自由と市場の経済学: ウィーンとシカゴの物語

  • 春秋社
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784393621851

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  • 「新自由主義」経済学として同じカテゴリーに括られがちなオーストリア学派とシカゴ学派だが、実は多くの相違がある。本書は、ネオ・オーストリア学派に属する経済学者によるオーストリア学派とシカゴ学派の比較経済学史だ。

    オーストリア学派とシカゴ学派の相違点として以下の4つの論点が挙げられている。

    ①方法論
    経済分析において、オーストリア学派は演繹的、主観的、定性的なアプローチを重視するが、シカゴ学派は歴史的、定量的なアプローチを好む。オーストリア学派の代表的な論者であるミーゼスは特に極端な先験主義を取っていた。ミーゼスの悪影響で、オーストリア学派は実証主義のシカゴ学派に大きく水を開けられてしまったと手厳しい指摘がされている

    ②市場経済における政府の役割
    市場に対する政府の介入について、オーストリア学派は自由放任主義であり、完全な政府の市場非介入を唱えているが、シカゴ学派はある程度の市場介入を許容している。

    ③通貨政策
    オーストリア学派とシカゴ学派で一番の相違点は通貨政策であろう。オーストリア学派の多くは金本位制を支持し、中にはフリーバンキングを唱える論者もいる。ハイエクの完全な貨幣民営化論はその延長にあり、中央銀行の廃止まで考えていたようだ。一方のシカゴ学派は金本位制を批判し、不換紙幣制度によるルール的な金融政策を支持する。彼らは貨幣制度はスムーズに機能しないと見ており、中央銀行制度を支持する。大恐慌の原因を当時のFRBが無策であったと批判するフリードマンが代表例であろう。

    ④景気循環、資本理論、マクロ経済学
    ミーゼスとハイエクは、中央銀行による人為的な金利の引き下げは、不安定なニワカ景気を作り出すだけで、結局、その景気は後退せざるをえないとする。これがオーストリア学派の景気循環論の特徴である。一方、フリードマンは、中央銀行はマネーサプライを操作できると信じており、中央銀行によるマネーサプライ制御は景気循環の幅を抑えられるとする。

    ポストケインズ経済学に興味がある自分としては、景気循環に関するオーストリア学派の見解はポストケインジアンたちと多くの共通点があると感じられた。オーストリア学派は、マクロ経済におけるインフレの伝播が不均衡であると考えており、この点はある程度納得がいった。

    本書の記述は概ね公平。オーストリア学派に属しているにも関わらず、マレー・ロスバードの荒唐無稽なFRB陰謀論や80年代にチリで空疎な理想論を語り、当時のチリ政府に全く相手にされなかったハイエクの姿など、オーストリア学派に不都合な事実もちゃんと書かれている。

    最後にオーストリア学派はシカゴ学派の実証主義を取り入れて変わるべきだと喝を入れているが、実証においてシカゴ学派や主流派ははるか前方に位置しており、今更追いつけないであろうというのが正直な感想だ。「新自由主義」経済学が批判されている現在において、徹底的な自由放任主義を取るオーストリア学派は当分の間、覇権を取る可能性はないだろう。筆者の希望に反して、オーストリア学派は今後も非主流派であり続けるであろう悲しい未来が見えてしまう何とも言えない読了であった。

  • 331.72||Sk

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著者プロフィール

1947年、カリフォルニア生まれ。新オーストリア学派の経済学者。投資家、コラムニストとしても活躍。経済を分かりやすく語ることに定評がある。

「2013年 『自由と市場の経済学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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