ロジャーズ選集(上):カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文

制作 : ハワードカーシェンバウム  ヴァレリー・ランドヘンダーソン 
  • 誠信書房
4.20
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本棚登録 : 120
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784414302912

作品紹介・あらすじ

本書は、ロジャーズの60年あまりの長いキャリアにおける多様で深みのある業績を一望するのに最適の書といえよう。教育、科学、哲学といった、人間の個人的成長への関心にもとづいた専門的な論文から自伝など私生活に関するエッセイまで未邦訳のものも含めた必読の33著作を収録した。

感想・レビュー・書評

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  • カール・ロジャーズの代表的な著作をさまざまな領域にわたって厳選して編まれた論文集。

    あらためてロジャーズが革命的な存在であったことが確認できる。
    彼が提示した仮説の中でも最も有名で、繰り返し立ち返るべき命題が、カウンセリングにおいて人が変容するためにカウンセラーに必要な条件は純粋性、無条件の肯定的関心、共感という3つである、というものだ。
    ここで確かめておかなければならないのは、実はロジャーズは、この3条件が必要だと言っているのではなく、必要にして十分な条件だ、と言っているということである。
    しかもカウンセリングの対象がその診断を含めてどのような相手であっても、この3つの条件さえ整えば、人は変容しうる、とロジャーズは断言するのである。
    とてつもない主張であるが、例えば統合失調症に対するオープンダイアローグの実践などを見ると、歴史はロジャーズの炯眼を支持しているようである。

  • 事例集は、退屈に思ってしまった。主にセラピストの限定的な相槌で反応が限定され、セラピーが固定的になってしまっているという指摘が多いように思った。トークがそのまま載っているので、興味を持つ人はいると思う。
    内省的な自分の人生の気付きについて語った文章は、とても含蓄が深かった。

    ・私は、ウィスコンシン大学で農学部から出発した。私がよく覚えていることは、農業経済学の教授が学問と事実の活用について語った情熱的な言葉である。彼は百科事典のような知識のための知識の不毛性を強調し、「つまらぬ弾薬庫になるな。ライフル銃になれ」と話を結んだ。

    ・もう一つの学習は大変苦労して学び取ったことだが、それはわずか4語で表現できる。“事実は味方である(The Facts are friendly)”と。
    私たちが科学的研究を始めた初期の頃の、結果がどうなるかを待っているときの不安をよく覚えている。仮説が反証されたらどうしよう!私たちの考えが間違ったら!私たちの見解が正当化されなかったら!振り返ってみると、そうしたとき、私は事実というものを潜在的な敵とみなしたり、不幸をもたらすものとみていたと思う。しかし長いことかかって私は、事実は“常に”見方であると考えるようになった。いかなる領域で得られるどのような小さい事実でも、その分だけ私たちを真理に近づけるものである。しかも真理により接近することは、決して有害な事でも、危険なことでも、不満足なことでもない。そこで、私は自分の考えを再整理するのをいやがり、古い味方と概念化を捨てかねていながら、もっと深いレベルでは、こうした苦しい再組織こそ“学習すること”なのであり、たとえ苦しくとも、もっと人生を正確に見るようになるので、満足すべき人生の見方に導いていくことをある程度認めるようになってきている。そこで、現在私の施策をそそる領域は、私の持論が客観的に確証されていない領域なのである。

    ・最も個人的なものは最も普遍的なものである。

    ・私の経験では、人間は基本的にポジティブな方向性を持っている。深く混乱している人、ひどい反社会的行動をとっている人、とても異常な感情を持っている人、こうした人々との私の深いセラピー的接触の経験からでもこのことがいえるのである。
    …人間は十分に理解され、受容されるほど、処世のためにかぶっていた仮面を脱ぎ捨て、前向きの方向に動いていくようになると、思うようになった。
    この点では誤解されたくない。私は人間性の本性をポリアンナ(底抜けの楽天家)のような楽天的なものと見ているわけではない。人間は防衛や内心の恐怖から、信じられないほど残酷に、恐ろしいまでに破壊的で、未熟に、退行的に、反社会的に、人を傷つけるように行動したりするのを私はよく知っている。私の経験のなかで最も勇気づけられ、最も目のさめるような部分は、このような人たちと取り組んでいるときに、深いレベルにおいては私たちすべてと同じように、彼らのなかに強力なポジティブな傾向があることを発見することである。

    ・人生は、最良の状態では、流動的で、変化し続けるプロセスであり、静止しているものはひとつもない。クライエントや私の経験から見ると、人生が最も豊かで実り多いときは、それが流動的に流れているときである。このことを経験するのは、魅力的なことだが、少し恐ろしい感じもする。自分の経験の流れに身を任せ、前の方と思われる方向に、つまり、自分にもかすかにしか分からない目標に向かって進んでいられるとき、自分は最良の状態にあるのだと思う。このように私の会見家庭の複雑な流れに身を任せ、そのたえず変化している複雑さを理解しようとしていると、固定した点はひとつもないことが明らかになる。私がプロセスの中にいることができるとき、私が閉ざされた信念の体系とか、不変の原理などを持ち続けることができないことが明らかである。

    ・それは私たちにとっておそろしく大事なことであった。それは疑いなく、お互いの気持ちが離れ離れになってしまうような迷路から私たちを救ってくれたのである。しかし、もっと重要なことは、“きっと”他のひとには言えないと思っていることでも、言うことが“できる”ということ、言い換えれば、自分のなかにしまっておかなければならないと思っている問題も、実は他人と分かちあえるのだということがわかったということである。
    (夫婦で性生活について話し合えたことについて)

    ・彼女自身の自己の探究のための仲間であること。セラピストとして私は、クライエントをリードしようとしない。なぜなら、私よりも彼女のほうが自分の苦悩の震源への道をよく知っているからである。もちろん、それは無意識の知恵なのだが、それでもそれはあるのである。私は、私の理解が鈍くならないようにと思っている。もし私が鈍いと、その探索は彼女にはあまりにも恐ろしいものとなるからである。私がしたいことは、彼女の側についていて、ときには一歩後ろを行き、私たちの歩んでいる道がもっとはっきり見えるときには一歩前を行ったりし、直観からの導きがある場合にだけは前方に少し跳躍することである。

    ・賢明なる医師たちは、自殺の危険があるにもかかわらず、次のような結論に達した。「信頼できる、はっきりした治療は不可能である。それゆえに私たちは、開放してほしいという患者の要求に従う決定をした」と。彼女は退院した。3日後には彼女はとても幸せそうに見え、ここ数年間なかったぐらいよく食べ、それから致死量の薬物を飲んだ。彼女は33歳であった。彼女の墓碑銘は、彼女の言葉そのものだと言ってもよい。「私は人生を非常に受け身に生きた。その舞台では、いがみ合う二つの力が、互いにつぶし合いをしていた」。
    エレン・ウェストの人生において何がそんなに決定的に間違っていたのだろうか。私は私の信念をうまく表現できているようにと願っているのだが、そこで間違っていたことは、私たちすべての人の人生にある程度は起こるものだが、彼女の場合にはそれが極端なだけであったのあ、と。
    赤ん坊はおなかがすくと、おなかがすいているかどうか疑ったりしないし、食べ物を求める努力をすべきかどうか、自問したりもしない。そんなことを意識しなくても、彼は自己を信頼できる有機体なのである。しかしある時期において、両親や他人が、「おまえがそんなふうに思うなら、可愛がってやらないよ」という意味のことを言うかもしれない。そのとき子どもは、自分が本当に感じていることではなく、感じなければならないことをかんずるようになる。
    この度合いによって子どもは、感じなければならないことを感ずるような自我を作り上げ、そしてほんのたまにだけ、自分の有機体―自我がその一部なのだが―が本当に感じていることに気がついてびっくりするのである。

    ・議論の初めに私は、学生たち(教師の卵)に「将来子どもたちに伝えていきたいと思う価値を、二つか三つ上げて下さい」と頼んだ。回答にはさまざまな価値が挙げられていたが、私はそのなかのいくつかに驚いたのである。数人の学生が「正しく話すこと」「良い英語を使うこと。ain'tといった俗語を使わないこと」などをあげた。他の数人は、きちんとすること、指図に従って行動すること、をあげた。ある学生は、自分の希望として「私が名前を右上に、日付をその下に書きなさいといったら、生徒たちにはまったくそのとおりにやってもらいたい。他の書き方は認められない」と述べた。
    これらの学生にとっては、生徒に伝えるべき最も重要な価値が、文法を正確に守ることであったり、教師の指図に厳密に従うことであったりするということに、私はかなり愕然としたことを告白する。
    このような価値があげられた理由は、ただこうした行動がこれまで是認されてきた―そしてそのために非常に重要なものとして彼女たちのなかに取り込まれてきたという事実のなかにしか求められないであろう。

  • 来談者中心療法、ロジャーズと、それくらいしか知識がなかったし、表紙はかわいくないけど、心理学を学び始めた身としては読んでおこうと開いた本。ただ、それだけだったのに面白くてやめられない‥書き留めておきたいところばかりだし、だけど感覚的にこれは知っていると感じるから、本当にどういうことなのだろう。導かれている感覚。学ぶことをやめたくないのは、こういう楽しさを味わいたいからだと思う。

  • ■書名

    書名:ロジャーズ選集―カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文〈上〉
    編集:ハワード カーシェンバウム、ヴァレリー・ランド ヘンダーソン

    ■概要

    本書は、ロジャーズの60年あまりの長いキャリアにおける多様で深
    みのある業績を一望するのに最適の書といえよう。教育、科学、哲
    学といった、人間の個人的成長への関心にもとづいた専門的な論文
    から自伝など私生活に関するエッセイまで未邦訳のものも含めた必
    読の33著作を収録した。
    (From amazon)

    ■感想

    ロジャーズの中の33著作の内、前半17本の著作をおさめた一冊です。
    基本的にはエッセイと論文、逐語によって成り立っています。

    どれも、カウンセリングに興味のある人でしたら、楽しく読んで
    勉強になると思います。

    逐語集を読むと、相手の言葉ではなく「相手の感情だけに瞬間的に
    反応する」のは本当に難しいな~と感じます。
    頭ではわかっており、どんなに真剣に相手の話を聴いても、そこから
    感情を読み取能力、そして読み取った感情を自分の言葉で言語化する
    能力、相手に自分の言葉を正確に伝える能力が無いと、出来ない芸当
    だからです。

    これが出来るカウンセラーはやはり一流だと思います。

    でも、こういう逐語集を読んでいると、一流のカウンセラーでも
    完全にできるわけではない領域であるというのがよく分かります。
    失敗を繰り返し、考察し、一歩一歩自分で進んでいっている様が
    感じ取れます。

    何事も一歩一歩ですね。

    ■自分がこの作品のPOPを作るとしたら?(最大5行)

    ロジャーズといえば、カウンセリングに関わっている人には知っていて
    当然の方。
    そのロジャーズの色々な文章を集めた前後編の前半です。
    テーマがとっちらかっていますが、ロジャーズ本人の文章なので、
    楽しめると思います。

    ■気になった点

    ・つまらぬ弾薬庫になるな。ライフル銃になれ。

    ・自分の最も関心のあることをやる機会が与えられるならば、他の
     事は何とかなるという気持ちをいつももってきたように思う。

    ・原因を知ってるのは、クライアント自身である。

    ・私の人間関係では、私が本当の自分自身でないように振る舞うな
     らば、結局それは援助にならないことに気が付いた。

    ・私たちはあるがままの自分を自分に十分に受容するまでは、変化
     することも出来ないし、現在の自分と違う方に動いてもいけない。

    ・彼の言葉が彼自身にどんな意味があるかを正確に理解しようと自分
     に許すことはほとんどない。その理由は、理解する事が危険な事
     だからと思う。

    ・他人がその感情やその私的世界を私に伝えられるようなチャンネル
     を開けておくことは、とても実りの多いことである。

    ・私は自分自身の経験を信頼できる。

    ・私のある状況に対する全有機体的感覚は、私の知性よりも信頼
     出来るということである。

    ・私の経験は誤りやすいので権威的ではない。
     しかしそれはいつも新しく基本の層で点検する事が出来るので、
     権威の基礎となる。

    ・事実は味方である。

    ・人間は基本的にはポジティブな方向性を持っている。

    ・人生は最良の状態では、流動的で、変化しつづけるプロセスであり
     静止しいているものはひとつもない。

    ・自分の中にしまっておかなければならないと思っている問題も
     実は他人と分かちあえるのだということが分かった。

    ・私たちはいつも話し合う事を続けた。

    ・私は同じことをしている自分の声を聴くのがいやなのである。

    ・最も難しいのは、そのときのかかわりあいの中でその人がどのよう
     に存在していても、そのままでその人を大切することである。

    ・クライアントが責任を取るということがカウンセリングを全く
     違うものにすることについては、どんなに強調しても強調しすぎる
     ことはない。

    ・答えを与える事が、仕事ではない。

    ・目的は、クライアントが表明することのできたその感情を完全に
     受容し認識する事なのである。

    ・指示的なカウンセラーほど、カウンセリング場面では能動的である。

    ・非指示的なカウンセリングでは、クライアントには自分の人生の
     目標を選択する権利があると考えられている。

    ・たった一つの診断的な質問は、クライアントを質問に答えるという
     枠組みに追い込んでしまい、沈黙が生じる。そのため、その後、
     より指示的でない質問によってそれを破らなければならない。

    ・感情に対して応答するのであり、発言内容に対して応答するのでは
     ない。

    ・カウンセラーは賛同も拒否もしない。

    ・私自身とのかかわりのなかで他人の人格的な成長を促進しようと
     するならば、私自身が成長しなければならないのである。

    ・力の足りないカウンセラーほどクライアントに対して、自分に
     同調するようにすすめる傾向がある。

    ・私はその人をあるがまま受け取る事が出来るであろうか?

    ・なぜ、私がその人のあらゆる局面を受容できなかったのか?
     それは、その人の感情の中のある局面に驚いたり、脅威を感じたり
     していたからだ。

    ・外的評価が人格的な成長に役立つことは無いように思う。

    ・誰かに「よろしい」という事は、同時に自分が「いけない」という
     権利を持っている事を伝えている。

    ・診断したり、分析したりすることは、セラピーの目的を達成する
     妨げになる。

    ・ほとんどの事項について、評価の起源や評価の主体は、その人自身
     の外側にある。

    ・自分の腹の底からの反応を信頼して、それに耳を傾けさえすれば
     それが一番頼りになる指標なのだと分かったのは結婚した後の事
     である。

    ・自己自身を喪失する事のもっとも恐ろしい危険は、それが何事でも
     ないかのように静かに通り過ぎていくことである。

    ・ほとんどのカウンセラーは自分で思っているよりもはるかに指示的
     である。

  •  心理学を学んでいる者であれば、一度は必ず聞いたことがあるロジャーズの理論が多数収録されている。今まで私は第3者の解説書ばかりを読んでいたが、本人の著作を読んだことで、殆ど理解していなかったことを思い知らされた。そして、理解がより遠ざかったようにも感じた。
     今やあらゆる理論が世間に溢れ、「~学派」と名乗ることでアイデンティティの確立に終始し、クライエントのことを考えられなくなってしまっているセラピストも少なからずいるだろうと思う。ロジャーズの考えが徐々に影をひそめるようになってきた今だからこそ、そういった人たち(自分自身を含め)へのアンチテーゼとして重要な一冊になるのではないだろうか(と、院生身分の私が語る)。臨床心理学を学ぶ上で、本書は羅針盤の役割を果たすように思う。

  • これは間違いなく☆5つ。
    古今東西の名著に関しては、やっぱり概説書より、原書を読まなければいけない。

    ロジャーズは、馬車馬のごとく歴史の中を突き進みながら、カウンセリングの持っている可能性と成立条件について確立していったことが伺われる。

    特に逐語記録についての分析は鮮やかとしかいいようがない。確固たる人間への信頼観を持っていないとこういう見方はできないと感じた。

  • カウンセリングが何かを知る本

  • やっぱりこれははずせません。

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