否しながらも、はっきりとキリストへの信仰を自覚し、そのただ中に生きたことが文章から分かる。聡明でかたくなで、でも繊細だ。奴隷の焼き印を額に受けたと表現されるような決定的なみじめで苦しい体験、そして圧倒的な「美」への思慕。
    「世界の美は物質そのものの属性ではない。それは世界とわたくしたちの感受性との関係である。」そして、「神の憐れみは不幸そのものの中に輝きます。慰めのない苦しさの奥底で、その中心で輝くのです。」
    彼女の痛みに満ちた生の中で得られた回心経験がどれほどその命を強く燃やしたかと思う。彼女にとってその出会いは必然だったと、彼女自身が強く意識している。だからこそ、そう感じられない洗礼は強く断っていた。

    神は、人間を創造することで自分の力を及ぼさない領域を生じさせ、自らの完全性を損なった、そうする自由がもちろんあったというのはとても好きな考えだ。神学的見方だと神は完全という言葉でがんじがらめになってしまって、本当にそんな窮屈な概念でいいのだろうかと感じることがある。全知全能とは必ずこういうものだとか、不可能や悪はあるはずがないと人間の尺度で考えるのは、あまりに不自由でつまらない。
    「この世だけの倫理という概念が不条理なのは、人間の意志が救いの実現に無力であるからだ」という言葉にもなるほどと思った。今まで「倫理」に漠然と感じていた欺瞞、説得力の無さを言い当てられた感じ。なにがそう思わせるのかって、倫理には後ろ盾も強制力も何も持っていないように感じるのだ。シモーヌは社会が反倫理的な状態に落ちていくことは自然な節理だと別の箇所で書いていたが、全くそのように思える。そこを捻じ曲げる強制力または利点が、神的存在や法律によらない裸の倫理にあるようには到底思えない。
    信仰を約束と表現するシモーヌの表現は美しい(と、この本を読んで軽々と書いてしまうのもどうかと思うが語彙がない)。それも、なされること自体で完成されている約束なのだ。まさにその倫理にはない、信仰だけが人にもたらす強さを的確に表現している。

  • メルカリ、¥1200

  •  フランスの女性哲学者であったヴェーユがカトリックのぺラン神父に宛てた洗礼を受けていることを希望する旨の手紙、その返信から始まる。文章が美しく、また難しい言葉は全く使われていないにも関わらず禅問答のように感じる言葉の数々。最後に神父が書いているヴェーユの信仰はあまりにも観念的という解説で納得した。以下のぺラン神父の説明がストンと落ちた気がする。以下に長文を引用する。
    「シモーヌが持っていた誠実さや真理への愛をちょっとでも疑おうとするのではない。それは彼女を知っている人にはだれにも思い浮ばないことである。彼女ははげしく真理を愛し、真理を求めるために生きた。それだからこそ真理が彼女に臨んだのである。しかし私には彼女が宗教的真理の性質について多少間違っていたように思われる。彼女は知性とだけしか関係を持たない数学的真理や理知の領域に属するもののように、宗教的真理を抽象的な真理として考えすぎたように思われる。」「私がここに集めた文章の深い意味と比類ない価値は、それらが一人の著者の思想であるよりも、一つの魂の表現であるというところにある。ヴェーユの偉大な驚くべき証言は、だれでも無条件で真理に動かされるようになって、 すべての隣人を自分のように愛そうとする人は、すでに神を見いだしているということであり、そういう人は神が自分のところへ来るのを見る状態にごく近いということである。私がこの本を「神を待ちのぞむ」と題したのはそのためであって、シモーヌが一番好きだった言葉の一つで、それはおそらく彼女がそこにストア風の味わいをみとめたからであるが、もっと確実なことは、それが神に身を捧げ、すべてを神にゆだねる彼女のやり方だったからである。それは待ち望んで、完全に神に動かされうる状態にあることであった。」
    ヴェーユが「兄は天才、妹は美人」と数学の天才だった兄と並べて誉められたことに劣等感を持ち、真理を所有することに比べそのような美は全く役に立たないと魅力になりうるものを無視しようとしたとの態度は興味深く、彼女の信仰に通じるものを感じた。

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著者プロフィール

Simone Weil 1909-1943。フランスの女流思想家。リセ時代にアランの教えをうけ、のち哲学の教師についたが、労働運動に深い関心を寄せ、休職して工場に女工として入り8ヶ月の工場生活を体験。36年スペイン内戦では人民戦線派義勇軍に応募。40年独仏戦のフランスの敗北で、ユダヤ人であるためにパリを脱出。その頃キリスト教的神秘主義思想を深める。42年アメリカに亡命、自由フランス軍に加わるためロンドンに渡るが、病いに倒れ、43年祖国のため食を断って衰弱死する。彼女の生涯と遺作は、不朽の思想としてカミュをはじめ世界の文学者、思想家に深い感銘と影響を与えた。

「2020年 『重力と恩寵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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