私たち、戦争人間について: 愛と平和主義の限界に関する考察

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422300719

作品紹介・あらすじ

「戦争はなぜ起きるのか」「戦争の原因は何か」という問いを糸口に、戦争に対するさまざまな見方を、宗教学者でもある著者が、スリリングに読み解いていく、入門書としても手に取りやすい、戦争論エッセー。戦いは人間の本能なのか、人はどんな知識や技術を戦争に利用してきたのか、なぜ人々は平和を祈りながら戦うのか、そもそも「戦争」とは何なのか…。戦争を「悪」の一言で片付けるのではない、従来にない教養としての戦争論。★本書の目次抄■序章 この世界のいったいどこに神がいるのか一〇〇日間で八〇万人が殺された/神も沈黙して眺めていた/「狂っていた」のではない/無関心な平和主義者たち/「血を流す覚悟」をするべきか/寓話は意外と平和主義的ではない/武器を捨てるのは愚か者/平和のための仲裁者を鼻で笑う/ことわざにおける戦争/私たちは優しいのか、残酷なのか■第一章 戦争の原因は何か、という問いについて人はなぜ暴力的なのか/戦争の「原因」、戦争の「責任」/そもそも「原因」とは何なのか/利益のための戦い/何のための「復讐」なのか/「価値観の違い」で戦うのか/死者とのつながり/戦争と宗教の関係■第二章 戦争は人間の本性に基づいているのか五〇〇〇年前に殺された男/大昔の人間も人を殺していた/「狩猟」と「キラーエイプ仮説」/狩猟でも農耕でもなく、「定住」が問題/フロイトの戦争理解/それでも人が反戦活動をするのはなぜか/「人を殺すこと」への抵抗感/戦友に対する強烈な責任感/本当に殺人に抵抗感を覚えるのか/私たちの「内なる悪魔」/本性にこだわらねばならないのか■第三章 戦争の役に立つ技術と知識ポルシェ、エジソン、ライト兄弟/桃太郎と動物たち/火器の発展/海上の兵器/飛行機と戦車の登場/化学兵器、生物兵器、核兵器/あらゆる技術が軍事に貢献する/トヨタ戦争/人を生かすための医療、保存食/暗号のための「言語」と「数学」/技術と知識の両義性/文系の学問と軍事研究/すべてが武器になる■第四章 あまり自明ではない「戦争」概念世界に宗教はいくつある?/「戦争」を数えるのは難しい/意外と新しい「戦争」という言葉/軍事行動、武力衝突を表す日本語/戦争と呼ばれる内戦/「戦略」概念の発生と語源/拡散していく戦場/兵を動かす前の策略/戦わずして人の兵を屈する/文化の発露としての戦争/「戦争」概念の定義を保留にする■第五章 戦時における人の精神と想像力人を戦争に駆り立てる主張/軍人の倫理と日々の佇まい/命の価値と「悠久の大義」/兵士たちのお守り/豚肉成分を塗布した銃弾/軍隊における宗教/軍人における「精神的な要素」の重要性/私たちは戦時だけおかしいのか■第六章 私たちの愛と平和主義には限界がある戦場に行った哲学者たち/一筋縄ではいかない「平和」/平和のための名誉ある戦士/暴力で死ぬ確率は、激減している/印刷物の増加、識字率の上昇/フォークソングの夢は実現している/戦争も平和も文化である/当然の疑問と向き合わねばならない/人は人を愛せない

感想・レビュー・書評

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  • ウクライナとロシアの戦争が始まってから、戦争のことを考えることが多くなった。
    戦争は悪い。戦争は人を不幸にする。それを皆わかっている。学校でも加害についてはともかく原爆や空襲などの被害については教えられてきた。戦争は良くないという本(それこそ絵本も含め)、映像などはたくさんある。
    しかし、結局それでは戦争を止めるには足りないのではないかという思いが消えなくなってきた。
    それでこの本を読んでみた。
    書かれていることは何もかもなるほど、と思うことばかりだった。
    「多くの人にとっては「平和」とは、ただ単純に自分にとって都合の良い状況のことにほかならないのではないだろうか。」「平和を望む気持ちと、戦いを決断する気持ちは、実は大差ない。戦争とは、当事者の主観としては、軍事をもってする秩序化の試みであり、武器をもってする平和構築の試みに他ならない。」(p30)
    私たちは「実は口先ほどには愛と平和なんて求めていない」(p33)
    「ふだん私たちは何らかの出来事の「原因」を考えるとき、だいたい何となく納得できる気分になったところで探求や思考を切り上げているに過ぎない。」(p51)
    そもそも何をもって戦争というのか。どこからが戦争か。戦争と科学の関係など、どれも胸に刺さった。
    学校の平和教育は「学問」ではない、なぜなら「すでに決まっている線に沿った「心がまえ」を抱かせることが目的になっている」から。「「学習」や「研究」というよりは「精神的感化」に近い」(p267)
    「事実や論理を詰めることよりも、「感動」することを求め、それで満足してしまうという点で、戦中も戦後も結局のところ基本姿勢は変わっていない」(p268)
    書き出したらきりがないのだが、自分のなまぬるい「平和」希求にズタズタとメスを入れられる感じがした。
    じゃあ、どうしたらいいのか。
    それはやっぱりそれぞれ考えるしかない。しかしここまで「戦争」とはどういうことかを提示してくれてありがたく思う。巻末にある参考文献を読みつくすことは私には不可能で、折に触れこの本を読み返して自分なりにどう行動できるかを考えたい。

  • この著者が昨年出した『キリスト教と戦争』はとてもよい本で、私は昨年のベストテンにも選んだのだが、それにつづくこの新著もじつに素晴らしい。

    前著は、1人のキリスト教徒としての立場から、「愛と平和を説くキリスト教を信仰しながら、人々はなぜ戦えるのか?」を問い、キリスト教と戦争の関係をその歴史から鋭く考察した好著であった。

    本書は、前著から一気に間口が広がり、人類史における戦争そのものを俎上に載せている。“我々はなぜ、平和を求めながら戦争を重ねてきたのか?”、“なぜ戦争がなくならないのか?”などという、人類と戦争をめぐる根源的な問いに真正面から迫ったものなのだ。

    著者は、戦争について考察した古今東西の膨大な文献を渉猟し、そのエッセンスを手際よく本書の中に取り込んでいく。つまりこれは、戦争をめぐる学説史・言論史の概説書でもあるのだ。

    それらのエッセンスを紡ぎ合わせた上に、著者は自分なりの戦争観・平和観をまとめ上げていく。それは、いわゆる「お花畑」的な理想論に陥ることなく、人間の悪や弱さを鋭く見つめた冷徹なものだ。

    本書は学術論文ではなく、アカデミックな装いをこらした「戦争論エッセイ」である。が、なまなかな論文などよりもずっと、読者を深い思索に誘う。

    戦争と平和について深く考えようとする者にとって、最良の素材になり得る書。

  • 前半は疲れるけど意外にも何度も読みたくなる

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/607629

  • 東2法経図・開架 319.8A/I76w//K

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著者プロフィール

石川 明人(イシカワ アキト):1974年生まれ。北海道大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。北海道大学助手、助教を経て、桃山学院大学社会学部教授。専門は宗教学・戦争論。著書に『キリスト教と日本人』(ちくま新書)、『キリスト教と戦争』(中公新書)、『すべてが武器になる』(創元社)など多数がある。

「2022年 『宗教を「信じる」とはどういうことか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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