- Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
- / ISBN・EAN: 9784406033121
感想・レビュー・書評
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前回紹介した「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」の姉妹編である。こちらも子供向けに書かれた本であるが、子供だけに読ませておくのはあまりにもったいない、世界中で広く読まれるべき本である。
海兵隊員としてベトナム戦争に従軍した著者は、帰還後、深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しめられる。戦場での光景、体験が、何かのきっかけで不意にフラッシュバックし、パニックに陥ってしまう。例えば、ハエを見ると戦場で黒い毛布のように死体に群がる虫の映像が甦り、釣りに行けばえさのミミズやゴカイからベトナムの湿地で苦しめられたヒルを思い出し、叫び声をあげてしまう。眠れば戦場の夢を見てしまい、満足に睡眠がとれない。
彼を救ったのはニール ダニエルズ医師であった。ダニエルズに出会い、彼は初めて、自分がベトナム症候群と呼ばれるPTSDであると知る。著者は週に1度ダニエルズの診察を受け、彼の質問に答えながら、自分の心の中にあるものと向き合っていく。
ダニエルズはカウンセリングの最後に決まって、「あなたはなぜ人を殺したのですか?」と尋ねた。彼が「戦争だったから」「自分が生き延びるため」「上官の命令」等、毎回思いつくことを答え、ダニエルズは「わかりました。じゃあまた来週」と言って、その日の治療が終わるのが常だった。
ところがある日、ダニエルズ医師はいつもの質問、「あなたはなぜ人を殺したのですか?」を、カウンセリングのはじめに問う。彼がいつものように「命令に従ったからです」と答えると、ダニエルズは「ふむ、で、あなたはなぜ人を殺したのですか?」と合いの手を入れるように、同じ質問を繰り返した。
「先生、戦争だったんですよ」と彼が答えるとダニエルズは、「うん、で、どうしてあなたは人を殺したのですか?」と再び訊いてくる。こんな調子で同じ問いかけが繰り返され、彼のいつもの答えは出尽くしてしまった。ダニエルズ医師を信頼していた彼は、自分の心のもっと深くを見つめ、答えなければならないと気づき、今まで言ったことのなかった答えを口にする。ダニエルズはそれを聞いて黙ってうなずく。そのときの「私の中で何かが動きました」という不思議な感覚を端緒に、彼は快方に向かい、戦場を体験した帰還兵として自分が為すべきことに取り組み始める。
彼が最後に見つけた答えはネタバレになるのであえて書かない。とにかく、子供から大人まで、広く読んでほしい本である。彼が最後に述べる、日本という国、日本の憲法や、沖縄についての意見に反発する人がいるかもしれないが、脊髄反射的に「反日云々(「でんでん」とは決して読まない。念のため)と決めつけず、彼の体験が自分に、自分の配偶者に、自分の子供に、恋人に起こったという前提で考えるべきだろう。答えは自ずと明らかである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
しんらん交流館の東本願寺文庫で借りたのが最初です。それから何度も読むうちに手元に欲しくなり、Amazonで購入しました。
ベトナム戦争で心の傷、PTSDを負ったアレン・ネルソンさんが、いかにしてその傷を克服していくかが中心のお話です。前著『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は、アレンさんがどのようにして戦場で沢山の人を殺すという罪を犯したのかがメインでした。この本でも、自身の生い立ち、海兵隊に入った時のこと、戦場でどのようにベトナムの人々を殺したかは書かれますが、メインはアメリカに帰還後のアレンさんの人生、どのようにPTSDを克服したかです。乱暴を承知でざっくり一言で言えば、『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が前半生で『戦場で心が壊れて』は後半生です。二つ合わせて読むというのがベストかと思います。
最初読んだ時、本当に涙が止まらなくなりました。「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」という質問にYESと答え、戦争の記憶に悶え苦しむネルソンさんに、「かわいそうなネルソンさん」と、質問した少女が抱きつくシーン。PTSDの主治医であるニール・ダニエルズ医師がアレンさんに「なぜ人を殺したのですか?」と質問し、最後の最後で「殺したかったからです」と自分の罪を認めて涙を流すアレンさんにダニエルズ医師が「よく気がつきましたね、あなた自身の本当の気持ちに。これからは、自分がしたことを忘れずに、勇気を持ってそれと一緒に生きていくんです」と言うシーン。そして、2005年に再びベトナムを船で訪れた時、港で出迎えた大勢のベトナムの人々にアレンさんが涙するシーン。
PTSDと向き合うということは、アレンさんにとっては取りも直さず「自分の犯した罪」と向き合うということだったのでしょう。そして、罪と向き合うということほど、つらく、苦しいけれども、また根本的な回復ということもありえない、必ず通るべき道でもあったということでしょう。
また、本書の後半でアレンさんが「日本は国全体がPTSDにかかっているようだ」と分析しているのにもハッとさせられました。その視点で靖国問題や慰安婦問題、教科書問題等を考えてみると、実に「罪を認められない」故に我々は物事を事実とは違う形に歪めようとしていることが見えてきます。そして、他ならぬ我々の認識も、それを歪みと感じさせないように歪めさせられているのですね。
「やられたらやり返す」では戦争は繰り返されます。しかし、そう分かっていても、「やってしまった」ことに「ごめんなさい」と謝ることは難しい。人レベルでも国家レベルでも、「ごめんなさい」と謝って、「もう二度としません」と誓えることほど、強いこと、平和をもたらすことはないように思います。