都市・空間・権力

制作 : 竹内 啓一 
  • 大明堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784470430444

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  • 本書は1993年に60歳で一橋大学を退職した竹内啓一氏の退官記念論文集のようなものである。竹内氏は2005年に亡くなってしまったが,その偉大な地理学者とは私も少なからず接したことがあり,その人柄も少しは知っている。そんな彼らしく,仰々しい退官論文集は拒み,その代わり,彼の下で学んだ第一線で活躍する地理学者たちが竹内氏にもちかけて作られた論文集である。この出版元である大明堂も地理学中心にやってきたところだが,既になくなってしまった。
    そんな本書に寄稿したのは地理学という狭い枠にとらわれずに活躍している人ばかり。そもそも,一橋大学時代の竹内氏のゼミは地理学専攻というわけではなかった。そんな苦労も含めて序章にはタイトルどおりかなり個人的なことが書かれている。本書の執筆者の多くは名前しか知らなかったので,こうしてまとまった読むことができるのはいい機会。寄稿したのは以下の通り,全部で7人。

    序章 社会地理学の探求――個人的・私的な学問史(竹内啓一)
    第Ⅰ章 植民地主義と都市空間――台北における権力と都市形成(葉 倩瑋)
    第Ⅱ章 「都市美化」か,都市の「農村化」か?――ポートモレスビーにおける都市空間の変容とセトゥルメンと住民の生活世界(熊谷圭知)
    第Ⅲ章 ナイロビにおける住宅商品化の波と社会編成(上田 元)
    第Ⅳ章 19世紀後半のバルセロナ市における近代的都市空間の創出(栗原尚子)
    第Ⅴ章 経済の第3次化と都市空間――パリ西郊シュレーヌ市の変貌(磯部啓三)
    第Ⅵ章 ドイツの問題都市における問題地区――空間をめぐる権力と非権力(山本健児)
    第Ⅶ章 カナダにおける大企業の本社立地と都市の階層性(栗原武美子)

    第Ⅰ章は個人的に,妻が台湾人ということで関心のある内容。かなり教科書的な記述だが,勉強になること多し。第Ⅱ章はなにかと学会で目立っている熊谷氏のフィールド調査の成果。彼は人の研究に茶々を入れたがる性格で,学会で発表者に質問をしている姿をよく見かける。また,フィールドにおける倫理的な問題についても一時期よく書いていたことがあったが,彼が長年通っているパプアニューギニアのポートモレスビーの話を読むのは初めて。
    上田氏は1986年に「領域性概念と帰属意識」という刺激的な論文があったが,それ以降はなぜかアフリカ研究者になっていて,彼の文章を読む機会はなくなっていた。ということで,ケニアはナイロビの話。既存の研究に基づく,住宅地の状況をナイロビ全域で概観したもの。なかなかナイロビという都市を想像しにくい。栗原氏は,以前彼女が世話人を務めていた研究グループで呼ばれて発表したことがある。そういえば,その場にも竹内さんはいて,意見をもらった記憶がある。そんな栗原さんのフィールドはスペインはバルセロナ。一方で,次の磯部氏の章はフランスはパリ。やはり,どうしても私が世界の諸都市について知らなすぎるからだろうか,なかなか集中して読むことができない。
    そんななかで,本書でいちばん面白かったのが山本氏のドイツの話。この人は本当に次々と論文を発表している,精力的な地理学者だ。やはり文章はとても魅力的で読ませる内容。彼は経済地理学者だが,新聞記事なども分析に加え,広い関心を持っているように思われる。竹内氏がこの寄稿者たちに要求した「都市・空間・権力」というテーマにもいちばん合致していると思う。
    そして,最後のカナダの文章は非常にお粗末だ。ともかく,カナダ諸都市のデータが列挙されているだけ。ということで,山本氏による章は読み応えがあったものの,その他はなかなか読んでも頭に入ってこない内容が多く,私の知的方向性が地理学から乖離していることを改めて感じさせる読書だった。

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