カフカはなぜ自殺しなかったのか?: 弱いからこそわかること

著者 :
  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393365434

作品紹介・あらすじ

二〇世紀を代表する作家カフカは、いつも死にたいと思っていました。しかし、ついに実行はしませんでした。「なぜあの人は自殺したのか?」と問われる人はあっても、自殺しなかったからといって「なぜしなかったのか?」と問われる人は珍しいでしょう。しかし、カフカはそういう人です。親との関係に苦しみ、執筆と「パンのための仕事」の狭間でもがき、結婚に不安を抱き……。人生のほぼすべての場面で苦悩していた彼は、いったいどのように人生を全うしたのでしょうか。
カフカの日記と手紙をてがかりに、弱くあることの意味を再考し、現代人にとってのヒントをちりばめた一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 「本を出版したいけど、出版したくない」
    「結婚したいけど、結婚したくない」
    「死にたいけど、死にたくない」
    矛盾だらけで優柔不断なカフカ。

    エピローグで著者も書いていますが、多くの人が曖昧さ、矛盾を嫌い、最終的に、えいやっと飛び越えてしまうところ、カフカは肯定の気持ちと否定の気持ちがやじろべいのようにバランスを取っていたため、その範囲外に踏み出すことがなかったのではないかと思います。

    非常に面倒くさいカフカに辛抱強く付き合った親友と恋人の存在もカフカが一線を越えなかった理由のひとつだと思いました。

  • 朝起きたら巨大な虫に「変身」していたという有名な小説の作者フランツ・カフカ。

    希死念慮が強かったそうだが、自殺ではなく、若くして結核で亡くなっている。著者の頭木弘樹さんは、カフカが遺した日記や手紙を引用して、短い人生をわかりやすく追っている。

    まずカフカが、現代日本の一部の(弱いと云われる部類の)男性像に限りなく近いことに驚く。自己評価の低さ、オタク気質、勤労意欲や野心のなさ、そしてびっくりするほど決断力がなく、いつまでもグダグダと逡巡している。

    面白いのは、カフカがひと目惚れして婚約までした相手の女性。当時のヨーロッパでも結婚相手としては敬遠されるようなバリバリのキャリアウーマンだったらしい。カフカは女性優位もまったく気にならなかったようで、これも現代人の感覚に近い。

    頭木さん自身、かつて病気で身動きできない状況だったとき、病室で「変身」を読み、苦しみを理解してくれてると感じて深く癒やされたという。絶望して倒れた人に頑張れというのではなく、倒れたままでいることを理解し肯定してくれるのがカフカの小説なのだ。

    そして、今や20世紀最高の小説家と評価されているカフカだが、本当に読まれるのはむしろこれからだ、と著者はいう。

    不条理でどちらかというと気味の悪い印象だった「変身」もこのような視点でみると興味深い。がぜん、再読してみたくなった。

  • アンビバレント。

    決してマネしようとは思わない生き方。

    アウトプットによる粗雑変換。

  • カフカの残した多くの書簡から「自殺念慮をいつも口にしていたカフカが、なぜ病死するまで自殺せずに生きたのか」を読み解こうとする。
    書簡の情報の豊富さはすごいと思うのだが、結局、表題の「カフカはなぜ自殺しなかったのか?」ということへの考察は最後に少しあるだけで、正直に言うと期待はずれだった。

    ただ、著者が述べる「大いに葛藤するが決断はしない、それがカフカという人だったのではないか」という考察は相応に納得感がある。

    不可逆性と苦痛を回避している間に病で人生を終えることになった。
    自殺念慮を口にすることで生きていくバランスを取っていた。
    そういうことなのかもしれない。

  • 生前は自分の本の出版を拒み、結婚を拒み、生を拒み、究極の迷いを日記や書簡に書き記していることを初めて知った。本人は生きることは苦悩しかなかったのだろうが、生きることの辛さを打ち明けられる友人(マックス・ブロート)に支えられたカフカが羨ましい。書簡からの引用が豊富で、カフカの書簡や日記への興味がかきたてられた。

  • 出版社(春秋社)のページ
    本の内容紹介
    https://www.shunjusha.co.jp/book/9784393365434.html

  • その日あったこと、感じたことを記録しておきたくて、知っている言葉にあてはめようとしてしまうことがよくある。
    書いた直後は「なんだか少し違うような気がする」と違和感を覚えても、その微かな違和感はすぐに消えてしまい、言葉に隠されてもう思い出せなくなってしまう。

  • これまでに読んだカフカ本と比べると面白さは低めなのだけど、やっぱりカフカ好きだ〜。なんか染み入る言葉が多い。自殺に限らず、したいけどしたくないを繰り返す生き方は逃げるとも少し違ってて。かなり共感できる。

  • 言語隠蔽
    言語で表現してしまうからこそ言語で表現できてしまう範疇に感情が喚起され、とどまってしまう。強い感情とは文字に表現することが出来ないほどに無秩序で、カオスなものなのだとカフカの手紙から知ることができた。

    死にたくて、死にたくて、でもまだ生きている。
    これこそが愛なのだ。

    死ぬことは彼にとって何らかのメタファなのか。
    極限の身体表現。
    消去法的愛の存在意義について考える。

  • 2022.6/21〜23

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著者プロフィール

頭木 弘樹(かしらぎ・ひろき):文学紹介者。筑波大学卒。大学三年の二十歳のときに難病になり、十三年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、2011年『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社/新潮文庫)を編訳、10万部以上のヒットとなる。さらに『絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ 文豪の名言対決』(草思社文庫)、『ミステリー・カット版 カラマーゾフの兄弟』(春秋社)を編訳。著書に『食べることと出すこと』(医学書院)、『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』(ちくま文庫)、『絶望読書』(河出文庫)、『カフカはなぜ自殺しなかったのか?』(春秋社)、『自分疲れ』(創元社)。ラジオ番組の書籍化に『NHKラジオ深夜便 絶望名言』(飛鳥新社)。名言集に『366日 文学の名言』(共著、三才ブックス)。編者を務めたアンソロジーに『絶望図書館』『トラウマ文学館』(共にちくま文庫)、『絶望書店 夢をあきらめた9人が出会った物語』(河出書房新社)、『ひきこもり図書館』(毎日新聞出版)がある。NHK「ラジオ深夜便」の『絶望名言』のコーナーに出演中。日本文藝家協会、日本うんこ文化学会会員。

「2023年 『うんこ文学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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