- Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
- / ISBN・EAN: 9784476033007
作品紹介・あらすじ
『戦争と平和』など壮麗な文学作品群、民衆教育への執念、真実の宗教を求めての教会権力との対決…八十二年の生涯を跡づけるトルストイ研究の最高峰。
感想・レビュー・書評
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著者は高名なロシア文学者にして、我が国屈指のトルストイ研究者。最近刊行された新訳版『戦争と平和』(岩波文庫)の訳者でもある。本書は、著者が半生をかけたトルストイ研究の集大成だ。
700ページ近いボリュームで、辞書のような分厚さ。布貼りの立派な装丁といい、6000円を超える価格でも納得がいく。
本書は、トルストイの82年の生涯をたどった浩瀚な評伝であると同時に、『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』などの代表作を解題した優れた作品ガイドでもある。
また、明治以降の日本におけるトルストイ受容史を詳細に跡付けるなど、日本人研究者としての独自性も保っている。帯には「トルストイ研究の最高峰」との惹句があるが、その言葉に誇張はない。
ただし、本書は専門書ではなく、「広い範囲の一般的な読者に向かって書いた」(あとがき)ものである。文章に過度の論文臭はなく、論の進め方にも観念を弄ぶところがなく、つねに具体的で明快だ。
著者は、毎年の命日にはロシアへ墓参に赴くほどトルストイを畏敬してやまないのだが、さりとて本書は、トルストイを神話化するものではない。完全無欠の聖人としてではなく、欠点も弱点ももち、苦悩しつづけた一個の人間としてのトルストイを、あたたかく描き出すものなのだ。
一般的読者の先入観をくつがえす指摘が、随所にちりばめられている。
たとえば、「世界三大悪妻」の一人にも数えられるトルストイの妻ソフィアについて、著者は具体的例証を挙げて悪妻イメージを突き崩し、トルストイが最後まで彼女を愛しつづけたことを明らかにしている。
そして、本書の大きな特長は、トルストイの文学以外の側面にかなりの紙数を割いていることだ。
たとえば、民衆教育の理想を掲げて独自の学校を創立した教育者としての顔や、真実の宗教を求めて教会権力と対峙した姿である。
創立した学校は官憲の弾圧で閉鎖に至り、ロシア正教会からは破門されたトルストイ。その生涯は、徹して民衆の側に立ちつづけた苛烈な闘争の連続でもあった。
文豪としてのみならず、“闘う思想家”としての巨人の全体像を描き尽くした、畢生の大著。詳細をみるコメント0件をすべて表示