校正のこころ

著者 :
  • 創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784422932170

作品紹介・あらすじ

デジタル化というグーテンベルク以来の出版革命期を迎えた現代に、言葉を正し、整えるという校正の仕事はどうあるべきか。誰もが不特定多数に情報発信できる時代にこそ求められる校正の方法論を、古今東西の出版史をひもとき、現場で得た経験則とともに解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  •  
    ── 大西 寿男《校正のこころ 20091120 創元社》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4422932179
     
     Oonishi, Toshio 校正 1962‥‥ 神戸 /岡山大文学部史学科卒。
    /1988 河出書房新社や集英社、岩波書店などの書籍や雑誌の校正に幅広
    く携わる。セミナーやイベントで校正の技と心構えを伝える。
    ── 《仕事の流儀 縁の下の幸福論 ~ 校正者・大西 寿男 202301‥
    NHK プロフェッショナル》ギャラクシー賞月間賞
     
     校正者が“言葉の信頼度”低下に警鐘「むなしい言葉が生きた言葉の
    世界を侵食してきている 20230417 09:06 DIGITAL(C)日刊ゲンダイ
    【注目の人 直撃インタビュー】
     
     言葉は書いた瞬間、口から出た瞬間、独り歩きする──。その言葉た
    ちをすくい上げ、ケアをする校正者は、時に「言葉の守り手」とも称さ
    れる。書き手が紡いだ言葉を一言一句チェックする作業では、黒子とし
    て主体的な言葉を差し挟んではいけないと思われがちだが、むしろ書き
    手と世の中の架け橋として、しっかりとした思いを持っていなければい
    けないという。多くの芥川賞作家の作品に携わった言葉のプロフェッシ
    ョナルに、これまでとこれからの言葉に対するその思いを聞いた。
     なぜ校閲の仕事を選んだのですか? 毎日新聞校閲センターに聞いた
     
     ◇
     
    ---- テレビ番組や書籍、SNSなどで校正にスポットが当てられるよう
    になりました。背景には何があると思いますか。校正を取り巻く環境は
    変わりましたか。
     
     三浦しをんさんの著書「舟を編む」(2011年)で辞書編集にスポット
    が当てられたことが大きかったと思います。一方で言葉の暴力に対する
    問題意識が高まる中、正しい言葉のあり方、言葉を見つめ直したいとい
    う機運があったのではないかと感じています。仕事の環境としては、本
    が売れない時代なので初版を売り切ったら出版社は万々歳。少しの利益
    を原資にいくつも本を作っているので自転車操業のような状態になって
    います。また、編集者が1人で同時に何冊も抱えないといけないので、
    進行管理だけで手いっぱいになっている状況です。以前なら編集者が
    チェックしていた誤字脱字や表記の統一、文章のブラッシュアップなど
    が手薄になり、校正者にその分の仕事がまわってくる上に、高度なファ
    クトチェックも求められる。作業量は増え、1冊にかけられる時間がと
    ても短くなっています。
     
    ■漢字や漢語の素養が失われる不安
     
    ---- 芥川賞作家の金原ひとみさんや宇佐見りんさんをはじめ、その時
    代を代表するような多くの作家の作品に携わってきたからこそ、言葉の
    移り変わりを目の当たりにしてきたのでは?
     
     最前線で書いている作家の方々はやはり凄いので、言葉に対する危機
    感というものは特にありません。日常の言葉の意味や使われ方は、もち
    ろん時代によって変わってきていて、日本語の乱れを危惧する方も多い
    ですが、まったく新しい表現に触れると、こういう作家が出てきたのか
    という驚きの方が大きいです。そういう意味では心配していないですし、
    これからも言葉はそうやって変化しつつ、受け入れられていくんだと思
    っています。一方で、漢字や漢語に対する感覚や素養が急速に失われて
    いるようにも感じます。飛鳥・奈良時代から漢詩、漢文を読んで書ける
    ことが官僚や学者、男社会の必須の教養で、江戸時代に寺子屋で学ぶの
    も「論語」だったり。歴史的に見て最近まで漢字や漢語は大きな権威を
    持っていたんです。
     
    ---- それは単に難しい漢字や熟語を使えばいいという話ではないと。
     
     日本語の表現世界から、「漢字が使えたら偉い」という権威主義、教
    養主義が崩れてきていると感じます。逆に今はカタカナ語を使うことが
    賢そうでトレンドみたいな風潮もありますよね。また、常用漢字が増え
    たのは、デジタル社会になり、書けることよりも読めることに重きを置
    くようになったからです。アウトプットよりインプット重視に世の中が
    変わりつつあるということなんだと思います。
     
     ◇
     
    「自分も相手も間違っているかも」と疑問を、義務教育に「校正」を
    (配られた教科書を読む児童)/(C)共同通信社
     
    ---- 私たちは言葉なしでは生きられないのに、言葉に対する信頼が薄
    れてきています。
     
     言葉に信頼が置けなくなったのには政治家の責任が大きいです。政治
    は世の中の仕組みをつくるので、そこで言葉が信頼できない、通用しな
    いというのは、ある種、近代国家、民主国家ではなくなってきているの
    ではないかとさえ思います。最も罪深いのは安倍政権です。モリカケ桜、
    集団的自衛権の行使容認もそうですが、のらりくらりで納得のいく答弁
    をせず、そのくせ口先だけで「丁寧に説明を」などと言う。本当の言葉
    というものはまったくむなしく、通用しないということを日本中に定着
    させてしまいました。官僚の人事権を握って誰も逆らえない状況にした
    上で、不都合な事実は公文書を改ざんしてまでなかったことにする。と
    んでもないことだと思います。
     
    ---- 政治家の発言もそうですが、それらを報じるマスメディアはどう
    でしょう?
     
     政治権力と闘う力が弱ってきているように思います。強い言葉で批判
    することを避けるようになり、闘い方、闘うときの言葉が変わってきた
    印象があります。労使交渉やストなど昔はゴリゴリやったものでしたが、
    紳士的になりましたよね。60年、70年は安保闘争がありましたが、それ
    らを批判的に乗り越えて、個人がゆるやかに連帯する市民運動へと変化
    していった流れとも関係があるかもしれません。新聞の読者もテレビの
    視聴者も、真面目な批判や議論に引いてしまうところがある。その一方
    で、揶揄や冷笑がもてはやされたりする。闘い方の文法が変わってきて
    いますし、闘いにくくなっているのではないか。かつては政権に斬り込
    むマスコミに拍手喝采だったのに、今は偏向だとか過激だとか、良いイ
    メージを持たれなかったりします。耳当たりの良い言葉が日常の言葉の
    ベースになっていく中で、「丁寧な説明」などというウソが平然と踊っ
    ています。校正者の仕事は決して美しい言葉、正しい言葉を守るだけで
    はなく、汚い言葉、激しい言葉、どうしようもない言葉も、私たちの生
    きている言葉、証しとして守っていかなくてはいけないのです。美しい
    言葉しか残らなかったら、むしろ気持ち悪いですよね。むなしい言葉が
    私たちのそんな生きた言葉の世界を侵食してきているように思えてなり
    ません。
     
    ---- 義務教育における「読み書きそろばん」に「校正」を加えてほし
    いそうですね。とてもユニークに感じました。
     
     アウトプットよりインプットを重視する世の中で、文字情報にどのよ
    うに接するのか、多くの情報をいかに取捨選択するのか、どこにアクセ
    スすれば確からしい情報を得られるのか。言葉を受け取る際の基礎的な
    知識やスキルが、今後いっそう求められるようになると考えています。
    それはまた、何かを発信するときの自分の言葉、文字情報の品質を高め
    るためのスキルでもあります。今の義務教育は主体的な自己表現や発表
    にも重きを置いているので、情報発信はより重要度が増しています。情
    報発信には第三者の視点やチェックが必要ですし、文字情報と一定の距
    離を置いて、うのみにせず、「自分も相手もどこか間違っているかもし
    れない」と疑問を抱くことが当たり前になってほしいです。
     
    ■タイパ、コスパを気にせずゆっくり向き合う
     
    ---- リテラシーですね。生きていくために必要なスキルとしての「校
    正の力」をつけるために、どんなことに気をつけたらいいでしょう?
     
     発信する側と受け取る側との間で、言葉のギャップを生じさせたり、
    誤解を招いたりしないためには、当たり前ですが「人の話をよく聞く」
    ことです。まず相手が何を言いたいのかを理解・把握することが大切で
    す。もうひとつは「急がない」こと。いきなり最小限の言葉で100%正
    確に伝えるなんて誰もできません。言葉にもっと時間をかけてあげる。
    むしろ最初から言葉は伝わらないもの、伝わったら奇跡だと思うくらい
    のレベルでいいと思います。また、時には言葉をゆっくり味わう時間を
    持ってほしいですね。本をたくさん読むのもいいですが、雑誌でも新聞
    でもいいので、単に情報を得るだけでなく、一言一言を味わってほしい
    のです。たまにはコスパ、タイパなどを気にせず、ゆっくり言葉と向き
    合う時間を持つことで、深くて広い言葉の深淵に触れられると思います。
     
    ---- 言葉と付き合っていく心構えとして、相手側だけでなく自分側に
    も言葉の理解を深める姿勢が大切なんですね。
     
     言葉は書いた瞬間、口から出た瞬間、独り歩きしてしまいます。だか
    らこそ、そういうものだという共通認識を持ってもらいたいです。誰で
    も言葉にしたとたん、思っていたことと何か違うという経験があります
    よね。言葉はそれを発する人とは別人格であることをお互いに自覚する
    ことで、自分の言葉でも他人の言葉でも受け止め方が変わってきますし、
    言葉との良い付き合い方ができるのではと思っています。
     
    (聞き手=勝俣 翔多/日刊ゲンダイ)
     
    https://news.yahoo.co.jp/articles/bc6ab2cf4b32d856208ef7cc9a631b35da4ce7a3
     
    (20230417)
     

  • 校正の立場から言葉の重みを知ることができる。
    今後、人を介さない未来が見えるからこそ言葉との向き合いかたを考えたくなる一冊。

  • ことば

  • 20180319読了
    2009年出版。副題「積極的受け身のすすめ」。著者は個人出版事務所「ぼっと舎」を運営。●校正のしごとの全容を知ることができる。出版界ではゲラを読むとき、編集者が著者の側に、校正者は読み手の側に立つという役割分担を求められることがあるが、著者は校正者として著者でもなく読み手でもなく、ただゲラの言葉の側に立つことを大切にしたいと述べられていた。●P202 日常性という点でおすすめな辞書は『新潮現代国語辞典』と『角川新字源』。

  • 2016年30冊目。

    校正の「技術」ではなく「心構え」。
    プロの校正家という仕事のリアルも書かれている。
    非常に神経を使う職人的な仕事でありつつ、本作り全体の過程の中では権限が少なく、「縁の下の力なし」などと言われることもあるそう。
    それでも、言葉と真剣に向き合い、編集者のように著者の側に立つでもなく、かといって読者の側に立つでもなく、ひたすらゲラの言葉の側に立って、「どんな言葉として生まれ違っているか」を追求し続ける校正のプロを尊敬する。

  • 私の会社は校正が独立していないから、編集の私も校正をすることがたくさんある。「校正の読みと編集の読みの違い」はとても勉強になった。校正という仕事そのものについての話だけでなく、校正という仕事に対してどのような態度で取り組むべきか、出版の世界の人間が世界の平和のためにできることは何なのかなど、とても深い内容だった。もちろん、出版関係者でなくても、この本から学ぶことのできることはたくさんある。

    漢字とひらがなの使い分けがとても絶妙だと思った。真面目な内容だけれど、ひらがなが多い文面なので、優しい印象を受ける。さすがは校正者の書く文章だなと思った。

    印象に残る部分が多い一冊だった。この本に出会うことができてよかったと思った。

  • 校正という仕事をするにあたっての心構えや、校正者の立ち位置など。通信教育で勉強を始めたものの、実際の仕事のイメージがあまり湧かなかったので読んでみた。言葉を「正す」ことと「整える」こと。絶対の正解が無い場合も多いなかで、他人の文章に赤字を入れるという行為は、とても勇気が要るのかもしれない。自分の知識と感性に自信が無いとできない。校正を自分の仕事にしていけるかはまだ分からないけれど、言葉と真摯に向き合う姿勢は常に持っていたいと思った。

  • 編集との違いや、校正ならではのこだわりがわかった。

  • 言葉を扱う仕事に就いている人に限らず、言葉を自覚的に扱いたいと願うすべての人々に読んでほしい良書。時に痛々しいほど理想を語る著者の、言葉への愛情と畏れに深く共感する。こういう人が出版の良心を支えていると思うと、同様に活字の世界の末端で時に無力感に苛まれながら仕事をしている一人として大変に力強い励みになる。

  • 技術解説書ではないから、読む人をえらぶなー。ということで★3つ。
    内容はあまりしられていない校正者の仕事ぶり、そのノウハウ(‥といっても、精神的な部分とか思考について)。

    2009年11月刊行なので、ネットやデジタルメディア、昨今の出版事情にも触れられているので、私自身は読んでよかったと思っている。

    言葉との付き合い方に行き詰まった方にはオススメできそう。

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著者プロフィール

大西寿男(おおにし・としお)
1962年、兵庫県神戸市生まれ。岡山大学で考古学を学ぶ。1988年より、校正者として、河出書房新社、集英社、岩波書店、メディカ出版、デアゴスティーニ・ジャパンなどの文芸書、人文書を中心に、実用書や新書から専門書まで幅広く手がける。また、一人出版社「ぼっと舎」を開設、編集・DTP・手製本など自由な本づくりに取り組んできた。企業や大学、カフェなどで校正セミナーやワークショップを担当。技術だけでなく、校正の考え方や心がまえも教える。2016年、ことばの寺子屋「かえるの学校」を共同設立。著書『校正のこころ』(創元社)、『校正のレッスン』(出版メディアパル)、『セルフパブリッシングのための校正術』(日本独立作家同盟)、『かえるの校正入門』(かえるの学校)、『これからのメディアをつくる編集デザイン』(共著、フィルムアート社)ほか。

「2021年 『校正のこころ 増補改訂第二版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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