曽呂利!

著者 :
  • 実業之日本社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408536699

作品紹介・あらすじ

「不思議な男です。そろりそろりと気づかれないうちに人に近づき、そろりそろりと人の心の中に少しずつ入り込んでくる。そして最後には完璧に取り入っている。だからこそ、誰もあの男を気にしない。言うなれば、あの男はいつだって他人の影に隠れているのです」頓知の天才、茶の湯の達人、人たらし…。曽呂利新左衛門よ、お前はいったい何者なのだ!?

感想・レビュー・書評

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  • 本書はフォロアーさんが大絶賛していたので読んでみた歴史エンターテインメント小説。著者の作品を読むのは初めてだったが、非常に面白かった。

    本書の主人公は曽呂利新左衛門という鞘師(刀の鞘を作る職人)が主人公。本書は主人公の曽呂利の師匠が自らの命を絶つ場面から始まる。そこへやってきた顔なじみの侍に「自分を雇ってくれ」と願い出る曽呂利。曽呂利は鞘師としてではなく、自分の口の上手さを使ってくれと言うのだ。そして、その侍が曽呂利の願いを聞き入れるところから曽呂利の壮大な物語が始まる。

    そこから簡単に曽呂利の手八丁口八丁での出世物語が展開される訳ではない。
    時代は豊臣秀吉がまもなく戦国の世を治めようという時、曽呂利は秀吉のことを揶揄した落首(時事や人物を風刺した匿名の狂歌や狂句)を作ったというかどで秀吉の前に引っ立てられるが、持ち前の口の上手さから逆に秀吉に気に入られる。
    秀吉の庇護の元、曽呂利はあらゆる手段を使って秀吉の側近達を追い落とし、秀吉の軍勢の中で特殊な地位を固めていく。

    曽呂利新左衛門は実在の人物で、とんちの上手さなどで落語家の始祖とも言われ、ユーモラスな言動で人を笑わせるなど数々の逸話を残したらしい。
    本書でも出てくるのだが、秀吉から褒美をもらう際、秀吉から何を希望するかと尋ねられた時、曽呂利は「今日は米1粒、翌日には倍の2粒、その翌日には更に倍の4粒と、日ごとに倍の量の米粒を百日間もらいたい」と言ったという。米粒なら大した事はないと思った秀吉は簡単に承諾したが、日ごとに倍ずつ増やして行くと百日後には膨大な量になる事に途中で気づき、秀吉は曽呂利に他の褒美に変えてもらったなどというエピソードがあるという。

    このように曽呂利は秀吉に可愛がられ、御伽衆(茶人などの文化人集団)の中で確固たる地位を築いていき、戦国の世という、力と刀の時代に己の知力と口の上手さだけを武器に秀吉からの寵愛を勝ち取っていく。
    相手が秀吉だろうが誰であろうが構わずに堺言葉で話す曽呂利、口は悪いがその憎めないキャラクターで人の心の隙間に知らぬ間に忍び込んでくる、この距離感が特に面白い。

    本書は、曽呂利からの視点ではなく各章ごとに別々の人物からの視点からのストーリーで語られていく。
    つまり、曽呂利のライバルとなる秀吉の側近達の目から曽呂利は描かれていくのである。その語り手は秀吉家臣の蒼々たる顔ぶれだ。最初は蜂須賀小六から始まり、千利休、石田三成など豪華なメンバーが顔を揃える。

    しかし本書を読みすすめるにつれ、曽呂利の目的は何であるのか、読者は語り手達と同じように混乱していく。

    曽呂利の目的はなんなのだ。己の出世なのか、秀吉公を罠に落とそうとしているのか、それとも他の目的があるのか・・・。

    読者にさえ、曽呂利の目的は全く分からない。
    そして最後に豊臣家が徳川家に滅ぼされ、大阪城から逃げ出した曽呂利が自分の真の目的を語り出す。その驚愕の目的とは・・・。

    本書は、戦国時代を舞台にした、曽呂利というダークヒーローを中心とした上質なミステリーとしても愉しめる。
    豊臣秀吉の隆盛から没落までが描かれる裏で、実は曽呂利が暗躍していたという、もしかしたらこれが戦国時代の裏の真実だったのではと考えられるほど、このストーリーは面白いし、非常に興味深い。
    本書では曽呂利の死までは描かれていないが、本書後の曽呂利の姿も気になるところである。

    曽呂利新左衛門は、落語やとんちの世界ではお馴染みの人物であるらしいが、恥ずかしながら全く知らなかった。このような人物を戦国の裏で暗躍するダークヒーローとして活躍させるという筆者の筆力の素晴らしさには舌を巻く。ぜひ著者の他の作品も読んでみたい。

    • くるたんさん
      kazzu008さん♪
      素晴らしいレビューをありがとうございます♪

      歴史に明るいと絶対楽しめるストーリーですよね♪

      私はこの時代をネット...
      kazzu008さん♪
      素晴らしいレビューをありがとうございます♪

      歴史に明るいと絶対楽しめるストーリーですよね♪

      私はこの時代をネットで調べながらでした(>_< )
      力と刀の時代と曽呂利の人生、胸のうち、上手く絡められた作品だと思います。

      耳打ち…あれにはびっくり大笑いです。

      谷津矢車作品は歴史ものが多いのかしら?
      もう一つ読んだ作品は 「無惨絵…」ですが、「曽呂利」の方が良かったです。

      楽しんでいただきほんと、良かったです♪
      ひと安心(笑)
      2019/09/05
    • kazzu008さん
      くるたんさん。
      こちらにもコメントありがとうございます。
      確かに、耳打ちのところは笑いました。秀吉もそんなことOKするなよとツッコミを入れま...
      くるたんさん。
      こちらにもコメントありがとうございます。
      確かに、耳打ちのところは笑いました。秀吉もそんなことOKするなよとツッコミを入れました(笑)。

      やはり歴史ものがこの作者さんは強いのですね。
      さすが、くるたんさん、他の作品もすでに読まれているのですね。僕もちょっといろいろ調べて読んでみます!
      2019/09/05
  • かって知っていたのとは かなり異質な曽呂利新左衛門像を提示してくれる新説 曽呂利モノと言ったところですかねぇ? 過剰な実力と達者な口と可笑しな面相の持ち主と設定された新左衛門を蜂須賀小六、千利休、石川五右衛門、豊臣秀次、石田三成、安楽庵策伝、細川幽斎など彼と所縁ある面々に語らせて曽呂利を炙り出して行くというやり方。結局は実像はとらえどころがなかったけど、とらえどころの無いのが曽呂利だったのでしょうかね(^^)

  • 果たして曽呂利新左衛門は、何者?
    元は鞘師でありながら、口先三寸の口術で豊臣秀吉の幕下に入り込んだ真のねらいは?

    蜂須賀小六が病に伏し、挙句の果てに、亡くなる。
    千利休が秀吉の逆鱗に触れ自害に追い込まれる。
    石川五右衛門が大阪城内に侵入、秀次の謀反・・・
    次々と起こる怪事件と次第に壊れていく秀吉
    その裏に見え隠れする曽呂利の影
    獅子身中の虫は、一体誰なのか?
    疑心暗鬼に包まれる大阪城内

    こんな視点から秀吉や秀吉の時代が描かれた小説ははじめてだったので、新説というか、珍説という点でおもしろかった

    最後に明かされる曽呂利新左衛門の本当の狙いは、ネタバレになってしまうので、読んでのお楽しみということでー

    大阪冬の陣の発端となった方広寺の鐘に刻まれた『 国家安康 』の文字.これも曽呂利新左衛門のしわざだったとは、興味深い説である

    一介の町人が秀吉の御伽衆の一人として侍り、他の諸侯を尻目に意のままに振る舞い、掻き回していくところに、権力への批判や皮肉・庶民のしたたかさを見るようで、おもしろい

  • 曽呂利新左衛門という人物を軸に、豊臣家の栄枯盛衰を描いた作品。蜂須賀小六、千利休、石川五右衛門、豊臣秀次、石田三成、策伝の視点のエピソードを通して、御伽衆として仕えていた曽呂利新左衛門の暗躍によって最終的に豊臣滅亡に至る様が描かれている。

    曽呂利のスペックにはチート味も感じなくもないけれども、巧みな話術で秀吉やその周辺人物の心を操るところは読んでいて面白い。終盤、曽呂利が自分の心情を語る場面はもしかしたら好みが別れるかもしれない(語られず謎に包まれたエンドもありかなとも思うので)。しかし糞みたいな乱世を生きようとした曽呂利に、最後はホロリとさせられた。

  • 豊臣秀吉のお伽衆にして、多くの有名な頓知話を残した曽呂利新左衛門を中心とした、秀吉をめぐる「獅子身中の虫」達の奇想天外な歴史小説。
    設定は奇想天外だが、様々なな史実をつなぎ合わせながら展開するので、ストーリーとしての破綻はない。
    そして、そのアイディアは秀逸だし、それぞれの人物造形も優れているため、とても面白く読み進めることができる。
    唯一惜しむらくは、終盤のタネ明かしである「何故?」の部分の設定が甘く、結果として曽呂利の人物像が、最後の最後でボヤけてしまうところか。
    作者の谷津矢車は、歴史小説分野での若手として、秀でたストーリーテラーであることは事実だろう。(1986年生れ)
    今後も注目していきたい作家の一人である。

  • ぎざぎざの歯、のっぺりした広い額、そしてへちゃむくれの鼻を持つ鮟鱇顔の元鞘師、曽呂利新左衛門。その特技は道化を演じながら人々を操る巧みな話術。「そろりそろりと気づかれないうちに人に近づき、そろりそろりと人の心に少しずつ入り込んでくる。そして最後には完璧に取り入っている」不気味な男。

    秀吉に取り入ってお伽衆となった曽呂利は、蜂須賀小六を追い詰めて病死させ、千利休を太閤にけしかけて切腹させ、石川五右衛門を手引きし大阪城に侵入させて秀吉に猜疑心を植え付け、木村常陸介に謀叛をけしかけ、噂を流して豊臣秀次を失脚させ…。かといえば、関ヶ原では徳川方の間諜、策伝の謀略を防いで徳川に利するよう動き、得体のしれない曽呂利。曽呂利の狙いは何か? 曽呂利を裏で操っているのは誰か(細川幽斎か、足利義昭か、堺衆か?)、豊臣政権の真の獅子身中の虫は誰か? 物語はミステリー仕立てで進んでいく。

    オチはいまいち物足りなかったが、それでもミステリーとして結構面白く読めた。

  • 曾呂利は、頓知の効いた発言で人の心に入り込む。人々は、知らず識らずの内に曾呂利の言う通りの行動をしてしまう。

    次々に、曾呂利の言う通りに、人々が考え、行動していくのが怖かった。
    しかし、曾呂利の行動の理由が納得できなかった。

  • 秀吉が抱えるお伽衆の一人、曽呂利新左衛門。
    名前は聞いたことがあるけれど、歴史上どういうことをしたのかは知らない。
    だけど多分、この小説のようなことは全くないだろうなあと思う。

    信長が死に、秀吉が天下を治め、世の中が平和に向かっていた頃。
    秀吉を揶揄する落書を書いた罪で囚われる曽呂利。
    捕まえたのは蜂須賀小六。
    この男は危険だ。秀吉の目に触れる前に処分しよう。
    そう思ったのに、いつのまにか秀吉を丸めこみ、その懐に飛び込んでいた曽呂利。

    人たらしで有名なのは秀吉だ。
    私が思う人たらしというのは「しょうがないなあ、全く」などと言われながら、何を言ってもやっても笑って許されるような人。

    しかしこの小説の曽呂利は、人をたらし込むというより絡めとるという感じ。
    特に蜂須賀小六に対しては、全然たらし込めていない。
    笑顔で近付いてきても目は笑っていない感じ。
    うろんな男。

    そんな目で曽呂利を見ちゃったから、彼の言動の裏をいろいろ考えて、途中までは面白怖くて楽しかった。
    でも最後に、曽呂利の正体、曽呂利の目的を知ると…なんだろう、薄っぺらいなあと、急に失速。
    あと一ひねり、ふたひねりあればよかったのに。

  • 一休さんのようなトンチの利く曾呂利新左エ門。
    この本では、秀吉を陰で操った人物のように描かれており、これも又、別の歴史の見かたなのかもしれない。

    戦国の時代、誰を信用してよいのか? 肉親であれ、子供を人質や、縁戚外交へと、自分の勢力を広げるために、身の回りの物をすべて使った時代である。

    本当の如くに、耳打ちされて踊った者が居たことは、確かであろう。

    茶の湯から狂歌、なんでもこなせる曾呂利を、忍びの者ように、描かれており、世間の動向から、人の心の動きまで、全てわかってしまうような人物に描かれて、歴史ものなのに、面白く読んでしまった。

  • 谷津矢車さんの三作目。
    一作目に読んだ蔦屋には感動したのに、その後いまいち。。。

    これは、その中でも後味の悪ささえ少し残る。
    ま、秀吉を権力への階段を上がるに伴い、周囲から孤立させることを狙い、口八丁で生き残り、策略をめぐらせたように見えた?人物をえがいたのだから、どうしてもぬるりとした人物描写になるのだろうけれど。

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著者プロフィール

1986年東京都生まれ。2012年『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。2013年『洛中洛外画狂伝』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。演劇の原案提供も手がけている。他の著書に『吉宗の星』『ええじゃないか』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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