向日葵を手折る (実業之日本社文庫)

著者 :
  • 実業之日本社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784408558097

作品紹介・あらすじ

消えた向日葵、連続する不穏な事件――多感な少女の感情を繊細に描き出した、2021年推理作家協会賞候補の傑作長編が文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、『向日葵男』を知っているでしょうか?

    (*˙ᵕ˙*)え?

    夏の代名詞とも言える『向日葵』。漢字で書くと今ひとつピンときませんが、”ひまわり”、とひらがなで書くと、太陽の動きに沿って、花の向きを変えていく真っ黄な大輪が頭に思い浮かびます。

    この国では祭りが全国各地で行われます。季節を身近に感じてきた国民性もあって、そんな祭りにはその季節を象徴する草花を前面に打ち出すものも多々あります。ツツジ、朝顔、菊といった花々の他に、夏と言えば『向日葵』を祭りの中心に置くものがあるのは如何にもという気がします。

    さてここに、そんな『向日葵』を川に流す『向日葵流し』という祭りが連綿と行われきた山間の集落を舞台にした作品があります。山形の自然の四季の移り変わりが鮮やかに描かれるこの作品。そんな集落で日々を過ごす三人の男女の青春が描かれるこの作品。そしてそれは、『向日葵男』という謎の存在が不気味に見え隠れするミステリな物語です。
    
    『もうすぐお祖母ちゃんのうちに着くわよ』と『助手席の母が、意識して出したような明るい声で云』うのを聞くのは主人公の高橋みのり。母の弟の運転する車で『山形の桜沢という集落にある母の実家』へと向かう みのりは、『春先に、父がくも膜下出血で亡くなった』ことで山形にある母の実家へと移り住むことになりました。『おかえり。なんだて、よぐ来たな』と迎えてくれた祖母に迎え入れられたものの、祖母と母の会話に入れず、みのりは『外を見てきていい?』と言うと『山桜が、新緑を背景に美しく咲く』『山間の集落』である桜沢の自然の中に飛び出しました。『好奇心が頭をもたげ』る中、『青々とした小さな葉に何気なく手を伸ばしたとき』、『触っちゃ駄目だ』と『鋭い声が飛』びます。そんな みのりの目の前には『ツタウルシだよ』と『生真面目な表情で』語る『手足の長い少年』の姿がありました。『高橋みのりちゃんだろ。同い年の女の子が転校してくるって、今井先生が話してた』と続ける少年は藤崎怜と名乗ります。そんな時、『遠くから みのり』と母の声がしたことで、少年は『またね』と場を後にしました。そして次の日、『怜と名乗ったあの男の子にも、また会えるかもしれない』と再び出かけた みのりは、木の陰の向こうに怜の姿を見つけますが、『傍らにもう一人、少年がいること』、そして『向かい合う形で小柄な少女が立っている』のに気づきます。『声をかけようかと みのりが思った直後、突然、怜の隣にいた少年が少女を蹴』り、少女が悲鳴を上げます。それを見て憤りが込み上げた みのりが『何してるの!?』と声を上げると、『口出すんじゃねーよ』、『行くぞ、怜』と言うと怜ともう一人の少年は立ち去りました。『あんな乱暴な男の子と、友達だなんて』と怜のことを思う みのりは『地面にうずくまる少女』を介抱します。『隼人は乱暴者なの』、『お前なんか死ねって、そう云われたの』と言う少女は犬飼雛子と名乗ります。そんな雛子は『誰も、隼人には、逆らえないから』とも告げるのでした。場面は変わり、『児童数が計三十七人』という『山央小学校桜沢分校』の六年に迎え入れられ、雛子、怜、そして隼人と同じ学校で学ぶことになった みのりは『児童数自体が少なく、生活圏が限られている』という都会とは全く異なる山間の学校の暮らしに馴染んでいきます。そんな中で、『小さな世界を支配しているのは、まぎれもなくこの傲慢な少年』と、西野隼人の存在を改めて意識する みのりは、一方で、『子供たちが恐れている』もう一つの存在を知ります。『教室を掃除中に、男子児童がふざけて箒で打ち合いをしていた』という中に、『女子で一番背の高い阿部小百合』が『真面目にやりなさいよ』と注意するも『気に留める様子もな』い男子。しかし、小百合の次の言葉に『教室の空気が変わ』ります。『そんなことしてると、向日葵男(ひまわりおとこ)が来るんだから!』その瞬間『ポーズボタンを押したみたいに動きを止める』男子を見て、『一体、何が起こったのだろう?』と思う みのり。『向日葵男って?』と訊く みのりに『しいっ』と『人差し指を立て』る小百合は、『そんな大きい声で云っちゃ、駄目なんだよ』と『不安そうな目つきで窓の方を見』ました。そんな村での暮らしの中に『夏祭り』が近づいてきます。『船に似た形をしている灯ろうの先端に向日葵の花を載せ』て川へと流すという夏祭り。しかし、祭りのために準備されていた『向日葵』に異変が起こります。『植えられた向日葵は全て花を切り落とされ、葉をつけた背の高い茎だけが風に揺れていた』という事態に『向日葵男がやったんだよ』と雛子が緊張した声音で呟』きます。まさかのミステリーと、美しい自然の描写を背景に少年たちが青春を鮮やかに駆け抜けていく物語が始まりました。

    “父親が亡くなり、山形の集落に引っ越した小6の高橋みのり。初めての夏、「向日葵流し」のために育てられていた向日葵の花が、何者かによってすべて切り落とされる事件が起きる。みのりの周囲ではさらに不穏な事件が続き ー”と思わせぶりな内容紹介がとても気になるこの作品。第74回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にノミネートもされた彩坂美月さんの代表作とも言える作品です。そんな作品の書名を見て『手折る』と書いて”たおる”と読むんだ!と、すみません、国語力のなさを曝け出してしまった私です(笑)が、表紙一杯に咲き誇る向日葵とそれに囲まれた少女という表紙がまず印象深く感じました。しかし、興味は沸いても文庫本472ページという物量に怯んでしまったものの今回彩坂さんの作品を三作読むという中に外すわけにもいかず、一日で一気に読み切りました。そんなこの作品には、〈解説〉の池上冬樹さんがこんなことを記されていらっしゃいます。

    “これほど自然の中に多感な思いがこめられた小説も珍しいのではないか。自然描写をしなくなった(いや出来なくなったといったほうがいい)作家が多いなかで、彩坂美月は、丁寧に一人の少女の内面と、過ぎていく季節の流れを追っていき、嫋々たる余韻を残す”。

    彩坂美月さんは作品中に自然の風景を鮮やかに描写されるのを得意とされる方です。池上さんがおっしゃる通りこの作品は、自然の奥深さの中に読者を誘う描写に満ち溢れています。まずは、そんな描写を見てみましょう。この作品では、父親の急死をきっかけに『山形の桜沢という集落にある母の実家』へと移り住む主人公・みのりの姿が描かれていきます。『山形駅から車で一時間弱走』った先にある集落は、『車も歩行者もほとんどいない』という山の中にあります。ここでは、池上さんが”過ぎていく季節の流れを追っていき、嫋々たる余韻を残す”と記される箇所を抜き出してみましょう。

    『五月の陽光がさんさんと注いでいた』という初夏の情景
    → 『木々の葉がまるで無数の魚の群れのように揺れ、初夏の陽射しに輝いていた。むせかえるほど濃密な緑の匂いが、身体いっぱいに流れ込んでくる。新緑の息吹が前のめりに押し迫ってくるようだった… 山の斜面の土留めの間から、代謝異常を起こした人の吹き出物みたいに芝桜が咲きこぼれている』。

    初夏の山村を覆う自然の圧倒的な光景に目を奪われる みのりが目にした光景がそのまま鮮やかに描写されます。『木々の葉』を『無数の魚の群れ』に例える様は圧巻です。そして、そんな大自然を目の前にした みのりはこんな風に感じます。

    『圧倒されるほどに、目の前に広がる景色の全てが躍動する気配に満ちあふれている。そのくっきりとした陰影と強い陽射しに、一瞬、眩暈にも似たものを感じた』。

    生命の力強さをまざまざと感じさせる描写は、初夏の野山の活き活きとした有り様を読者の脳裏に鮮やかに浮かび上がらせてくれます。そして、みのりは『身近な木々や草花に対してむくむくと興味』を抱きます。

    『目に映る景色は季節とともに刻々と変化し、山は生きている、ということを肌で感じさせる。圧倒的な緑の塊としか認識できなかったものが、一つずつ見分けがつくようになっていくのが面白かった』。

    都会暮らしから田舎暮らしへと生活のあり方を変える中では、そんな変化に誰もが馴染めるわけではないと思います。この作品の主人公・みのりは自然の中に溶け込んだ生活に馴染んでいることがよく分かります。一方で、草木が雪に埋もれる季節、山形ならではの雪の情景に みのりが馴染んでいく様もこんな風に描写されます。

    『大人たちが厭う雪も、純粋にみのりの心を浮き立たせた』
    → 『風邪をひくからやめなさいと母に注意されても、雪が降る日に窓を開けたまま風呂に入るのは素敵だった』。『空から降ってくる眩しい雪や、白い湯気が冷気に溶けていくさまは、ずっと眺めていても飽きない』。

    雪に魅せられる みのりは『お湯で火照った肌に、外の冷たい空気が心地よかった』という中に、雪と共にある日常を楽しんでいます。そんな みのりがこんな景色を目にします。

    『木々の細い枝や葉っぱには小さな氷柱がたくさんぶら下がっていて、繊細な硝子細工みたいに輝くそれらは、一つとして同じ形がなかった。雪と氷が世界を覆い尽くしていた』。

    これは細かい観察眼を感じさせる表現です。『氷柱』を『繊細な硝子細工』に例える先に見えてくる冬の美しいまでの光景。それを、彩坂さんは『雪と氷が世界を覆い尽くしていた』とまとめられます。これは繊細さと大胆さが同居する見事な表現だと思います。ごく一部しかご紹介出来ないのがとても残念ですが、この作品の自然を映し取っていく表現の数々には、これから読まれる方には是非ともご期待いただきたいと思います。

    一方で、この作品は内容紹介にこんな風にも記されています。

    “多感な少女の感情を繊細に描く慟哭必至の傑作青春ミステリ”

    内容紹介にうたわれる”ミステリ”としてのこの作品はこんな言葉に匂わされていきます。

    ・『向日葵男は、昔から桜沢にいる怪物なの。異常に背が高くて、ものすごく力が強いんだって。手に鉈を持ってるのよ』。

    ・『向日葵男の噂をしてるとどこからかやって来て、それで子供の首を切り落とすらしいよ』。

    「向日葵を手折る」という書名に、直球ど真ん中とも言える『向日葵男』という謎の存在が匂わされていく部分、これがこの作品の”ミステリ”を形作っていくものです。『向日葵男』とは何者なのか?『向日葵男』と主人公・みのりとの関係は?そして、『向日葵男』がこの作品の結末にもたらすものとは?少し喜劇のようにも感じる不思議な名前を持つ『向日葵男』が作品全体の空気感を不気味に支配してもいきます。

    しかし、この作品の一番の魅力は、内容紹介の”青春”という二文字が彩っていくものです。この作品は主人公・みのりが父親の急死をきっかけに『山形の桜沢という集落にある母の実家』へと移り住んだ先の四年間が九つの章に渡って描かれていきます。そんな九つの章全てに登場し、物語を駆け抜けていくのが、次の三人です。

    ・高橋みのり: 父の急死により桜沢に母と移り住む

    ・藤崎怜: 母の春美は心臓病を患う

    ・西野隼人: 父は医師、母は事務員として町の総合病院で働く

    物語冒頭で小学六年生だった みのりが運命の出会いを果たす、怜と隼人は仲の良い友人です。物語は、そんな三人、一人の女子と二人の男子という三角な関係の中に複雑な感情の存在をも垣間見せながら展開していきます。そんな三人の中の男子二人は見事に対象的な姿を見せます。

    ・『隼人の視線は網膜を焼く太陽の陽射しのようだ。その強さに目がくらみ、顔を逸らしてしまいそうになる』。

    ・『怜は、風のない湖面を思わせる静かな眼差しをしていた。吸い込まれるように深く、なんだかそこに佇んでいたくなる気がした』。

    この表現は、みのりから見た二人を表したものです。二人のあまりの違いに驚きますが、二人の男子は仲の良さを一貫して保ち続けます。そして、そんな二人の印象は成長しても見事な対比を見せます。

    ・『隼人には確かに人を引きつける力があった。隼人が右を向くと、そこに何か面白いものがあるのではないかと思ってそちらを見てしまうような引力がある』。

    ・『怜は頭が良く、きちんと相手と向き合おうとする思慮深さのようなものを持っていた。それは自意識との折り合いをつけるのに苦心する思春期の男子たちにとって習得し難い貴重なものであり、彼らが怜を信頼して一目置く理由にもなった』。

    さて、女性なあなたは隼人と怜のいずれを選ぶでしょうか?『ずば抜けて運動神経が良』いという二人は『初めから集団の中ではっきりと目立ってい』る存在として周囲への圧倒的な存在感を見せる中に、多感な中学生集団の中で光を浴びていきます。その一方で、みのり視点で描かれているということもありますが、みのりという女の子が際立ってどうこうという存在にはなりません。そんな三人が結末に向かってどんなバランス感の上に関係を続けていくのか?

    『胸の奥に微かな痛みを覚える。名前のない、けれどずっとそこにある感情』。

    これぞ”青春”な世界が描かれていく物語は、後半にいくに従ってその色合いを鮮明にしていきます。そう、美しい自然の描写に魅了される物語前半を経て、『向日葵男』とは何者なんだろうという”ミステリ”な興味が燻り続ける物語の展開、そして、”青春物語”の魅力に読者がどっぷりと浸ることになる物語後半、とこの作品が見せる三つの魅力は読者を最後まで飽きさせることはありません。物語は、〈第八章 祭りの夜〉から大きく動き出します。この作品がミステリであることをはっきりと思い出させてくれるまさかの謎解きが行われていく衝撃の物語。そして、〈再び〉と題された〈最終章〉で読者が見るその結末の感動と感涙。良い小説を読み終えた、そんな風に心から感じさせてくれる結末を見る中に、向日葵の黄色が眩しい本を置きました。

    『あの季節は、何もかもが、特別だった』。

    主人公・みのりが、父親の急死をきっかけに『山形の桜沢という集落にある母の実家』へと移り住むことになって以降の四年間が描かれたこの作品。そこには、みのり、隼人、そして怜という三人の青春の一コマが描かれていました。山形の自然の美しさを鮮やかに映し取ったこの作品。『向日葵男』という謎の存在を追うミステリの醍醐味に酔うこの作品。

    この一冊だけで彩坂美月さんという作家さんのファンになってしまうこと請け合いの素晴らしい作品でした。

  • 彩坂美月『向日葵を手折る』実業之日本社文庫。

    田舎では有りがちな都会からの転校生が味わう閉塞感、豊かな自然の風景と四季の移ろいが見事に表現される中、少し薄気味悪いミステリーが静かに進行していく。

    どこか懐かしさを感じる、草木の緑の薫りを感じる爽やかな青春ミステリーであった。

    主人公の高橋みのりが山形県で小学6年生から中学を卒業するまでの4年間に起きた『向日葵男』が関連すると思われる事件が描かれ、最後の最後に全ての謎が氷解する。しかし、それはみのりの初恋の相手との突然の別れであった……

    父親がくも膜下出血で亡くなり、小学6年生の高橋みのりは母親と母親の実家のある山形県の桜沢という集落に引っ越す。新たに通う小学校は小さな分校で、そこで残酷ないじめっ子の西野隼人とその友達でみのりの家の近所に住む藤崎怜と出会う。

    夏になり、小学校の行事である夏祭りの向日葵流しの準備の最中、学校で植えた向日葵の花が全て切り落とされるという事件が発生し、生徒たちの間では『向日葵男』の仕業と噂される。

    その後、みのりの給食のスープに蛙が入っている事件が発生し、『向日葵男』が存在する証拠を見せると言われ、隼人に連れ出されたみのりは隼人に木に縛られ、放置されるが、怜と怜の父親に発見される。

    時折、残酷な行動を見せる隼人が向日葵を切り落とした犯人ではないかと疑うみのりだったが……

    そして、みのりに降り掛かる思いがけない事態。みのりを身を挺して守ったのは……

    再びの春。中学生になったみのりは分校時代の仲間たちと充実した中学生活を送る。

    時は流れ、みのりが中学2年生の夏、再び向日葵が切り落とされる。さらにみのりが中学3年生になった年の夏祭りの前、怜の病弱な母親の春美が何者かに襲われ、入院するが、亡くなってしまう。

    急展開する物語。悲しい友との別れ……

    そして、数年後……


    作中には山形県の食文化も忠実に描かれている。食用菊、タラの芽、ノビル、アケビ、細竹、フキ、ミズ、無花果、ぺそら漬けそして、味のマルジュウ。山形県には出汁醤油文化があるのか、味のマルジュウを始め、幾つかの会社が出汁醤油を販売している。我が家でも色々と試した結果、味のマルジュウを採用している。なるほど、彩坂美月は山形県出身であったか。

    本体価格900円
    ★★★★★

  • 読んで良かった。
    気持ちの良い感動に酔いしれる青春ミステリーだった。

    父親が亡くなり母の実家である山形の祖母の家に引っ越してきた小6の高橋みのり。
    近所で出会った少年は、優しく話しかけてきてくれた藤崎怜。
    乱暴な強い眼差しをぶつけてくるのは、隼人。
    みのりと怜と隼人を中心に物語は進んでいく。

    この土地では向日葵男というおぞましい怪物がいて…という噂があり、何者かによって向日葵の花が切り落とされる事件が起き、真っ先に向日葵男のしわざだと。

    よほど暗い絶望感漂う事件が次々と起こるのでは…と想像していたが、殺伐としたものではなく結果としては、そういえば序盤から気にはなってたなと思い返すことができた。

    大きな事件があるわけでもないが、狭いコミュニティでの複雑な人間関係と家庭内で起こる問題。
    だが満足感を得られたのは心理と情景の濃さだと感じた。
    季節を巡るたびにこの3人の子どもたちの成長と変化の心理描写の巧みさがより一層際立っていく。
    これほどまでに丁寧に少女や少年の内面を描いていく凄さに自分も同じ年齢になったかのような錯覚に陥ってしまった。

    終盤は、事件の真相に切なさしかなかったが、ラストに感動。


  •  彩坂美月さん初読でした。
     突然父を亡くし、母の実家・山形の桜沢という田舎、それも小さな集落に引っ越した小学6年生・高橋みのりが主人公の物語で、小6から中学卒業までの4年間がみのりの視点で描かれます。

     みのりと2人の少年(隼人と怜)の成長、田舎の豊かな自然や風習・行事のよさ、集落特有の関係性からくる距離感のよさと逆の閉鎖性、これらが緻密にかつ丁寧に描かれ、情景が目に浮かぶようです。
     そこに事件と不穏な空気感を織り込み、ミステリーと上手く融合させている気がします。加えて、花・行事・怪人としての「向日葵」の存在が、明暗の両方に作用し、物語に惹き込む効果的なアイテム兼象徴になっているようです。

     一点やや残念に思ったのが、全編を通じたみのりの心理描写表現です。物語の読み手である私たちの視点は、みのりが見るものや体験することと共にあります。みのりの思考・語彙は、完全に大人のそれ(ある意味それ以上)と思えます。小中学生〝ぽさ〟があれば、と思ってしまいました。

     けれども、池上冬樹さんの解説で少しモヤモヤが解消‥。最終章のみのりの視点が現在で、回想と捉えれば当然の印象か‥。
     多感な時期の、割り切れない濃密な幻影を引きずっていたみのりでしたが、見事に解消される最終章が見事で、余韻を引く読後感でした。

  • あとから、じわーっと余韻が伝わって来る感じ
    ああ、青春だなあ。。。
    子供でもなく、大人でもない自分の可愛い中学生のあの頃(かなり昔)を、懐かしく思い出さずにはいられなかった

    父親の病死後、母親と一緒に祖母が暮らす山形の実家に身を寄せる事になった高橋みのり十二歳
    同じ集落に住む同じ歳の怜と隼人
    いつも優しい怜と乱暴者の隼人は対照的
    みのりと怜と隼人の三人を中心に、四年間の青春時代を描いた物語
    ミステリー要素も有り

    __初めて迎える夏の「向日葵流し」の向日葵の首が全部、何者かの手によって切り取られる事件が起こる
    そして、その後も不吉な事が起こり続ける__

    緑豊かな集落の自然の描写が美しくもあり、時には「向日葵男」という都市伝説の様な存在が、人気のない神社や沼を不気味にさせる
    そして多感な時期のみのりや怜と隼人の成長を、とても丁寧に描いている

    半自給自足の様な食生活、近所との交わり等、都会では味わった事がない田舎暮らし
    恋とは、病の様に自分の意思では制御出来ないものだと知る
    そして人は見た目だけではなく、裏の顔もあるって事を知る
    みのりと怜と隼人のお互いを思う気持ちや関係性も、少しずつ変化する
    みのりにとって、嬉しい事も悲しい事も初めての事が沢山詰まった大切な四年間となる

    はたして「向日葵男」は実在するのか?

    途中で、愛犬ハナが。。。(>_<)↓↓

  • 初読みの作者さん。フォローしている方のレビューに惹かれて買ってみた。
    仕事が忙しく、年末は家でやることも多く、読み終えるのに時間が掛かった。

    父が突然亡くなり、母とともに祖母の家がある山形の集落に引っ越した小学校6年生のみのり。
    田舎の季節の移ろいとともに分校や村の行事が描かれ、その中でみのりが二人の少年・怜と隼人と心を通わせ合っていく様が語られていく、その丁寧な描写に好感。
    そして、そうした長閑な話の間に挟まる“向日葵男”の不穏な噂と不審な出来事の数々。
    緩急つけながら語られる話は、その落差が激しく、その“急”の部分、事件の際に明らかになる事実がいちいち衝撃的で、ちょっと長いお話もそれをアクセントに興が繋がった。

    ミステリーとしては最初のほうの引っ掛かりがやはりという感じだったので“向日葵男”の正体にあまり意外性はなかったが、ガールミーツボーイズの話としてみのりと二人の少年の4年間の顛末はその瑞々しい感じがとても良かった。

  • 山形県の田舎を舞台に主人公・みのりと怜と隼人という二人の少年との青春ミステリー。みのりが桜沢に引っ越してからの4年間を四季折々の描写と向日葵男の影が軸となり進んで行く。500ページ越えと少し長めながらもテンポがダレることなく進んでいくためスイスイと読むことが出来た。
    “向日葵男”の正体はなんとなく想像はつくもののその原因はとても悲しいなぁと感じた。田舎特有の“疎外感”や無意識な“差別意識”は人を静かに狂わせていく。助けを求めることを自分からためらってしまう空気感は時間をかけて“向日葵男”という怪物を生み出していく。人には裏の顔を持っている。優しい先生やおとなしい親友は実はとんでもない本性を持っていたりする。一見、無愛想に見える男の子や先生が実は熱い思いを持っている事もある。そんな人々と出会いながらみのりは恋を知り、人同士の暖かさや残酷さを知り、成長していく。この小説は“向日葵男”の正体を暴くというミステリーの側面よりも一人の少女の成長物語であるのだ。この4年間の成長を見守った読者が最後にたどり着くあまりにも綺麗な結末を目撃することになる。是非読んでいただきたい。

    この作品をアニメ化した際の声優陣を自分なりのキャスティングしてみたので読む際に参考にしてください(敬称略)。
    高橋みのり:関根明良
    藤崎怜:山下大輝/佐倉綾音
    西野隼人:岡本信彦/伊瀬茉莉也
    犬飼雛子:水瀬いのり
    倉田由紀子:黒沢ともよ
    阿部小百合:上田麗奈
    今井先生:中田譲治
    佐古真嗣:石川界人
    橋本大輝:木村昴
    大島夏希:潘めぐみ
    田浦恭子:斎賀みつき
    藤崎春美:能登麻美子
    藤崎茂:小西克幸

  • 他の皆さんのレビューであらすじは詳しく紹介されているので、ここでは敢えて省略。
    山形の集落で暮らす3人(みのり、怜、隼人)の、小6から中学卒業までの多感な季節を、瑞々しく描いた少し甘酸っぱい青春ストーリーであるが、そこに謎を秘めた不穏な出来事を融合することで、上質なミステリー性を帯びた作品となっている。
    子供の首を切り落とすという向日葵男の噂、花首から断ち切られる向日葵、そして「精霊流し」を思わせる向日葵流し。
    色々な場面で描写される向日葵とともに、季節の移ろいの中での3人の心の襞が見事に映し出されている。

  • 面白くて、あっという間に読み切った。
    登場人物の行動で疑問に思う所がいくつかあったけど、3人はもちろん、クラスメートの成長過程が丁寧に描かれていて良かった。ラストも良かった。

    地方のそこで暮らす人々の閉塞感と仲間意識。人々の距離感が近いのが良くもあり悪くもある。

    山菜が好きなので食べ物が美味しそうだったけど、虫嫌いだからそこで暮らすことは出来ないなぁ。

  • 夏の季節に夏の本を読むのがすごく好きだ。
    夏はあんなに暑くて毎日ギラギラとしているのに
    気が付いたらいつの間にか去っていってしまって
    気持ちを持て余してしまう。
    そんな時に夏の本を読むのが好き。

    ミステリ部分はほぼオマケのような感じで
    田舎で暮らす多感な時期の子供たちの成長期のような。

    思い出に縛られて苦しくなることもあるけれど
    思い出があるからこそ踏ん張れる時もあるよなと
    夏の終わりにしんみりと思いました。

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著者プロフィール

山形県生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。『未成年儀式』で富士見ヤングミステリー大賞に準入選し、2009年にデビュー(文庫化にあたり『少女は夏に閉ざされる』に改題)。他の著作に『ひぐらしふる』『夏の王国で目覚めない』『僕らの世界が終わる頃』『サクラオト』『思い出リバイバル』などがある。本作『向日葵を手折る』が第74回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にノミネート。

「2023年 『向日葵を手折る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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