「心は遺伝する」とどうして言えるのか: ふたご研究のロジックとその先へ

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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422430263

作品紹介・あらすじ

人間の身体的特徴だけでなく知能や学業成績、性格、精神疾患、攻撃性など「心」もまた遺伝するという衝撃の事実を明らかにしてきたふたご研究。その研究成果は徐々に社会に知れ渡るようになってきた。しかし、ふたご研究そのものはどれだけ知られているだろうか? 本書では、研究方法の基本から多変量遺伝解析、エピジェネティクスなど最先端のアプローチまで、進化し続けるふたご研究の現在形を第一人者が詳しく紹介する。

感想・レビュー・書評

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  • 「クローン羊ドリー」を読みながら考えていたこと。

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    アインシュタインのクローンは再び相対性理論を導き、ヒトラーのクローンはナチスを再建するんだろうか? 経験とか、意思とか、努力とかは人を形成する上でどのくらいの比重を占めているのだろう? ぼくらはどこまでDNAに縛られているんだろう?
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    こういうことは、一卵性のふたごを調べればわかるな、と思ったのだ。遺伝情報を完全に共有する一卵性のふたごは、いわば自然界の生み出したクローンだ。ふたごの同じところ、違うところを調べば、クローンが同一人物といえるのかわかるはず。
    で、探して読んだのが本書。

    大変おもしろかった。特によかったのは、結論を導き出すツールとしての統計処理についてきっちりと書いてあること。というより、本書のテーマはむしろそっちだ。統計学の基礎知識が必要だけれど、分析していく過程を丁寧に追っていくことで、結論が根拠を持っていることが実感できる。完全には理解できなくても、アウトラインが理解できるだけで説得力は増す。遺伝の影響を調べるために、一卵性と二卵性のふたごを両方調べる必要があるのは、そういうことなんだな。

    実は本書を読んだのはちょっとした下心もあった。個人的に人となりと生き方がDNAで決まる、とは思いたくなかったのだ。もしそうだったら、どんな人になりたいと思おうと、どんな本を読もうと、どんな経験を積もうと、意味ないじゃん。
    もちろんふたごが同一人物であるはずはないが(直接ふたごを知っているわけでじゃないが)、根拠がほしかったのだ。

    本書によると、遺伝がその人らの表現型(外から見える性質をそう呼ぶらしい)に与える影響は、大雑把に半分くらいらしい。この数字がどのように出てきたのかは本書を読んでもらうとして、ぼくは満足した。顔や体格などの見かけが親に似るように(一卵性ふたごならそっくりだ)、身体的、精神的な潜在能力が、理解力なんかも含めて遺伝に影響されるのは(変な言い方だが)しょうがない。好みや性格だって似るだろう。
    でもそういう前提の上で、他者とどうかかわるか、どっちに行くかは自分で決められる。同じモデルの車に乗って、同じような運転の腕をもち、さらに言えば海に行きたいか山に行きたいかという好みも似ているのかもしれないが、それでもどこにいくかはぼく次第だ。
    ぼくはウサイン・ボルトの遺伝子は持っていないから、どんなに努力をしてもボルトにかけっこでは勝てないだろう。でも、ぼくが陸上部に入ってボルトを目指すのはぼくの勝手で、可能だ。それを止めることはDNAだってできないのだ。

  • webナショジオで著者のインタビューが面白かったので。
    サブタイトルの通り、ふたご研究で何が分かるのか、そのロジック、今後の展望(エピジェネティクス)などについて書かれている。
    すごく興味深い内容なのだが、よく考えたら当たり前なことに統計学がめちゃくちゃ絡んでくるので数字が苦手な私には中盤けっこう…ちゃんと読めなかった…。一卵性と二卵性の比較で遺伝による影響の度合いを調べる時にちゃんと何か理論的なアレに基づいているのねというところまでは雰囲気で伝わった。
    エピソードとして面白かったのは、分かりやすいように観察者を挟んで線対称に複数の被験者を配置して(右と左に線対称に双子のペア)行動を観察しようとしたら、あるペアがどちらも右足を左足の上に組むくせがあったために別々のペアの片割れに話しかけ始め全体の人間関係に差が出てしまったという話。

  • 危険な書物だ(笑)
    行動遺伝学がいかに「科学的」で堅牢なものかを、その統計的方法を解説する事で示そうとする。
    遺伝のテーマは過去に優生学との問題で生まれながらにしての平等や尊厳を掲げる人権思想と極めて相性が悪い。方法論やエビデンスをきちんと示そうとする姿勢はいいことだと思う。が、環境決定論が趨勢だった反動からか、些か遺伝を強調するトーンが強い。尺度の客観性や一般性の主張は大抵は定量化と序列化を生み出す。知能を実体化する事で普遍的通貨に仕立てている点は本書も優生学と変わらない。断種や隔離に至らないまでも評価と管理というやわらかな権力支配に加担するだろう(教育が国民国家の柱なのはそれが紛れもなく権力だから)。著書はそこについては楽天的すぎる。

    方法論にも疑問かいくつかある。
    一卵性固有の相関理由を遺伝の相同性にだけ求めている点、遺伝要因と環境要因間に相互相関はないとする前提の二つだ。後者はエビジェネティクスでくつがえるつつあるし、前者についても同様に親世代の環境刷り込みで遺伝システムを介しながら共有環境要因が一代陰りのものではなくなっている。育てられた環境は異なって遺伝的な相同性が見られてもそれはエビジェネティクスにアプリオリな共有環境が働いている可能性や、双子であるが故の文化的な相同性期待圧力もありえる。

  • ふたご研究のメソッドとそこから得られる知見の紹介である。何か特定の分野に対する提案ではないので、話がどこに向かっていくのか見えづらく、読みづらい。
    ふたご研究に関するメソッドやテクニックの紹介に大きな紙幅が割かれており、縦書きの日本語でだらだらと書かれるので理解が難しい。ベイジアンネットワークの特別な場合で説明してもらわないとちょっとわからない。興味があるのはふたご研究から得られる知見であるが、こちらはざっくりとまとめられており、これまでに蓄積された種々多様な「頑健性のある知見」のまとめである。
    エビデンスのある知見の紹介本で前にも見たことがあるが、一本の論文としてストーリーが組まれているわけではなく、これまでにわかっていることがつらつらと述べられるので読みづらく頭に残りづらい。ざっと見て、のちに必要な場合に思い出せるようにして後から見返すようにしたい。

  • 2017/09/25 初観測

  • 1350円購入2018-06-23

  • 東2法経図・開架 141.9A/A47k//K

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著者プロフィール

慶應義塾大学文学部教授
主要著作・論文:『生まれが9割の世界をどう生きるか―遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(SBクリエイティブ,2022年),『なぜヒトは学ぶのか―教育を生物学的に考える』(講談社,2018年),『遺伝と環境の心理学―人間行動遺伝学入門』(培風館,2014年)など

「2023年 『教育の起源を探る 進化と文化の視点から』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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