実践の法理と法理の実践

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  • 創文社
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  • Amazon.co.jp ・本
  • / ISBN・EAN: 9784423730324

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  • 刑法学者として、そして最高裁判所裁判官として法学と法実践の両面で活躍された著者が、法の実践としての裁判のあり方や、その中での裁判官の役割について述べた論考や講演記録を集めた本。

    社会自体が動的でありかつ多元的であるため、裁判というかたちで法を実践するにあたっても、機械的に規定を適用したり、従来の判例を墨守するだけではいけないということを。著者は述べている。

    そして、法が社会的な妥当性を持つためには、法的安定性も動的なものとして捉えるべきである、という見解は、非常に興味深いと感じた。

    また、そのためには裁判官自身も「主体性」を持つべきであり、社会との対話の中で涵養された自らの「良心」に従って判決を考えるべきであるという。

    これは判例主義の英米法のみならず、大陸法をベースとした我が国においても重要なことである。なぜならば、法は起こりうるすべての事態に対応した事細かな規定を予め定めておくことはできず、ある程度の抽象性や一般性を持った形でつくられるからである。その際に、具体的な事案に応じてそれをどのように適用するかは、裁判官の良心に基づく判断に委ねられていると言えるだろう。

    また、法律を杓子定規に適用すると、かえって法の求めていた利益が実現できないような事態も想定し得る。そのような際には、「大岡裁判」を行うこともありうると筆者は述べている。

    もちろん、恣意的な運用が過度に進むことは法や裁判の信頼性を揺るがすものであるが、法実践に携わる専門家が柔軟性と安定性のあいだの適切なバランスを探ることは、法がその生命を保つために重要なことであるということが、本書を読んでよく分かった。

    後半では、著者が最高裁判所の裁判官として関わった裁判の中で書いた、補足意見、反対意見などが、紹介されている。

    これらを読むことで、前半で述べられている法実践に関する著者の考え方が、具体的な場面においてどのように展開されていたのかよく分かるようになっている。

    過去の判例に対する意見などを読むことによって、変化していく社会の中で法の趣旨や社会のあり方と実体としての法の運用を噛み合わせていくにあたって大切な論理展開も読み取ることができ、参考になった。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2007年 『法学の基礎 第2版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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